四十三話 子供の成長
空洞の左右端には様々な色彩を放つ水晶が無造作に並んでおり、まるでクリスタルロードとも言えるその場所を、巨大な滝を越えたジーク達が目を輝かせながら進んでいた。
その空洞自体が多くの色に包まれ、幻想的な虹色の世界を作り出している。漂う不気味な静けさも、多くの水晶達の輝きによって、一時の癒しを与えているかのようだった。
立ち並ぶ水晶が急に途絶えると、その先には開けた空間へと繋がっていた。ジークはその場へと入る寸前に、ふと足を止めた。
「待て」
手を後方のミラ達へと向けて足を止めさせると、ジークは目を細めて目の前の空間へと意識を集中させた。その目に映るのは、空間を埋め尽くすほどの小さな赤い点。そして、一円玉サイズほどの無数の小さな生物。それは、真っ赤な眼光を放つ蜂型の魔物『レッドビー』だった。更に部屋の奥には、巨大な岩とも思える巣らしき物が見て取れた。
《気を付けるです! あれは『レッドビー』と言われる魔物です。それほど力はないですが、刺されると強力な免疫反応を引き起こすです。一度刺されると体内に特殊な抗原が入り込み、細胞に寄生して増殖するです! それにより過剰な免疫反応が引き起こり、アレルギー性ショック状態へと陥って死に至るです!》
グループ通話でリーナが目の前の魔物について説明を行うと、ナオミを除いた全員の顔に緊張が走った。一度でも刺されれば最後、死へと直結するその恐怖の象徴が、目の前の空間に無数に存在しているのだ。
先頭のジークは後ろへと振り返ると、ナオミに向かって口を開いた。
「ナオミ、この先には無数の蜂の魔物がいる。蜂の恐ろしさ……地球にいたお前なら分かるな?」
「え!? 蜂!? マジで!?」
「マジだ」
恐怖と驚愕で目を丸くするナオミに対し、ジークは冷静沈着に答えた。そして腕を組み目を瞑ると、下顎へと片手を添えた。
その仕草は、ジークが何かを考えている時。もはや見知ったその仕草を取るジークを、ミラ達はただ静かに見つめて見守っていた。
さて……撤退の二文字は無い以上、魔物を無視して通過するか、殲滅するのかの二つに一つだな。多重結界を展開しながら進めば安易に通過できるだろうが……厄介なのはあの数の多さだ。この先も一本道だとは限らないとなると、入り組んだ中で追いかけられてはパニックを起こし陣形が散り散りになる恐れがある。それに多重結界も魔力を使う以上、無限に展開し続けれるわけではない。こちらは消費が免れない反面、レッドビーには数の理と、一匹一匹が必殺の力を持っているんだ。やり過ごして通過したとしても、後々のリスクが高まるなら却下だな……。やはり今まとまっているここで殲滅した方が、この先のことまで考えると合理的か。
ジークは思考を終えて考えが纏まると、ゆっくりとその目を開き出した。
「よし、作戦を指示する」
待っていたその瞬間に、ミラ達は気持ちを引き締め、真剣な目つきで一つ頷いた。
「まずは俺が単独で先陣を切り、全てのレッドビーを引き寄せる。その間マインとルルは、念の為にルルの『親の過保護』で多重結界を張りつつ先へと進み、部屋の奥にある巣らしき物を叩いてくれ」
「「了解!」」
指示を受けたマインとルルが、一つ力強く返事を返す。マインはここから戦闘へと移るのだと確信すると、戦闘衣装である紋付羽織袴を解放した。
マインの紋付羽織袴もミラと同じく、進化した際に私服と融合したのであった。マインの紋付羽織袴は、進化した際のジークのイメージの現れとして顕現した物なので、ミラの黒天衣のように特別な付与はされていない。マインは普段は私服を、戦闘時は紋付羽織袴が正装にと使い別けてるようだった。
「ミラとナオミはここで待機、ミラはナオミを守れ。もしもレッドビーが一匹でも近づいてきたら、土遁で壁を作り出してこの入り口を塞げ、お前の耳なら飛んでくる羽音ですぐ気が付くはずだ。それまでは、消費魔力の激しい秘伝忍術は温存しておくんだ。仮にそうなった際は、俺が殲滅を終えて声をかけるまで術は解くなよ」
「了解!」
「だ、大丈夫よね……」
ミラは意気揚々と一つ返事で返すと、マイン同様に戦闘衣装の黒天衣を解放した。
一方、ジーク達の戦闘の実力を知らないナオミは、その顔を曇らせて不安げな様子で呟いていた。
そして、一撃必殺の力を秘める無数のレッドビーとの、迷宮に突入して初めての戦闘が開始されるのであった。
「よし、作戦開始だ!」
その言葉を合図に一同が一つ頷くと、ジークは先の空間へと向き直り、堂々とその一歩を踏み出し始めた。そのたった一歩が空間へと訪れた瞬間、まるで敵の侵入を察知したかのように、無数のレッドビーが羽音を鳴り響かせた。
初めは威嚇するレッドビー達も、ジークが足を止めずに進み続けると一線を越えたのか、一斉にジークへと襲い掛かかった。床、壁、天井、四方に存在する莫大な数のレッドビーが、その針を輝かせた。
しかし、襲い掛かるレッドビー達だったが、ジークとの間に一定の距離を取っては、それ以上近寄れずにいた。
それは、ジークを中心に展開された多重結界。半径二メートルのドーム型に展開された透明な障壁が、レッドビー達の侵入と攻撃を防いでいたのだった。
壁にクギを打ち付けるような音が激しく響く中、ジークは『次元収納』から一つの小さな植物を取り出した。人差し指と親指でつまむようにして持つそれを、高々と掲げてはニヤリと口角を上げる。
「特製のフェロモン草だ。一匹残らず集まってこいよ、虫けら共」
ジークは蜂の持つ集合フェロモンの集団特性を利用し、蜂を引き寄せる特殊なフェロモンを付与させた植物を作り出したのだ。
フェロモン草から発する集合フェロモンの効果により、空間内の全てのレッドビーが引きつけられ、ジークの周りに展開する多重結界を覆い尽くした。その数およそ十万五千、もはやジークの姿は見えなくなり、部屋の中央にはレッドビーが群がる巨大な塊が出来上がっていた。
「今だ!」
ジークが合図を送る声が空間内に響くと、マインはルルへと顔を向けて気合の一声を上げる。
「私達の番だ、行くぞ! ルル」
「うん!」
二人は走り出し、それと同時にルルが人差し指を天へと掲げる。
「いくよ! 多重結界!」
ルルのその言葉をトリガーに、並走するマインとルルを取り囲むように透明な障壁が展開された。
ナオミは困惑の表情でミラの肩へと両手を乗せ、横から顔だけ出してはミラの背後から状況を伺っていた。
「ね、ねぇ……大丈夫なの?! ジーク蜂まみれだよ、蜂まみれ! 声が聞こえたから生きてるんだろうけど……一体どうすんのよあの地獄絵図!」
ガタガタとミラの肩を小さく揺らしながら、ナオミは少し泣きそうになりながら慌てふためいていた。
しかし、そんなナオミとは逆に、ミラは凛とする面持ちで静かに状況を見守っていた。
「ねぇ! ミラはなんでそんなに落ち着いてられるのよ! 私を守れってジークは言ってたけど、あの様子ならジークを助けに行ったほうがいいんじゃないの!?」
「大丈夫です。それに、勝手に動くことをジークさんは嫌いますから」
「好きも嫌いもないわよ! 命がかかってるの! なんでそこまであいつを信用できるわけ!?」
「それは――」
ただ真っ直ぐに、ただ純粋に、ミラは見えないはずのジークを見つめては、凛とする表情を変えずに言葉を繋げる。
「今まで私が、一番近くでジークさんを見てきたからです」
淡々と駆け足で進むマインとルルは、ジークが全てのレッドビーを引き寄せてくれているおかげで、襲われる心配もなく部屋の奥に存在する巣へと辿り着いた。
「うわぁ~おっきい……」
巣を目の前にして、ルルが唖然とする面持ちで呟く。二人が視界に捉える巣は、まるで大岩。様々な鉱石や水晶などが織り交ぜて作られた、見上げるほどの巨大な巣だったのだ。
「ほう、これは面白い。我が剣と技の切れ味、とくと思い知れ」
マインは見上げる巣に語るように呟くと、右足を前へと出しては半身に構え、左手で鞘を握り、右手を柄の無い鞘の先端へと構える。
「来い! 終ノ秘剣、刀填!」
マインの声に呼応するように、柄の無い鞘には合刀された大太刀が装填される。マインはそれを右手で握ると、大振りで引き抜いては切っ先を天へと向けた。
「解!」
その言葉に十握剣は眩い光を放ち、十個の輝く光が上空へと散った。そして光が収縮すると、十本の属性剣が姿を現した。
頭上から舞い降りる属性剣を、マインは髪から伸びる八本の触手と、両手で掴み取った。そして柄を握る手に力を込めると、その全てを巨大な巣へと解き放つ。
「はぁぁぁあ! 『剣技の極み』!」
瞬間、レッドビーの巨大な巣は、十本の剣による超高速連撃に見舞われた。みるみる内に細切れになり、斬撃が止んだ時には塵のように成り果てていた。鉱石や水晶が織り交ぜられた巣は高い硬度を誇る物だったが、マインの圧倒的パワーとスピードの乗った剣術の前では、もはや紙切れも同然のようだった。
マインは残心を終えると、肩を下げては一人佇み遠い目をする。
「面白い物を……斬ってしまった」
「多分それ逆の意味で使う言葉だよ」
一人呟くマインに、すかさずツッコミを入れるルル。マインはきょとんをした面持ちで首を傾る。
「む? そうなのか?」
「あはは……。あっ!」
一人首を傾げるマインに苦笑いを浮かべるルルだったが、役目を終えたことを思い出すと、ハッとジークの方へと振り返った。
「お兄ちゃ~ん! 終わったよぉ!」
ルルのその声を捉えた瞬間、ジークは不適に口角を上げた。そして手に持つフェロモン草を『次元収納』へと仕舞い込むと、群がるレッドビーへと言い捨てる。
「お遊びは終わりだ」
おもむろに右手を前へと突き出し、中指と親指の先を合わせては、一言呟き指を鳴らす。
「”弾け飛べ”」
――ズパーッン!!
指を鳴らすパチンと小さな音の直後、まるで巨大風船が割れたかのような乾いた破裂音が響き渡ると、ジークを中心に空気の波紋が一つ拡散した。それと同時に、取り囲む無数のレッドビー十万五千もの大群が、その身を粉々にしては一瞬で吹き飛んだのだ。
それは、ジークの特性である『空気操作』と『時空支配』により、絶対空間固定を施して超圧縮させた空気を一気に解放して、強力な空圧波を生み出したのであった。
その光景を目の当たりにしたナオミは、目を丸くして口を大きく開けていた。
「うそ……でしょ」
呆然とするナオミにミラは振り返ると、先ほどまでの真剣な表情を解き、柔らかい微笑みを零した。
「これが、ジークさんなんです」
ジークは取り囲むレッドビー達の群れから解放されると、その開けた視界により一つ大きな安堵の息を吐いていた。
「また派手にやったな、ジーク殿! ワハハ!」
腰に片手を添えては、笑いながらジークの元へと戻るマインとその隣のルル。ミラとナオミも部屋の中央であるそこへと合流した。
「よし、みんな無事だな。次へ進むぞ」
「「「「はい!」」」」
誰一人死傷者も出ずに、脅威的なレッドビーの群れを殲滅したジーク達は、更に奥へと繋がる通路へと足を進めて行ったのだった。
空洞の壁自体が放つ淡い光の力も弱くなり、少しジメッとした嫌な室温の中、ジーク達は注意を払いながら歩みを進めていた。
すると、奥の方から何か小さな物が飛翔してくる姿があった。それはコウモリ型の魔物『キラーバッド』だった。
《レベルC、キラーバッドです。先ほどのレッドビーに比べると脅威性は小さいですが、噛まれると激しい痛みとマヒを引き起こし、数時間はまともに動けなくなるです》
リーナの魔物解説を尻目に、まるで聞いていなかったかのように、ジークは襲い掛かるキラーバッドへとデコピンを放った。
小さな破裂音と共に、木端微塵になるキラーバッド。その後もたまに出現するものの、その度にジークのデコピンの一撃に沈むのだった。
「ルル、前に来てくれ」
「うん!」
ジークの呼びかけに、ルルは元気に返すとジークの横へと付いた。
「今のところあのザコしか出て来ていないし、変化があるまではルルに撃退を頼みたいんだ。出来るか?」
「やってみる!」
ジークがルルへと対処を任せた理由、それはルルの実践における経験値を溜めるのと、ルルが同レベルであるキラーバッドを倒した際に得られる魔力量を考慮してのものだった。ルルの成長を養う、うってつけの場所、そうジークは考えたのだ。
ルルは掌に風を圧縮した球体を作り出し、それを維持したまま足を進めていた。そしてキラーバッドが現れる度に、球体から三日月型の風刃かまいたちを飛ばして殲滅していた。
キラーバッドが不規則な飛び方をするがゆえに、風刃かまいたちで体を両断することもあれば、片翼を切り落として地面へと墜落させることもあった。それをしばらく観察していたジークがおもむろに口を開き出す。
「ルル、少しいいか? キラーバッド相手になら今のままでも問題ないが、確実に仕留められるように少しステップアップしてみよう」
「すてっぷあっぷ?」
きょとんと首を傾げるルルに、ジークは軽く微笑みを向けると、ルルと同じように掌に風を圧縮した球体を作り出した。
「まずは、飛ばす風刃自体にも風の圧縮をかける。そして敵へと当たった瞬間に、圧縮した風を外側へと逃がしてやるんだ。そうすれば片翼に当たったとしても、解放された超圧縮の風で弾け飛ぶはずだ」
「ん~?」
よく理解出来ていないのか、首を傾げながらジークを見上げるルル。するとその時、前方からキラーバッドが二匹やってきた。
「丁度いいところに来たな。まぁ、言うよりも実際に見た方が早いだろう。右側のやつに俺がさっき言ったことをやってみせるから、ルルは左の奴に真似してやってみてくれ」
「分かったぁ!」
ジークは掌の球体から一つの風刃を放つと、あえてキラーバッドの片翼へと当てた。そして翼が切り落とされた瞬間、風刃はその姿を破裂させるように拡散し、無数の小さな風刃が周囲へと広がった。キラーバッドはその身を木端微塵にされ、無残にも地面へと細かく散っていったのだった。
その光景をじっと見ていたルルは目をキラキラと輝かせると、掌を前へと突き出し、風の球体から一つ風刃かまいたちを解き放った。一直線に進むそれが残ったキラーバッドの片翼に当たると、ジークが行ったのと同じように拡散しては、キラーバッドを細切れにしたのだった。
《ルルがユニークスキル『風破かまいたち』を習得したです》
グループ通話にて、ルルが新スキルを習得したことを知らせるリーナ。ジークは一瞬目を丸くして固まっていたが、すぐに我に返るとルルの頭を優しく撫でた。
「凄いなルル! まさか一回見ただけで会得するとは思わなかった」
「えっへん!」
ジークに褒められたことで上機嫌になるルルは、腰に小さな両手を当てては精一杯背伸びをしていた。
その後ルルは新しく習得した『風破かまいたち』を駆使して進み、命中率もほぼほぼ本体へと当たるようになってきていた。
『風破かまいたち』の使用魔力も、同レベルのキラーバッドを倒して得られる魔力量のほうが上回っていた為、全快を通り越して魔力タンクに少しずつ溜めることが出来ていた。
すると、何かを思いついたかのようにルルが口を開き出した。
「ねぇ、お兄ちゃん。これって中から外に向かってパーンってやる感じだよね? だったらその逆も出来ないのかなってルル思うんだけど」
「ん?」
ふとそんなことを言いだすルルにジークは視線を向けると、ルルは風の球体を作り出している手とは逆の手を、前へと突き出した。
「ちょっとやってみる!」
ルルはそういうと、少し目に力を込めて集中し始めた。すると、前方の方に一つの風の輪らしきものが出現した。その輪の中央は空洞になっており、その周りに風がグルグルと渦巻いている。
ちょうどその時キラーバッドが奥から現れたのだが、その瞬間――前方に存在していた風の輪に吸い込まれるように、キラーバッドは強力な力で引き付けられた。そして輪に捕らえられたキラーバッド目掛けて、ルルが『風破かまいたち』でとどめを刺したのだった。
《ルルがオリジナルスキル『つむじ風』を習得したです》
またしてもリーナのスキルの知らせが届くが、ジークはただただ驚愕していた。
これは驚いたな……、なんていう順応性と想像力の高さだ。それよりも一番驚くのは凄まじい成長速度だ。ミラもかなり早かったが、ルルはそれ以上かもしれない……。特性の『成長促進』の影響か? オリジナルスキルの『つむじ風』も、『想像力強化』の特性が生きてるのだろうな。あれは中央に強力な真空状態を作り出し、その気圧差により付近の物を引き付けていると見て間違いないだろう。先ほどのキラーバッドの動きを見る限りでは、おそらくスキルの『殺気感知』が付与されて、敵対する物のみに吸引力が働くようになっているのだろうな。ひょっとしたら……かなり”化ける”ぞルルは。
それからというもの、飛んでくるキラーバッドは『つむじ風』で動きを止め、『風破かまいたち』で仕留めるといった流れで奥へと進み続けていた。実践データが豊富に取れたことにより、それらの情報は『親の過保護』に保管され、もはやルルの意識とは別に自動迎撃がされていたのであった。
すると、リーナが珍しく少し真剣な口調でジークだけに声をかけた。
《ジーク、少しお話があるです》
(なんだ、改まって珍しいな)
《ルルのことについてです》
ルルのことについての改まっての話。ジークもこれまでのルルの姿を見ていて思うところがあるのか、リーナの話に真剣に耳を傾けた。
(ルルについては俺も考えていたことだ。言ってみてくれ)
《はいです。まず先に、謝っておきたいことがあるです……。私は、ルルが進化の際に本来付与されるはずのスキルの一つを、意図的に制限をかけて付与されないようにしたんです》
(どういうことだ? 何か問題があるからその一つを付与されないようにしたんだろ? 危険なスキルなのか?)
《いえ、スキル自体には問題ないです。ですが……》
リーナはそこで一つ言葉を詰まらせると、一拍置いてから言葉を繋げ出した。
《もう一段階、上の進化の可能性があったのです》
(なに!? 本来は二段階進化が可能だったのか!? いや待てそれよりも、進化は一度したら終わりかと思っていたんだが)
《進化は、ある条件を満たした時にのみ起こる奇跡の現象です。しかしジークを通して異常進化したルルは、本来より持つ亜人特有の成長の速さにより、もう一段階上の進化の可能性が出て来たんです。その特殊条件は、九つの感知系スキルを習得することにより達成されるです。しかし、ララの死をきっかけに心の成長をしたルルですが、まだ幼いゆえに不安定さを懸念した私が、あえてスキルの一つは封印したのです》
リーナの告白に、ジークは肩を下げてうなだれるように頭を抱えると、小さく呟きを返した。
(お前なぁ……そういうことはそのときに言ってくれ)
《ごめんなさいです。今まではルルの言動を見る限りでは、もう一段階上の進化はしなくてもよさそうだと判断していた為に、訪れない事態の事は言わなくてもいいかなと思ってたです》
(知っていて隠すのと、全然知らないのではまったく異なるんだ。情報取得の優先度は俺の中でかなり高い、それを覚えておいてくれ)
《了解です。先ほどのルルを見ると、その才覚が徐々に覚醒し始めているようです。これは子供の凄まじい成長速度と、特性の『成長促進』による補正がされていることに加え、ジークやミラやマインと共にいることでその経験の全てを吸収しているようです。仮にもう一段階進化した際は、ミラやマイン、シチセイとはまったく異なる進化を遂げると推測するです。全員の加護を受けて育つルルは、それこそ収束した力を持つ、ルル独自の進化へと向かうはずです》
あまりの事に言葉を失うジークは、腕を組みながらも下を向いて歩いていた。そして一つ決断したのか、前を向くとリーナへと答えた。
(事情は分かった。今はまだルルも成長の途中だ、仮に進化へと導く際は俺が最終的に判断する。それまでは、もう一つのスキルは付与しないままでいてくれ)
《了解したです!》
リーナとの話を終え、気が付くとレッドビーを倒して歩み続けてから三時間ほど経過していた。
キラーバッドもしばらくその姿を見せなくなると、進む道筋が一つの開けた空間へと差し掛かった。
その空間へと足を踏み入れたジーク達は、目の前に映る光景に揃って足を止め、驚愕の面持ちで固まってしまった。
そこには、魔物もいない、転がる石すらもない、そして――
その先へと続く道すらもない、完全な行き止まりだった。




