131 宝くじ
これで話は終わりかな? 気が早いけど、早速焼き肉用の鉄板を鍛冶職人の五郎助さんにお願いしよう。
波状の鉄板にして、油が横に貯まるようにしとくといいな。だけどちょっと作るのが難しいか。
あ、でもそれなら最初は網で焼けばいいのかもしれんね。網ならそんなに難しくなさそうだから、すぐ完成しそうだよな。
後は七輪か。
完成したらバーベキューなんかもできそうだな。清須の庭でバーベキューか。いいな。市姉さまと犬姉さまも誘おう。
「聞いておるか、喜六」
またゴチンとゲンコツが降ってきた。
今度はちょっと手加減されてたけど、痛いのは痛い。でも信長兄上の話を聞いてなかったから、抗議できない。
「え、えーっと……」
答えられずに目を泳がせると、またゲンコツされた。
……そのうち俺の脳細胞は深刻なダメージを受けるに違いない。前世の貴重な記憶を思い出さなくなったらどうするんだ。
はっ。
今気がついたんだけどさ。前世の記憶のない俺って、何の取り柄もなくないか?
智略に劣り、武勇に劣り。俺が他人に誇れるのって、もしかして顔だけじゃないのか!? しかも顔なんて年と共に衰えていくし、傷でもできれば価値がない。
ま、まずい。ここらで何か功績を上げておかないと―――。
と、考えていたら、なぜか信長兄上の凄みのある笑顔が目の前にあった。
あれ? いつの間に? そしてなぜか怒ってる?
「まったくお前はいくつになっても間抜け面よの。どうせ碌でもないことしか考えておらぬだろうが」
ロクでもなくはありません。将来を真剣に考えているのです。
と、言いたいけど言えない。言ったら殺されそうな気がする。だって信長兄上、顔は笑ってるけど目が笑ってないもんな。
「いえ。そのような事はございませんよ。私はどうすれば信長兄上のお力になれるのかと、ただそれだけを考えておりました」
嘘は言ってない、嘘は。
俺が役に立てば立つだけ、信長兄上の力になるからな。うむ。
首を傾げてにこっと笑うと、信長兄上は大きな大きなため息をついた。
信長兄上、知らないのかな。ため息をつくたびに、幸せが逃げちゃうんだぞ。
「はあ。まったくお前は……。まあよい。それで、この宝くじというのは何だ?」
宝くじには大雑把に言って二種類あると思う。ドリームジャンボ形式とロト6形式だ。前者は宝くじを自分で選べなくて、一枚だけ大当たり。後者は番号を自分で選べて、当たりが複数出たらその人数で割って、当たりが出なかったら当選金を持ち越す。
一番楽なのはロト形式なんだよな。自分で三つとか六つとかの数字を選んでもらって、当選発表の日はルーレット……だとなじみがないから、ルーレット状の数字盤を作って、それを的にして数字を矢で射るのが分かりやすいと思う。
ただ問題は、初回に当選が一人も出なかった場合だ。そうなると、誰も当たらないじゃないか、って宝くじを買った人が怒りだしそうなんだよな。
さすがに初回から当選者なしは避けたい。だからやるならドリームジャンボ形式だよな。
「くじびきと同じ理屈なのですが、要するに、ハズレと当たりのクジを作るのです。まず期間を決めて適当な神社などで、クジを普通の札よりも高い値段で売り出します。そうですね。例えば師走の十日から二十日までの間に売ると決めましょうか。そして二十五日の日に、当たりクジを決めます。当たりの決め方は色々とあるので、それはまた後で考えるとしましょう。クジに当たった人は特別なお札を頂けます」
「神社で普通に売っている札を、なぜわざわざ籤にするのだ」
「副賞として、もっと良い物をつけるからです」
「副賞? なんだそれは」
「はい。とりあえず米や反物が良いでしょうか。一等から三等までは豪華な賞品が当たるようにします。それ以外はハズレなので、普通のお札だけしかもらえません」
信長兄上は俺の言った事を吟味するように、顎に手を当てて考えこんだ。やがて、ギラリとした目が俺を射抜く。
「ふむ。だが神社だけが儲かるな」
おお。さすが信長兄上だ。俺のつたない説明でも、理解してくれたらしい。
「もちろん神社は儲かります。でもそのクジを私たちが作って、一定の儲けをもらえる約定にすればよいと思います」
「なるほど。津島への餌にできるな」
あ、あれ? 俺は熱田神社にお願いするつもりだったんだけどな。
まあ津島へは牛肉さんを食べるための許可をもらわないといけないから、津島神社主催でもいいのかな。
とりあえず龍泉寺の普請に売り上げの一部を頂ければ、俺の方は問題ないぞ。




