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眼の異世界転生  作者: ビッグツリー
第一章 目玉転生~封印の祠編~
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四話 初戦闘

 扉を抜けた先には異様に広い空間があり、そこから直線上に一本、奥へと通じる細い道が存在しているようだった。


 辺りを見渡しながら足を進めるが、部屋とも思しきこの空間には何も無く、不気味な静寂だけが漂っている。

 それから奥へと通じる通路に足を運び、しばらく進んでいると、右へと直角に繋がる曲がり角に差し掛かった。



 その角を何気なく曲がった瞬間、俺は視界の先の光景にギョッとして足を止め、すぐさま引き返しては姿を隠す様に壁を背にした。


 急激な心拍数の上昇と共に、恐怖と焦りが込み上げてくる。

 この世の物とは思えぬ得体の知れない”何か”が――、すぐそこにいたのだ。



 俺は角から恐る恐る顔を出し、その”何か”に向けて『観察眼』を発動させてみる。





ステータス


『大食イーター』

 特性(物理攻撃耐性、魔法耐性、硬質化、毒無効)

[レベル]:B

[スキル]:『土属性操作』、『捕食吸収』





 全身を覆う茶色い鱗。顔部分には大きな口だけが存在し、その口の中には何重にも巡る鋭い歯が並んでいる。まるで眠っているかの様に体を丸めている、巨大な蛇のバケモノだ。



 一体あれはなんだろうか。いわゆる敵? 俺が言えた義理ではないが、結構気持ち悪い。てか、怖い。



 しかし、蛇のバケモノもとい、大食イーターが眠る先にはまだ道が続いている。ここを突破しない限りは先へと進むことが出来ない為、恐怖で逃げ出したい所だが腹を括るしかなさそうだ。


 俺は壁を背にして沿う様に、ゆっくりと、そして着実に一歩を進めて行く。

 しかし――、大食イーターの様子に変化が無いか、意識を集中させ過ぎたのが悪かったのだろう。足元にまで意識が回っておらず、何かの骨らしき物を蹴飛ばしてしまった。



――グオオオオオオオオン!


 骨の転がる乾いた音に反応するかの様に、睡眠を邪魔された大食イーターの凄まじい雄たけびが轟く。

 そうとなっては、もはや悠長な忍び足など必要ない。俺は何もかもをかなぐり捨てるかの様に、一目散にその場から逃げ出した。



 ――不味い不味い不味いって! あんな化け物を相手に出来るわけがない! こっちは目玉だぞ! 目玉のおやじだってまともに戦えないっつうの!



 心の中で焦りの感情を口走り、無我夢中に走り抜ける最中、突如として目の前に高い壁が立ちはだかった。それはまるで、地面からせり上がるかの様に不自然に出現したのだ。

 後ろには迫り来るバケモノ、目の前には道を塞ぐ壁。突然に窮地へと立たされた状況に、激しい憤りを覚える。



 ――いきなりなんだよ、これ! トラップか!? クッソ……、やるしかないのか……。



 転生後、初の戦闘。目玉vs口の戦いの火蓋が、切って落とされたのだった――。




 後ろへと振り返り、迫りくる大食イーターを確認すると、奴はもうすぐそこまで迫る勢いだ。


 すぐさま何か手はないかと辺りを見渡してみると、視界の左側に大きな岩がある事に気が付いた。高い天井付近にまで達する、強大な岩だ。


 咄嗟にその巨大な岩陰へと身を隠し、この状況から逃れる為の方法を考えるべく、急いで思考を巡らせる。



 ――どうやって倒すかは後回しだ! あんな地球外生命体はMIBの二人に任せればいい。とにかくどうにかして奴から逃げて、台座があった部屋まで戻る事が出来れば大丈夫なはずだ。あの巨大な扉は、おそらく核に反応して開いた。開く瞬間に核に違和感を感じたから、開ける事が出来るのなら閉じる事だって出来るはずだ。扉の強度が心配な所だが、最悪でも時間稼ぎくらいにはなるだろう。さて、逃走手段は――。



 逃走する為の具体的な方法を練ろうとした矢先、背後からの突然の轟音と共に、激しい衝撃が押し寄せて来た。


 吹き飛ばされ地面へと転がる俺は、何が起きたのか咄嗟に意識を向けると、壁の中へと頭を突っ込み暴れる大食イーターの姿があるではないか。

 なんと奴は、巨大な岩ごと俺を飲み込もうとしたのだ。

 


 なんてデタラメな――と、驚愕を覚えたが、逆に奴が身動き取れない今がチャンスだろう。

 俺は、もがき暴れる大食イーターの横を颯爽と抜けて、元来た道へと全速力で駆け出した。

 

 

 走る最中、一際大きな音が鳴り響いたので足を止めないままに意識だけを向けてみると、奴め――、どうやら上手く壁から抜け出したようだ。

 あのまま永遠に壁と一体化してくれていれば良かったものの――、こちらがまだ安全な距離を確保せぬ間に復活してしまった。


 俺の仮の手足は大きな目玉の身体には不釣り合いなほど細く、そして長さもない。それほど早く走る事が出来ないのだ。


 しかし――、希望の光はある。それは、もうじき曲がり角へと差し掛かるからだ。

 奴の巨体からすれば、あの角をそう容易に通過するのは難しいだろう。ここで俺が先に曲がり切ってしまえば、後は一直線に最初の部屋へと逃げ切る事が出来る。



 ――よし! もう、すぐそこだ! 悪夢のような追いかけっことも、これでおさらば出来る!



 だが、いざ曲がろうとしたその時――。

 ふいに覚えた体の浮遊感と同時に、凄まじい勢いで”後ろ”へと引っ張られた。



 ――嘘だろ!? なんていう吸引力してんだよ! 掃除機も真っ青だぞ! って、そんなこと言ってる場合じゃなかったぁぁぁ!



 巨大な大口を開ける大食イーターは、空気を含め全てを飲み込むと思える程の、凄まじい吸い込み放っていたのだ。


 その凄まじい吸引力の前に、もはや地に足を着いている事すら叶わない俺は、何度か大きくリバウンドをしながら大食イーターの口内へと吸い込まれてしまったのだった。




 視界一杯に広がる、黒にも近い深緑色の液体。胃袋と思しき場所にてブクブクと気泡が上昇するのに対し、俺は背中から落下を続けている。

 上へと伸びた四本の細い手足が、波打つようにユラユラと揺れている様を最後に、俺はゆっくりと瞼を閉ざしていった――。


 

 ――終わった……。転生して数時間の命。母さん、おばあちゃん、ごめんなさい。なんか、……もう色々と。



 命の終焉を覚悟し、視界と思考が暗闇に包まれる中――、コツンと響く音と共に何かに触れた感触が伝わる。


 目を開き、姿勢を起こしてみると、そこには先ほど食べられたのであろう岩の残骸が転がっていたのである。

 解ける様に徐々に形を崩していく岩の上で、俺は自分の体へと手を這わせては、何故無事なのかと首――もとい、体を傾げる。



《特性『物理攻撃無効』の効果により、胃酸による分解作用を抵抗レジストしています》


 ”例の声”が、まさに疑問に答えるかの様に頭の内で響き渡る。


 胃酸の分解作用は、物質による干渉だ。その為、特性の『物理攻撃無効』とやらが働いて、俺の体が分解されるのを防いでいるらしい。

 これはいよいよ本格的に、俺はバケモノになってしまった様だぞ。


 先の問答を含め、俺は”声”の正体に関して、一つ見当が付いていた。

 丁度向こうから話しかけて来たタイミングでもあるし、気になったら知りたがりな性分が疼いて止まらない。



 ――なぁ、声! お前は”核”なんだろ?



 問答の件から、心の声とは言えども向こうに届いているのは分かっている。

 しかし、相変わらず返答はない。いくらタイミングの良いやり取りでも、一方的な部分は変わらないようだ。


 だが、まあいい。おおよその見解には、間違っていないはずだ。意思はあれども自我を持たず――、そんな所なのだろう。宝珠の様な姿をした核なのだから、生物と言う方がおかしな事だ。



 とりあえずは、胃酸の中でも体の無事が確約されたと分かった所で、今度はこのバケモノの体内から脱出する方法を考えねばならない。


 脆くなり始めた岩の足場を進み、奥へと歩みを続ける。

 しばらく歩いていると、胃酸の中から自然と抜け出す事が出来た。いくら分解はされないと言っても、纏わりつくようなドロっとした感触は、正直気持ち悪かったのが本音だ。



 どこかの内膜だろうか――。足から伝わる柔らかい感触から、まるでマシュマロの絨毯を踏んでいるかの様だ。


 すると、視界前方にて、青白く光る結晶の様な物があるのに気が付いた。

 それは内膜と癒着しており、何かの器官の一つにも思える。



 『観察眼』を発動させてみると、『魔晶石ましょうせき』――という物のようだ。

 そして俺は、この化け物の生態を知ることになる。



――『魔晶石』

「魔物における命の源、魂の依代。大量の魔力を含んだ魔石が、上位変化した物。通常の魔石よりも多い魔力と、高い濃度を誇る」



 『観察眼』で表示された説明文によれば、どうやらこのバケモノは”魔物”というらしい。そして魔石なる物の上位版として、こいつの持つ魔晶石とやらが、おそらく心臓的な立ち位置なのだろう。


 魔物なんて、とびきりファンタジー要素たっぷりな事例だが、もはや今更と思えなくもない。地球における害獣の、何倍も獰猛で脅威的な生き物――、って所だろうか。

 いやいや、そんな可愛いレベルではない。もはや俺の感覚はマヒし始めているなこりゃ。

 


 俺は体を横へと振り、目の前の”それ”へと意識を戻す。


 奴は俺を捕食し、先の勝者となった。それは認めよう。だが、実際には俺は生き延びた。そして奴の命は今、俺の手の届く場所にある。やられたらやり返す――、倍返しは世の常識だ。



 俺は体から神経を新たに一本伸ばすと、それを目の前の魔晶石へと添えた。

 そして瞼を閉じ、集中力の全てを”とあるイメージ”の一点に行使する。


 イメージするは――、脳における前頭葉が司りし、『精神』。



 暗闇の中で――、細く輝く光の筋が、複雑に、そして無数に、張り巡る様に広がっている不思議な光景。

 一本一本の筋には、瞬く間に白い光が何度も流れ、点滅を繰り返している。


 シナプスの中と言うべきか――。大食イーターの意識の更に奥、まるで深層世界へと直接ダイブしているかの如く、俺の意思の全てで感じ取る様に”視る”事が出来る。



 その中でも他の筋より太く、継続的に光り続ける一本の筋が気になり、それを辿って行く――。

 まるで高速移動をしているかの様に、無数に輝く光の筋が一気に後方へと流れていき、暗闇の世界で幻想的な直線美の光景を描いてゆく。


 それは瞬く間に脳を通り過ぎ、折り返す様にしては、白く輝く小さな光へと辿り着いた。

 それが何なのか、不思議と感覚的に理解出来る。



 それは――、『魂』。



 どうやらここが意識の終着点であり、ゴールらしい。ならば、ゴールテープはどこだろうか。


 小さな光に意識を向けると、その光は粒子の様に分散した後、再び集約しては”とある言葉”を形作った。



 その言葉は、『食欲』。


 そして一つの情報が、俺の意識へと流れ込む。


 ――『魂言こんげん』。

 どうやらこの小さな光だった物は、”魂言”と言って、意識とは別に魂に刻み込まれた”絶対本能”のようだ。


 

 なるほど、つまりこいつは”食うこと”を何よりも最優先してるって事だろう。

 大食イーターは本来――、『土食イーター』という土を主食とした魔物が、いつしか生物も捕食するようになり、大量の魔力を得て進化した突然変異体なのだと、『観察眼』様が教えてくれていたのだった。



 ――さて、そろそろこの戦いにも幕を下ろそうじゃないか。最後にチェックメイトの駒を握るのは、お前じゃなく――、”この俺”だ。



 持てる限りの全てのエネルギーを高めて試みるは、魂言への強制上書き。


『食欲』と表示されていた魂言が、砂嵐の様に激しく揺れた後、新たに一つの文字を形作った。



 それは――、『消滅』。



 その瞬間、魂言は拡散し、無数の小さなシャボン玉の様になった。



 深層世界から意識を戻した俺は周囲を見渡してみると、大食イーターの体が段々と透明化していき、最終的には何も残らず消滅したのを確認した。


 そして、残っていたシャボン玉の様な物が、俺の体内にスーッと入り込んでくる。



《レベルがEに上がりました。レベルアップに伴い、ユニークスキル『透視』が解放されました。エクストラスキル『超干渉』を取得しました。ユニークスキル『透視』、スキル『探求』を取得した事により、オリジナルスキル『真実眼』を取得しました》



 何やら雄弁に語る”例の声”。

 レベルが上がっただとか、スキルを複数取得しただとか言っていたが――、確認は後回しにする。なんだか疲労感にも似た気だるさが、全身を包み込むのだ……。


 訳の分からない世界に来て、訳の分からない姿になって、巨大な化け物に襲われて、下手したら死んでいたかもしれなくて、それでもなんとか生き延びて――。

 

 あぁ――。考えれば、疲れ果ててもおかしくはないか……。




 俺は疲労感そのままにグッタリと俯き、ピチピチと足音を鳴らしては、静かに帰路へと着くのだった――。

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