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眼の異世界転生  作者: ビッグツリー
新年のご挨拶
70/70

新年、開幕(中編)

お正月用番外編、その中編です!

 まずはファーストゲームとなった凧あげ同様、ゲームに使用する為の道具が旅館スタッフの手によって準備された。

 そこには羽子板はもちろんの事、スリッパ・しゃもじ・うちわ・おたま・鍋の蓋・巨大ハンマー・シャベル・灰皿、そしていつかの下敷きといった、もはや板でも何でもないおかしな品々が台の上に並ぶ。


 そのふざけた下準備はもちろん――、リーナのおちゃめ機能だという事は、言うまでもない。



 使用する道具を選定する為、マインとサユリの両者は台の前にて並び立つ。

 用意された専用の羽子板以外で羽に触れる事は禁じられている為、ここで選択した道具が自分の手足になるのと同義である。故に、如何に使いやすい道具を選択するかが、ゲームを行う上で重要な物になってくるだろう。


 さすがと言うべきか、堅実であるサユリはおふざけの道具には一切目もくれず、通常の羽子板をその手に取る。性格上、冗談を好むタイプでは無いのはもちろんだが、この選択が如何に重要になってくるのかを理解しているが故だ。


 そして、こちらもある意味さすがと言うべきか――、


「ふむ。スリッパも面白いが、おたまも捨てがたいな」


 台の上に並ぶ道具を手に取り、あれこれと吟味の目を光らせるマイン。もちろん――、通常の羽子板を除いた、”おふざけの道具”をである。

 マインの可愛い物好きな性格ともう一つ、面白い物好きな性格がここに来てひょっこりと顔を出したようだ。しかしそこは侍、これが勝負だという事を忘れてはいない。


「よし、私はこの”しゃもじ”にしよう! 日常的に台所へ立つ身だ。使い慣れた物が一番であろう! ワハハ!」


 しっかりと手慣れの道具を選定し終えたマインは、しゃもじを天へと掲げ、高々と豪快な笑いを放つのだった――。




 お互いに道具を手に取った所で、フィールドが荒れた荒野へと移り変わる。地はカラカラに乾き、草木の一本も無く、地平線は巨大な崖によって遮られた。

 距離を取っては対峙する二人。風は無く、向き合う二人の静かな闘志だけが辺りを漂う。


「先手はお主に譲ろう。遊戯とは言え、こうして相見あいまみえたのだ。近衛騎士団長の力とやらは、私を楽しませてくれるのだろう?」


 ニヤリと、挑発交じりの微笑を浮かべるマイン。その手に構えるのはしゃもじなのだが、身から放つ強気なオーラが押し勝っているか、不思議と手練れの剣豪にも見えてくる。


 すると、どこからともなくサユリの元へと、赤い玉付きの羽がヒラヒラと空から舞い降りた。

 サユリはすまし顔でその羽を掴むと、手に持つ羽子板の先をマインへと向ける。


「楽しむ事など論外です。私がすべき事は、チームを勝利へと導く事だけですから」


 凛と言い放つその頑なまでの意思表示に、マインはやれやれといった様子で腰に手を当てては、「お堅い奴だ」――と、小さく零すのだった。


 


 そして、ついにその時は来た。待望の第二ゲーム、開幕を告げる合図が今、高々と響き渡る。


「それでは始めるですよ! 『ドキドキ☆羽根突き対決』、スタートですぅー!」


 リーナの合図と同時に動きを見せたのは、先手を担うサユリであった。手に持つ羽を頭上へと投げ放ち、「はっ!」――と気合の声を発して羽子板を振り抜いた。

 打たれた羽は弧を描き、軽やかに宙を舞う。


 それを待ち受けるマインはしゃもじを肩へ担ぐ様に数回当てると、まるで話にならないと言わんばかりに傍観の姿勢を取っていた。


「キレはあるが、まだ足りないな。――どれ、小手調べに少し遊んでみるとしよう」


 マインは撫でる様に下からすくい上げ、軽々と羽を打ち返す。

 しかし、本人にとってただ当たり前に返して見せたそれは、サユリの元へと戻る羽の速度が先程までとは比べ物にならない速さとなっていた。それ程までに、亜族と人間とでは基礎的な身体能力の差があるという事なのだろう。


 だが、サユリも人間とは言え、選りすぐりの精鋭部隊から成る近衛騎士団に籍を置く者。それも、トップを務める団長の座にだ。その肩書きは単なる努力だけで掴み取れるものではなく、力や技術、才知に秀で、究極の高みへと上り詰めた者のみに許された証である。


 故に――、ただのお遊びで終わる程、サユリの信念は脆いはずが無かった。




 サユリは羽子板を両手で握り締め、真正面から向かい打つ。時には頭上を、またある時には直線上を、そして地面スレスレをと――、様々な位置へと打ち返される羽にも機敏な反応を見せた。

 

 一方、羽が宙を往復する中、マインは言うと――、


「ワハハ! なかなかに楽しいものではないか!」


 左手を腰に添えたまま、無邪気な笑顔を浮かべては片腕で難なく打ち返していた。真剣勝負と交じえるサユリと反して、まるで純粋に羽根突きを楽む子供の様な笑顔を浮かべて。


 そしてそのさまは、サユリの心に焦りを生じさせる。

 必死に羽へと食らいつきはするものの、このままではジリ貧であり、少しでもマインが力を加えようならば均衡が崩れるのは明らかだと感じ取っていた。

 そして、真剣な自分とは逆に、マインが遊んでいる事にも。


 サユリは危機意識と怒りが入り混じり、クッ――と眉をひそめる。



 ――このまま良いようにされて、遊び相手になってる訳にはいかない。少し気は引けるけど、ルール上は問題ないはず。早く決着を着ける為には……、これしかない!

 

 そして何かを思いつくがままに、羽子板を頭上へと掲げるのだった――。






 マインとサユリ、両者のゲームの行方を見守る様に、会場の中は落ち着き払う様子を見せていた。


「クラマよ。いつもお主の傍にいるあの娘、なかなか奮闘しているようだがそう長くは持たぬぞ? 何か秘策でも無ければ勝つのは厳しいと思えるのだが」


 丸太の様に太い腕を組んでは、隣に座るクラマへと声をかけるドドマエル。一方的にも見えるゲームの状況に、内心不安を抱いているようだ。


「そうだねぇ……。秘策というよりは、単純な必勝法ならあるね。いや、ルールの穴と言った方が分かりやすいかな?」

「なに、そうなのか? ならば勝つのは容易ではないか」


 必勝法を用いれば勝つのは簡単。そう案じるドドマエルの言葉を分からないクラマではない。だが、「それはそうなんだけどねぇ」――と、どこか困った微笑を放つ。


「ほら、サユリは僕と違って超が付く程の真面目だから」


 その言葉を答えとするクラマだったが、当のドドマエルはほにゃっと首を傾げては、その意図を理解出来ずに考え込むのであった。




 そんな二人のやり取りに、三角の形をした大きめの耳を動かしては、聞き耳を立てるキツネが一人。そう――、お掃除隊長こと、ジルである。


「ジークさんジークさん。今、ルールの穴とかって言葉が聞こえたのですが、そんなものあるのですか?」


 盗み聞きした情報の真偽を探るべく、ジルはジークへと質問を投げかける。――が、その問いにはさも平然に、「あぁ、あるな」――と、当たり前の様に肯定が返って来た。

 表情一つ変えずに答える様子からは、既にジークはルールの穴を気付いていたようだ。


「でしたら、それをマインに教えてあげれば――」

「いや、教えた所で無駄だな。それに、マインならとっくに気付いているはずだ」


 教えても無駄、本人は気付いているはず――と、答えるジーク。そして、必勝法を知りながらも、それを使わないマイン。二人の言動に対し、理解出来ぬままのジルはただ首を捻らせる。


「まぁ、あれだ。俺ならためらいなくやるが、マインはそれを良しとはしない性格だという事だ」


 そう結論付けるジークの言葉に、ジルは名探偵ぶりに真顔で、「なるほど。ジークさんは性格が悪いという事だけは分かりました」――と返したのだが、その頭に無言のゲンコツをもらった事は、言うまでもないだろう。





 

 サユリは体の後ろへと羽子板を振りかぶり、弧を描きながら飛んで来る羽を見据えて待ち構えていた。しかし、そんなサユリの元へと、羽よりも先にマインの言葉の矢が届く。


「まさかとは思うがサユリ殿。仮にも騎士であるお主が、よもやそのまま”羽を地へと打つ”気ではなかろうな?」


 そう、ルールの穴とは――、”羽を相手ではなく、地面へと向けて打つ事”であったのだ。


 打ち返せず、羽が地面に落ちれば負けとなるルール。それは言い換えれば、打ち返せない打球を放てばいいという事になる。

 それには羽が飛ぶ速度、角度、高さなど様々な要因を必要とする訳なのだが、ルールとして”羽が地へと落ちた時”――という決着時点が既に決まっている為、打った羽と決着時点との最短距離を稼ぐ事が一番の近道となる。

 だからこそ、最初から地に向けて打ってしまえば、相手にとっては絶対に打ち返す事の出来ない打球となるのだ。


 それは――、要因の中でも距離に重きを置いた、羽を交互に打ち合うという先入観を逆手に取った戦法であった。




 サユリは内心、早々に決着を着ける為にも、その手段を講じるつもりであった。しかし、マインの挑発に煽られたか、飛んで来た羽を地ではなく頭上高くへと打ち上げ、鋭い眼光をマインへと向ける。


「仮ではない! 私は誇り高き騎士。そんな姑息な手段を使わずとも勝利してみせる!」


 必勝法は使わず、正攻法で勝利すると放った力強い宣言。


 しかし、その堂々たる勇姿を前にしても、マインは薄ら笑いを浮かべていた。

 さすがのサユリもその姿には屈辱の念を抱いたのだろう。拳をぎゅっと固めては、小さくうつむき影を落とす。


「いいでしょう……。ならばお見せします。私の全力――、正義の力を」


 サユリは握った左の拳を胸へと当てると、凛とした面持ちで「魔装解放!」――と唱えた。

 すると、その言葉に反応するかの様に、中指に嵌められた銀色の指輪から眩い光が溢れ出る。それはサユリの身を包み込み、外からの視界を一切として遮る光のカーテンと化す。


 光の中では、凄まじい速度の変化が起きていた。身に纏う着物が一瞬で指輪に吸い込まれ、サユリは下着だけの姿になる。

 上品たる黒はその性格を表わすか、はたまた魔の誘惑か。中央上部に小さなリボンが施された黒のショーツは、すらりと伸びる白い肌の太ももと魅惑のハーモニーを奏で、黒と白のコントラストを彩る。同じく黒のブラにも中央に小さなリボンが施され、左右のカップ上部にあしらわれたピンクのフリフリがクールさの中にもささやかなキュートさを演出し、大き過ぎず小さ過ぎずの万能胸が一揺れのダンスを踊る。


 そして、脚部や腰、腕や肩、胸部などの箇所へと次々に、なんやかんやの装備が自動装着されていく――。



 魔法少女ばりの変身シーンが終わると光は治まり、その中からは光沢を放つ銀の鎧を身に纏ったサユリの姿が現れた。


「遊びは終わりです」


 事前に頭上へと打ち上げていた羽が既に落下を続ける最中、それを自ら迎えに行くかの様にサユリは地を蹴り、軽々と飛翔しては空中で勢いよく羽を撃ち落とした。その勢いたるや、羽が風を切って突き進む。


 先程よりも明らかに変化した打速を感じ取ったマインは、ピクリと眉を動かすとバックハンドで瞬時に羽を打ち返した。――のだが、速度を増した羽の威力はしゃもじの強度を打ち抜き、しゃもじは粉々に粉砕されてしまう。その結果、羽は意図せぬ軌道を辿り、マインの頭上へと打ち上げられた――。






 会場にてその光景を目にしていたドドマエルは、荒い鼻息を吐いては興奮気味にクラマの体を激しく揺さぶっていた。


「ぬぉぉぉぉー! クラマよ! クラマよ! やるではないかあの娘!」

「うーん……。喜んでるのはいいんだけど、そろそろ離してもらえないかなぁ」


 クラマは困惑気味に笑ってはいるのだが、その顔は青ざめ、明らかに気分が悪そうだ。揺さぶられ過ぎて、今にも吐きそうである。


「おぉ! すまんすまん、つい」


 やるだけやって気付いたドドマエルに解放されたクラマは、一つ咳払いして平常を取り戻すと、現状についての簡単な説明を始め出した。


「サユリが纏う鎧には防御はもちろんの事、人間の短所である身体能力の低さを補う性能を持っているんだ。そして普段は指輪型のマジックアイテムの中に収納してあって、簡単に着脱が可能となっているんだよ」

「ふーむ、ただの鎧では無かったという事か。防御面と機動性、様々な性質を兼ねているのだな」


 腕を組んでは一人納得するドドマエルだったが、傍らではクラマがクスクスと笑いを押し殺していた。


「――いやぁごめん。実はね、あの鎧は彼女の”補助”に過ぎないんだよ」

「む? 防具である以上、確かに補助的な物なのだろうがどういうことだ?」


 意味深に唱えるクラマの台詞に、ドドマエルは思わず聞き返す。

 クラマはにこやかに戦況へと視線を向け、薄っすらと開いたその細い目にサユリの姿を映した。そして、静かに口を開く。


「サユリの持つ”天性のスキル”。理論上は無敵と成り得る、その強力な力の――、ね」


 

 



 マインは柄だけになったそれを一目見るなり「ふむ」――と呟き、もはやしゃもじの原形を留めぬ木片を地へと捨て去っては、左の腰に携えた鞘の前へと右手を運ぶ。


 現れたのは、見覚えのある細長い柄。どこの家庭にも一本はあるであろうそれを、マインは鞘から引き抜いた。



 それは――、至高のきらめき。ステンレスの肌は太陽の光を浴びる事でダイヤモンドの如く輝き、その身は鏡の様に鮮やかな景色を映し出す。


 それは――、究極のボディ。雨ざらしでも赤ちゃんのよだれでも錆びず、熱湯にもアイドルのコンサートに参加する熱狂的なファンにも強い耐熱性を持ち、様々な衝撃や女子が一度は夢見る壁ドンにも耐えうる高い強度を誇る。


 スラリと伸びた柄に、丸型のすくいを兼ね備えた一輪の花。一家に一本、主婦の最終兵器。中華の代名詞として名をせるその正体は言わずもがな――、



 そう、圧倒的おたまである。



 

「やっと本気を出したようだな。ならばこちらも答えねばなるまいて」


 マインは手に持つおたまを天高く掲げると、左手を腰に当てては「変身!」――と叫ぶ。

 大方、サユリが鎧を身に着けた一連の流れを目にした事で、自分もそれっぽく決めてみたくなったのだろう。


 だが当然、サユリの魔装解放とは異なる為に、一瞬で着物と紋付羽織袴が入れ替わるだけで変身シーンは終わってしまう。

 マインの悩殺ボディを堪能出来るかも――と、会場では喉を鳴らす男性陣がちらほらいたようだが、大きく溜息を零す事になったとだけ述べておくとしよう。



 そしてこれで両者が、戦闘における正装を纏ったという事になる。それは心境の変化だけでなく、戦況にまで大きく関わってくるだろう。遊びは終わり、ここからが本番だと――。



 

 マインは宙から落ちて来る羽を標的に定めると、おたまを持つ腕を後ろへ振りかぶり、まるでプロのテニスプレイヤーばりのフォームで腕を振り抜いた。

 パコンッ――! と乾いた衝撃音が鳴り響き、およそ羽根突きとは思えぬ有り得ない速度で羽が一直線に飛び出す。その異常なまでの速度変化が、先程までのラリーが本当にお遊びであり、茶番であったという事実を物語る。


 しかし、サユリは急変した打速にも臆する様子を見せなかった。否――、ひるまず、驚かず、恐怖せず。本気で相手取ると決意したその意志は、更なる飛躍を遂げる翼となる。


 そう――、ここからがサユリの、英雄たる彼女の真骨頂。

 近衛騎士団長サユリ・シンドウが見せる、怒涛の快進撃である。



 高速で向かって来る羽を前に、威風堂々と構えるサユリは眼光を鋭くさせる。


「適応」


 そう言い放った直後、白い蒸気ともオーラとも思える謎のモヤが、その身から瞬間的に辺りへと拡散された。


 その今までに見せた事のない違和感は、ほんの一瞬の出来事であったが、後に大きな変化と成り得るキッカケだと知る事になる。



 サユリは右から左へと払う様に、手に持つ羽子板を勢いよく振り抜く。迫る羽に絶妙なタイミングで合わせたそれは、再びマインの元へと羽を打ち返す事に成功したのだが――。

 気のせいだろうか。マインの打った羽の速度よりも、サユリが打ち返した羽の方が早く思える。



「ほう! やるではないか!」


 対するマインは打ち返された事が嬉しいのか、顔をほころばせては野球のバッターよろしくおたまを構えた。そして高速ストレートで向かい来るボールもとい、羽をフルスイングで打ち返す。


 見事ホームラン。羽は空を目指す様に、斜めの軌道を描いて凄まじい速度で飛んでゆく。もしもこれが屋内ドームならば、確実に天井を貫いて行方不明となる事だろう。



 マインが狙ってかそうでないかはさておき、放っておけば宇宙にまで行ってしまいそうな羽の軌道は、云わばサユリの人間としての弱点を突いた上手い手段とも取れる。

 サユリは種族として純粋なる人間である以上、鳥の様に翼は無い。それは空中戦には介入する事が出来ないと、一見そう思えるが――、


「適応」


 再び謎の言葉を発し、それと伴う様に先程と同じく謎のオーラが一瞬拡散する。

 サユリは地を踏み締め、勢いよく宙へと跳躍すると、脚部に装着している装甲――その足の裏には奇妙な文字列が浮かび上がった。――と、同時に、透明な薄いガラス板にも似た物が足の下の虚空に現れ、それを足場代わりとして更に跳躍を重ねる。

 踏めばガラスの様に砕けて消えるそれを、サユリは次々と瞬時に出現させる事によって、颯爽と宙を駆け抜けるのだった。 

 

 空飛ぶ羽へと追いついたサユリは、遥か先の地上にて立つマインへと打ち返す。――が、やはり気のせいではないようだ。羽の速度が先程よりも速い。


「あれを打ち返すか! 面白い!」


 空を見上げるマインは高らかと笑いを零し、胸の内からゾクゾクと込み上げる高揚感が溢れ出す。

 地に滑らせるよう一歩踏み出しては、向かって来る羽へとタイミングを合わせ、その腕を大きく振るった。


 今度は、大地と平行して直進する羽。

 瞬時に地へと舞い降りたサユリは、再びあのオーラを拡散すると、すぐさま迎撃を行う。


 互いに打っては返しを繰り広げ、もはや羽が弧を描く事は無く、超スピードで両者の間を往復する光景へと変わる。

 マインは血をたぎらせ、サユリは静かな闘志を燃やす。そしてその間も、サユリの体からは幾度となくオーラが拡散していた。



 そして起きたのは、小さな変化。その場から動かずに攻防を続けていた二人だったのが、その距離が徐々に狭まり始めたのだ。

 それはサユリが、一歩、一歩と、着実に前へと進んでいたからであった。まるで、マインを追い詰めるかのように――。


 先程までは高揚に満ちた様子を見せるマインだったが、その表情は次第に崩れ始める。


「くっ……、妙だな。一打ごとにこちらを上回るスピードとパワーで返してきている」


 このままではマズイと判断するマインは左手に鍋の蓋を構え、右手に握るおたまとの両刀技にて応戦する事に。

 しかし、それもほんの僅かの時間稼ぎにしかならなかった。いつしかマインは髪から出す八本の触手すらも用いて、用意された十種類の専用道具――、その全てを使わざるを得ない状況へと陥っていたのである。


「はぁぁぁーっ! 『剣技の極み』!」


 マインはその場に踏み留まり、力強い声を上げる。

 それは、愛護剣術の奥義が一つ、――『剣技の極み』。両腕と八本の触手、その計十からなる攻防一体の秘技である。


 死角を排除し、更に手数を増やす事で瞬時に反応出来る順応性を見せたマイン。――だが、対するサユリは究極の剣技を前にしても尚、その身からオーラを拡散させては引く事無く押し迫る。



 戦況はもう、目と鼻の先程で激しい攻防を続ける二人の図に。凄まじい風圧が乱れ、土埃が激しく舞い、二人が立つその地には亀裂が生じ始める。もはやその間で飛び交う羽はおろか、両者の振るう腕やマインの触手でさえ、あまりに速過ぎる動作の為に無数の残像しか写さない。

 

 しかし、互いに死力を尽くす中、ここで決定打とも言える致命的なミスが引き起る。



「一体何が起きている!? パワーやスピードだけじゃない。動体視力に反射神経、技のキレまで増すばかりか、体力も底が知れない――っ! こやつ……、本当に人間なのかっ!?」


 奥義を繰り出しても尚、なんとか凌ぐので精一杯のマインは、限界知らずのサユリを前にして心が揺らいだか――、思わずその場から一歩後ずさりしてしまう。

 そして、何気ないその一歩の後退が、戦況に大きな歪みを生むキッカケとなる。


 些細な距離感の変化によって、マインは羽を打ち損じ、頭上高くへと打ち上げてしまったのだ。


 当然、訪れた好機を見逃すはずも無いサユリはオーラを一瞬拡散させると、マインの言葉を置き去りにするかの様にその場から瞬時に消え去り、高く宙を舞う羽の前へと姿を現した。そして両手で握る羽子板を水平に構えては、左の腰へと宛がう――。


「『フラッシュオブ・スカーレッド』!」

 

 虚空を斬り裂くかの様に、左から右へと振り抜く鋭い斬撃。まるで天と地を別つ白刃の一閃が、きらめく軌跡を後に残して瞬く間に宙を駆け抜ける。


 そう、マインの遥か後方へと向かって――。


「――しまった!」


 瞬時に状況を察したマインは、焦りの声を零すなり所持していた道具を鞘の『次元収納』へと格納し、踵を返して一目散に駆け出した。

 頭上には音速を超える速度で押し広がる閃光。その中に羽があるのは確かであり、見過ごしてしまえば打ち返す事は出来ない。そうなれば勝負には負け、『チームハピレッジ』の敗北が確定してしまう事になる。


 だからこそ、マインは走る。必死に走る。とにかく走る。大量の土埃を巻き上げながら、全力疾走で地を駆け抜けた。


 森林地帯に突入すると、踏み荒れる草の音や無造作に倒れる木々が反響し、無数の鳥達が慌てふためき羽ばたく。

 カモの親子がゆったりと並走する静かな湖畔では、凄まじい水しぶきを引きながら水の上を駆け抜ける。

 

 そして、巨大な壁の如く切り立った崖を重力に反して真上へと駆け上ると、頂の丘にて足を止め、振り向き様に白刃のオーロラを視界に捉えた。


「なんとか間に合ったようだな」


 マインは巨大ハンマーを取り出すと、その身丈よりも大きなそれを両手で構えては、体を一回転させて遠心力の乗せた打撃を向かい来る閃光へと合わせた。

 凄まじい衝撃音が空気を震わせ、マインの腕には振動が伝播する。ドンピシャのタイミングで合わせたそれは、的確に閃光の中に潜む羽を捉えたのだが――、事態は思わぬ方向へと向く事になる。


 サユリの放った一閃が余程の威力を秘めていたのか、向かい打ったマインの巨大ハンマーと攻め合う形になっていたのだ。

 ハンマーと羽の接点では火花と稲光が散り、どちらも譲らずの戦いを均衡している。


「くっ……。肉体を以って耐えている以上、このままではこちらが不利か。致し方あるまい……、師匠にはまだ許しを得ていないが、”アレ”を使うしか手はない!」


 意志無き羽の衰えを知らないその威力に、苦悶の表情を見せるマインは一つの決断を下す。


「”九本目”、解放!」


 その言葉を発した直後、髪の隙間から見慣れぬ一本の触手が姿を現し始めた。

 紫みがかかった濃い青色――、いわゆる群青色ぐんじょういろに触手全体が染まっており、その全長は地に着いても尚後方へと伸び、まるで太い尾の様にも思える。 

 いつもの見慣れた八本の触手は髪の色と同じ水色をしており、太さもマインの腕よりは細いくらいであるのと比べれば、それは異様な姿形を成していた。


 新たに出現した謎の九本目の触手は、まるで口を開くかの様に先端を三つに裂いて広げると、背後からマインの体へと急速に接近し、その三矛の口で包み込んだ。


「――ぐぅっ」


 目を瞑り、必死に痛みに耐えるマインは険しい表情を浮かべる。それは、三矛の口の先端部分には鋭いトゲが付随しており、それがかぎ爪の様にマインの胸へと突き刺さっていたからであった。

 九本目の触手はドクドクと脈打ち、マインの胸には三つの輝きが生じる。体は徐々に熱を帯び始め、高温の炎の様に青い蒸気がその身から漂い出す。


 そして、その時を待っていたかの様に、マインは力強く刮目する。


「”血統覚醒”!」


 爆発的に放出される青い蒸気。闘気のオーラとも思えるそれを纏ったマインは、脅威的な力を発現させて巨大ハンマーを振り抜き、すぐさま羽を打ち返した。



 突如見せたマインの変化。それは、九本目の触手が鍵を握る。

 イカをベースとした魚人であるマインは、八本の触手の他に、”触腕しょくわん”と呼ばれる特殊な二本の触手を持ち合わせていたのだ。そして、マインが顕現させた九本目の触手こそが、本来であれば封印していた二本の内の一本。――『覚醒触腕』であった。

 

 覚醒触腕は三つのトゲを通して、マインの心臓に”あるモノ”を注入していた。


「これが……、”海皇クラーケン”の血か。凄まじいな」


 力を確認する様に、己の手を見つめるマインは静かに言葉を零すと、ぎゅっと拳を握っては戦場の方角へと視線を戻す。そして、崖を粉々に粉砕する程の強靭な脚力で飛び出し、サユリの元へと帰還の道を辿るのだった――。






 戦場にて一人残っていたサユリは、既に勝負は決したと判断したのか、踵を返して会場へと足を運んでいた。

 その時、サユリの遠く背後の空にて、一つの光がキラリと瞬く。


 サユリは瞬時に気配を感じ取り、振り向き様にバックハンドで羽子板を振り抜いた。

 羽は空高く舞い上がるが、サユリの視線は正面を捉える。


「まさか……、あれを打ち返すなんて」


 渾身の一閃を返された事に、少なからず動揺しているのだろう。表情こそ変わらないが、声のトーンがそれと無い雰囲気を感じさせる。

 そして、その視界の先には、既に帰還済みのマインの姿が。


 崖の上の丘にて、マインが事前に打ち返していた羽は超高速で飛翔していたのに加え、マインはその後を追う形であったのにも関わらず、ほぼ同時に戦場へと舞い戻って来ていたのだ。それ程、マインの身体能力は異常的な飛躍を遂げていたようだ。


「いやなに、実に厄介であったぞ? あれ程遠くに放たれ、尚且つ威力も折り紙付きであった。こちらも奥の手を使わなければならなかったしな! しかし――、だ」


 マインは左脚を大きく後ろに引いては少し腰を落とし、右手を鞘の前へと運んでは、抜刀の構えを取った。


「お主のおかげで活路が見えた。遠くに飛ばしてくれたからこそ、その往復の道中で思考に費やす事が出来たのだからな。常に私を凌駕してくるその奇妙な力も、薄々見当が付いた所だ」


 自信満々たるその態度と言葉に、サユリは羽子板を右の腰へと構えて平然を貫く。


「そうですか。でも、分かった所であなたにはどうする事も出来ませんよ。これは、そういう力ですから」

「確かに、私がどうこうして対処出来る類の力ではないだろう。しかしだな――」


 マインはニヤリと、その口角を得意げに上げる。


「忘れてはいないか? これが、ルールりきの勝負であるのだと」


 マインの鞘には羽子板が装填され、その柄だけが顔を覗かせた。

 空には勢いを失った羽が重力の干渉を受け、マインの元へと下降を始める。

 マインの体からはまるで天へと昇るかの如く、蒼の焔がメラメラと燃えたぎっては、一瞬のタイミングを見計らうべく待ち構える。


 そして――、勝負の行方を決する最後の一打。思考の末に辿り着いた秘策が通ればマインが勝者となり、逆にそれ打ち返す事が出来ればサユリが勝者となる。

 無くも笑うもこれで最後。チームメンバーの期待を背負う両者に、注目の眼差しが集結する。



 マインはカッ――と目を見開くと、刹那の動作で柄に手をかけた。


 それは、パワー・スピード・技、それらの全てを極限の域にまで高め、一瞬一点に集中させた超高速抜刀術。全身全霊を込めて放たれるその剣は、一撃必殺を誇る究極奥義。


「『絶刀居合』!」


 抜刀の瞬間すら見えぬ速度で振り抜いたそれは、凄まじい風圧によって瀑砂を引き起こし、地には三日月型にえぐる爪痕を残した。


 だが、マインが抜刀したと同時に、サユリもまた動きを見せていた。

 その身から純白のオーラを一瞬拡散させては、左の脚をすり足で前へと突き出す。

 もはや音速を超えてその姿を消す羽であったが、サユリはそれをしっかりと目で捉えては、羽子板を握る手に力が入る。


 そして、それは一瞬の出来事だった――。



 羽はまるで弾丸の様に横回転が加えられ、空気を貫きながら直進していた。そしてそれに合わせる様に、サユリの羽子板も空気を押し広げながら自ら向かい打つ形に。

 スローモーションで展開されるサユリの視点からは、「このままなら確実に打ち返せる」――と、先読みの勝利を心で確信する。


 だが――、次の瞬間に、サユリは驚愕を覚える事になる。


 羽と羽子板が接触する寸での所で、突如として羽に異変が起き始める。なんと真横一文字に亀裂が生じ、上下に別れる形で半分に分裂したのだ。


「――なっ!」


 その光景に、驚愕のあまり目を丸くするサユリ。

 そんなサユリの振るう羽子板は分裂した羽の間を通り抜け、ただ空を斬るだけ――、云わば空振りとなったのだった――。


 

 余程ショックを受けたのかサユリは振り抜いたままの姿勢で固まり、その背後では二つの衝撃音が鳴り響いた。


「ゲーム終了っ! 勝者、マイン! 『チームハピレッジ』1ポイント獲得です!」



 ついに決した第二ゲーム。マインの秘策が功を奏し、『チームハピレッジ』は首の皮一枚繋がる。

 そしてこれで両チームとも1ポイントずつの所持となり、最終的な勝負の行方は、次の第三ゲームへと移行する。


 ルール上、先に2ポイント獲得したチームが勝利となる為、次がラストゲームになる。だからこそ、絶対に負けられない戦いとなるのは必然であった。




 しかし、この時はまだ、誰も知る由も無かった――。

 全ての希望を背負って行われる第三ゲーム。それは、代表者同士でしか分からない白熱を極めた戦いが繰り広げられる事になる。


 ジークとクラマによる超頭脳バトル、『ハラハラ☆爆弾かるた対決』。



 その衝撃の結末に、刮目せよ。  

思ったよりも凝ってしまった為、二部予定を三部に変更しました。

いつになったら正月終わるのかな、アハハ……。

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