103 タロジロ
それからしばらくして、滝川リーダーが二人の男の人を連れてきた。
二人の印象は、一言で言えばゴツイ。さらに言えば、大きい、ムサイ、暑苦しい。
よくお寺の門のとこに金剛力士像っていうのがあると思うんだけど、あれにソックリだ。
多分、現代ならヤのつく職業の人と間違えられるだろうってくらい目つきも悪い。スキンヘッドだしな。
しかも二人とも顔がそっくりだから、多分双子なんだと思う。
おかしいな。熊といいこの双子といい、俺の周りが段々むさくなってくるんだが、気のせいだろうか。
いや別にハーレムなんて望んでないけど、でもたまにお風呂に入ってお色気シーンを見せてくれるくノ一とかさ、そういうご褒美は俺にはないのかね。
その熊は今、末森にはいない。
信長兄上に命じられて、三河にある福谷城ってとこを落としに行ってるらしいんだ。松平家の重臣、酒井忠次が城主なんだが、二千の兵を率いているから、勝って帰ってくると思う。熊は戦上手だしな。
「犬太郎でござる」
「犬次郎でござる」
頭を下げる二人に、俺は「はあ」と力のない返事をした。
いやだって護衛って言うくらいだから、忍びみたいに目立たずにそっと守ってくれるのを想像してたんだよ。だけどこれじゃ、俺より目立ってるんじゃないのか? 護衛として、これはアリなのか?
「喜六郎様、この者らはお気に召されませんか?」
「あ、いえ。そういうわけでは……私は織田喜六郎です。よろしくお願いします」
とりあえず自己紹介をしておくかとペコリと頭を下げた。
やっぱり初対面の挨拶は大切だからな。
すると双子山伏は顔を見合わせて、同じタイミングで二人同時にもう一度頭を下げた。
「よろしくお頼もうす」
その後、滝川リーダーが二人の略歴を話してくれたんだけど、彼らは赤ん坊の時にお寺の前に捨てられていて、それを拾ってくれた和尚さんのところでずっと修業をしてきたって事らしい。
その和尚さんの足利学校時代の師が、なんと月谷和尚さまで、その伝手で俺の護衛にきてくれたらしい。
おお。なんかよく分からんが、月谷和尚さまが凄いっていうのはよく分かったぞ。
それにしても、犬太郎と犬次郎ってネーミングはいかがなものか。
「その……お二人のお名前は大事なものですか?」
俺が尋ねると、双子は揃って顔を見合わせた。この二人、本当に鏡みたいに同じ動作をするな。
「なぜそのような事をお聞きなさる?」
犬次郎と名乗った方に聞かれて、俺は答える。
「もし大事なお名前ならばそのままお呼びしようと思うのですが、少し長すぎる気もしますので、お二人がお気になさらないなら太郎殿と次郎殿とお呼びしても構いませんか?」
「拙僧どもは畜生腹にて犬と呼ばれておるのでござる。殿はお気になさらぬのですか?」
ああ、そういえば昔は双子って忌み嫌われてたんだっけか。犬とか猫が多胎なことから、双子を妊娠すると畜生腹って呼ばれたらしいな。
でも現代からすると双子なんて珍しくもないからなぁ。双子どころか、五つ子六つ子なんて奴らもいる。
そういや戦国時代の武将で双子っていないような気がするな。いたとしても、普通の兄弟ですらお家騒動が起こるんだ。双子ならなおさら揉めるだろう。
それもあって、秘密裏に処理されちゃうのかもしれんな。
迷信が幅を利かせている時代だから仕方ないのかもしれんけど、いい気分はしない。
金剛力士像は実は双子って噂でも広げようかね。
いや待て。ねつ造はいかん、ねつ造は。
他に何か印象を良くする方法はないもんかね。
あ、そうだ。金剛力士像で有名なのは東大寺の南大門だったと思うんだけど、それを実際に見た時に二人に似てるな、って言ってイメージアップ作戦を取るなんていうのはどうだろう。
顔もそっくりだしな。金剛力士が現生に顕現した、っていうのは言い過ぎか?
この二人が熱心に仕えてくれたら、ご褒美に連れていってあげてもいいんだけどな。山伏とはいえ、僧侶だからもう見たことがあるのかな。どうだろう。
ていうか、俺が本物を見てみたい。
「まったく気になりませんよ。子供が一人生まれてもめでたいことだと言うではないですか。それが一度に二人も生まれたのですから、二倍めでたいということになりますよね」
にこにこと笑ってそう言うと、また犬太郎と犬次郎は……えーい、めんどくさい。タロとジロでいいや。なんかどっかの南極犬みたいな名前になるけど、言いやすいからいいよな! そのタロとジロはまた同じタイミングで顔を見合わせた。
ほんと仲がいいね、君たち。
「我らが生まれて、めでたいとおっしゃるか……?」
「はい。子は国の宝でしょう? 違いますか? それに生まれてきてくれたからこそ、こうして仕えて頂けます」
忍者は滝川リーダーからNGが出るしな。山伏で見るからに腕っぷしの良さそうなタロジロは、護衛役にうってつけだと思うぞ。
陰からひっそり見守るのは無理だろうけど。
それでもって「御免」とか言いながらシュッと消えるのもできなさそうだけど。いや、それは実際の忍者も無理かもしれんけどね。あれはきっと演出上の効果ってやるなんだろうけど、夢を見たっていいじゃないか。
タロジロは忍者じゃないけど、滝川リーダーとか信長兄上が認めたってことは、かなりの腕利きってことだろうしな。
とりあえず、これから仲良くしようぜ!




