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信長公弟記~織田さんちの八男です~【コミックス6巻】発売中  作者: 彩戸ゆめ
戦国時代に平穏はない

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105 人は宝

「人は宝、と申しますが、本当にそうですね」


 うんうんと頷くと、熊が「なんと素晴らしい言葉だ」って感動していた。

 あれ? この言葉、まだこの時代にはないのか?


「私も元信殿のように民から慕われるようになりたいものです」


 徳川家康って今いくつなのかね。信長兄上よりは年下だよな。8歳くらい下なんだっけ?

 とすると。えーと、今信長兄上が22歳だから、その8歳下だと14歳くらいか。

 俺よりちょっと年上ってとこだな。


 秀吉って人たらしで有名だけど、家康も負けてないって事かもしれんね。

 ……信長兄上もがんばれ。


「ところで勝家殿の家臣である荒川新八郎殿と早川藤太郎殿の具合はいかがですか?」

「はっ。喜六郎様に言われていた通り、傷口に酒を流したところ、特に熱も出ず快方に向かっているようでござる」

「それは良かった」


 実は戦で死ぬ原因で一番多いのは矢傷だ。


 なんかテレビとかで見ると槍で刺されて死ぬとか刀で切られて死ぬっていうのを連想するんだけど、実際は、槍って叩いて相手を気絶させたり馬から落としたりするのがメインで、刀はその馬から落ちた武将を組み伏せて首を斬る為に使われることが多い。


 それに比べて弓は遠くから敵を狙って、凄腕の人だと、鎧とか兜まで貫通させるくらいの殺傷能力を持つんだ。


 弓名人と言えば、平家物語の那須与一なすのよいちが一番有名だよな。

 舞台となった屋島は、現代でいうと香川県の北にある、ちょうど高松市とさぬき市の間くらいのところにある半島だ。あれ? 半島なのに島って言うのか? もしかして埋め立てられたのかもしれんね。


 地図で見ると、ちょうど平家が京都を追われて、最期の地である壇之浦に向かう途中にあるって感じかな。距離的にもちょうど半分くらいのところだし。


 この屋島で平家と源氏が激しい戦いを繰り広げたわけなんだが、休憩なしでずっと戦ってる訳にもいかないからな。夕方になって双方ちょっと休もうか、って事になった時、平家の船から小舟に乗った美女が一人出てくるんだよ。

 それで竿の先に扇をつけて、この扇の的を射よ、って挑発したんだな。


 武士にとって、煽られてそれに応えなかったら末代までの恥になる。この場合は源氏全体の恥だな。


 だから大将の義経は弓名人を探すわけだけど、まあ、こんな重大な任務じゃ皆びびっちゃって断られるよな。やっと引き受けてくれたのが那須与一だった。


 与一は海の中に馬と共に入ると、弓を構えた。


 そして平家物語によると、


「南無八幡大菩薩、我が国の神明、日光の権現、宇都宮、那須の湯泉大明神、 願はくは、あの扇の真ん中射させてたばせたまへ。 これを射損ずるものならば、弓切り折り白害して、人に二度面を向かふべからず。 いま一度本国へ迎へんとおぼしめさば、この矢はづさせたまふな。」


 つまり「神様仏様、失敗しないようにお願いします。失敗したら腹を切って死にます」って宣言して、見事、扇の的を射落としたわけだ。


 くーっ。しびれるね。


 なんでこんなに詳しく知ってるかって?

 いや、月谷和尚さまに俺がもっと弓の練習を真面目にやるように、って平家物語の「扇の的」って話を暗記させられたんだよ。


 でも、ここまではいい話だなーで終わるんだけど、この後は結構ひどい。

 那須与一の見事な腕前に源氏からも平家からも歓声が巻き起こる中、興に乗った平家の武士が扇のあったとこで舞ったら、義経があれも射て殺してしまえ、って命令して殺しちゃうんだ。


 それで当然怒った平家との戦いがまた始まるんだな。


 織田にも弓の名手の林弥七郎って人がいたんだけどさ、林のジジイの与力で稲生の戦いの時にジジイの味方をしてたから、負けた後に家族を連れてどこかに出奔しちゃったんだよ。できれば弓を教えて欲しかったんだけどな。残念だ。


 ちなみに信長兄上の宿敵である今川義元は海道一の弓取りって言われてる。実際には弓が上手いって意味で使われてるわけじゃなくて、弓を使うのは武士=東海道で一番の武将、って意味で使われてたんだけどな。


 でもそれくらい、この時代の戦において弓の占める比重は多い。合戦の始めは、まず相手にいかに非があるかを大声で口上して、それから双方で弓を射合って始まるくらいだしな。


 その矢傷で死ぬ兵が多いわけだけど、矢を射られて直接死ぬっていうよりも、傷口にばい菌が入ってそこからばい菌が全身に回っちゃって死ぬ事が多いみたいだな。


 だってさ、矢じりの先に、糞尿塗って射るのが普通なんだぞ。


 そんなのが傷口に入ったら、そりゃ破傷風とか起こして死ぬよ。それでなくても尿を飲めば治るとかトンデモ治療がまかり通ってる世の中だからな。尿をためとく用の水筒まであるって聞いたら、もう笑うしかないよな。


 だから今回、戦に行く熊に消毒するなら酒をかけろ、って言っておいたんだけど。


 今回はそれでうまく行ったけど、基本的にこの時代の男たちって酒に目がないんだよな。たとえば敵の兵糧を減らすために刈田しろって言ったら、内緒でにごり酒作って飲んでるくらい。

 そんな奴らに消毒用の酒を持っていけって言っても、みんなで飲んじゃうのが目に見えてるよな。


 飲むにはまずくて、消毒には最適なアルコールって造れないもんかな。アルコール濃度を思いっきり上げるといいのかな。


 そうすると、焼酎か。あれって蒸留するんだよな。

 蒸留かぁ。なんとなくは分かるけど、作れるのかなぁ。


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