10 マットレス
うーん。後家さん救済に、藁で作る特産品って何かあるかな。
わらじ―――もうあるな。
藁人形―――呪っちゃダメだろ。
納豆の入れ物―――まず納豆がない。
他にないかな。もっとこう、インパクトがあって特産品になるもの。
俺は穂を取った稲藁を村人たちがぎゅっぎゅと束ねているのを見ながら、何かないかと考えた。
へえ。藁って結構弾力あるな。
ん? 弾力?
そうだ! 弾力があるなら、マットレスの代わりになるんじゃないか!?
試してみないと分からんけど、敷布団カバーみたいなのを作ってその中に藁をつめたら、簡易マットレスになりそうだよな。そういえばアルプスに住んでた少女も藁の布団で寝てたよな。そしたら布団の材料としてイケるんじゃないか?
問題は虫と湿気だけど、虫、は、そばがらと違って茎のとこだけを使うんだから大丈夫じゃないかな。それに年貢を納めるための米粒を釣り残すなんてことはありえないだろうし。
こうして見てても、千歯扱き使った後も、取り残しがないかどうか、凄い念入りに調べてるもんな。
湿気は、実際に使ってみないと分からんなぁ。たまに干すだけでいいなら、使えるんだけどな。っていうか、毎年、中の藁を変えなくちゃいけないってことなら、後家さんの救済にもなりそうだよな。
もしそんなに藁を交換しなくてもいいってことになれば、需要と供給のバランスを考えると厳しいのか?
いやでも、後家さんだけに作る許可を与えるってことにすればいいのかもしれん。つまり許可制だな。これなら、なんとかなるのか?
でもこれでマットレスができて、スノコベッドも作成してもらえば、俺の快適睡眠ライフが来るんじゃないのか!? 予想通りにいけば、戦国時代でほぼ完璧な現代ライフが送れるぞ。
ただまあ、いずれにしても色々と実際に試してみないと分からんな。なんだか色々と試行錯誤しないとダメなものばっかりだ。すぐに結果が出れば早いのに。
とりあえず末森に戻ったら、信長兄上に報告の手紙を出さないといけない。あ、そうだ。お小遣いもねだっておこう。お小遣いをねだるなら、直接清須に行かないとダメかもしれんな。
お兄ちゃん、お小遣いちょうだい、と可愛くおねだりしてみよう。
お小遣いじゃなくて、ゲンコツをもらう可能性もなきにしもあらず、だが。
信長兄上が今住んでる清須城は、今年、小幡城主の信光叔父さんと信長兄上が、守護代の大和守を倒して奪い取った城だ。なんか色々と改修してるらしいけど、俺はまだ行った事がない。末森からはちょっと遠いしな。
っていうか、信長兄上ってずっと那古野城にいたんじゃなかったんだな。安土城を建てるまでは那古野に住んでるんだと思ってたぜ。何しろ名古屋城は現代でも有名だからな。さすがに戦国時代の建物がそのまま残ってるわけじゃないだろうけど。
清須城はどうなってるんだろうな。それに、マイハウスの末森城の名前も聞いたことないなぁ。
やっぱり遺跡になっちゃってるのかな。だとしたら切ないね。
「若君、なんぞまた凄いもんでも考えていらっしゃるんで?」
そんな風に感傷にひたっていたら、急に猿に声をかけられた。
ニコニコして人の良さそうな顔をしてるけど、目が笑ってない。
うわっ、これ、俺が考えたアイデアを盗もうと思ってないか!? 盗めなくてもなんとか利用してやろうとか、それに自分が関わって出世しようとか、そんな雰囲気をビジバシ感じるんだけど!?
「あ、うん。色々考えてるけど、まずは信長兄上に相談しないとね」
だが甘い。前世でサラリーマンをやってた俺が、そんな手にうかうか乗るはずがないだろう。ただの十歳の子供なら、分からんけどな。俺はそこに前世分の年齢が乗っかってるんだ。つまり実際は猿より年上ってことだな。
「もちろんですじゃ。殿に相談なさって、もっと凄いもんをお作りなさるんじゃろう。わしには分かっておりますとも。この藤吉郎、若君の手となり足となって働きますんで、よしなにお願いしますじゃ」
「うん。その時はよろしくね」
とりあえず猿と組むのは知られてもいいようなアイデアの時だなぁ。硝石の作り方とか、真珠の作り方なんかは秘密にしたい。
そーすると信頼できる部下が欲しいとこだ。この時代、血が繋がっててもすぐ裏切られるから、誰を信用していいか分かんないんだよ。信長兄上はいいよな。猿とか犬とかいるもんな。
俺も、俺だけについてきてくれる犬とか猿とかが欲しい。
あ、雉もいたら桃太郎になるな。ということは、キビ団子を用意したら、信頼できる仲間がどこからかやってくるとか。
でもどうせなら、キビ団子よりみたらし団子のほうがいいな。みたらしのタレって、醤油と……砂糖か。
ダメだ。砂糖が手に入らないから作れないぞ。くっ。残念。
砂糖がないなら、中華料理のデザートで出てくるゴマ団子なんてどうだろう。菜種油が量産できるようになったら、餅米で皮を作って、中に餡子を入れて、周りにゴマをいっぱいつけて油で揚げる。――うわぁ。想像しただけでおいしそうだ。
いやでも、ちょっと待てよ。もしかして餡子にも砂糖が必要なんじゃないか? だとすると、ゴマ団子もちゃんとした物を作れないぞ。
砂糖……う~ん、砂糖か。砂糖はサトウキビから作るんだよな。サトウキビっていえば沖縄だ。今だと琉球か。その琉球に行くには船しかない。
船かー。今でも琉球に行けるくらいの船ってあるのかね? 船のことには詳しくないから分からんなぁ。琉球と貿易ができれば、砂糖も手軽に手に入りそうだけどな。
織田が持ってる港は津島だから、琉球との貿易はちょっと難しいか? せめて堺の港を手に入れないとダメだろうか。
「若君、どうなさったんで?」
「早くおいしいお団子が食べられるようになりたいね!」
「は……はあ、さようでございますなぁ」
両手のこぶしを握ってそう力説すると、猿は目をまたたかせて俺を見た。
今にみてろ、おいしいゴマ団子を食わせてギャフンと言わせてやるんだからな!
昔はわら布団というのが実際にあったそうです。




