133 クジのデモンストレーション
そんな勝ち組の熱田神社はクジなんてやらないかもしれないけど、一応は声をかけておかないといけない。それが面目を保つことになるからな。
めんどくさいとか思っちゃいけない。武士に「根回し」は必要なスキルだ。うむ。
そして肝心の千秋殿は、クジの導入にイマイチ乗り気ではなさそうだった。
「しかし、普通に札を買ってもらえばよろしいのでは?」
だーかーらー。熱田神社のお札をもらうっていうのは建前で、本命はお金なんだよ。さっきからそう言ってるじゃないかー!
「それに当たったと偽って、偽の木札を持ってくる者も現れましょう」
ああ、まあね。その可能性はあるよね。
「ですから木札に熱田神社の焼き印を押して頂きます。焼き印の種類は二種類で、一つは熱田神社が。一つは織田家が保管します。そして売り出しの時は、両者の代表の者が木札に二つ焼き印を押すのです。そうすれば偽物防止と不正防止になります」
「なるほど。それは考えましたな」
木札を用意するのは織田家の管轄だ。だけどそれを全部織田に任せたら、金に目が眩んで不正を行う者が出てきちゃうかもしれない。
だけど熱田と織田で互いに監視するようにすれば、だいぶ不正の芽は摘めると思う。
ちなみにこれを考えたのはみっちゃんだ。やっぱり頭のいい人は、考えることが違うね。
みっちゃんの説明に、千秋殿はううむ、と唸る。
「農民の中には字が書けぬ者もおります。その者たちはどうやって買うのですか」
「その場合は、手間賃を払って書いてもらうしかないでしょう」
「ほう。誰が書くのですかな」
「それは千秋殿にご一任申し上げます」
「なるほど」
熱田の権禰宜さんも、これで小銭を稼げるんじゃないかな。大した金額にはならないだろうけど、塵も積もれば山となる、だ。
津島のクジの方も似たような形式だ。津島と織田で焼き印を作って、それを木札に押す。違うのはそれに名前を書いてもらうところだ。
ナントカ村のゴンベエって書いてもらう。村に同じ名前の人がたくさんいたら、楡の木の側に住むゴンベエとか、とにかく個人が特定できるようにしておく。
それから一人がたくさん買い占めないように、一人一枚の札しか買えないっていうのを徹底させる。不公平になるからな。
もし個人が特定できない場合は無効にするって最初に言っておけば、トラブルも起こらないだろう。
信長兄上は織田の兵が見張っている所で騒ぎを起こせると思うか? なんて言って、獰猛な猛獣みたいな笑みを見せたけどな。
俺は見なかったよ。うん。
そんな感じで、細かい所をみっちゃんと津島神社の氷室殿と熱田神社の千秋殿が詰めていって、たまに信長兄上がチャチャを入れたりしたけれど、なんとか形にできそうにはなった。
二週間後。
清須で宝クジの為の一大デモンストレーションが行われることになった。
クジの正式名称はまだ決まってないから、そのまんま津島クジと熱田クジって呼ぶことになってる。
まずは津島クジから始まった。皆で津島神社の権禰宜さんが売る木札を銅銭三十枚で買う。その横に細長いテーブルがあってそこに硯と墨が用意してあるんで、そこで名前を書いたら、別の権禰宜さんが津島の焼き印を名前の横に押して、その後で織田の家臣、っていうかやらされてるのは池田恒興のツッチーなんだけど、ツッチーが焼き印を押す。
津島と織田の焼き印が押された木札を、今度は大きな箱に入れる。
全員分の木札を入れたら、それを手でかき回して、今度はみんなが見守っている前で錐で突く。もちろん今回の錐で突く係りは信長兄上だ。これなら贔屓したとか不正だとか言われないからな。
このクジを買ったのは三十人だ。つまり銅銭九百枚が集まったってわけだ。
まずここから、津島の取り分の銅銭百枚と織田の取り分の百枚を引く。大体一割ってとこだな。
そして残りは銅銭七百枚だ。
その銅銭七百枚で景品を買うんだが、そこから札の代金も引かないといけない。札が一枚で銅銭十枚だから、札代だけで銅銭三百枚かかる。
でもまだ銅銭四百枚残ってる。
これを一等、二等、三等で分けるわけだ。
とりあえず一番下の三等から考えると、クジを買うのにかかった銅銭三十枚が戻ってくれば嬉しいだろう。ちょっと足して五十枚か。
残り三百五十枚を一等と二等で分ける。
やっぱり一等のほうが賞金を多くした方が夢があるよな。だから二等を百枚。一等を二百五十枚にする。
今回は分かりやすく銭で賞金を渡すけど、本番では米とか反物にする予定だ。
ほら。津島は湊があるじゃないか。協賛っていうか、宣伝費ってことでお安く品物を提供してくれないかなって期待してるんだよな。
浮いた分?
ははは。そりゃぁ、津島神社と織田家で分けるに決まってるじゃナイカー。ハハハ。
銅銭一枚を一文とするべきか分からなかったので、とりあえず銅銭何枚、というように数えさせて頂きます。
物価ですが、1411年から明で鋳造された永楽通宝は、大体1枚百円くらいで考えています。
びた銭と呼ばれる厚みがなかったり欠けていたりしたそれ以前の銅銭は、お金の価値としては永楽通宝の半分くらいでした。
関東の北条では永楽通宝を使っていましたが、関西ではびた銭の方がたくさん流通していたようです。
ですがここでは一応びた銭じゃないお金を使っていると考えてください。
つまり銅銭1枚で百円です。
ですのでクジは一枚3000円で、一等が2万5千円、二等が1万円、三等が5千円です。
参加人数も少ないですし、こんなものですよね。




