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眼の異世界転生  作者: ビッグツリー
第四章 神之欠片『プレジール』~海底迷宮編~
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五十一話 呼応

 洞窟内に散りばめられている発光石が、今までとは違い緩やかな点滅を繰り返す。そして辺りには、まるで瘴気のように黒紫のモヤが取り巻いていた。



「やば……なんだか気持ち悪い。吐きそう」


 口に手を当て、蒼白させた顔で呟くのはナオミだった。


 中央のナオミが立ち止まりそう呟くと、自然と他のメンバーも合わせるように足を止める。すると、ナオミの胸ポケットにある魔通機からリーナの声が響き渡った。


「空気中に含まれる魔力濃度が上がっているです。異世界から来たナオミは、召喚される際にこちらの世界に適応するよう体の組織に改変が起こりますが、元よりこちらの世界にいる住人よりも他魔力への抵抗性が低いです。その為、高濃度の魔力に当てられて魔力削合現象を引き起こしているです」


 リーナの説明が終わると、ジークはおもむろにナオミへと一つのネックレスを手渡した。

 細い紐の先に、小さな丸い石が付けられた簡易的な作りの物だ。


 受け取ったナオミは手の中にあるそれを見ると、説明を求めるかのようにジークへと向けて首を傾げる。


「その石は人口魔石だ。全てとまではいかないが、お前の周囲の魔力を吸い取ってくれるはずだ。それを身に付けていれば多少は楽になるだろう。だが無茶はするなよ? 体に異変を感じてきたらすぐに言え。干渉され続けてお前の保有魔力が枯渇したら、それは死ぬことになるのだからな」

「……ありがとう。死ぬはイヤだし、もらったこれ付けて頑張る。わがまま言って付いてきた以上、ちゃんと最後まで一緒にいたいから」


 真剣な面持ちを向けるナオミは、そう言い放ち首へと小さな石のネックレスを身に着けた。


 その光景を目にしていたミラが小さく微笑みを浮かべると、それに気付いたジークは腕を組んで片目を瞑っては声をかけた。


「なんだミラ、何か言いたそうだな」

「なんでもないですよぉ~」


 微笑みを崩さず、変に上機嫌で返すミラ。


(えへへ。やっぱりジークさん、ちょっと変わった)


 ミラは心の中でそう呟くと、手を後ろで組んでは軽い足取りで再び歩み出したのだった。






 ジーク達はしばらく歩みを進めて行くと、洞窟内の色彩が徐々に暗転し始めていた。

 周囲の壁に散りばめられた発光石の数が減少し、緩やかに点滅を繰り返すその空間は、幻想的でありながらもどこか不気味さを放っている。


 そして更に歩みを続けた奥、その前方には怪しく輝く三つの赤い眼光が浮かび上がっていた。

 左には一つ、少し距離を空けた右には二つの目が輝いている。


 その場は暗転しているのだが、穏やかに光る発光石の光がもたらされると、その不気味な姿を映し出した。



 左には、一つ目を持った巨大な蛇のような骨の魔物。右には、鋼のように輝く鱗を持った巨大なワニのような魔物の姿だ。


 どうやら一つの開けた空間内の中央に、壁の仕切りがあるようだ。その仕切りで隔離されたように、右と左に魔物が二体存在している。


 

 その姿が見えると、ナオミの魔通機からリーナの警告が響いた。


「魔物のレベルがAへと上がったです! あれはスケルトンバジリスクと、鋼鰐はがねわに。特にスケルトンバジリスクには注意するですよ! あれは石化の目を持ち、物質すらも透過させることが出来るです。この中で対抗できるのはジークのみです!」


 その言葉を聞いたジークは腕を組んで思考を巡らせると、今回の作戦を全員へと通達する。


「よし。あのデカい骨の、厄介な物質も透過する石化の目とやらが向かないように、奴の気を引きながら俺が相手をする。ワニの方はマインとルルで対応してくれ。俺の方が片付いたら援護に向かうが、相手はレベルAだ絶対に気を抜くなよ。ミラとナオミはここで待機し、ミラはナオミの護衛だ」

「「「「了解!」」」」


 全員の返事が出揃うと、ジークはマインとルルへと視線を向ける。


「いいか二人共。例え強固な鱗で覆われていようとも、必ず弱点はある。そこを突くんだ」

「任せよ!」

「うん!」


 二人の力強い返答にジークは一つ頷くと、ローブを翻してその一歩を踏み出した。


「作戦開始だ!」


 




 銀色の光沢に彩られた鋼の鱗、地にそびえる巨大な四本の脚、長く野太い尻尾、大きな口に並ぶ鋭く巨大な牙、大型トラックほどの巨体を持つそれは――レベルAの突然変異体『鋼鰐はがねわに』である。


 向かい合うように対峙するマインとルルは、鋼鰐の圧倒的威圧感により額に一筋の汗を浮かべる。

 見上げるほどの巨体もさることながら、明らかに今までの魔物とは別格なのを感じ取っていたのだ。


「私が奴を引き付ける。ルルはその間に攻撃してみてくれ」

「わかった!」


 二人はそれだけ言葉を交わすと、マインは素早く鋼鰐の側方へと回り込んだ。


「来い! 拾ノ秘剣、刀填!」


 マインの呼応により鞘へと顕現する一本の剣。素早く引き抜かれたそれは、紫のオーラを刀身に纏わせている。


「はぁぁぁぁぁ!」


 気合のこもった力強い雄たけびと共に、鋼鰐の胴体へと斬り付けるマイン。しかしその切っ先は頑丈な鱗により弾かれ、傷一つ付けることは出来なかった。


 その衝撃を感知した鋼鰐は大きな首を横へと動かし、大きな瞳でマインを睨み付ける。そして巨大な尻尾を巧みに操っては、マインへと攻撃を仕掛けた。


「ちっ――」


 迫り来る尻尾に気が付いたマインは一つ舌打ちをすると、真正面から剣で受け止め、少し後退させられたのちに横へと捌いた。

 

 攻撃を逸らされた尻尾が地面へと落ちると、その凄まじい衝撃により洞窟内が大きく揺れる。


 マインはすかさず尻尾へと向かって跳び、その側面の鱗へと足を着くと、三角飛びの要領で鋼鰐の胴体へと飛翔した。


 鋼鰐の背中に位置する場所に降り立ったマインは、左手を鞘の前方にて構える。


「壱ノ秘剣、刀填!」


 左手により、鞘から逆手に引き抜き現れたのは、柄から切っ先まで全て真っ白の剣。

 マインは左手に持つ剣を鱗と鱗の隙間に差し込み、力任せに強引に僅かな隙間を空ける。そしてその隙間に、右手に持つ剣を勢いよく突き刺した。



――グオオオオオン!



 痛みによって大きな叫びを上げる鋼鰐。体を大きく左右に動かし、背中に乗るマインを振り下ろそうとしている。


 その光景を目にしたルルは、注意力の散漫した鋼鰐にチャンスとばかりに右手を向けた。


「いまだ! 『風破かまいたち』!」


 ルルの右手から解き放たれた、圧縮された風の球。それは鋼鰐の頬へと直撃したのだが、風刃が拡散する前にその強固さにより打ち消されてしまった。


「だめだぁ、硬すぎるよぉ……」


 手ごたえの無さに肩をすくめるルルは、小さくそう呟く。なにせ攻撃を受けたはずの鋼鰐は、まるで何も無かったかのようにマインにのみ意識を向けているのだ。



 さすがに耐えきれなくなったのか、マインは鋼鰐の背中から地上へと振り下ろされた。

 その手には左手に握る剣しかなく、右手に持っていた剣は鋼鰐の背中に突き刺さったままだ。


 怒り狂った鋼鰐が尻尾を高く掲げると、標的と定めたマインへと垂直に振り下ろした。


 マインは左手に持つ剣を横にして掲げると、右手をその腹へと添えて振り下ろされた尻尾を受け止める。衝撃が空気を振動させ、マインの脚が地面へと大きくめり込む。


 それは徐々に沈みゆくように、マインの脚が埋まっていく。


「くっ、このままでは――っ」


 険しい表情を浮かべ、必死に尻尾の圧力に耐えるマイン。しかしそれも時間の問題で、崩れゆく足場によりいずれ尻尾に叩き伏せられるのをマインが一番理解していた。


「マインお姉ちゃんっ!!」


すると、マインのピンチを察したルルが助太刀に入った。両手を高く掲げ、その手と鋼鰐の尻尾との間には風の球体を作り出している。


「すまないルル!」

「ううん! ルルとマインお姉ちゃん、二人で倒すんだもん!」


 小さい体ながらも真剣な表情でそう口にするルルに、マインは一瞬感動するように目をうるわせるが、すぐさま力強い眼差しへと変えた。


「そうだな、二人でこいつを倒す! 私もルルを頼るとしよう!」

「うん!」


 二人は息を合わせて力を集約し、重くのししかかる尻尾を大きく弾き飛ばした。


「よし! ルル、少し時間を稼いでくれ!」

「分かった! 多重結界!」


 ルルを中心に、マインも取り囲んで障壁が展開される。

 マインは右手を鞘の前へと構え、新たな剣を呼び出す。


「弐ノ秘剣、刀填!」


 新たに顕現し引き抜かれた剣は、その刀身に青いオーラを纏わせている。

 マインはその剣を顔の前で構えると、目を閉じて静かに集中し始めた。


 

 その間、対峙している鋼鰐も黙っているわけは無く、尻尾で力任せに障壁を叩き続けている。



 ルルを信じるマインはただ静かに瞑想し、そして剣へと語り掛けるように口を開く。


「水を司る弐ノ秘剣よ、どうか応えてくれ。私の声に、イメージに、想いに。私の全てに呼応するのだ。今こそ力を解き放て――『水神丸すいじんまる!』」


 その時、マインの言葉に呼応したかのように、手に持つ弐ノ秘剣に大きな変化が訪れた。

 

 刀身に纏っていた青いオーラが変化し、剣の周りにいくつもの線を引くようにグルグルと回転を始め、やがてそれは持ち手である柄の尻の先へと集約すると、青く丸い水晶へと形を変えた。

 だがそれだけではなく、柄の尻に水晶が装着されたと同時に、刀身が消えたのである。


 

 マインは柄だけ残ったそれを高く掲げると、体の横へと勢いよく振り下ろす。すると、まるで遠心力で引っ張り出されたかのように、青色の刀身が姿を現した。


 その刀身は、時たま小さな気泡を弾かせ、まるで透き通った海のようにオーシャンブルーの輝きを放っている。




 凄まじい尻尾の攻撃を防いでいる多重結界ではあるが、微かに障壁に亀裂が走り始めていた。


「くうぅぅ」


 両手を前へと掲げて必死に障壁を展開するルルの顔にも、さすがに疲労の色が見え始めている。


 しかし、突如として鋼鰐の動きが鈍くなりつつあった。

 その瞬間を待っていたかのように、マインがルルへと声をかける。


「やっと”効いた”か。ルル、今度はこちらが攻めるぞ!」

「うん!」


 多重結界を解除し、鋼鰐の正面へと戻るルル。

 側面へと向き直るマインは左手に持つ壱ノ秘剣を戻し、新たな姿へと変化した弐ノ秘剣『水神丸』を正中線にて構えた。


 

 鋼鰐が動きを鈍らせた理由――、それは背中に突き刺さったままの剣によるものだった。拾ノ秘剣であるそれは、毒の効果を付与された属性剣の一つである。


 鱗の隙間を縫って突き刺したことにより、鋼鰐の体へと毒が徐々に侵食していたのだ。

 毒には腐食性があり、細胞の死滅はもちろん、例え強固な鱗でさえその強度を落とすことが可能である。



「行くぞ! 水刃烈破!」


 鋼鰐の胴体へ、マインの無数の連続斬りが解き放たれた。それは鱗を切断し、内部の肉を引き裂き、血飛沫が宙へと舞った。


「毒の作用で脆くなったのもあるが、これは凄い切れ味だな。さすがはジーク殿が使っているだけはあるか」



 そう――何を隠そう『水神丸』とは、ジークの言っていたウォーターカッターをイメージしたものであったのだ。



 

 横腹を斬り刻まれたことにより、一際大きな痛みの声を上げる鋼鰐。大きく口を開き、尻尾を上下に振って地面を叩きつけている。


 だが、その瞬間をルルは見逃さなかった。


「行っけぇぇぇ! 『風破連弾』!」


 前へと構えた両手から、五発の風の球体が飛び出した。それは凄まじいスピードで飛び出し、大口を開けている鋼鰐の口の中へと入って行く。


 そして次の瞬間、鋼鰐の体を覆う鱗の隙間という隙間から、一気に血飛沫が舞い散った。


 体内に入り込んだ五発の風破かまいたちが拡散し、鋼鰐の体の内部にて風刃が解き放たれたのである。

 いくら頑丈な鱗を持つとはいえ、生身である体の内側への攻撃は、もはや致命傷であった。



 鋼鰐は崩れるように顎から地面へと倒れ込み、舞い散る血飛沫と土埃と共に、最後に尻尾を地面へと横たわらせた。



「やったなルル!」

「うん!」


 決着の付いた二人は駆け寄り、笑顔を放って大きくハイタッチを交わす。



 マインは腰に手を添えると、ルルへと微笑みかけた。


「今回はルルに助けられてしまったな。もう子供扱いは出来なそうだ」


 その言葉に、ルルは口元に両手を当てて無邪気に笑う。


「きゃはは! ルルだって、いつまでも子供じゃないもん! だけどね――」


 ルルはそこで言葉を止めると、両手を後ろで組み、マインにニコッと笑顔を向けた。




「ルルはずっと、マインお姉ちゃんの妹だよっ」

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