五十六話 竜の逆鱗
青白く輝く美しい鱗、それはティアマトの巨大な身体の全てを覆っている。にも関わらず、喉元の一部にだけ炭のように真っ黒な鱗が存在していた為、それがミラには極端に目立って見えていた。
ミラは解けたスカーフを口元へ戻すと、キッと目力を強くさせる。
「魔弾装填!」
――ガシュン!
その言葉をトリガーに、黒影・真打の柄の内部に搭載されたマガジンがスライドする。柄頭からメタリック調の箱型シリンダーが飛び出し、空の魔弾を外へと排出しては、魔弾に内包された圧縮魔力がミラへと供給された。
紫色の魔力オーラが体から溢れ出し、周囲へと漂う。それはまるで闘気みなぎる様を表しているかのようだ。
ミラは逆手に持つ黒影・真打を順手に持ち変え、遥か上空へ向けられた視線の先へと、腕を振りかぶって勢いよく武器を投げ放った。
風を切り、上空へと一直線に飛ぶ黒影・真打。
ティアマトの肩近辺まで飛翔すると、さすがに重力の影響を受けそのスピードを落とし始めた。
その時、ミラはタイミングを見定めたかのように口を開く。
「雷遁・瞬仁石火!」
その言葉を口にした直後、ミラの姿がその場から一瞬で消え去った。と同時に、まるで転移したかのように黒影・真打のすぐ隣に姿を現し、黒影・真打の上昇スピードが落ち切る直前にその柄を掴み取ると、再び上空へと投げ放った。
それは、同じように何度も繰り返される。
投げ放った黒影・真打の元へとミラは瞬時に姿を現し、掴み取っては体を回転させるように捻り、再び上空へと投げ放つ。
その連続した造作を行うことによって、ミラは遥か上空に位置するティアマトの喉元へと素早く移動していたのだった。
目的の場所である喉元へと辿り着いたミラは、天地が逆さまになる様そこに立ち、足元の間に例の黒い鱗を捉える。
黒影・真打を逆手に持ち直し、柄を両手で力いっぱい握り締め、大きく振りかぶった。
「てりゃあああああああああ!」
気合の一声と共に、その腕を勢いよく振り下ろし、黒い鱗へと黒影・真打を突き立てた。
――グオォォォォオオオオン!!
その瞬間、ティアマトはまるで心臓を握りつぶされたかのような、強烈な悲痛の雄たけびを上げた。
巨躯を激しく揺さぶり、尋常では無い苦痛の様子を露わにしている。
「きゃあ――っ!」
突如激しく暴れ出したティアマトにより、振り解かれたミラは遥か上空のその位置から急な落下を余儀なくされ、咄嗟に零れ出た悲鳴を辺りに響かせた。
ティアマトの息吹で吹き飛ばされていたジークは体制を立て直すと、突然暴れ出したティアマトに視線を移し、上空から落下するミラの姿を捉えた。
「ミラーーーー!」
すぐさま背中に翼を顕現させ、ミラを助け出す為に音速飛行にて飛び出す。
落下していたミラが地面へと激突する寸での所で、ジークは抱きかかえるように間一髪ミラをキャッチすると、暴れるティアマトに巻き込まれないよう、すぐさまその場を離脱した。
ジークはミラを抱えたままマインの元へと戻り、再び三人が合流する。
胸の中で小さくなっているミラへとジークは視線を移すと、優しく問いかけた。
「大丈夫か? あまり無茶をするな」
お姫様抱っこで抱きかかえられたままのミラは、声をかけられた事でジークへと顔を向けると、あまりに近すぎるお互いの距離にその頬を若干染め上げた。
「あ、はい……。ありがとう……ございます」
少し照れる様に返事をするミラ。
無事を確認したジークは一つ微笑み、静かに地面へとミラを下ろす。
そして三人は真剣な眼差しを浮かべ、遠方で暴れ狂うティアマトの変貌ぶりに視線を向けた。
ティアマトから視線を外さないまま、マインとジークは静かに口を開く。
「あれは……、一体何があったというのだ?」
「ミラが何かをしたようだが……。ミラ、何があった?」
「喉の一部に、一つだけ色の違う黒い鱗があったんです。そこを突いたらああなりました」
二人の疑問に答えるように、ミラは自分のしたことをそのまま伝えると、ジークは何かに気付いたかのように驚きの声を上げる。
「まさか――っ! 本当に存在していたというのか!? 竜の唯一の弱点と言われる、逆鱗が」
そう――、ティアマトの喉元に存在する一つの黒い鱗。それは逆鱗と呼ばれ、伝説上の竜に存在する唯一の弱点として、古代の書記にも記されていたものだった。
ジークの言葉を耳にしたマインは、静かに不敵な笑みを浮かべる。
「ならば、そこを叩けばいいのだろう?」
ティアマトの様子に目を向ければ、それは一目瞭然だった。
弱点を把握した事によって、圧倒的戦力差の戦況をひっくり返す事が出来るかもしれない、一つの可能性が生まれたのだ。
そうと分かれば、この男に適う者など――、もはや存在し得ないだろう。
「待て。弱点の逆燐が存在するとあらば、そこに奴の魂があるに違いない。俺がその位置まで接近し、『言想ノ神眼』で片を付ける」
腕を組み、凛とした面持ちで口を開いたジーク。
魂の在処を察したその脳裏には、すでに勝利のビジョンが映し出されているかのようだ。
星の理を越えた力――、[完全支配瞳術]。その一つである『言想ノ神眼』の絶対的な支配力の前では、魂を持つ生物である以上、決して抗う事など出来はしないのだから。
しかし――、その希望の光は、予測し得ない事態によりかき消されてしまう――。
暴れるティアマトは前足を高く掲げ、地面へと勢いよく振り下ろした。それは爆発的な震動を生み、空気を震わせ、地面には大きな亀裂が走る。
大地を二分割するかのように入った裂け目が急速に広がり、バランスを崩し倒れる三人が、大地と共に引き離されるよう分断されてしまう。
底の見えない巨大なクレバスを中心に、左側の大地にはジークとミラが、右側の大地にはマイン一人が取り残される形となってしまった。
しかし不幸中の幸いか、亀裂は後方にて待機していたルル、ナオミ、チャンピオンカンガルーの元までは届くことは無かったようだ。
その場には大きな地震のみが轟き、揺れる大地によって三人は地面へと伏せ込んでいた。
ティアマトは一心不乱に首を左右に振ると、錯乱状態から少し回復した様子を見せた。
ギリギリと歯を食いしばり、鋭い眼光が狂気を帯びている。
「我が逆鱗に触れたなっ! 耐え難い痛み、断じて許すまじ!」
明らかな怒りを放つティアマトは、四本の巨大な足に生えた爪を固定するかのように、地面へと深く突き刺した。そして体を低く保ち、首を前方に真っ直ぐと伸ばしては大きく口を開け放った。
すると、大きく開いた口の前方にて、光の粒子のような無数の小さな輝きが、口内へと凄まじい勢いで収束し出した。
それは明らかに今までとは異なる挙動。
そしてティアマトの口内にて巨大なエネルギー増幅が発生している為、その場に居合わせる全員が身の危険を肌で感じ取る。
ティアマトが何をしようとしているのかは理解していないものの、”アレ”をこのままやらせるのはマズイと本能で感じたミラは、スカーフの下で唇を噛み締め、一目散に大地を蹴り上げた。
「――っ! 待てミラ! 分断された編成を立て直すのが先だっ!」
単騎特攻を行うミラを止めるように、ジークがすぐさま声を荒げる。
ティアマトが収束している強大なエネルギーに、ジークも危険は重々感じ取っていたのだ。
何が起こるか分からないからこそ、危険が迫っているからこそ、ジークは分断されたマインと合流することが第一優先だと――、そう判断したのだったが――。
この時のミラには焦りが生じていたのだろう――。
普段であればジークの意図を汲み取り、独断専行を控えるミラだったが、この時だけはジークの言葉に素直に耳を傾けなかった。
「大丈夫です! 私は弱点の位置を知ってますし、次はもっと早くいけます! 私が”アレ”を止めるので、その後はジークさん……お願いします!」
弱点である逆鱗の位置を知り、攻撃を仕掛けた当の本人であるからこその心境か。
ティアマトの動きを止めて、ジークの瞳術へと繋げる役割を自らが担うと――、ミラはそう考えていたようだ。
ミラは一分一秒でも早くと、額に一筋の汗を伝わせ大地を駆ける。
(私が……、私が止めないとっ! 迷宮の中では何も役に立てなかった。だからこそ、この大一番では絶対にうまくやってみせる! ジークさんに……、私を認めてもらう為にも!)
自ら重要な役目を負い、責任と強い想いを抱くミラ。
しかし、ジークの言葉を遮り、強引に取ったその行動が逆に――、この後引き起こる悲劇の引き金になってしまうのだった――。
ティアマトの口内には、収束した光の粒子により巨大な球体が生まれていた。
ジークとミラが立つ大地へと顔を向けて、ティアマトはその体に力を込める。
「”消滅せよ”『ノヴァ・ブラスト』!」
収束し、膨れ上がった強力なエネルギー。それが今、まさに解き放たれようとした瞬間――。
ティアマトの視界に、大地を駆けるミラの姿が、一瞬映り込んだ――。
「くっ――!」
ティアマトは何かを躊躇うかのように目を細めると、咄嗟に首を左へ振っては、一人残されたマインへと標的を変更した。
同時に、収束した力が一気に拡散するかのように、ティアマトの口内からはまるで超極太の波動砲――、凄まじい咆哮が解き放たれた。
――それは、全てを消滅させる膨大なエネルギー。
大質量を持つ恒星の最後、超新星爆発が引き起こす驚異的なエネルギーを、ティアマトは『竜属性支配』にて完全に支配下に置き、解き放ったのだった。
そのエネルギーはおよそ、太陽十億個分に相当する。
「――そんなっ! 間に合わなかった!」
放たれた砲撃を前にし、悲壮な面持ちで足を止めるミラ。
一方のジークは、マインの元へと放たれた砲撃に、ひどい焦りの色を瞬時に浮かべ出す。
「しまった――っ! くっ……、”呼応せよ”! 緊急防壁!」
すると、ジークの言葉に応じるかのように、マインの持つ合刀した十握剣が自動で分裂を始め出した。
十本の属性剣に戻り、まるで一つ一つが壁になるかのように、マインの正面へと一列に並ぶ。
それは、ジークが製作する際に事前に組み込んでいた、緊急用の防御プログラムを展開させるキーワードだった。
ジークはすぐさま、焦りを含んだまま口早に言葉を繋げる。
「リーナ! マインを中心に多重結界を展開しろ! 可能な限りの次元断層と、俺の魔力を総動員してありったけの魔力障壁を追加するんだ!」
《でも――っ! それではジークの命が――っ》
「構うものか!!」
心の底から出した、荒ぶる声。
ジークは例え魔力枯渇により自分の命が失われようとも、仲間であるマインを守ることを優先したのだった。
ティアマトの放った砲撃が、一直線にマインの元へと迫り来る。
それは並ぶ属性剣をまるで壁とも思わないかの様に、次々と塵に変えては勢いを落とさないままに、マインの元へと衝突する。
「――くっ、くぅぅぅ」
マインは残った鞘を両手で握り、前へと構えては必死に衝撃に耐えていた。
マインの周辺には何層もの障壁が展開され、辛うじて咆哮を防いでいるようだが――、そう長くは持たなそうだ。
障壁にはヒビが入り、一つ、また一つと徐々に突破されていたのだ。
《物理障壁消滅、魔法障壁消滅、次元断層……ダメっ、時空の歪みが生じて安定しない――っ! 消滅したです。残りは魔力障壁……くっ――、魔力削合干渉で一方的に削られる――っ! 突破されますっ!》
必死に障壁を制御していたリーナだったが、さすがに膨大なエネルギーの前には、惜しくも力及ばなかったようだ。
そしてそれは起きてしまう――。
全ての障壁が打ち砕かれ、仲間を守ろうとした思いも砕かれる――。
強力な咆哮に、マインは――。
――その身全てを飲み込まれた。
放たれた砲撃は収束するかのように、一筋の細い線へと威力を弱めていき、その姿を消した。
通った後には、大地が深く抉られた傷痕が残っている。
その地には、一人佇むマインがいた。
ボロボロになった紋付羽織袴を纏い、体中からプスプスと煙を上げては、ゆっくりと――、地面へ倒れ込んだ。
数々の防御壁のおかげでなんとかその身が消滅せずには済んだものの、もはや救いはそれだけのようにも思える有様だった。
「マインーっ!」
ジークは一目散に宙を飛び、巨大なクレバスを通り越してマインの元へと駆けつけた。そして目にしたマインのあまりの変わりように、小さく「マイン……」と言葉を零しては――、意気消沈するかのように地面へと両膝から崩れ落ちた。
「マインさんっ!」
その後ミラはすぐに駆けつけて、スカーフを外して声を上げたのだが――、ジークと同じくマインの姿を見た瞬間に、その口を両手で覆った。
そして地面へと膝を着き、震える手をゆっくりとマインの元へ伸ばす。
「触るなっ――!」
マインの体へと触れようとした瞬間、ジークの怒声にも似た声にビクッと震えては、ミラはその手を静かに引っ込めた。
ジークが両手を伸ばしマインの体へと触れると、立ち込める程の蒸気が昇り、触れている手が真っ赤に染まる。
それ程までにマインの体は発熱していたのだった。
《ジーク! マインの魂の活力が低下してるです! このままでは後一分程しか――っ!》
リーナの焦りの言葉の意味は、しっかりとジークも理解していた。
だからこそ、何としても助けたいからこそ――、ジークは激しく乱れる呼吸を必死に落ち着かせようとしていた。
それは、不安――。
ジークの頭の中ではすでに、マインを助ける事が出来る唯一の方法が浮かんでいた。しかしそれは、ジークにとって経験のない物、ましてや確かな知識があるとは言えない物だった。
――『素粒子支配』による、人体蘇生術。
肉体を構成する細胞組織を復活させることにより、理論上は可能とする究極の蘇生法である。
しかしジークには一つ懸念材料があった。
それは、マインが純粋なる人間ではなく、魚人であるからだった。
人間であれば今まで培った人体構造学とリーナの協力があれば問題無いとジークは踏んでいたのだが、人間と魚人では体の構造が異なる為に、その部分に不安要素を抱いていたのだ。
だが、マインの命の灯は、刻一刻とその輝きを弱まらせていく――。
迷ってるヒマは無い、悩んでも解決しない。――と、ジークはその瞳に強い決意を浮かべる。
「必ず助けてみせるっ! マイン、お前をここで死なせる訳にはいかないんだっ!!」
そしてジークは一つ大きく深呼吸をすると、リーナと共に声を合わせた。
「『素粒子支配』!」
《『素粒子支配』!》
目を瞑るジークの脳内に、まるでマインの体の内部に入り込んだかの様な、鮮明な映像が流れる。
『素粒子支配』を通して得た、莫大な情報量。その一つ一つの状態を丁寧に確認し、壊死した細胞は再構築、破損した細胞は蘇生と、針の穴に糸を通すかのような繊密さが求められた。
額には汗が伝い、苦悶の表情を浮かべている。
だがそれでも、ジークに諦めの色は無い。必ず助ける、必ず助かると信じ、持てる限りの全てを費やしていた。
時間にしておよそ三十秒程だろうか――。
ジークは閉じていたその目を、ゆっくりと開き出した。
《壊死細胞、及び破損細胞の再蘇生を完了。心拍数、脈拍数正常。人体スキャンの結果、オールグリーン。成功です!》
リーナの言葉を聞いたジークは、その瞬間に張り詰めた緊張の糸が解れたのか、大きく安堵の息を漏らした。
現実世界で三十秒程の出来事とは言え、『光速思考』をフル活用しながらの数百億個に及ぶ細胞への超繊細な作業は、ジークにとっては計り知れない程の時間と疲労を感じさせていたのだ。
だがその行動はしっかりと報われた。
マインの体は元通り綺麗に復活し、間一髪ながらもその命が繋ぎ止められたのだ。
ジークとリーナが死力を尽くしたのはもちろんだが、その裏には一つ大きな手助けがあった。
それはジークが以前に取り込んでいた四十万人分のビースト部隊、その人体情報だった。獣人だけが所属していた部隊では無い為、亜族の人体構造のほとんどの概要が把握出来ていたのである。
魚人とは言え、大きな枠組みでは亜族なのだ。
ジークが己の強化の為に吸収していた物だったが、ここで大きく功を奏したのであった。
「なんとか間に合ったか……。今はまだ体力回復の為に眠ったままだが、直に目を覚ますだろう」
静かにそう言い放ち、スッと立ち上がるジーク。
その言葉を聞いたミラは事態を理解したようで、同じく立ち上がっては目尻に涙を浮かべながら、ジークへと向き合った。
「ジークさん、あの……、私っ――」
――パンッ!
突如響き渡った、乾いた音。
そこには開いた掌を振り抜いたジークの姿と、頬を抑えるミラの姿。
そう――、ジークがミラへと、平手打ちをした音だった。
頬を抑えるミラは目を丸くし、覇気を感じられない瞳を浮かべている。
それは、叩かれた頬の痛みからでは無い。
今まで本気で叩く様な事はしなかったジークが、そうする程の理由があったからだ。
それは自分のせい。
ジークの言う通り、あの時マインと合流していれば――、状況は違ったかもしれない。
今回は辛うじて助かったものの、一歩遅ければマインは命を落としていてもおかしくは無かった。
そしてそれは二度目。
ルルの母親であるララの事があったからこそ、再び犯してしまった自分の過ちを、痛い程に痛感していた。
ゆえに、ミラの心境は――”ジークに見放されてしまった”――と、感情が激しく揺れていた。
(嫌われた……。嫌われた嫌われた嫌われた。……私の居場所は、……もう無い)
そして、この時からミラの瞳には、――完全に光が失われた。
突如として巻き上がる黒いオーラ。魔力とも違う、まるで進化する際の光が闇に染まったかの様な、漆黒の光。
「――な、何が起こった!?」
ジークは慌てるように、一歩後ずさった。
その黒い光はミラの体から発しているようで、内部に収束するように徐々に治まりだす。
完全に光が消えると、その中央にはミラが静かに立っていた。
だが、気のせいだろうか――。いつものミラとは、どこか雰囲気が違うように感じる。
「ミラ?」
ジークも違和感を覚えたのか、問いかけるようにミラへと声をかけたその時――。
信じられない事態が起こった。
ミラが瞬時にジークの元へと接近したと思うと、逆手に持つ黒影・真打の刃を、なんとジークの喉元へと向け放ったのだ。
「――っ! 何をしている! やめるんだミラ!」
ジークは咄嗟にミラの腕を掴み取り、その刃の動きを止める。
そして目の前に位置するミラの顔を見た瞬間に、驚愕の面持ちを浮かべた。
ミラの顔――、それはまるで、獲物を狩るような捕食者の目。
鋭い眼光を放つ目とは対照的に、不敵に微笑む口元。
明らかに別人のように変貌したミラが、下唇をペロリと一舐めしては口を開いた。
「さぁ、遊びましょう。愛しのジーク様」




