109 丸投げ案件リスト
熊が持って帰ってきてくれた綿の固まりは、全部で十個もあった。進軍の途中で偶然見つけたんで、熊だけ離れて木の枝についていた綿の固まりを全部摘んで、それぞれ一塊ずつ懐紙に包んで持って帰ってきてくれたのだそうだ。
熊―――なんてデキル子!
一つの固まりには大体九個くらいの種が入っていたから、手に入った種は合計で86個だった。
これを元手に栽培が成功するといいんだけどな。
まずは30個使って、種を植える時期を変えて栽培するといいのかな。3月と4月と5月にそれぞれ10個の種を植えて育ててみればいいか。
三河が敵対国である以上、そう簡単に綿の種は手に入らないだろうから、慎重に進めないといけないな。
でもこれで綿が量産できれば、ハンテンとか枕とか布団とか、俺の快適睡眠ライフがはかどる事間違いなし。ああ、こたつ布団も作りたいな。
そう。こたつ。
日本人を堕落させて海外のセレブをも魅了する魔の暖房機器。こたつ!
なんと俺はついに、今年の冬、その制作に成功したのだ!
なんて、偉そうに言っても、作るのは簡単なんだけどね。
まず大きめのテーブルを作ってもらって、そこに那古野布団をかけてもう一つ板を乗せて、中には火鉢を入れれば完成だ。火鉢の高さとテーブルの高さに注意しなくちゃいけないけど、それだけ気を付ければなんとかなる。
あと、テーブルの材料は燃えにくい桐にした。こたつのせいで末森が全焼したらシャレにならないからな。
一酸化炭素中毒が怖いけど……基本的に日本の家屋は密閉性がないからなぁ。適当に換気しとけば何とかなるんじゃないかね。寝る時には部屋の外に出しておくつもりだしな。
ちょっと高級なこたつになったけど、快適な冬を迎えるためだ。これも必要経費だな。うむ。
ぬくぬくぬくぬく。
ちなみに美和ちゃんのところからもらってきた猫は、すくすくと育っている。そしてこたつの中で丸まっている。それこそ猫がこたつに入ってる時は、掛け布団の端を少し持ち上げて新鮮な空気が入るようにしてるけどね。
いつの時代でも、こたつと猫の関係は変わらないんだなぁ。ほっこり。
こたつと言えばミカンなんだけど、肥後の国、現代の熊本の八代ってとこに「みかんの木」っていうのがあるらしいんだよな。月谷和尚さまが知ってたんだ。さすが月谷和尚さまだよな。
このあたりは相良って大名が治めてるらしいんだけど、一応、津島の商人さんたちにみかんの木の苗を手に入れて欲しいってお願いしておいた。
苗が手に入るとしても、早くて来年の春か。それから育てて……こたつでみかんが食べれるようになるのは五年くらい先かもしれんなぁ。でも何年かかってもいいから、こたつでみかんは食べたいぞ。
しかしこうやってゆっくりしながら考えると、丸投げ案件って結構あるな。
まず元津島住民の五郎助さんに頼んでるのが、圧搾機だろ、フライパンにネジにドライバーにペンチだろ。蒸留酒を作るための、銅の蒸し器もどきの蒸留装置も五郎助さんに頼んでる。
圧搾機がまだできてないのに、更に無茶言ってる気がするけど、蒸留装置の方を先にしてくれって言ってあるんだ。やっぱり人の命に係わる事の方が優先だからな。
でもって、菓子職人の黒川円光さんには最中だ。ついでに甜菜糖は諦めて、堺から仕入れたお砂糖で餡子を作ってもらってる。
砂糖自体は、茶の湯のお菓子に使われてるんで、細々と輸入してるらしいんだよな。今はまだ高価だけど、そのうち南蛮貿易が始まって今よりは手に入れやすくなるから、それまでの辛抱だな。
まだ最中ができてないから、餡子を使っておはぎを作るのが一番かな。きな粉のおはぎもおいしいよな。
ちなみに歴史オタクの山田が前に和菓子屋でバイトしてた時に言ってたんだけど、おはぎとぼたもちはこしあんとつぶあんの違いはあるけど、基本的に同じ物なんだそうだ。
春のお彼岸の牡丹の咲く季節に食べるから、ぼたもち。
秋のお彼岸の萩の咲く季節に食べるから、おはぎ。
って呼ぶんだそうだ。
名前だけ聞くと、全く別のお菓子に聞こえるよな。
あと美和ちゃんのお兄さんの生駒家長さんには清酒と養鶏を頼んでる。鶏はちょっとずつ増えていってるみたいだけど、清酒の完成はまだだ。
津島の味噌蔵の親方にも醤油の開発を頼んでるけど、まだできたって話は聞かない。醤油ができれば料理のレパートリーが広がるから、ぜひ完成させてほしいもんだ。
まあ、気長に待つしかないんだけどな。
そういえば滝川リーダーに頼んでる永田徳本さんか曲直瀬道三さんの勧誘もどうなったんだろうな。次に会ったら聞いてみよう。
とりあえず救護兵の設置は信長兄上に奏上しておいた。イマイチ有効性がピンとこないみたいだけど、まあ仕方ないか。とりあえず蒸留酒を作って消毒用アルコールの有用性をアピールしてからだな。
龍泉寺に造る予定の薬草園には、まずはヨモギと桑を植える予定だ。
ヨモギが薬草として優れてるのは知ってたけど、桑もそうだなんて知らなかったよ。風邪に効くらしいんだけど、その他にもお茶の葉が高価で手に入らないからっていうんで、お茶の代わりに桑の葉を粉末にして飲んだりすることもあるらしい。
あとは熊と共同で栽培する綿だな。
こうしてみると、丸投げしてまだ結果が出てないものも多いなぁ。
完成したのは名古屋布団とベッドと枕と、千歯扱きと備中クワにツルハシか。あとニラ玉あんかけと兵糧ちまきとおかかおにぎりと、って、食べ物の割合が増えてるな。
おいしいは正義だからな。食べ物の開発もがんばらないといかん。うむ。
今回のお話はほぼ自分の為のメモ代わりです。
どれを丸投げしてたかメモしてても忘れちゃって……
これからはこのお話を読み返せるので、安心です。
開発系のお話はここでちょっとお休みです。




