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眼の異世界転生  作者: ビッグツリー
第三章 神之欠片を求めて~亜族の大陸編~
32/70

二十五話 ジークとクラマの思考戦

 次の日、市役所の会議室にてジーク、シチセイ、ジル、ドドマエルが集まっていた。それぞれが手に資料を持ち、一通り眺めるとジークが口を開いた。


「各自、目は通したな。では補足として説明を始める。まずはビビレッジとハピを一つの独立国とするわけだが、ドドマエルから譲渡される大陸自体を独立国とし、名を『ハピレッジ』とする。立地については合併させるわけではなくビビレッジは今まで通り村、ハピは街としてではなく町と改める。まあそんな難しく考えなくていいが、ハピはシアズムではなくハピレッジの管理下に置かれる為と解釈してくれ。そしてハピレッジの国王兼ビビレッジの責任者として村長のシチセイに任せる。まあビビレッジについてはムタを右腕として上手く使ってくれ。ジルは領主ではなく、町長としてハピの責任者だ。次に貿易についてだが、本国のシアズムとハピとビビレッジを三角頂点とし地下鉄を走らせる。これは俺の方で手配をしておくが、詳しい方法については省かせてもらう。数日もあれば可能だろう。ビビレッジを商品の生産体制と観光目的、ハピにて主な販売目的として図る。そしてシアズムからは、食料や衣服や消耗品など生活用品に関する物をまとめて定期的に購入する予定だ。本国へは行きたくても行けないのが現状だったし、こちらからの観光客も訪れることだろう。地下鉄は低料金で利用できるようにし、この貿易システムでかねと物資と人が効率よく回るだろう。こんなところだが、何か質問はあるか?」


 各自が遠い目で天を仰いでいる中、ドドマエルはおそるおそる手を上げた。


「素晴らしい案だと思うのだが、やり取りはどうするのだ?」

「これを使う」


 ジークはそう言うと、次元収納の中から新品の魔通機を一つ取りだしては使い方を説明した。ちなみにこの場のドドマエル以外はみんな個人の魔通機を所持している為、説明が終わるとジークは小さなゾウのストラップを付けて魔通機をドドマエルにプレゼントした。


「ちなみにハピレッジとシアズム間でのみ使える物と思ってくれ」

「こんな便利な物を作るとは、お主天才ではないのか!?」

「ただの知識だ」


 実はシアズムまで繋いでいる自動観測制御滞空機『とびますとびます』が、魔通機内にて保管するデータを送受信することで電波塔の役割を果たすことができるのであった。その為、使用可能区域はハピレッジとシアズム間となっていた。


「では各自、資料に書いてある通りにさっそく動いてほしい。ちなみにドドマエルは、仲介の話があるから少し残ってくれ」


 ジークの言葉にドドマエルは一人残り、シチセイとジルは会議室を後にしていった。

 ジークは前かがみになり、テーブルの上に両肘を付くと真剣な目つきでドドマエルを見据えた。


「単刀直入に聞く。人間の王クラマとはどんな奴だ?」


 ドドマエルは両腕を組み、天井を見つめながら少し思考すると、ジークを見つめては口を開いた。


「向こうでは、素晴らしい王だと話を聞く。だが、余には奴が恐ろしい男に見える気がするのだ」

「どういうことだ?」

「うーむ……言葉ではうまく表現できんのだが、確かに人間には評判がいいだけあって外面はいいのだ。ニコニコしてる優男であるしな。しかし……どこか恐ろしさを感じるのだ。こう、内に秘めたる邪心というかなんというか……お主に似ておるかもしれぬな」

「俺に?」

「そうだ。奴も相当頭が切れると聞く。そしてお主にも、余では検討も尽かぬほどの思考が隠されていると常に感じてしまう。それゆえどこか近しい存在に思えるのかもしれないな」


 ジークは顎に手をやってしばらく思考しては腕を組み、そしてこめかみを押さえたりと思考を巡りに巡らせると、一言だけ呟いた。


「なあ、過去に人間と亜族の戦争が幾度かあったはずだ。先に仕掛けるのはどっちだ?」

「だいたいは人間側だったはずだが」

「では、今結んでいる停戦を持ち掛けたのは?」

「人間側だな。もうこれ以上くだらない争いで血を流すのはやめようというのが、両者の王の意見だったそうだ」

「そうか……。わかった。それともう一つ、神之欠片かみのかけらはどこにある?」

「あ、それは……その」


 ドドマエルは急に挙動不審になり、頭をかいては目を泳がせた。そして開き直ったかのように腰に手を当てて笑いながら口を開いた。


「ガハハ! 実はな、詳しい場所は余も知らんのだ!」

「は?」


 ジークは呆れたまま言葉を失い、口を開いたまま眉間にしわを寄せた。


「とある場所に隠されているようなんだが、当然適正者が現れれば強力な存在が大陸に生まれる。だが適正者とはそう簡単に現れるようなものでもなくてな。本来なら王家にのみ伝わる書記にて場所が記されていたのだが、大陸の適正者を得たいが為に大昔に一度量産したらしいのだ。神之欠片かみのかけらの地図としてな。その時に書記は失われ、多くが拡散されたようだが……今ではおとぎ話のように人々に伝わっておるな」

「……その地図はないのか?」

「確か一つステールが管理していたはずだ。拡散した他の地図は……残念ながら時が経ち過ぎてそのほとんどが消失してしまったようだな」


 ジークは大きく溜息を尽くと、おもむろに立ち上がってはドドマエルに近づき背に手を添えた。



 ドドマエルは、一瞬視界が遮られると次の瞬間には見覚えのある場所に立っていた。それは、シアズムにて自分がいつもいる王の間だった。

 ジークがドドマエルと共に、シアズムへと転移したのだった。そしてジークは背後から静かに耳打ちすると、スッと消えていった。



 ジークは一度ミラの元へ転移し、状況を説明してからミラと共にステールのいたシアズムの地下アジトへと来ていた。それは、ステールが持っているはずという神之欠片かみのかけらの存在地が描かれている地図を探す為だった。


ジークは『千里眼』を発動し、妨害魔法にて隠されている可能性も考慮してミラの超感覚も合わせて詮索をしていた。


「んーないですねー」


 しばらく探していると、ミラが溜息を尽くように呟いた。

 それを聞くなりジークは頭をかくと、諦めたかの表情を浮かべる。


「俺のほうもダメだ。用心深い奴のことだ、きっと所持していたんだろう。そしてロックドラゴンに地図ごと食われた可能性が高そうだな」






 ドドマエルは自室へと移動し、机に向かっては真剣な面持ちで筆を走らせていた。それはジークに指示された、人間の王クラマへと宛てる手紙だった。


 その手紙にてクラマを呼び出し、話し合いの場を設ける為だ。

 すると、ドドマエルの自室にジークとミラが転移にて現れた。


「順調か? 奴と会う場所には、ここから出発してどのくらいかかるんだ」

「お主に言われたように書いてはおるが、こういう書き物とかは苦手でな……。ああ、行く分には一ヶ月もあれば着くであろうな」

「なら、一ヶ月後に落ち合いたいと追加しておけ」


 ドドマエルは目を丸くすると、筆を持つ手を止めた。


「これを書いたらすぐに出発すると言うことか?」

「いや、転移する。そうすれば一ヶ月の間は色々と準備をしておくことが出来るだろ」

「なるほどな」


 そしてドドマエルは筆を走らせ、その間にジークは細かい調整や今後について打ち合わせをした。


 手紙を書き終えたドドマエルは大きな安堵の息を吐き、ジークはそんなドドマエルとミラを連れてシアズムのすぐ外へと転移した。


「ドドマエル、お前は普通に門をくぐって帰国するんだ。さも今帰ってきましたという雰囲気を忘れるなよ。後は前日には迎えにくる。それまでに打ち合わせ通りに動いておけ、なにかあったら魔通機にて連絡を取り合える。いいな?」

「任せておけ!」


 ドドマエルは腰に手を当て大きく頷く。

 ジークはそれに小さく頷き返すと、ミラと共に消えていった。


 それを確認したドドマエルはシアズムを正面にて捉え、凛とした表情を浮かべては、大きく一歩ずつ足を踏み出していったのだった。


 




 ジークはミラと共に、何度か転移を繰り返しながら北へと進んでいた。座標データのない場所には転移できない為、『千里眼』で視覚限界まで確認しては転移してを繰り返していたのだ。

 二人が辿り着いた場所は、亜族の大陸の最北端に位置する街だった。


「ミラ、打ち合わせ通りにな」

「はーい!」


 そして二人は街へと足を踏み入れると、別行動を開始した。


 ミラは、何個か穴の開いた板にヒモがついた物を首から下げ、板を腹の前で水平に持っては穴の開いている部分に次元収納から特性ジュースの入ったコップを並べていた。

 たくさんの人の中でも、ミラは行商と思われる姿をしている”人間”に声をかけていた。


「こんにちわー! 行商の方ですか?」


 背中にリュックを背負い大きなカゴを持つ青年は、声をかけられた方を振り返った。


「こんにちわお嬢さん。うん、そうだよ。君も行商みたいだね」

「そうなんですよー! さっき初めて着いたばかりでして。お兄さんは、よくここに?」

「ここへはよく来るよ。僕は『トン』の近くにある村に住んでいるから、亜族の大陸ではこの街が一番近いんだ」


 さわやかな笑顔で答える青年に、ミラは笑顔を向けると特性ジュースを手渡した。


「これも何かの縁ですから、差し上げます!」

「いいのかい? ありがとう!」


 青年は手渡された特性ジュースを一口飲むと、驚愕の面持ちで手に持つジュースを見つめた。


「こ、これは! まさか噂に聞く、祝福のドリンク!? 南の方でたまに現れる行商の女の子が取り扱っていると聞いていたから、北の方にも訪れてこないかなーと思ってはいたんだけど、君がそうなのかい!?」


青年のあまりの驚愕ぶりに、ミラは若干引きつった笑みを浮かべた。まさか最北端のこんなところまで噂が流れているとは思ってもいなかったのだ。


「普段は南の方で販売していますから、多分……私なのかな? ははは」

「やっぱり! これはおいしいよ! うん、まさに祝福された気分を味わっているかのようだ!」

「そ、そんなことより!」


 恥ずかしさで若干顔を赤めながらミラは背伸びすると、強制的に話題を変えた。


「お兄さん、知ってますか。く、黒い……閃光の話」


 後半、顔を真っ赤にしながら小さく声にするミラに、青年は耳を近づけると小さく返した。


「なんだいそれは?」

「それはですね――」


 青年の耳に、ミラは両手を当てて周りに聞こえない様に話すと、青年は目を大きくさせた。


「……臆病犬ビビリ・ドッグの女の子がたった一人で?」

「どうやら本当らしいですよ。あ、獣人達には内緒ですよ。同じ亜族なのでみんなビックリしちゃいますから」

「うんうん。わかったよ。でもどうして僕に?」

「人間の大陸に戻った時の話のネタになるかなと! それに……お兄さんカッコイイから、特別です」


 にこっと笑顔を向けるミラに、青年は顔をほんのり赤くすると、満更でもなさそうに頬をかいた。


「人間には話しても構わないんだね?」

「はい! 亜族ではそんなの有り得ないと怒る人もいるかもですが、人間でしたら獣人の中には健気で幼い女の子が家族を守る為に戦ったという心温まるエピソードで伝わると思いますよ」

「うんうん。人間はそういうのに心打たれやすいんだ。ありがとう! いい土産話をもらったよ」


 二人は笑顔で手を振りその場を後にすると、ミラは立ち止まって空を見上げた。雲一つない晴天の青空に、小鳥が数羽飛び交っている。


(ジークさんに言われた通りにしたけど、うまく出来たかなぁ……。って、それより! 黒い閃光ってなに!? 戦ったあの人にも言われたけど、私のこと!? なによその恥ずかしい異名……)


 急にその場にしゃがみ込んでは、真っ赤な顔を両手で覆うミラ。

 しばらくすると立ち直ったのか、ゆっくりと立ち上がっては重い足取りで進め始めた。


(はぁ……。ジークさんに言われたことだし、一応私の仕事だからやらないと……。何回かこれを繰り返さなきゃいけないのかぁ……)







 その頃ジークは、キャップ付きの帽子を目が隠れるくらいまで深くかぶり、肩からバッグを下げ、いつもの黒いローブではなく灰色の雨避けマントを羽織って、翼を出しっぱなしにしていた。

 ジークのいる場所は、手紙や荷物を預かって運ぶ、いわゆる郵便局のような機関の施設だった。奇妙なその恰好は、配達員として変装していたのだった。本来なら元人間であり、なおかつ魔導士ナオヒロのおかげで手に入れた人間の体を他の種族に変化させるのは禁止していたのだが、飛翔の為に使用している翼はお気に入りで、いつも使用している飛翔の為のアイテムだと割り切っていたので翼だけは別扱いしていた。今回は翼を表に出しているだけで、空を飛ぶ配達員に成り済ませると考えていたのだ。

 受付にて立つジークは、目の前の女性に手紙を渡した。


「お疲れ様です。シアズムより来ました。人間の王クラマ様宛ての手紙でして、ドドマエル様からの物です。くれぐれも丁寧に扱ってもらい、早急に配達をお願いします。あ、シアズムの配達員許可証はこちらに」


 ジークはそう言って、ドドマエルの手紙と、身分証明にとドドマエルに用意させた許可証を提示した。


 それは、シアズムから手紙を配達するのではなく、亜族の大陸の一番最北端から手紙を配達することで、クラマの元へ届く日数を短縮させる為の手段だった。直接人間の大陸からスタートさせればもっと早いのだが、それではおかしなことになってしまうので亜族の大陸の最北端からのスタートが怪しまれずに一番効率よく手紙を送り出すことが出来るのだ。


 

 各自役割を終えた二人は街の外で合流すると、ビビレッジへと転移し帰還した。






 人間の大国『コル』の王城にて、クラマは椅子に座って脚を組みながら手に持つ手紙に目を通していた。

 部屋の中央には、かしずくサユリの姿がある。


「ふーん。どうやら亜族の大陸内で戦争があったらしいね。ドドマエルの軍が、小さな村に負けたってさ。圧倒的な人数差で、しかも相手は最弱の臆病犬ビビリ・ドッグの村だとはおかしな話だ。どうやら、その村にいる一人の人間が状況を覆したらしいねー」


 その言葉に、サユリは少し体を反応させると、静かに口を開いた。


「人間が……ですか?」

「そう書いてあるねー。ドドマエルはそこと手を組んだみたいだ。そして僕と話し合いをしたいみたいだね」

「罠ではないでしょうか?」

「可能性はあるけど、わざわざ人間の大陸内に話し合いの場を選んで来たんだ。罠は仕掛けていないってアピールだろうね。それに僕個人としては、その人間にすごく興味がある。うん、一度会ってみよっか」

「陛下がそう仰るのなら」

「一ヶ月後を指定してきているから、向こうはすでに出発しているだろうね。こっちは二週間もあれば着く。その間、少し準備をしておこうか。この人間について情報を集めておいてもらえるかい?」

「はっ!」


 サユリは深く頭を下げると、すぐにその場から退出していった。

 クラマは椅子に座りながらガラス張りの窓へと振り返ると、空を見上げながら笑みを零した。


(ステールは失敗しちゃったか。だけど、おかげで核の持ち主かもしれない人物の情報を得ることが出来た。手紙に書かれていた目撃の時期と、封印の祠にあった核の消失の時期はそこまで差がないから……おそらく黒の可能性が高い。これは一度会って、直接確かめてみたほうが良さそうだもんねぇ。計画とはちょっとズレちゃうけど、これはおもしろくなってきたかな)


 微笑むクラマの表情は、どこか不適で異様な雰囲気を放っていた。






 それから一ヶ月は目まぐるしいほどビビレッジ内は忙しく動いていた。


 ジークは三本分の地下鉄路線を地中に設置し、電力や地中の魔力を動力源とした搭乗可能人数最大二千人を誇る巨大な地下列車『チーチュートレイン』を開発した。二百人の搭乗を可能とする車両を十連結させ、その後ろには荷物や物資などを最大千トンまで積載可能な車両を連結させてある。完璧な運転制御とダイヤグラム制御を搭載しているので、安全で効率のいい乗り物が誕生したのであった。


 ビビレッジではシチセイとムタにより新たな人員配置が行われ、主に魔通機の量産と、観光区の商店街計画を実施していた。

 魔通機はハピの住人やシアズムの住人を視野に入れて、三交代制を取り入れ二十四時間の稼働で急ピッチの製造を行っていた。

 商店街の方は、主に村の特産品やトランプやオセロなどの遊戯玩具の販売、村でしか味わえない軽食店の展開を目的として準備を進めていた。


 ハピのほうでもジルとララの手腕により、万全の販売体制が整いつつあった。

 シアズムではドドマエルの帰還後、民衆に演説を行っては、大陸の一部譲渡とハピレッジの正式な受理が行われていた。生活用品などの販売体制と、ハピからの受け入れ体制の準備も着々と進んでいた。





――そして、時は来た。


 ジークはドドマエルにメールで事前に連絡を取り、転移にて自室へと訪れていた。それにはミラとマインも一緒である。


「準備はいいな?」

「うむ!」


 凛と一言答えるドドマエルを目にすると、ジークはその場の全員を連れて転移を行った。場所は、人間の大陸の南東に位置する小さな村だ。



 村の近くに転移したジークは、ミラに一言声をかけた。


「手筈通りに頼むぞ」

「はい!」


 ミラは元気に返事をすると、その場から舞い散る木の葉と共に消えていった。


「お前らも、手筈通りに頼むぞ。この機会は一度きりだ。次はない! 確実に成功させなければならないと思え。特にドドマエル、お前はあまり下手なことをしゃべらないようにしろよ」

「大丈夫だ。お主が何を考えているのかは分からんが、これも余の夢の為だ。必ず成功させる」

「私も、役目をきっちりこなせるよう精進しよう」


 ドドマエルとマインは、目に力を込め真剣な表情を見せていた。

 そして三人は、目の前にある村へと足を進めて行ったのだった。



 ドドマエルとマインは村の中にある宿屋へと訪れていた。木造の古風な作りは二階建てになっており、若干年季の入った外観と内装によりその印象を引き立たせていた。どうやら民宿のようで、各部屋にて宿泊が可能となっているようだった。年季は入っているものの、綺麗に清掃がされており不快感は不思議と感じさせていなかった。

 受付の奥から小さな暖簾をくぐって現れたのは、女将さんと思われる女性だった。年はそこそこいっているだろうが、着物を纏い身なりを綺麗に整えていることで若々しさを感じさせていた。


「いらっしゃいませ。お二人様でよろしかったですか?」


 丁寧に接客をこなす姿は、女将としての上品な物腰を物語っていた。


「うむ。余は亜族の大陸から参ったドドマエルという」


 その言葉に女将は少し目を丸くした後、さすがは女将と言うべきか、すぐに冷静さを取り戻していた。


「これは失礼を致しましたドドマエル様。クラマ様より伺っておりますので、すぐに部屋へと案内させて頂きます」

「うむ」


 背筋を正し、静かに足を運ぶ女将の後を追うように、ドドマエルとマインは足を進めていった。


 しばらくすると受付に一人の男がやってきた。女将とは別の女性従業員が受付へと出ると、一礼して口を開いた。


「いらっしゃいませ。お一人様でよろしかったですか?」

「ああ、一人だ」


 従業員の女性は受付を終えると、笑顔で部屋へと案内を進めていった。




――次の日の朝。

 別々に宿泊していたドドマエルとマインの部屋に、女将が訪れては声をかけていた。それは、クラマが到着したという知らせだった。ドドマエルとマインは女将に連れられて、きしむ渡り廊下に足を踏みしめてはクラマの待つ部屋へと向かっていた。

 女将が足を止め、中へと一声かけてはその場にしゃがみ込み、両開きになる襖の片方を両手で静かに開けた。

 広めの部屋の中心には黒光りする木造のテーブルが設置されており、こちらを向くようにクラマとサユリが並んで座っていた。テーブルの手前には二枚の座布団が用意してある。

 ドドマエルはクラマの向かい側に、マインはサユリの向かい側になる形で座布団に腰を下ろした。

 女将は茶色の急須にポットからお湯を入れると、お茶を入れた湯呑をドドマエルとマインの目の前へと置き、部屋を出て一礼すると静かに襖を閉めては去っていった。


 その場に四人だけになったことを確認したクラマは先に口を開いた。


「やあ、おはよう。今日も天気がいいね。ドドマエルは久しぶりだね、元気そうでなによりだよ。それと、隣の君がマインさんだね。手紙には人間としか書かれていなかったけど、こんなに美しい女性とは思わなかった。会えて光栄だよ」


 優しい微笑みで口を開くクラマをキッカケに、話し合いは始まった。


「うむ。久しぶりだなクラマよ。お主も変わらないようだな」

「初めまして、マインと申します。クラマ様との謁見の場に同席させて頂き光栄に思います」

「私はクラマ様直轄の近衛騎士団長サユリです。どうぞお見知りおきを」


 それぞれが挨拶を交わすと、まずは全員が一口お茶を口にした。

 

 そして最初に口を開いたのはやはりクラマだった。


「手紙にも書いてあったけど、君たちはやり合ったんだって? 驚いたよ。圧倒的な戦力差をマインさんがひっくり返したらしいね。”人間”として僕も鼻が高いよ。ドドマエルも年老いたってことかな? あはは」

「……」

「む? 余はまだ現役だ! 若い者には負けぬ! 今回は、あれだ。ステールの奴のせいだ」


 若干ムキになるドドマエルを尻目に、マインは目を閉じて静かにお茶を口へと運んでいた。

 ドドマエルを茶化すクラマは、視界に捉える二人の内、ドドマエルではなくマインに意識を向けていた。


(答えない……か。これは正体を隠しているということかな? 外見は人間のようだけど、魔法や擬態とか使えば見た目なんていくらでもごまかす手段はあるしねぇ)


 クラマはわざとらしくテーブルに身を乗り出すと、両肘を付き手の上に顔を乗せた。王とは思えぬその子供のような仕草に、マインも横目で意識を向けていた。

 それを察したクラマはにこやかに口を開く。


「マインさんは、その容姿もさることながら相当な実力の持ち主なんだろうねー。ドドマエルにはもったいないかな。良ければどうやって大軍を退けたのか聞いてもいいかな? ドドマエルの悔しがる顔を見たくてね」

「ぐぬぬ……」


 微笑むクラマに、唇を噛み締めながら赤面するドドマエル。そんな二人を尻目に、マインは静かに一言口を開いた。


「それは――」






 ジークは、畳の上に布団を引いて、その上に仰向けで寝転がっていた。頭の下には両手を置き、目を瞑っている。

 ジークはドドマエルとマインとは別に、二階に一室借りていたのだった。そして『千里眼』と『真実眼』、聴覚支配を駆使して話し合いの場に自分は存在せずとも介入していたのである。そう、ジークではなくマインを表に立たせることによって。

 マインは話し合いの場ではクラマの問いに一切自分の思考では受け答えせず、全ては会話回路を通じて指示されるジークの言葉を代弁するという、ジークの影武者だった。




 ジークはクラマの問いに思考する。


 

 こいつ、流れでうまくごまかしてはいるが、明らかに正体を探っているな。二回も探りを入れてきたってことは間違いないはずだ。おそらく人間ではないことに最初から気づいている。普通なら移動だけで終わるこっちとは違い、向こうには期間があった。ならばその期間を無駄にさせ、尚且つこちらの有利に持っていける状況に動かす手はない。だからあえてマインという人間と、不鮮明な情報を手紙に書かせたのだ。人間ではないマインをいくら調べたところで、人間の情報など得られないのは明らかだ。そして奴は今の問いで、更に絞り込むはずだ。


 


 

「それは、上級の爆裂魔法を駆使しただけですよ」

「へー。それは凄い才能だ」


 一言返すマインに、クラマはにこやかな表情で答えると、内心では表情とは違う不敵な笑みを浮かべていた。


(力については隠さないみたいだね。まだ目的がわからないけど、それに関しての交渉の手札といったところかな。うん、でもこれであと二つまで絞れた。マインさん、君は魔族かい? 精霊かい? 目的ごと君の正体も僕が暴いてあげるよ)



 クラマは、手紙を受け取ってから待ち合わせ場所へと移動開始するまでの約二週間、手紙に書かれてるマインという”人間”についての情報を探させていた。サユリからの報告では、人間の大陸の戸籍情報にはマインという人間はいないということ、又、ここ直近で行方不明者や捜索願い等も発生していないことから、マインは人間ではないと話し合いの最初から分かっていたのだった。

 そして、マインが上級魔法を使ったという証言から、主に身体機能を特化させて戦闘する獣人は魔法に疎い為、獣人という線も消したのだった。


(残るは魔族か精霊か。魔力が高く、魔法が得意な魔族の線が高いかなー。消去法を使えばこれは次で分かりそうだし、そろそろ目的のほうもいってみようかな)


 クラマはお茶を一口すすると、ドドマエルに向けて口を開いた。


「そういえばドドマエル、僕を呼び出したってことは何かあるんだね?」


 お茶菓子に夢中になっていたドドマエルは、ふいに話を振られたことで目を丸くし、思い出したかのように口の中のお茶菓子をお茶で一気に飲み干した。


「そ、そうだった! 実はな、このマインと共に新たな思想の大陸を築こうと思っておるのだ!」

「へーそれは興味あるね。一体なんだい?」

「『不可侵の大陸』をな、そこを住めるようにして種族の争いのない平和な大陸へと変えたいのだ!」

「あははははは! ドドマエル、君はほんとにおかしなことを言うね! 可能だと思っているのかい?」


 ドドマエルの言葉に、クラマは笑い涙を手で拭っていた。


「む? 可能だと思っておるぞ。お主も認めれば、あとは魔族と精霊の王だけになる。精霊王は多分だが認めるだろう、魔族のほうはさすがに3:1になれば認めるのではないか? それにマインがいるからなんとかなるであろう」

「君は相変わらずお気楽だねー。で、マインさんがいるとどう違うのかな?」


 その言葉にマインは少し沈黙した後、湯呑をテーブルに置き、真剣な面持ちでクラマを見つめた。


「私は、その理想の実現の為に、世界に散った四つの神之欠片かみのかけらを集めます」

「へー」


 クラマはその言葉に、微笑みを向けながらも、その目は笑ってはいなかった。






 ジークは二階の部屋にてその様子を観察していた。そして鋭い観察力から、クラマが明らかに神之欠片かみのかけらというフレーズに対して反応しているのを見抜いていた。


 思った通りの反応だな。強力な力を秘める神之欠片かみのかけらを全て集めるというんだ、当然だろう。だが、それについては目的である新たな大陸への思想の信憑性を高めなければならない。ここで奴を味方に付けれずに決裂してしまっては全てが終わってしまう。この思想に一番信憑性を持たせるには、マインをある種族だと思わせなければならない。争いを拒む平和的なあの種族ならば、奴に変な不信感を持たせずに済む。この話し合いでのこちらの勝利条件、それはすなわち”精霊”だと思わせることだ。





 クラマはマインの言葉に、目を閉じてお茶を口に含んでは思考を巡らせた。


神之欠片かみのかけらが目的ってわけだね。そしてそれを可能だとする自信は、おそらくは核を所持しているってことから来ているんだろうね。へー、これは凄くおもしろいことになってきたよ。もし可能としたならば、計画を大きく変えてもいい話だねこれは。むしろ利用させてもらって計画に組み込んでしまおう。だけど、その前に一つハッキリさせておかないとね。魔族か精霊か、両者はまったく反する種族ゆえに、それによって対応が大きく異なってしまうからね)


 クラマは微笑みから一転、真剣な面持ちでマインを見つめると静かに口を開いた。


「僕がそれを良しとはせず、君達を始末すると言ったら……どうするんだい?」


 マインはクラマの問いに、目を閉じながらお茶菓子を口にすると、静かに答えた。


「あなたは、そうはしないはずです」


 顔色一つ変えずそう答えるマインの姿に、クラマは大きく笑うと、両手を上へとあげた。


「あははは。参ったよ。君はおもしろいし、とんでもない女性だね。うん、気に入った! 僕も協力させてもらうとするよ。ああ、でも人間の大陸の神之欠片かみのかけらについては、すでに適正者がいるから一番最後にしてもらえるかな? 亜族の大陸の方は今のところ適正者はいないと思うし、先にそっちをお願いするよ。精霊と魔族のほうは、残念だけど適正者の情報までは分からないなぁ」


 にこやかに答えながら、クラマは内心大きく笑っていた。


(あはは。見抜いたね? これでハッキリしたよ。君は”精霊”だ。もし四大精霊の一人ならば、高い魔力も誇るし核の力も合わせればステールの軍だって壊滅できるだろう。それに確証を得たのは、精霊はウソを見抜く特性を持ってるからね。ここでそのカードを切らせてもらうのに、会話には少し気を遣ったよ。でも、魔族だと思っていたのに精霊だったか……。いや、魔族であってほしかったのほうが正しいかな。精霊ならば、ルルファのことを知っていてもおかしくはないだろうからねぇ)



 だが、内心で大きく笑っていたのはクラマだけではなかった。ジークもまた、その一人だったのだ。



 ククク。やはり使ってきたか。精霊が持つというウソを見抜く特性の利用を。だがな、それを逆に利用させてもらうのは俺のほうだ。クラマ、この勝負俺の勝ちだ!



 ジークは、『真実眼』によりクラマのウソを見抜くことで、精霊の持つウソを見抜くという特性を疑似的に再現していたのだった。




「さてと、いい話し合いの場だったよ。頃合いもよさそうだし僕達はこれで失礼させてもらうよ。人間の大陸に来た時にはそれなりに配慮はさせてもらうさ。では行こうかサユリ」

「はい」


 そう言って立ち上がるクラマとサユリは、ドドマエルとマインに握手をすると、その場を後にしていった。





 その頃ミラは人間の大国『コル』にて、ジークから預かったキャップ付きの帽子を目が隠れるほど深く被り、緩やかなロングスカートを履くことで尻尾を隠していた。そして特性ジュースの入ったコップを並べた板を持っては行商のふりをしていた。

 ミラは、通りすがる人に片っ端から声をかけると、特性ジュースを手渡していた。


「どうぞー! 美容と健康に効く特性ジュースを、ただいま試飲してもらっていますー! 感想をお願いしまーす!」


 一人のおばちゃんが手渡されたジュースを口にすると、目を丸くしていた。


「あら、これおいしいじゃないの! これで本当に効果があるなら、おばちゃん喜んで買うわよ」

「ほんとですか!? ありがとうございます! あ、そうそう聞きました? 黒い閃光の話」

「え、なになに」

「噂によると――」


 ミラはおばちゃんに耳打ちをした。

 それは、ミラの手によって手当たり次第に行われたのだった。






 クラマとサユリの退出後、ドドマエルとマインはしばらく無言でお茶を飲んでいると、クラマとサユリが村の外へと足を踏み出したことを確認したジークは、転移にてドドマエルの横に現れた。


「これで良かったのか?」


 心配そうな表情を浮かべるドドマエル。

 すぐには答えず、ジークは個別回路によりミラへと声をかけた。


(ミラ、こっちは終わった。そっちはどうだ?)

(はい! こっちもだいぶ人数を稼ぎました!)


 ミラとのやり取りを終えると、ジークは不適な笑いを浮かべ先ほどの問いに口を開いた。


「ああ。全て計画通りだ」







 村を出たクラマとサユリは、外に待たせていた馬へと乗馬すると、クラマが微笑みながら口を開いた。


「サユリ、帰ったらしばらくの間は警戒態勢を高めておいて。あのマインという女性、扱い方を間違えたら危険だからね」

「かしこまりました」


 そして馬の手綱を一つ打つと、二人は颯爽と大地を駆け抜けていった。






 ジークには名前しか分からない小さな存在、ルルファ。だが、クラマにとってはその存在は大きな物だった。このたった一つの情報の違いによって、両者の間には大きな差が生じていた。計画通りに穏便に事を進められたと思っているジークは、この両者に生じた大きな溝に、この時は知る由もなかったのだった。

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