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眼の異世界転生  作者: ビッグツリー
第四章 神之欠片『プレジール』~海底迷宮編~
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五十八話 守護者に認められし者

 ジークは引き抜いた黒影・真打を、ミラへと手渡した。

 刀身には血が付着しており、それにはミラも受け取る際に自然と気が付いたようだ。


「ジークさん……、これって……もしかして私が――」

「気にするな。少しでもお前の”痛み”を共感しようと、あえて傷を負う形を取ったんだ。それに――、心の傷と違って、体の傷は治るからな」


 ジークはそう言うなり、傷を負っていた箇所へと手を添えた。すると瞬く間に外傷はおろか、破れていた服すらも元通りになる。


(リーナ、『素粒子支配』で損傷個所の復元は済んだ。『物理攻撃無効』を再び頼む)

《了解です! ミラの事、本当に良かったです!》




 瀕死状態に陥ったマイン、そして人格が反転したミラ――、両者を救ったジークのバトル第二ラウンドの申し出に、対するティアマトは鼻で軽く笑う。


「傷を負い、魔力も僅かしか残っていないその体で、一体どうやって我に立ち向かうというのか興味深い所だが――」


 そして、一度深く目を閉じては、ゆっくりとその目を開いていく。


「――もう、我らが戦う必要は……、無くなったのだ」


 その言葉に、「どう言う事だ」と言わんばかりにジークは眉をひそめる。

 ティアマトの言葉の意図を探るかの様に、無言で思考を巡らせるジークだったが、その答えはティアマト自らの口によって解き明かされた。


「その娘だ――。覚醒までは至らなかった様だが、神之欠片『プレジール』が”喜び”に満ちているのでな。予想以上にいい物を見させてもらった。真価を問い、返答によっては神之欠片『プレジール』を渡そう」


 神之欠片かみのかけらを手渡してもいいと公言したティアマトに、ジークは思わず目を丸くするものの、顎に手を当てて少し思考すると、色々と聞きたそうでありながらも押し堪え静かに口を開く。


「……何が知りたい」


 目を細め、探りを入れるかの様な口振りで言い放った一言。

 対するティアマトは動揺の素振りも見せず堂々と、真剣な目付きでジークとミラを見据える。


「根本的な事だ。神之欠片を求め、過去に幾人もの亜族が迷宮へと足を踏み入れて来たわけだが……。いくつもの困難を乗り越え、ここまで辿り着いたのはお前達で最初だ。だからこそ問わねばなるまい――、臆病犬(ビビリ・ドッグ)の娘よ、汝は神之欠片の力……、”何が為に使う”」

「――待て、俺が答える」


 ミラへと振られた問答に、ジークは待ったの声をかけた。

 だが、ティアマトがわざわざミラの事を指名したのは、欲するのはジークの言葉ではなくミラの言葉のようだ。


「勘違いするな、小さき者よ。お前はその娘を見事救った、だが――、それが要因で神之欠片かみのかけら『プレジール』が喜びに満ちたのではない。その娘の、喜び溢れる”感情エネルギー”に反応したのだ。ゆえに、神之欠片かみのかけら『プレジール』へと干渉したその娘の言葉を、我は欲する」


 神之欠片かみのかけらを渡すとは言っても、それはあくまでもティアマトの意思。ジーク達の誰かが適正者として選ばれたわけではなく、”神之欠片かみのかけら『プレジール』が喜びに満ちた事”をきっかけに、守護者であるティアマトがその意図を考慮したが故のものであった。

 その直接的要因であるミラ本人の言葉によって、ティアマトは最終的に神之欠片かみのかけら『プレジール』を授けるべきか否か、検討する為の計らいを取ったのだった。




 神之欠片かみのかけら『プレジール』へと直接的に干渉したミラ本人の言葉でなくてはならない――。というティアマトの言葉の意図を汲み取ったジークは、「くっ……」と堪えるように静かに零し、拳を震わせる事しか出来ずにいた。


 ジークの傍らに立つミラは、その横を通り過ぎる様に、凛と足を踏み出して行く。


「大丈夫ですよ、ジークさん」


 重大な任を負ったにも関わらず、”心配しなくても大丈夫、私がしっかり答えてみせる”――と、力強く歩みを続けるミラ。臆する事も無く、その姿からは威風堂々とした気迫すら感じさせる。


「私は幼い頃から、”人間は非道で怖い生き物、関わってはいけない恐怖の対象”と周りから教わり、それが当たり前の事なんだと思って生きてきました。今までの歴史の中で、人間の手によってたくさんの亜族の血が流れ、たくさんの命が亡くなりましたから。それがあって、亜族の心には人間に対する強い怒りと恐怖が根付いているのも私は理解していました。だけど……、ジークさんと出会って、それは違うんだって分かったんです。だってそれは――、”人間側にとっても同じ”だから。人間と亜族は過去に何度もぶつかり合ったけれど、その度に”お互い”が傷を負っていた――、だから、人間だからと言ってそれだけで一方的に差別するのは間違いだと気付いたんです。人間の中にも良い人と悪い人はいる、それは他の種族はもちろん亜族だって同じはず。”自分の言葉と心で向き合って、初めて相手を理解出来る”って事を、みんなが心に持つ様になればきっと世界は変われる。だって――」


 ティアマトの近くまで歩み寄ったミラは立ち止まると、凛とした面持ちで片腕を横へと広げた。それはまるで、後方にて見守るジーク達の存在を現すかの様に。


「種族間の垣根を越えた仲間達が、こうして私の周りにはいるから――っ!」


 ミラは力強い口調で発すると、広げていた片腕を胸の前へと運び、拳を握ってはティアマトへと真剣な瞳を向ける。


「”種族間の争いの無い平和な世界”――、その架け橋となる新大陸を作る事を目的に、私達は行動しています。その目的を達成するには、大きな力と成り得る神之欠片かみのかけらは不要なんです。だから――、”何かの為に使うのではなく、巨大な垣根の一つになっている神之欠片かみのかけらを取り除く事”が、私達がここへ訪れた理由です――っ!」


 嘘偽りを感じさせない力強い眼差し。

 その奥に輝く純粋なる瞳を、ティアマトは真意を確かめるかの様にじっと見据える。


「幻想ではなく、そんな夢物語のような世界を実現可能だと――。そしてその為には、世界の秘宝とも言える神之欠片かみのかけらが、よもや邪魔な存在であると――、そう言い切るのだな?」

「はい! 必要とあれば、神之欠片かみのかけらと言えども消し去るつもりです!」


 しばし両者の間に沈黙が流れ、張り詰めた視線が交差する。


 そして先に沈黙を破ったのは――、天を仰ぎ高らかな笑い声を上げるティアマトだった。


「フハハハハ! まさか、世界の為に残された大いなる遺産が邪魔な存在だとは、あまりにも予想だにせぬ答えで腹がよじれるわ! 世界の住人共はもちろん、その身を散らした”究極神王”『エルバッシュ』ですら、思いもしないだろう! いや、そんな突拍子もない思考でもない限り、世界を変える程には至らないのかもしれん!」


 ティアマトは面白おかしそうにミラへと視線を向けると、真価の采配を口にする。


「いいだろう! 光竜王『ティアマト』の名を持って誓言する。臆病犬(ビビリ・ドッグ)の娘ミラよ、お前を”認めよう”!」


 その言葉は、神之欠片かみのかけら『プレジール』を授ける事を意味するもの。

 その瞬間にミラは高揚するように目の輝きが増し、嬉しさ溢れる気持ちを体現させる面持ちで、ジークへと勢いよく振り返った。

 

 ジークは目にする溢れんばかりの笑顔に、腕を組みつつ安堵の微笑みを向けては、答える様に一つ頷いて返す。

 そして視線は、ミラからティアマトへと移りゆく。


「話はついたようだな。ここから去る前に、少し確認しておきたい事があるんだ」

「いいだろう、我の知る範囲で答えよう」


 事を終えた故に最後にと――、ティアマトもジークの問いに付き合う様だ。


「まず一つ、ここへ来る際に謎の黄金都市があったのだが、あれの存在理由を知りたい」

「あれか……。あれは、我が作り出した理想郷だ。お前達で言う所の目的、種族間の争いが無い平和な世界だったか? それを我も望んでいたのだよ」

「――! なんだと!? だったら最初から戦う必要など――」


 ジークはティアマトとの交戦があったが為に、あの黄金都市は『エルバッシュ』が作り出した物だと予想していた。しかし当のティアマトが”自分が作り出した”と答えた為に、矛盾が発生し困惑で目を丸くするのだった。


「我は最初から戦う気など無かったが? 我を見くびり、戦いを挑んできたのはお前達の方だ。初めに言ったであろう、”立ち去るがいい”と。だが――、そこで問答が始まったとしても、神之欠片かみのかけら『プレジール』が喜びに満ちる事は無かったであろうから、どちらにせよ我らは戦う運命だったのだろうな」

「焦る気持ち故に早計過ぎたのか……。結果的には目的を達成出来たとはいえ、そうと知った今では軽率過ぎた判断だと叱責の念が込み上げてくる。非礼を詫びよう、すまなかったな……」


 神之欠片かみのかけらの力を求めるが故に訪れて来たと考えるティアマトと、力ではなく神之欠片かみのかけらの存在そのものを必要とするジークとの、交差していた思い。当時そのことが擦り合っていないままにジークはティアマトに否定された為、目的の物が目の前にあるからこそ気持ちが急ぎ過ぎていた。それはティアマトが朽ち果てた竜の姿をしていた事もあり、ジークが少なからず見くびったのも確かだったのだ。


 それらを踏まえて全てを知った今――、ジークは自分への叱責と、ティアマトへの素直な謝罪の気持ちを胸に抱いたのだった。

 


「なに、我もお前達を試す為に、”あえて”老いた姿を取っていたのだ。こちらにも非はあるというもの。済んだ事はもう良いだろう……、聞きたい事は終わりか?」

「いや、最後にもう一つ。”究極神王”という聞きなれないフレーズが耳に届いたのだが、『エルバッシュ』について知っている事を話して欲しい」

「そうか……。お前達――、この世界の住人は”創造主”と称していたのだったな。いいだろう、我が知る事は多くはないが――、少し昔話をしてやろう」


 ティアマトはそう言うなり目を閉じると、記憶を思い返すかの様に静かに語り始めた。



「始まりは、5000年前だった――」 

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