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信長公弟記~織田さんちの八男です~【コミックス6巻】発売中  作者: 彩戸ゆめ
弘治三年

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124 津島湊

「今まで見た事のない素晴らしいお祭りでした。喜六郎様、こたびは連れてきてくださってありがとうございます」


 宵祭を鑑賞し終えて部屋に戻ると、いつもは割と冷静な半兵衛がちょっと興奮したかのように喋り始めた。

 うんうん。その気持ちは凄く分かるよ。まさかこの時代であんな凄いお祭りを見られるとは思わなかった。


「お礼なら信長兄上に言ってください。兄上の思い付きがなければ、こうして天王祭を見ることはできなかったのですから」

「もちろん信長様にも御礼申し上げますが、やはり喜六郎さまにも御礼申しあげたいのです」


 半兵衛くん、律儀だなぁ。まあ、そこが良い所なんだけどさ。


「分かりました。ではそのお気持ち、ありがたく受け取らせて頂きます」


 真面目な顔でそう頷くと、顔を見合わせてどちらともなく笑いあう。

 これだよ、これ。今まで俺になかった普通の友達関係だよ。すぐにアッーな方向に行っちゃう武士たちの中で、本当にノーマル志向の半兵衛は貴重な友達だよ。


「それにしても、さすが津島と感嘆せざるを得ませんね」


 半兵衛が感心したように言うけど、確かになぁ。津島だけじゃなくて尾張も豊かだからあんまり実感がわかないけど、食べる物がなくて餓死する農民がいる世の中で、これだけの祭りを開催できる財力があるっていうのは、凄いよな。


 津島のみなとは、木曽川に繋がる港で尾張と伊勢を結ぶ交易の要所だ。疫病よけの神仏である牛頭天王(ごずてんのう) を信仰する天王信仰の中心である津島神社の門前町としても栄えていて、尾張で一番豊かな町だ。

 だからこそ、これほど豪華なお祭りが開催できるわけだな。


 そして祖父ちゃんの織田信定がこの地を抑えたからこそ、織田弾正忠家は躍進することができた。


「そうですね。半兵衛殿。それに堀田殿にも感謝しなくては。特等席を用意して頂きましたし、この部屋も居心地の良くなるように整えてくださいましたしね」


 そして堀田道空殿は、その津島で物資を運んだり交易をしたりする廻船問屋を営む豪商だ。かつてはその経済力で道三を支えてたってわけだな。法号も道三と同じ「道」を使うのを許されてたくらい重用されてたわけだしな。


 だからこそ、あれだけの人数の風流踊りを庭で開催できちゃったわけなんだけど。


 そして今回、俺と半兵衛が逗留するにあたって、信長兄上はシングルサイズの那古野布団を二つも用意してくれた。厳密に言えば、実際に使うのは藁マットレスの方なんだけど、一応掛布団と敷布団のセットで那古野布団って呼んでるからな。

 だってなぁ、夏の暑い時期にパッチワークキルトの掛け布団は厳しいだろ。あれは冬に使うのを想定してるしな。


 でも、できればお腹のとこだけは薄掛けをかけたいのが心情だ。夏とはいえ、朝方は冷えたりするし、寝相が悪くてお腹が出ちゃったりすると腹を壊すからな。だって夜着は浴衣みたいなもんだから、いつの間にかはだけるんだよ。いつかパジャマが欲しい。


 津島にいる間は腹を壊さないといいなと思っていたんだけど、さすがお金持ちの堀田殿だ。俺と半兵衛に絹の薄掛けをプレゼントしてくれたんだよ!


 行く前にちょっと言っただけなのにさ。昨日の夜、さあ寝ようと思って藁マットレスに直行した俺の驚いたことと言ったら。

 すごく嬉しいサプライズだよ。


 この藁マットレスの方は、俺たちが帰った後は信長兄上から堀田殿に下賜される事になってるから置いていくんだけど、こっちの薄掛けは持って帰れるってことだよな。


 すっごく嬉しいぞ。堀田殿、ありがとう!


「これで寝ている最中に夜着がはだけてお腹が出てしまっても大丈夫ですね」


 夏用の上掛けが今までなかったからな。これで腹の具合も安泰だ。

 俺がにこにこして絹の薄掛けをすりすりしていると、半兵衛はちょっと困ったように眉を下げた。


「私まで頂いて良いのでしょうか」


 心から信頼できる護衛がタロジロしかいない関係上、俺と半兵衛は同じ部屋に泊まっている。二部屋に分かれたら、タロジロはそれぞれ一人で一部屋を担当しないといけなくなるから、俺たちが滞在する間ずっと徹夜しないといけなくなる。しかも部屋の外で。


 いくら修行して徹夜に慣れているといっても、初めての場所での護衛で気が張っているだろうし、可哀そうだ。

 だから最初から信長兄上に頼んで同室にしてもらってたんだ。


 なぜか頼んだ俺じゃなくて、半兵衛にいいのか、って確認してたけど。なんでだ?


「きっと半兵衛殿の噂を聞いて、今のうちによしみを通じておこうとしているのではないでしょうか」


 いわゆる青田買いだな。


 半兵衛は人質として稲葉山城にいた時に快川紹喜かいせんじょうきっていう臨済宗妙心寺派の僧侶の元で学んでたらしい。俺の師である月谷和尚様と同じ宗派だな。そしてこの宗派は武家に兵法なんかを教えたりするのが得意だ。

 明智のみっちゃんも快川和尚様に師事していたらしいから、みっちゃんと半兵衛は兄弟子と弟弟子の関係だな。


 それでみっちゃんが半兵衛の美濃での神童ぶりを宣伝したらしい。

 うむ。やっぱり竹中半兵衛は小さい時から竹中半兵衛なんだな。神童が稀代の名軍師にジョブチェンジするってわけだな。


「……そうでしょうか」

「きっとそうですよ。さすが半兵衛殿ですね!」


 俺も半兵衛の親友として、何か人に誇れる何かができるようにならんとなぁ。

 うーん。今から弓術をがんばって何とかなるかなぁ。


「将を射んと欲すれば先ず馬を射よだと思うのですが」

「……ん?」

「いいえ。何でもありません」


 小さな声でのつぶやきが聞き取れなくて聞き返したけど、半兵衛はにこっと笑うだけで答えなかった。なんだか誤魔化されたような気もするけど、まあ、それ以上言わないってことは大した事じゃないんだろう。


 お祭りは明日もあるからな。今日は早く寝るとしよう。


 





 翌日の朝祭りは、市江村から出た市江車を先頭に、六艘の船が出るんだけど、前日のまきわらの飾りつけから一変して、能の出し物を型どった「置物」を乗せた車楽が古楽を奏でながら天王川の中之島付近に進んでいくものだ。


 昨夜の宵祭ほどの派手さはないけど、この朝祭りも趣があっていいんだよな。牡丹や桔梗の花で飾り付けられた人形が、光の中で絢爛豪華な姿を見せているのが何とも言えず素晴らしい。


 やっぱり来年は信長兄上と信行兄ちゃんと熊とリーダーとみっちゃんと、それから市姉さまと犬姉さまと、そして美和ちゃんも誘ってまたこのお祭りを見たいなぁと思った。

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