三十六話 失われた鍵を求めて
『エリセド』の街中に多く存在する飲食店。その中でも開放感を充実させることにコンセプトを置いている軽食店があった。白い外装に、店内の入り口側とそれに接する両面の壁はガラス張りとなっている。外には屋根付きの広いテラスがあり、テーブルにチェアーやソファーなどが設けられている。その快適な空間を演出しているテラスカフェに、ミラ達の姿はあった。
裏オークションは午前中で終了し、午後の部もあるそうだが目的の物は入手したので参加はしなかった。テラスにいるミラ達は長方形のテーブルを囲んでは、昼食を取り終わったところのようだ。片側の二つのチェアーにはミラとマインが、もう片側のソファーにはルルとナオミが一緒に座っている。ジークはいつも通りテーブルの中央に仁王立ちする形となっていた。
「グルーエルは手を出すなと言っていたが、俺達が求める物を盗んでいたとなれば話は別だ。最悪の場合、怪盗ルパンの名を語る愉快犯から鍵を取り戻すぞ!」
ジークの決意の表明に、各自は真剣な面持ちで一つ頷いては意思表示を現した。
グルーエルの話だと、神之欠片の地図が保管されているケースの鍵は、数年前に怪盗ルパンによって盗難にあったのだという。地図はもう何年も落札されていなかったらしく、入札を希望する者は簡単には現れないだろうという考えから、盗難にあった鍵については対処が保留になっていたそうだ。怪盗ルパンについても、現れ始めた当初は警備団や捜索隊を回したそうだがその足取りは一切掴めなかったという。又、盗まれた他の品についても一つも見つかっていないことから、余計に対処が滞っていたそうだ。
「まずは二組に別れて情報を集めるぞ。俺とマインの二人は鍵についての情報を集める、ミラとルルとナオミの三人は街で怪盗ルパンについての情報を集めてくれ」
「「「了解!」」」
マイン、ルル、ナオミの三人は任務を請け負うということで真剣な面持ちで返事をしたのだが、その中で一人、ミラだけは耳をペタンとさせて小さく返した。
「……了解」
領主館の門の前、そこにはマインの姿があった。
グルーエルの所在についてはジークが『千里眼』で領主館の自室だと確認していたので、マインを単独で向かわせていたのだ。
鍵についての情報を集めるジークとマインのペアは、グルーエルからの話からと、ケースを直接調べるという二つを目的にして、効率化を図る為に二手に別れていたのだった。
ウシをベースとした門番の目の前にマインは位置すると、さすがに三度目の訪問とあれば顔を覚えていたのか、最初は頑なに入門を拒んでいた仏頂面の門番もマインの姿を捉えるなり何も言わずに門を開いた。
「感謝する」
通り過ぎる間際にマインは一言放つと、門番は静かに一つ頷いて返していた。
グルーエルの自室へと訪れたマインは、大理石のテーブルを挟んで向き合うように座っていた。グルーエルが部屋に備え付けてあったポッドを利用し、お茶を入れていたのでマインはそれを優雅に味わっている。
グルーエルは石製のティーカップを口に当てて、一つ喉を鳴らしては口を開いた。
「さて、午前中ぶりですね。なにかお忘れ物ですか?」
「鍵についての情報を知りたくて参った。そもそもどのような鍵だったのだ?」
「鍵ですか、そうですねぇ……。一言で言うと特殊な鍵ですね。頑丈である素材自体もそうなのですが、あれには固有魔法が込められているんです」
「固有魔法?」
目を瞑り優雅にお茶を口にしていたマインだが、聞きなれない言葉にグルーエルを視界に映した。
「えぇ、そもそもケースと鍵は対となっているんです。あれは人間の大陸から取り寄せた品でして、単純に型に合わせた鍵を複製しても、ケースと鍵を作り出した同一人物の魔法を込めないと意味をなさないのですよ」
「……つまりは新たに鍵を作るにしても、以前にケースを作った同一人物に作らせないといけないのだな?」
「そういうことですね。それに型から作るようになりますし、素材も楽には手に入らない為、一朝一夕には出来ませんね。それが私がスペアを持っていなかった理由でもあります」
「そうか……新しく作るのはすぐには無理なのだな。ならばいい、鍵はこっちでなんとかする」
「よろしいのですか?」
「大陸間の移動だけでもそれなりの日数がかかるだろう、悠長には待っていられない。ちなみにだが鍵はどういった見た目や材質なのだ?」
「そうですか……鍵の外見は、金色に輝いて細かい彫刻もされていますので豪華ですよ。使われているのは頑丈性と魔力誘導性に優れた物の為、ほとんど金属ですね。詳しくは私にも分かりませんが」
「そうか、十分だ」
鍵についての必要な情報を粗方聞き出したマインは、ティーカップに残ったお茶を最後に一口で飲み干し、席を立っては帰る為に扉へと足を進めた。マインはふと扉の前で立ち止まると、横目でグルーエルへと声をかける。
「そうだ、一つ言い忘れていたが……私達はなんとしても地図を手に入れる。例え怪盗ルパンとやらを敵に回したとしても……な」
そう言い捨てると、扉を開けて部屋を後にしていったのだった。
一人部屋に残ったグルーエルは、マインの立ち去った後の扉を見つめているが、その表情は険しく歯をギリギリと音を立てては小さく舌打ちをしていた。
一方、マインが領主館でグルーエルと鍵についての話をしていた際、ジークはカジノにある倉庫の前にいた。そこは、裏オークションに出品される品々が保管されている場所であった。あらかじめ『千里眼』で神之欠片の地図が入ったケースの場所を特定していたので、転移にて倉庫の前へと来ていたのだった。
グルーエルから鍵を盗まれたという話を聞いた後、ミラ達はケースごとの受け取りを願ったのだが、ケースと鍵はカジノ側の所有物であるからと断られていた。そしてグルーエルは鍵を用意するまでの間、カジノにある保管庫にてケースを一時預かるという形を取ったのだった。
人目を避ける為に目玉の姿のままのジークは、倉庫のドアノブの上に腕を組んで立っていた。
「やはり、視るだけでは情報が足りないか。一度直接触れる必要性があるな」
ジークはそう呟くと、一本の神経を伸ばし始めた。
実はケースを『千里眼』で確認した際、部屋の中も視た時にいくつか防犯対策が施されているのが分かっていたのだ。部屋中に無数に張り巡る赤外線感知システムと、床に設置された重量感知システム、そして一つしかないドアが不正に開いた際の警報システムが設置されていたのだった。
伸ばした神経を鍵穴から部屋の中へと侵入させ、『千里眼』で確認しながら張り巡る赤外線をクネクネと躱しては目標まで神経が辿り着き、静かにケースへと接触させた。
(リーナ、どうだ?)
《……。……。――解析完了。どうやら固有魔法が付与されているようなので、私の能力で鍵を複製してもケースを開くことはできないです》
ケースへと神経が接触したことにより、ジークの体の一部である神経を通してリーナにケースの解析をさせたのだった。
(固有魔法?)
《妨害・防御系の上級魔法に見られる高度な特殊効果で、魔法を発動した個別対象のみ干渉することが出来るものです。このケースには、氷魔法の凍結効果により施錠封印が施されているようです。鍵の方には施錠解除の魔法が付与されているはずです》
リーナの説明に、ジークは腕を顎の位置へと当てた。
(人間の大陸と交友のあるこの街からすると、おそらくケースと鍵は人間の大陸から入手した物と見ていいだろう。製造に時間のかかるであろう鍵自体は能力で複製して、その後一度人間の大陸へ足を運んでケースを作った本人に解除魔法を付与してもらったほうが得策か?)
《それは……不可能かと》
少し声のトーンを落として呟くリーナのセリフに、ジークは首もとい体を傾げた。
(どういうことだ?)
《解析結果と共に、付与された魔法の個別魔力情報を得たのですが……》
そこで言葉を詰まらせるリーナ。
ジークはリーナの態度と、付与されているという魔法の系統からあることを察し始めていた。
(まさか……じいさんか?)
《です……》
ジークの不穏な予想は的中した。ケースと鍵にかけられた上級氷魔法は、かつて死を看取った友である氷結の魔導士ナオヒロのものだったのだ。
(そうか……)
ジークは小さく一言呟くと、静かに神経を元に戻していった。そして合流場所にしていた宿へと、無言のまま転移したのだった。
街の中で怪盗ルパンの情報を集める役目を請け負ったミラとルルとナオミの三人は、ルルとナオミが並んで先頭を歩き、その後ろをミラが付いていく形となっていた。
不思議と気が合うのかルルとナオミは笑顔で談笑しながら徘徊しているのだが、ミラは一人浮かない顔をしていた。
耳をペタンと垂れさせ、肩も若干下がり気味のミラはその足取りも重そうだ。張り詰めたような暗い表情で、小さく溜息もついている。
(はぁ……。ジークさん、マインさんとペアを組むって……やっぱりなにかあったのかなぁ。あの夜のことも聞けないし、思い出すだけで胸が張り裂けそうになってくる……。ジークさんにこんなこと言えないし、誰にも相談なんて出来ない。情報収集は私の得意分野だから街でってのは分かるんだけど……でも、前みたいにジークさんと組みたかったなぁ。今ではいつの間にか仲間も増えて嬉しいんだけど……でも、その分なんだか私の居場所が無くなっていくような感じがする……)
俯いて考え込みながらフラフラと歩くミラに気が付いたのか、ルルは振り返って首を傾けた。
「ミラお姉ちゃん?」
「へっ!?」
急に話しかけられたことで、驚いたミラは体を一瞬ビクっとさせると、拍子抜けな声を発した。
「元気ないけど、どうしたの?」
「う、ううん! なんでもないの。さ、行こ行こ!」
気を遣わせまいとするミラは無理矢理に笑顔を作ると、かけ足で二人の中央へと足を進めては、並んで同じ歩幅で歩き出して行った。だが、ルルはそんなミラを見上げては、何かを感じ取るかのように見つめていたのだった。
三人は誰に話を聞こうか辺りを見渡しながら歩いていると、ふと一人の人物に声をかけられた。
「あらぁ~ん? 昨日の子達じゃない」
その声の主は、昨日ミラ達が訪れた香水屋のバケモノもとい、店主のクリスだった。
「あ、昨日はありがとうございました」
「ありがとうございます!」
ミラとルルは香水をサービスでもらった件のことで頭を下げてお礼をすると、ナオミが一歩前に出ては軽く手をあげていた。
「よっ!」
「あら? ナオミじゃないの。あんたどうしてこの子達と?」
「カジノで偶然合ってねぇ~。そこから一緒ってわけ」
「どうせまた負けたんじゃないのぉ?」
「うっせーし!」
どうやらナオミとクリスは顔見知りのようで、ごく自然に会話をしていた。それを目にしたミラとルルは顔を見合わせると、ミラが二人に向かっておもむろに口を開いた。
「あの~二人は知り合いなんですか?」
ミラの問いに、ナオミは腰に片手を添えて答える。
「あぁ……お互い人間の大陸にいた頃、クリスとは昔一緒に冒険者家業してたのよ。そんである時、この世界には美が足りない! とか言い出して急に冒険者を辞めて洋服屋を開き出したのよ。そして亜族の大陸に移り住んだと思ったら今度は香水よ。私は気楽な冒険者のまま付いてきただけだけど、クリスは移り変わり激しく商売してるわね」
「もうナオミったらぁ~、これでも惚れた男には一途なタイプなのよ」
「聞いてねーし!」
ナオミとクリスのやり取りに苦笑いを浮かべるミラだったが、ハッと自分の役目を思い出した。
「あの、クリスさん! 怪盗ルパンについて何か知ってますか?」
「怪盗ルパン? そうねぇ~」
クリスはその太い腕から伸びる一本の指先を、真っ赤な口紅を塗った分厚い唇にポンポンと軽く当てていた。
「聞いた話になるけど、怪盗っていう割には街の人達からするとイイ意味で人気があるようねぇ~。なんでも物語の主人公らしくて、英雄らしいわよ。まぁそれだけじゃないみたいで、実際にはその怪盗さんが貴族達から物を盗むことを面白がっているようねぇ」
「盗むことを面白がってるんですか?」
「えぇ、金持ちが私利私欲の為に持っている貴重品を盗まれることで、街の人からすれば、ざまあみろっていうことね。本物しか盗まないらしいから、金額的にはどれも相当な物でしょうしねぇ。ま、覆面してるらしいからイケメンかも分からないし私は興味ないけどねん」
ミラは笑みを含めているものの、若干顔を引きつらせながら最後の質問をした。
「そ、そうですか。ちなみに盗まれるのってどういった物が多いか分かりますか?」
「確か、金や銀が使われている綺麗な腕輪だったりグラスだったり、それこそペンとかもあったらしいけど、狙われるのは効果よりも物自体の価値が高いものなのかしらねぇ? その中でも煌いて輝く物が怪盗さんはお好きみたいよん」
「ありがとうございます!」
その後四人で軽く会話を済ませると、ミラとルルとナオミの三人は宿へ戻る為に足を進めて行った。
元来た道へと足を進める三人だったが、ふとミラは通り過ぎる人の中に気になる人物を捉えた。
(今のって……)
一人立ち止まってその人物の後ろ姿を見つめるミラは、咄嗟にルルとナオミへと声をかけた。
「先に戻ってて! 後から行く!」
「ミラお姉ちゃん!?」
「ちょっと! どこ行くのよ!」
声を荒げるルルとナオミの言葉を置き去りに、ミラは人込みの中へと消えて行ったのだった。
とある飲食店、その店内はいくつかの丸型の木製テーブルと四角の椅子が無造作に備え付けられており、若干のアルコール臭と料理の匂いとが店内中に入り混じっている。その店では人間の大陸から仕入れたお酒が提供されるようで、まだ昼間だというのに数人の客が店内にまばらに位置している。
ミラは丸型テーブルの席へと腰を下ろし、耳をピクピクとさせて背後に集中しているようだった。ミラの背後にはカウンターがあり、そこに座る一人の男を気にかけていたのだ。
男はジョッキに注がれたお酒であろうそれを手に持ち、大きく喉を鳴らして飲んでは豪快に息を吐きながら口からジョッキを離した。そして不気味な笑みを零しながら懐に手を入れると、黒い布に包まれた一つのある物を取り出した。包まれた布を一枚、一枚と捲っていくと中のそれが姿を現した。真っ白な輝きを放つそれは、ジークが元所有していたプラチナ水晶だった。
「プラチナ水晶か、確かに綺麗なんだろうが俺はこんな物に興味はないな。しかしこれが百エル銀貨もするとは考えられないが、これを欲しいっていうあの人のほうがもっと考えられないか。まぁそんなことはいい、依頼料として結構金ももらえたし、今日はプラチナ水晶さまさまってことで飲むか。どうせ夜まではヒマだしな。いっひっひ」
男はそう独り言を呟くと、不気味な笑いを零していた。
ミラは静かに立ち上がり、テーブルの上に一枚の銀貨を置くと席から離れて行ったのだった。
宿の前へと戻ってきていたミラは、ふと同じタイミングで宿へと向かう数名の集団を目にすると足を止めた。
「あ、確かグルーエルさんのところの……」
声をかけられた集団はミラに気が付くと、全員が軽く頭を下げては一礼していた。その集団は背中から小さな黒い翼を生やし、黒を基調とした服に白のエプロンを付けたグルーエルの館にいたメイド達だったのだ。
その中から一人の人物が前へと進み出てると、微笑みながらミラへと言葉を返した。
「メイド長を務めておりますアローメルと申します。グルーエル様のお客様ですよね、同じ宿を利用していたとは奇遇でございますね」
「メイドさん達も宿を利用しているんですか?」
「えぇ。領主館にもメイドが寝泊まりする部屋はございますが、なにぶん部屋数よりも従業員の人数のほうが多いので、領主館に泊まる組みと、この宿に泊まる組みとで一週間交代で利用しているのでございます」
「そうだったんですね! 昨日は気付きませんでしたよ。アローメルさんはメイド長なのに交代もするんですね!」
「メイド長だからと言って、領主館に専用の個室を得るのは私は良しとしませんの。逆に私は宿に専用の個室を設けてもらい、その分領主館側が空くので若いメイド達に利用させているのですわ」
「わぁ……メイドの鏡ですね! メイド長なのにどこまでも謙虚なその姿勢尊敬します!」
「うふふ、ありがとうございます」
アローメルは一礼すると、それに合わせるかのように背後のメイド達も一礼しては宿の中へと足を進めて行った。
「かっこいいなぁ」
ミラは一言呟くと、同じく宿へと足を進ませて行ったのだった。
二部屋借りた部屋の一室にて、そこには全員が集まっていた。ミラとルルとナオミの三人はベッドに腰かけ、マインは木製の椅子へと座り、ジークはテーブルの上へと位置している。
ちょうど集めた情報を出し合ったところのようで、腕を組むジークは口を開いた。
「集めた情報は各々が出した通りだな。期待していた以上の収穫だ、みんなよくやってくれた。最後にルル、何か感じたことはあったか?」
その質問は曖昧なものだったが、ジークの中ではルルの勘は意外と的を得ている時があると評価していた。それゆえ、曖昧な情報を嫌うジークであってもルルの発言には情報の一端を担うと一目置いていたのであった。
「ん~……怪盗ルパンは、知っている人な気がするかなぁ」
「そうか。よし、出揃った情報を纏めて作戦を立案する。少し時間をもらうぞ」
ジークはそう言うと、目を閉じては思考の中へと意識を落としていった。
まず鍵を入手する手段として複製と奪還を検討したわけだが、集まった情報の中で複製は不可能だということが分かった。ケースにかけられた固有魔法と対となるものを、同一の術者の手によって鍵に付与しなければならない。それはリーナの解析で対象がナオヒロのじいさんだと分かった時点で不可能だと判断した。他界してしまいこの世に存在しない者に、魔法の付与は出来ないからだ。一応リーナに俺の中に眠るじいさんの魔力と、不可侵の大陸で一度じいさんが使っていた魔法の視覚データとを解析させて『氷属性支配』の特性を手に入れたのだが……これではダメなのだ。そもそも解析データと『素粒子支配』にて無理矢理引き出したようなものだし、俺自身が魔法を使えない以上、魔法ではなく特性にするのが限界だった。リーナの演算では俺が魔法を使えたとしたならば、じいさんの魔力を媒介として発動させることによってケースを解除することが可能らしいが、出来ないことにこだわっても仕方がない。他の方法を探るしかないのだ。
そこで残る方法は怪盗ルパンからオリジナルの鍵を奪還するわけだが、怪盗ルパンについての情報を纏めるといくつかあるな。一つは物の価値及び、貴金属系の物を盗む傾向がある。二つ目は贋作ではなく、本物の品しか盗まないこと。そして次が最も重要だな。俺が出品した水晶を落札した人物の特徴をミラが覚えていてくれたおかげで、街で偶然見かけたその男を追跡して得た情報だ。あの水晶には鑑定書はなく、他の客達の反応からしても最初からあの男は水晶を狙っていたと見れる。しかし男自身が水晶に興味はないという発言からすると、おかしな矛盾が生まれてくる。何者かに水晶の入札依頼をされた可能性が極めて高いな。おそらくはその依頼主が怪盗ルパンだろう。依頼をした人物は、鑑定書の有無ではなく紛れもない”本物”だと知っていたはずだ。それが分かれば限りなく正体が絞り込まれる。なぜならあの水晶が本物だと知っているのは、グルーエルの領主館の応接室で取り出したあの場にいた者だけだからだ。
鑑定書が無いから今回は入札希望者すらいないだろうと予測してサクラを用意して保険をかけたのだろう。だがな、今までは欲する物が落札された後に盗み出していたのに、今回に限っては入札という手段を取ったことが仇となったようだな。怪盗ルパンの正体は……間違いなく、あいつだ。
思考を終えたジークは目を開くと、真剣な様子で見守るみんなに口を開いた。
「今回は俺一人で動く」
「は!? ちょっとキモ目玉! あんた、考えるって言って目を閉じたと思ったらすぐそれ!? ホントに考えたの!?」
「お前が想像している以上に長い時間思考していた。俺の脳の情報処理能力を、お前と一緒にするな」
「偉そうにムカツクんですけど! あんた一人でどうにかするようだし、間違ってたら笑ってやるんだから!」
「そうなるといいな。万が一にも有り得ないがな」
「きぃいいい!」
ナオミはおもむろに枕を掴むと、怒りをぶつけるかのようにそれを力任せに左右に引っ張っていた。
ジークが意識の中で巡らせていた思考は、『光速思考』の特性にて現実世界で一秒も経っていなかった。ジークの特性を知らないナオミはそれゆえ、目を閉じてはすぐに開いたジークの姿に不信感を抱いたのだった。
ジークは軽く溜息を吐くと、全員を視界に収めた。
「さっきも言ったが今回は俺一人で動く。決行は夜、後は各自楽にしていてくれ。御苦労だった」
さぁ、怪盗ルパン。お前を暴き出して見せよう。




