132 ロト3
今まで熱田神宮と書いておりましたが、熱田が神宮号をもらったのは明治元年だったので、熱田神社に直しております。
「しかしながら、津島だけに利があるのでは、熱田の面目が立たないのではないでしょうか。熱田大宮司である千秋殿は、いずれは喜六郎様の舅となるお方ですし」
単純な寺社の大きさだけを言えば、熱田神社のほうが大きいしなぁ。それに三種の神器の草薙剣が置かれているってことになってるから、伊勢神宮に次ぐ権威を持ってる。
ただ神社というか祭神の格としては、同位だ。どっちも正一位、つまり最高位にいるからな。
「ふむ」
みっちゃんの指摘に信長兄上は考えこんだ。
面目かぁ。本当に面倒だけど、そういうのをちゃんと考えないと、謀反のきっかけになるからなぁ。
一説には、明智光秀が本能寺の変を起こしたのは、姻戚関係にある四国の長曾我部に織田に臣従しろって工作をしてて、それが成功しそうだったのに、信長兄上は秀吉が提案した長曾我部と敵対してる四国の三好と組んで長曾我部をやっつけましょうって策に乗っちゃって、光秀の面目が潰れたからだ、って説もある。
それだけで謀反を起こすなんて考えられないけど、それくらい、武士にとって体面とか面目っていうのは大事なんだよ。
こういう場合、一番いいのは、どっちの面目も立てる事なんだけど……って。
あ、あるじゃないか。その方法が。
「では熱田神社は札の値段を少し高くして、三つの数字を選ばせるようにしましょう」
つまり、熱田神社でやるクジは、ドリームジャンボじゃなくてロトスリー形式にするわけだ。
そして賞品は米じゃなくて現金にする。それならキャリーオーバーしても、その分の金額を次の賞金に上乗せできるもんな。米とかじゃ保管も大変だし。
基本的に津島は安いクジにして、必ず三等までの当たりがあって、商品は米とか反物とか、そういう生活用品に限定する。
そして熱田はちょっと高いクジにして、数字が一致しなければ当たらないようにする。当たったら、当たった人数で賞金を分けて、当たった人が一人もいない場合は、その賞金を次回の賞金にプラスして持ち越す。
多分、一般の人たちは津島のクジを買って、武士とか裕福な商人なんかは熱田神社のクジを買うって住みわけができるんじゃないだろうか。
しかもロトスリー形式にすれば、自分が選んだ数字なんだから、はずれても文句は言えないだろうしな。
そう説明すると、信長兄上もみっちゃんも、それは良い考えだと賛同してくれた。
やると決めたらすぐやりたいのが信長兄上だ。
さっそく三日後には津島神社の宮司である氷室国政殿と、熱田神社の大宮司の千秋殿が招集された。氷室殿は津島四家から宮司になった人だ。
氷室殿は、神職というよりは武人然とした千秋殿とは違い、物腰の穏やかな、目じりに笑い皺のある、いかにも神に仕えていますという厳かな雰囲気を持った人だった。
千秋殿、ちょっと見習ったほうがいいかもしれない。ありがたさが、なんか違うぞ。
その二人は、現在どちらも、くじを売るというみっちゃんの説明に首を傾げていた。でも売り上げを織田家と神社とで分けるという話をすると、まず津島神社の氷室殿が食いついた。
今の時代ってさ、お寺はたくさん荘園を持ってるし、檀家も持ってるからウハウハなんだけどさ。神社はお寺みたいに僧兵がいないからなぁ。平安時代くらいに持ってた荘園なんかは、武士に横領されちゃってるケースが多いみたいだ。
一応神社にも神人って呼ばれる武器を持った人がいる。お寺で言う僧兵みたいなもんか? ちょっと違うか。基本的に僧兵は僧侶が武器持ってるのを言うからな。雇われ警備員の神人とは違う。
それに神人には神社に属した芸能者とか手工業者とか商人なんかもいるから、やっぱり僧兵とは全然違うな。
中には日吉大社の日吉神人みたいに、比叡山の地主神だってことで、延暦寺の後ろ盾を持ってて、年貢米の運搬とか、京の公家なんかの貸し付けをして、今では立派な京の高利貸しになってる神人もいるけどな。
他にも、荏胡麻の専売をしてる大山崎油座は、離宮八幡宮に属する大山崎神人がやってて、石清水八幡宮の石清水神人は、淀の魚市の専売権とか水陸運送権なんかも持ってる。
だけどそんな羽振りのいい神社ばっかりじゃない。
なんせ日本で一番格式があって、天皇家の祖先を祀っている伊勢神宮ですら、経営が苦しいから地方にドサ周りに行ってるくらいだからな。
神社の役職の順位は、トップの宮司が一名、サブの禰宜が一名、そして普通の役員の権禰宜が数名だ。
宮司の下に権宮司がいたり、伊勢神宮なんかは祭主、大宮司、少宮司って、ちょっと違う役職があったりするけど、まあ一般的な神社の場合はこんな感じだ。
で、神社だけの収入だと、権禰宜まで食べさせていけなくなっちゃってるわけだ。
そこで、権禰宜に御師って名前にして、ああ、伊勢神宮だけは御師って呼んでるんだけどな、まあとにかくその人たちを地方に営業に行かせたわけだ。
具体的にどんな事をするかっていうと、伊勢神宮のPRはもちろん、地方での神事をしたり、祈祷をしたりした。
その他にも伊勢までの道先案内人をしたり、伊勢神宮の宿坊を宿屋として提供したりしたんだな。
それと同じようなことを津島神社もしてる。
つまり、経営難ってことだ。
まあそこら辺は、熱田神社の千秋殿から色々聞いてるんだけどな。
その熱田神社はどうなのかって?
いやだって、千秋殿が大宮司なんだぞ? どこからどう見ても武将にしか見えない人がトップなんだぞ? 熱田の神職がみんなあんな感じに決まってるじゃないか。
でもってそんな脳筋ばっかりいる神社の荘園を、強奪しようとするツワモノなんているはずないだろ? ヒャッハーって返り討ちに遭うのが関の山だ。
なんていったって、海賊だって撃退しちゃうんだからな。
当時の津島神社の宮司の名前は分かりませんでした。
岡本国政はいつの時代か分かりませんが、熱田の神職になったそうなので、えいっと当てはめました。
クジの名前は何が良いのでしょう。
津島が津島クジ?
熱田はロト3なので勇者クジ。……あれ?




