表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
信長公弟記~織田さんちの八男です~【コミックス6巻】発売中  作者: 彩戸ゆめ
弘治三年

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

134/237

134 津島クジの当選者

「さて、皆の者。これより津島(くじ)の儀を行う。まずは三等より始める!」


 津島神社の宮司である氷室国政殿が、優し気な風貌からは想像できないような凛とした声で宣言した。


「いざ!」


 氷室殿の掛け声に、信長兄上が頷いてきりを箱の中に突き立てた。そして刺さった木札を高く掲げる。

 その木札を受け取った氷室殿が、木札に書いてある名前を読み上げた。


「三等! 加藤弥三郎!」


 三等が当たったのは、信長兄上の小姓を務めている加藤弥三郎だった。嬉しそうに、信長兄上から賞金をもらっている。


「二等! 堤下とうげ村の松田弥兵衛!」


 二等が当たったのは、津島五か村の一つ、堤下村出身の足軽大将だった。津島から来た人たちが、やったな、と背中を叩いている。


「いよいよ一等である! いざ!」


 信長兄上は錐で木札を刺すと、それを氷室殿には渡さず自分で名前を読んだ。

 まあ一等だしな。信長兄上が名前を呼んだほうが、特別感があっていいと思う。

 そして周りを見渡し、ニヤリと笑った。


「一等! 木下藤吉郎!」


 うおっ。秀吉が一等か!? マジで?

 でもあの猿顔は見間違えようがない。秀吉だよ。

 うわぁ。なんていう強運なんだよ。っていうか久しぶりに見たけど、元気そうだな。


 藤吉郎は、周囲に頭を下げまくって「すいませんねぇ」とか言いながら、軽快な足取りで信長兄上の前まで行った。


「受け取れ。一等だ」

「ははーっ」


 袋に入った銭をうやうやしく押しいただく。二百五十枚の銅銭がジャラジャラと音を立てた。


「運の良い奴だ。せっかくだ。何か一言述べよ」


 当選者へのインタビューを提案したのは俺だ。やっぱり実際に当たった人の言葉を聞くと「よし、次は俺も当てるぞ!」って購買意欲を誘うからな。


 いやでも、まさか秀吉が当てるとは思わなかったけどさ。

 あれだよ、ステータス画面とか見れたら、ラック値がぶっちりぎでMAXなんじゃないかな。


 だけどこうして見ると、好かれてるのと嫌われてるのが半々って感じだな。足軽仲間からは好かれてるみたいだけど、それより上の武将たちからはあんまり気に入られてないっぽい空気が伝わってくる。


「いやぁ。わしなんかが、こんなお偉い皆さんの前で話しても良いんですかね。はぁ。殿が良いと言ってくださるなら、はい。えぇ。わしの名前は木下藤吉郎と申します。はぁ。えぇ。名前は言わんでよろしい? ああ、こりゃぁ、不調法もんで申し訳ないことです」


 ニカッと笑って頭をかく藤吉郎は、後世で人たらしと呼ばれることになる話術で人を引きつけた。ドっと見物している人たちから笑いが起こる。


 うまいな。今のこの一言で、藤吉郎が一等を取った事に対する反感の空気が一気に薄れた。


「せっかく一等を頂いたんで、これで足軽仲間とうまいもんでも食いたいですなぁ」


 そう言うと、一緒に来たらしき足軽仲間から「酒でもいいぞ!」という声がかかる。


「馬鹿言うでねぇ! お前らに酒飲ましたら、わしが破産するわ!」

「ちげぇねぇ!」


 わっはっはっはと笑う足軽たちに、場の雰囲気がさらに和む。


「でも、このクジ買えるんは今回限りでしょうなぁ」


 その中で、藤吉郎は一人、暗い声を出した。


「なにゆえ、そう思う?」


 その呟きは、正面に立つ信長兄上にはよく聞こえたらしい。大成功と言っていい津島クジに水を差されて、明らかに気分を害しているような声でその発言をとがめた。


「銅銭三十枚は、殿のようなご立派な方にとってははした金でしょうが、わしらにとっては大金ですじゃ。一生に一度と決めて籤を買いましたが、いやぁ、当たると嬉しいもんですなぁ」

「ほう。ではいかほどなら、また買おうと思う?」


 藤吉郎はうーんと唸りながら鼻の頭をかいた。


「銅銭が五枚もあれば三日食えますからな。そのくらいでしょうかね。でもわしら足軽は銅銭なんぞ大して持っとりません。証文で買えるなら買うかもしれませんがねぇ」

「ふむ」


 顎に手をやった信長兄上は、しばらく何か考えているようだった。


「よし、猿」

「へ、へえ」

「津島の籤に知恵を貸せ」

「いやぁ。わしなんかが―――」


 まんざらでもない様子で藤吉郎が辞退したけど、本心じゃないのが見え見えだった。その証拠に顔がにこにこしている。


「光秀!」

「ははっ」

「猿に津島の籤の知恵を借りよ!」

「承知いたしました」


 ええー! みっちゃんと氷室殿がクジの内容を一生懸命考えたのに、いきなり秀吉を入れちゃうのか?

 なんかそれって手柄を横取りされたような気にならないか!?


 みっちゃんはポーカーフェイスというかアルカイックスマイルを浮かべてるけど、氷室殿は「なんだこの猿」って、あ、違う、「なんだこの足軽」って目で見てる。


 確かにちょっと一般の農家の人に買ってもらうには高かったのかもしれないけど、庶民感覚が分かるのって、別に秀吉じゃなくても他の足軽でもいいと思うんだけどな。


 なんだか一生懸命やった手柄を横取りされた気がして、いい気分じゃないな。


クジが1枚3000円は高いと感想欄で意見を頂いたので、色々と調べたら弘治3年に山城国京都で、米が5石6升9合を銭が1貫584文で取引されていたようです。

1文で約3合買えたってことですね。

足軽の日当が米5合なので、3日分の15合は約5文で買えたということになります。

ですので、クジの値段を銅銭5枚なら買う、と庶民代表の秀吉に言わせてみました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コミカライズ連載中
どこでもヤングチャンピオン・秋田書店
ニコニコ静画
にて好評連載中

コミックス3巻発売中
i862959

Amazonでの購入はこちらです
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ