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眼の異世界転生  作者: ビッグツリー
第四章 神之欠片『プレジール』~海底迷宮編~
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五十五話 勝利確率0.01パーセント

 ――ビィィィィ! ビィィィィ!



 辺り一帯に、突如として鳴り響く警報。ナオミの魔通機からけたたましく流れるそれは、リーナが発した危険警笛の警告音であった。


「特殊亜空間の展開、及びリストナンバー03,プラチナムドラゴンの出現を確認。相対総魔力、戦力差甚大。勝利確率――。――0.01パーセント。危険です! なんとしても、今すぐ投降するです!!」



 今まで見せたことの無い、激しい焦りを含む口調。それは、演算能力を得意とするリーナにとって、真の姿を解放したティアマトとの圧倒的な戦力差を、彼女が一番良く理解できるからこその現れであった。


 


 ――”竜とは、伝説・空想上の生物として広く知られるが、その実態とは幻である”――。


 その意味が成す処は、無ではなく幻こそが、竜の在り方なのだった。



 竜は内包する膨大な魔力によって空間湾曲を自在に引き起こし、独自の特殊亜空間を形成する事が出来る。

 そして亜空間内に根城を構えるがゆえに、日常的にその存在を認識されることはまず無い。又、竜自体が亜空間の特性を持ち合わせている為、通常では視覚することすら出来ない。


 とどのつまり、幻こそが竜であり、竜こそが亜空間であるのが世界の理であるのだ。




 ジーク達の立つ天地すべてが塗り替えられたその空間は、ティアマトの持つ『竜属性支配』により展開した特殊亜空間――、いわば固有結界であった。



 リーナの警告を耳にしたジーク達全員の顔に、緊張の色が走る。額に冷や汗を伝わせ、対峙するティアマトの威圧感からも、自らその差を感じ取っているようだった。



 マインは合刀した十握剣とつかのつるぎの柄をぎゅっと握り締めると、渋い顔を浮かべながら静かに呟く。


「これが幻獣……守護者の力か……。さすがに分が悪いな……」


 その呟きに返すように、黒影・真打を逆手に構えるミラも、ティアマトから視線を外さないまま厳しい表情を浮かべる。


「私達……勝てるでしょうか」


 本能で感じ取っているのだろう。はたから見てもその圧倒的体格差の時点で、絶望的状況だと伺える。



 しかしジークは、掌に浮かぶクリスタル状のアルカンシェルをぎゅっと握り締め、強い眼力を放っていた。


「投降する気はない。例えどれだけ低い勝利への確率であろうとも、その可能性はゼロではない。元から無謀と言われる未来を変える旅だ、ここで食い下がるわけにはいかないんだ。守りたいものがあるからこそ、俺は全力で立ち向かう。手を合わせ、心を交わし、共に歩んできたお前達となら必ず勝てると、俺は信じている! だからお前達も信じろ。奇跡ではなく、俺達が掴み取る”勝利”という名の必然を!」


 揺るぎない自信を放つ力強い言葉に、ミラとマインは答えるよう強く頷いた。



「行くぞ!」


 そして――、ジークの掛け声と共に対峙するティアマトへと一斉に駆け出し、守護者との壮大な戦いが今始まるのだった――。






 数百メートル前方に位置する巨大な竜の元へと、風を切って大地を駆ける三人。互いに距離を徐々に広げていき、等間隔で三人が横に並び駆け抜ける形となっていた。



 だが当然、対するティアマトもただ待ち受けるだけであるはずがなく、常識を超えた凄まじい迎撃へと移行する。


 向かってくるジーク達へ向けるように、巨躯を動かし頭と共に全身を前に構えると、固定するかのように二本の前足を大きく左右に開いて大地を踏みしめ、頭を低く落とし大きく顎を開口する。


「”飛来せよ”。『メテオブラスト』」


 その言葉と同時に、開け放たれたティアマトの大口から複数の巨大隕石が飛び出した。さながら宇宙空間を駆ける彗星のように、空気を押し切って燃え盛りながら勢いよく突き進む。



 それは――、ティアマトの持つ『竜属性支配』によって引き起こされた超事象。

 ティアマトは宇宙空間に存在している隕石を口内の亜空間へと相転移にて呼び寄せ、己の口を射出口として隕石を解き放ったのだった。






 見上げる程の巨大な隕石が二つ、凄まじい勢いでマインの元へと迫る。


 マインは左脚を軸に体を横へと捻ると、一回転する遠心力と共に十握剣とつかのつるぎの切っ先を地面へと走らせ、真上へと勢いよく振り抜いた。


「剛剣一閃・追ノ太刀!」


 振り抜いた後には三日月型の剣筋が顕現し、剣圧と共に凄まじいスピードで直線を描く。

 だが、追ノ太刀はこれで終わりではない。


 マインは己を高める気合の声と共に、真上へと振り抜いた剣を正中線にて一気に振り下ろした。

 先ほどと同様、弧を描き顕現する三日月型の剣筋。それは一撃目を追うように、真っ直ぐ解き放たれた。



 強力な剣圧による遠距離二段飛翔の型。

 これこそがマインが新たに考案した技、剛剣一閃・追ノ太刀の真髄であった。



 一撃目の飛翔剣圧が迫り来る隕石を両断すると、後方に続く二つ目の隕石は二撃目の剣圧によって破壊したのだった――。






「雷遁・電光石火!」


 バチバチと音を鳴らす雷鳴を身に纏うミラは、口元をスカーフで覆い、地面スレスレへと落とした低姿勢を維持したまま超スピードで大地を蹴っていた。


 ミラへと迫り来る巨大隕石は三つ。



 走るミラは前方の隕石を目の前に捉えると、左手で印を高速で結ぶ。


「土遁・金剛壁!」


 ミラの前方にて、巨大隕石の進行を防ぐかのように出現した強固な岩の壁。


 秘伝忍術で顕現したその壁へと隕石が衝突し、けたたましい衝撃音を轟かせながら双方が粉々に砕け散り、無数の破片が宙へと舞った。



 ミラは大地を強く蹴って飛び上がり、宙を舞う無数の欠片を足場代わりとし、縦横無尽に飛び移っては颯爽と突き進む。


 それはまさに黒い閃光。大小様々な形の破片を駆けるミラは、まるで乱反射する光のようにさえ思える。


 その軽やかな身のこなしはさすが忍者と言うべきか。

 積み重ねてきた日頃の鍛錬と、狼へ進化したことにより格段に上昇した瞬発力と動体視力によって、針の穴に糸を通すが如く精密さを体現させていた。



 だがその間にも、二つ目の隕石が問答無用でミラへと押し迫っていた。


 宙を駆けるミラは最後に大きく飛翔すると、その勢いのまま迫る隕石を飛び越え、背後に回り込んでは地面へと足を着いた。そしてすぐさま印を結び呟く。


「土遁・金剛監獄」


 その言葉を合図に、宙を舞っていた破片に変化が訪れた。

 時が止まったかのように空中で一時静止し、次の瞬間には凄まじい勢いで収束し始めたのだ。


 それは無数の破片の元へと飛来して来た二つ目の隕石を取り囲むように、岩で構成された檻へと変化する。


 鈍い音と共に動きを止める隕石。檻に囚われ、その動きを封じられたのだった。


 

 鈍い音と共に大地の揺れを感じ取ったミラは、振り返らずにすぐさま進行する。視界の先にはまだ、残る三つ目の隕石が残っているのだ。



 ミラは迫り来る隕石に物怖じせず、更に加速する。


 三つ目の隕石が目と鼻の先へと迫った瞬間、ミラはスライディングの要領で大地を滑るかのように、隕石の真下へと紙一重で潜っては躱した。


 荒ぶる土埃を背後に流し、隕石の真下中央に差し掛かった所で口を開く。


「土遁・金剛天柱」


 直後、岩で構成された巨大な四角形型の柱が、大地からせり上がるように出現。それは隕石を真下から押し上げ、柱の上昇が止まると同時に、隕石を天高く放った。


 当然ながら宙を舞う隕石は重力の影響を受け急降下し、大地との接触は自らの大質量によって大きな破壊を生じさせるのは当然であった。



 ミラは首だけを横へ向け、後方にて粉々に砕け散った隕石を流し目で確認すると、小さく安堵の息を尽く。



 しかし、これで戦いが終わったわけではない。


 ミラはすぐさまティアマトへと視線を戻すと、再び超加速にて大地を蹴り上げるのだった――。






 マイン、ミラと同様に、ジークも大地を蹴って進行していた。それは飛翔により陣形を大きく逸脱しないよう考慮し、連携を意識しているがゆえの選択であった。


 ジークの元へは五つの隕石が飛来しているのだが、当の本人は戦況分析に意識を集中させていた。

 思考を巡らせている間はリーナ側でアルカンシェルを制御し、圧縮水の複数照射にて隕石を粉々に切断しながら突き進む形を取っていた。



 ――今のところは……なんとかなっているか。おそらく本気を出してはいないのだろう。『時空支配』を通して分かったが、どうやらあいつは亜空間操作に長けているようだな。この妙な風景も結界のようなものか。おかげで転移は出来なくなったが、逆にこのままの方が無難かもしれないな。『時空支配』にて抵抗レジスト出来るかもしれないが、こいつと地上でやり合っては世界が滅ぶ危険性がある。例え戦いに勝ったとしても、地上が火の海になってしまってはそれは望む勝利とは言えない。……とはいえ、何か打開策が欲しい所だな。リーナでも情報が少ないのだろう、弱点があれば言ってくるはずだが……さすがは伝説上の竜ってところか。リーナがわざわざ勝利確率と言った点、そして低すぎる値から考察すると0.01パーセントの勝利条件は……神之欠片かみのかけらへの適正――、といった所だろうな。さて、とりあえずはこちらの攻撃が通るか試してからだな。




 ジークが思考を終えると、五つの隕石群を丁度突破し終えた所だった。


 後に残るは小さく切り刻まれた隕石の破片。

 百億トンを誇る水圧と、鋼鉄をも容易く切断する技術力の前では、さすがの隕石も歯が立たなかったようだ。




 飛来する隕石を各個撃破した三人は、今後は互いの距離を収束しつつ突き進んでいる。

 さながら攻守交替を模すかのように、ジーク達は連携攻撃へと移りゆく。


 巨大高層ビルでさえ、霞んで見えるほどのティアマトの足。

 ジーク達はまず最初に、ティアマトの右前足へと狙いを定めたようだ。



「はぁぁぁぁ! 『絶刀居合』!」


 第一撃――、マインは鞘へと納めた十握剣とつかのつるぎを振り抜き、一瞬一点にハイポテンシャル・ハイパワー・ハイスピードが集約された全身全霊の超威力剣術奥義を叩き込んだ。

 

 それと同時に続いて第二撃――、左側面からミラの攻撃が繋がる。


「影分身! 火遁・爆炎連刃!」


 影分身にて四体の分身体を出現させ、オリジナル含め五人のミラによる連続攻撃が繰り広げられる。

 雷遁による超加速の連撃に加え、炎を纏わせた黒影・真打がティアマトの右前脚を斬り付ける度に爆炎を生じさせる。


 計、二百五十連撃を繰り出したミラは、分身体を消すとマインと息を合わせ大地を蹴り翻った。後方宙返りにてジークの背後に周り、第三撃を担うジークへ繋げる。



 ジークはアルカンシェルを頭上に放ち、開いた両手を左右に構えた。

 片方の掌には超圧縮した風、もう片方には輝く氷結晶。


「”打ち抜け”! 三点三種砲!」


 アルカンシェルから放たれる極太の圧縮流水、そして掌からは『大気支配』による圧縮された風の砲撃と、『氷属性支配』による氷結砲撃の三つの砲撃が同時に放たれた。


 三角形の頂点を形作るように、三色の凄まじい砲撃が景色を塗り替える。


 ティアマトの足元では大地が氷結し、跳ね返る水しぶきが強風で激しく舞い、濃厚な水蒸気が立ち上った。




 各自が持てる限りの最強を尽くし、そびえ立つ一本の巨大な足へと、己の全てをぶつけたのだ。



 だが――、激しく舞う土埃と水蒸気にて視界が眩む中、それをかき消すかのようにティアマトの咆哮が響き渡る。


 咆哮一つで視界を一瞬で晴れさせ、先ほどまで攻撃を受けていた前足がその姿を現わす。


 そこには外傷一つ無く、何事もなかったかのように足に纏う鱗が青白い輝きを放ち、先ほどまでと変わらず堂々と大地を踏み締めているのだった。



 そう、ジーク達の渾身の連携攻撃は、一切通用しなかったのだ――。



 なぜならば、プラチナ水晶で出来た鱗は異常なまでの強固さを持ち、それに加え『竜属性支配』により全てのダメージが亜空間に飛ばされていたからだった。

 



 ティアマトは遥か下に位置するジーク達を視界に映し、口内に真っ白な気体を収束させ始める。


「”沈黙せよ”。『アイスブラスト』」


 辺り一帯の温度が一瞬にて冷却されると、その言葉と同時にティアマトの大口からは濃密度であろう真っ白なガスの砲撃が解き放たれた。

 

 それは、『竜属性支配』により宇宙空間から呼び寄せたマイナス272℃の超低温ガスの集結体。もはや一部微生物のみしか生存出来ない極寒温度。まともに包まれれば死は免れないだろう。




 真下で構えるジーク達は、まるで天から一つながりの巨大な雲が覆い被さるかのような光景に、驚愕の表情を浮かべていた。


「――くっ! 『氷属性支配』!」


 苦虫を噛み潰すかのような厳しい表情を浮かべるジークは、咄嗟に右目から青白い眼光を放った。



 すると、今にも覆い被さりそうだった巨大なガスの塊が、晴れ渡る空模様を表すかのように一瞬で消え去ったではないか。



 ジークは特性に持つ『氷属性支配』により、ティアマトの超低温砲撃に抵抗レジストし、かき消したのであった。




 その光景を目にしたティアマトは、薄っすらと目を細める。


「ほう、あれを防ぐか。我に啖呵たんかを切った姿勢は、あながち虚言では無かったようだな」



 ジークは胸の前でグッと拳を握り、鋭い睨みを利かせる。


「必ず勝つ。そして、確かな未来をこの手で掴み取ってみせる!」

「ふっ――」


 ただの零れた笑みだろう。しかしその巨躯からなる吐息は、激しい強風を巻き起こした。


 ハリケーンの如き息吹によってジーク達は吹き飛ばされ、ティアマトから距離を離される。


「我に勝つだと? 笑わせるな。まだ小指ほどの実力しか出していないというのに……。前座にもなりはしないわ」


 


 一人地面へと姿勢を落としていたミラは、距離を離されたもののティアマトに一番近い位置に踏み留まっていた。



 すると、伏せるミラへと視線を移したティアマトが、何かを感じたかのように目を細め出した。


(白い髪に、犬のような容姿……。確かどこかで……)


 


 じっと見つめるティアマトの視線に気が付いたのか、ミラは目力を強くしながら睨み返す。


(絶対に……負けないっ!)


 ミラはすぐさま立ち上がると、ティアマトの元へと一気に駆け出した。


 口元からスカーフが外れるも、気にも留めずに超加速で大地を蹴り上げ、ティアマトの足へと目と鼻の先まで接近した時――。


 ティアマトはハッと目を丸くした。


 近い位置で視界に捉えたミラの顔に、今では朧げになっていたかつての記憶が、刺激されたように蘇ったのだ。


(……思い出した。どこか懐かしさを感じる顔だとは思ったが……。そうか――、この娘はあいつの……。もう血は絶えてしまったと思っていたが……、しっかりと受け継がれていたというわけか)



 

 ミラは黒影・真打の刀身に再び炎を纏わせ、高速でティアマトの足へと斬りかかっていた。しかしその間、あまりに静かなティアマトの態度と、変に見つめる視線にさすがに違和感を覚えていた。


(私を……見てる? 三人の中で一番弱いと思って、相手にすらしないつもり?)


 ミラは流れる動きで斬り付けながらも、身動きすらしないティアマトに疑問を感じ、ふと視線を上へと移す。すると、ティアマトの喉元の一部に、黒い鱗があることに気が付いた。


 首を傾げ、その部分をじっと見つめる。


(あれ? あの鱗だけ色が違う。……もしかしたら――)



 明らかに他とは異質を放つその鱗に、ミラは一つの可能性を見出すのだった――。

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