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信長公弟記~織田さんちの八男です~【コミックス6巻】発売中  作者: 彩戸ゆめ
戦国時代に平穏はない

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104 福谷城の戦い

 俺の護衛になったタロジロは、還俗してからやって来るっていう話だったけど、山伏の姿のままで来た。還俗するのは、断固拒否されたらしい。

 でも他に適任者がいないんで、この双子が山伏姿で来ることになったんだとか。


 それはいいんだけどさ。山伏姿は目立ちすぎないか? ただでさえ、デカくてゴツイのに。


 とりあえず服だけは目立たないように普通の小袖を着て欲しいんだけど、山伏の服も武器も、修業の道具として細かく決まっているんだそうだ。山伏十六道具って言うんだけど、それを全部装備して山で修業すると霊験を得られるってことらしい。


 でも、ここ山じゃないし、普通の着物でいいんじゃないか? って提案してみたら、双子は揃って目を丸くして、また顔を見合わせた。

 なんていうか、この二人ってイチイチ顔を見合わせて意思の疎通をはかっているみたいだな。


 とりあえず、ほら貝を持つのと、経典とか入れた箱を背負うのは止めさせた。護衛するのにも邪魔になるしな。


 ただ、武器は錫杖しゃくじょうって呼ばれる独特の杖を使いたいって言われた。慣れた武器じゃないと、ちゃんと護衛できるかどうか分からないって言われたら、承知するしかないよね。目立つけど。


 錫杖は杖の先に大きな丸い輪があって、その輪に小さな輪が十二個通してある武器だ。振るとシャラシャラ音がして雅な感じがするけど、立派な武器なんだよな。突き刺すとかって言うより、叩いてぶちのめす、って感じだろうか。

 まあ要するに槍と同じように扱う武器だな。槍も刺したりするより叩いて失神させたり馬から落とすのがメインだし。


 これが海外だとメイスになるのかね。あれはゲームか?


 どっちにしても僧侶は鈍器で殴るのが定番ってことだな。いっそのこと、モーニングスターみたいな武器を使わせたらどうなんだろう。タロジロなら、力もあるからトゲのついた重りみたいな丸い玉をブンブン振り回せそうだけどな。


 それにしても、タロジロを連れていると目立って仕方ない。しかもいつの間にか「今牛若」とか呼ばれ始めたのには辟易するよ。

 だって、今牛若って現代の牛若丸ってことなんだけどさ、牛若丸って源義経の事だから、最期は兄の頼朝に粛清されちゃう人じゃないか。それと同じあだ名とか、勘弁してほしいよ、まったく。


 それを信長兄上に愚痴ったらさ、笑いながら何て言ったと思う?


「俺は殺すなどともったいない事はせぬな。死ぬまでこき使うゆえ、安心しろ」


 えーと。その言葉のどこに俺が安心する要素があるんでしょうかね?

 ブラック企業反対! ホワイト企業を目指そうよ!






 俺がタロジロに慣れてきた頃、やっと熊が戦いから戻ってきた。熊が攻めていた三河の福谷城うきがいじょうは、末森の南東にある、対織田最前線の城だ。城主の酒井忠次はまだ若いってこともあってすぐに攻め落とせるかと思ってたんだけど、大久保忠勝、阿部忠政、大久保忠佐が援軍にきて、熾烈な戦いを繰り広げていたらしい。


 熊の家臣である荒川新八郎と早川藤太郎は負傷して、熊も弓の名手である阿部忠政に馬を射られて、結局負けちゃったらしい。


「勝家殿、よくぞ無事に戻りましたね。安心しました。それで、夜叉鹿毛は無事ですか?」

「……喜六郎様、それがしよりも馬の方が気にかかるのですか……」


 報告を聞いた俺の第一声に、熊はどよーんと目に見えて落ち込んだ。

 いや、ほら、その、あれだ。だって熊はかすり傷くらいしか怪我してないじゃないか。それより怪我の具合が分からない夜叉鹿毛の方が心配だなーなんて思ったんだよ。すまん。


「それは誤解です。もちろん勝家殿を心配しておりました。でも見た所かすり傷程度のようですね。命に別状がなくて安心いたしました」

「勝てれば良かったのですが。申し訳ござりませぬ……」


 平伏する熊の顔を上げさせる。多分、信長兄上のとこでもたくさん平伏しただろうからな。もう顔を上げていいぞ。


 戦には負けちゃったけどさ、お前はよくがんばったよ。

 生きて帰ってきただけで、大手柄だ。


「いいえ。戦上手の勝家殿が勝てなかったのですから、織田の誰が行っても勝てますまい。……三河武士は強かったですか?」

「なんと言ったらいいのか……覚悟が違いましたな」

「覚悟、ですか?」

「はい。武将はともかく、足軽などはあまり命をかけるほどの極限の戦いはいたしませぬ。彼らにとっては生きて帰ることも大事ですから。しかし三河の兵たちは、足軽に至るまで、死んでもこの戦に勝つのだという気概が伝わって参りました」

「死んでも、ですか」

「殿がおっしゃるには、おそらく松平の当主である元信殿が、未だに今川で人質となっているからではないか、と」


 後の世で徳川家康と名乗ることになる松平元信は、三河から今川に人質として送られる途中で織田家に売られて、その後、生け捕りにされた信広兄さんと交換でまた今川の人質になったという、大変な幼少期を送っている。


 そして城主のいない、本来は三河を支配する松平家が居城とするべき岡崎城は今川の支城とされ、城代として山田景隆(かげたか)、三浦義保、糟谷備前の三人が三河を治めている。だけどこの三人は、三河の国人に負担ばかりを強いているらしい。


 農民たちには重税を課し、兵たちは織田との戦いにおいて先峰を務めさせて使い捨てる。


 それでもいつか元信が戻ってくれば、また以前のような豊かな暮らしが戻ってくる、って三河の国人たちは信じてるわけだな。

 その為に必死で戦う。三河兵の武功で、元信が戻ってこられる日が少しでも早くなるなら、と願って。


 なんていうか、そこまで国人に慕われるっていうのが凄いなって、そう思った。

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