二十三話 戦後の宴
国王クラマは、ドドマエルから送られてきた杖を両手で持ちながら眺めていた。
クラマの目の前には、かしずく近衛騎士団長サユリの姿がある。
「クラマ様、亜族の国王ドドマエルより送られてきた魔導士ナオヒロ様の杖です。他に帽子もあり、それがこちらです」
「ああ、それはいいよ。どこかに保管でもしておいて」
「はっ」
クラマはチラリとだけ帽子を見るとそう言い捨て、一緒に送られてきた手紙に目を通した。それはドドマエルが送った詫び状だった。
「どうやら魔導士ナオヒロは、獣人にやられちゃったみたいだねー。といっても毒針モグラに刺されてたみたいで、それが原因で死んだ可能性が高いけどね。この杖も本物だし、死んだのは間違いないだろうね」
「でしたら、その杖を見せて国民達に知らせるのですね? ナオヒロ様の死を……きっと多くの者が悲しみますね」
サユリは目を閉じて、静かにそう口を開いた。
だが、クラマの考えはそうではなかった。
「いや、国民達には内緒にしておこう。みんな悲しむし、国内で暴動でも起きたら大変だ。魔導士ナオヒロがそう簡単に死ぬはずないとみんな心の中で思っているはずだし、黙っていても不思議には思わないさ」
「なるほど。承知しました。では、私は失礼します」
「ああ。ありがとう」
部屋を出るサユリの姿を確認したクラマは椅子へと座り、杖を眺めては不適な笑いをこぼした。
(国民達に知らせる? とんでもない。今そんなことをしてもなんの意味もないしね。この杖は国民達を動かす一つの鍵だ。今は使うべきタイミングではない。ドドマエル、君は知らないだろうがよくやってくれたよ。だけど君は、そのうちステールによって殺されちゃうんだけどね。僕がステールに貸し与えた獣人の奴隷達も合わせれば結構な数になっているだろう。そろそろ動き出してもおかしくないかな。ステールが新たに王になれば亜族の大陸は堕ちたも同然だし、その後にステールのことは状況により利用するなり殺すなり考えるとしよう。でもこれで問題が一つ起きたなー。封印の祠には何もなかったって報告があったし、てっきりナオヒロのじいさんが核を持ってるものだと思っていたけど、それなら獣人にやられたりはしないはずだ。となると……別の何者かが核を持ってるってことになる。これは突き止めておかないと後々厄介なことになりそうだねー)
クラマは遠い目をしながら思考の中へと意識を落としていった。
ジークとジルは大広間へと着くと、すでに起き上がりあぐらをかきながら茶を飲んでるドドマエルの姿を確認した。傍にはミラ、マイン、ルルがいる。
ミラはジークの姿を確認すると、下を向きながらスタスタと近寄った。そして目の前に立つと、キッと睨み付けては説教を始めた。
「ジークさん! これで二度目ですよ! お風呂に入っている私の裸を見たのは! そしてマインさんや、ルルの裸まで……。いきなり目の前に現れるなんて、非常識だと思いませんか!? し・か・も! 今回見たのは生ですよ? 生! 生で見た感想はどうですか。どうなんですか! いいですか、女性の裸というのはそれはもう神秘なもので、むやみやたらと見てはいけないのです! それをあなたって人はあんな――」
ミラの説教が長そうなので、ジルはいそいそと大広間へ上がり込んでは、ドドマエルの傍へ行き床に正座した。
「国王様、お初にお目にかかります。私は『ハピ』の街の新領主ジルと申します。ジークさんとは友人の仲でして、今回ジークさんの配慮で同行させて頂きました。どうぞ今後ともよろしくお願いします」
深々と頭を下げて丁寧に挨拶をするジル。だがドドマエルはそうかしこまらなくてもよいと、掌をジルへと向けた。お互いが目線を交差させると、ドドマエルは静かに口を開いた。
「ハピの新領主か、報告は聞いている。井戸税の着服の件は、余の耳にも入っていなかったとはいえ、迷惑をかけたな」
今度は逆に頭を下げるドドマエルの姿を目にすると、ジルは慌てふためいた。国王自らが頭を下げるなど、あってはならない。そうジルは思ったのだ。
ドドマエルは下げていた頭を上げると、ふとミラへ視線を向けた。
「ところであれは一体なんなのだ?」
ドドマエルの問いにジルも同じ方向へと目をやると、少し肩を落としては口を開いた。
「あれは……おそらく、不慮の事故かなにかであの娘は裸体を見られてしまった。それについて怒っている。と、そんなところですかねぇ」
「ふーむ」
ドドマエルは目を瞑って少し思考すると、何かを思いついたように目を見開き、ポンと手を叩いた。そしておもむろに立ち上がっては、腰に手を当てて豪快に笑いながら口を開いた。
「ガハハハ! これ娘よ。乳のことで躍起になっているのであろう? 案ずるでない。お主のような小さき乳でも、幾多の男には需要というものが――」
ドドマエルは話の途中だったが口を開けたまま固まった。
なぜなら振り向いたミラの顔は引きつった笑みを浮かべ、禍々しいほどのオーラを纏っていたからである。
ミラは早足でドドマエルへと近づくと、引きつった笑みから般若のような形相へと変化させると、渾身の右ストレートをドドマエルの腹部へと叩きつけた。その衝撃は凄まじく、病み上がりのドドマエルはその場に崩れ落ちた。
その光景を目にしたルルは驚きによって口を押さえ、マインとジークはやれやれと頭を押さえ、ジルに至っては白目をむいて失神していた。ミラは自分の足元に転がるドドマエルを、まるで空気が凍てつくかと思うほどの冷酷な眼差しで見下しては一言呟いた。
「黙ってろ」
「ハイ」
腹部を両手で押さえながらミラを見上げるドドマエルは、あまりの気迫にそう一言返すしかなかった。
するとその時、駆け足でその場へとやって来た者がいる。ムタだ。
「旦那ぁ! これからセットするっすよ」
「お、おお。ナイスタイミングだ! 早急にやってくれ」
ジークはムタの肩を掴み深く頷くと、マイン達のほうへ視線を移しては声をかけた。まるで何かから逃げ出すかのように。
「というわけだ。マインとルル、手伝ってやってくれ。ミラも頼むぞ! お前がもてなしてくれるなら、俺も嬉しいんだ」
ジークのその言葉に、さっきまで憤怒していたのがウソのようにミラは小さくなった。その様子は顔を少し赤くしては、髪を両手でいじりながらモジモジとしていた。
「そ、そうですかぁ? そう言われると……私も嬉しいですけど」
ジークはミラの様子に内心ガッツポーズを決めた。
ミラ、マイン、ルルがムタの手伝いにと大広間を出ていくと、ジークは倒れ込むドドマエルの目の前にあぐらをかいた。ドドマエルもそれを確認すると、体をおこして同じように座った。
ドドマエルはジークを真剣な面持ちで見つめ、静かに口を開きだした。
「お主がジークだな、あの娘達に聞いた。先の戦争での長官らしいな。なぜ余を捕虜としない?」
その言葉にジークは軽く笑いの息を吐くと、真剣な表情を崩した。
「確かに、客観的に見れば戦争だろう。だがな、俺達はただ迫りくる脅威から防衛しただけだ。その中に巻き込まれて負傷したゾウを拾っただけなのに、捕虜とする必要がどこにある? まあ暴れるなら縛るけどな」
ドドマエルはきょとんと目を丸くすると、下を向いて震えだした。そして抑えきれずに上を見上げては高らかに笑い声を上げた。
「ガハハハ! なんとも面白い奴よ! 拾ったと申すか! だが安心せよ。戦いは終わったのだ、余は抵抗するつもりもないわ」
「そうだろうとは思ってたけどな。それと詳しい話は後だ。これからここで宴を開く。お前は村の客人としてもてなすから、とりあえず食って飲め」
「そうであったか! 腹も空いておるしな、いただくとしよう」
ドドマエルが大きく頷くと、それを合図にしたかのように村の住人達がたくさんの料理や飲み物を次から次へと大広間に運びだした。
それは農業区で栽培したものと、ハピから仕入れた品をふんだんに使用した総計二百人分の豪華な食事だった。ドドマエルは目の前に並ぶ数多くの料理に目を丸くし、心躍らせていた。
住人達が全員席に座り会場は静けさを取り戻すと、ジークは手にビールを持って一人みんなの前へと立った。
「今回、みんなよくやってくれた。おかげで負傷者を一人も出さずに済んだ。一人一人の想いが今回の結果を生んだのだと誇るがいい。そしてここに今いるドドマエルは敵ではなく、この大陸の国王だ。存分にもてなそうじゃないか。それでは、いただこう。乾杯!」
「「「「「かんぱーい!」」」」」
会場は各々が雑談し合い、笑い声などで活気に満ち溢れていた。いくつもの長テーブルがあるその一角にはシチセイ、ミラ、マイン、ルルと並び、その向かい側にはジーク、ドドマエル、ジルと並んでいた。
ちなみにシチセイはいつもの小さな老人の姿だった。潜在能力を全開放することで、戦闘スタイルである巨体へと変化するのだった。それは、優れた者しか使うことのできない『戦闘獣化』が、異常進化したシチセイ独自のものへと変化したのである。
ドドマエルは食事には変にがっついたりはせず、一つ料理を頬張っては吟味するかのように丁寧に味わいながら食事をしていた。ジルも目をキラキラさせながら食事をしては、うっとりしていた。
「これはどれも美味であるな! 余が今まで食したことのない物ばかりでこれほど楽しみながら食事をするのは初かもしれぬ。そしてこのビールとやらがまた食欲を沸き立ておる」
「ええ。ほんとにおいしいです。食べることでこんなに幸せな気持ちになるとは思いませんでした」
「ああ、これはハピから俺が引っこ抜いた定食屋の店長が作ったものだ。今ではこの旅館の料理長をしている。料理に対する好奇心が旺盛で、俺が作ったレシピ本を網羅して今ではアレンジまで加えてるほどだ」
ジークのその言葉に、ドドマエルは深く頷き、ジルは引きつった笑いと冷や汗を浮かべていた。
「これほどの料理人がハピにいたとは……はは。ジークさん、希望者はとか言いながら、しっかり唾を付けといたのですね」
「強制はしてないが? 誘ったのは事実だが、村に来たのは本人の意志だ。まあ、後からレシピ本をチラ付かせたら二つ返事だったけどな」
「あなたはほんとにズルイ人ですね! もう逆に尊敬しちゃいますよ!」
もう半分呆れかえったように受け入れたジルは、目の前からふいに迫りくる陰に気が付いた。それは、緩めのTシャツから胸が零れ落としそうな姿の、ジルの向かいに座るマインだった。手には小さなおしぼりを持っている。
「これジル、口に付いてるぞ。お前は小さいころから変わらんな」
ジルは、口に付いていた食べかすを笑顔でふき取ってくれるマインと、目の前に繰り広げられた巨大な胸のユートピアに顔を真っ赤にして放心していた。
会場の全員が一時間ほど食事を楽しんでいると、それなりに満足したのかドドマエルはジークに声をかけた。
「さてジークよ、簡単な話ならこの場でもいいのではないか?」
ジークは少し思考すると、手に持つビールを飲みながら何食わぬ顔で口を開いた。
「それもそうだな。じゃあ、とりあえず――大陸を”もらう”」
さも平然にとんでもないことを言い放ったジークの言葉に、シチセイとジルは飲んでいた酒を上を向いて盛大に噴き出した。ルルはマイペースに食事を続け、ミラとマインは手を止めて目を丸くしていた。ドドマエルも驚いた表情を浮かべていたが、自分の中で納得したのか、徐々に表情を曇らせていった。
「戦争でそちらが勝った以上、利益を要求するのは必然であろう……。しかし、大陸か……。お前達が本気で動けばこの大陸を支配することも可能な以上、政略的に引き渡した方が無難なのかもしれぬな。だが、一つだけ約束してほしい。どうか……民のことは無下に扱わないでもらえないだろうか?」
ドドマエルはその巨躯を小さくしながらジークを見つめた。だがジークは顔色一つ変えず、ビールを飲み干すと静かに右手をドドマエルの顔に近づけた。そして何をするのかと思えば、国王であるドドマルの額にデコピンを放ったのである。
それを見たシチセイとジルは案の定、盛大に噴き出した。
「おい、何勝手に自己解釈しているんだ。あの戦いでもその後も、ずっと俺のターンだ。いいか、俺は”もらう”と言ったはずだ。それは剥奪ではなく、お前が自ら喜んで大陸を俺達に譲る。そういうことだ」
すました顔で言い切るジークの言葉を、ドドマエルは筋肉で出来た脳で必死に考えるが、少し思考した後、考えるのをやめた。
「どういうことだ?」
「今回の戦争、お前達は俺達を葬る為に動いたのだろう? 大方、強襲してきたビースト部隊をたった一人で全滅させた力に恐怖し、本国や大陸が危ない、そう思ったんじゃないか?」
「その通りだ」
「いいか? 結論から言う。お前は騙されていたんだ。ビースト部隊の司令官ステールにな」
「なんだと!」
ドドマエルは驚愕した。この戦争が、かつてから陰で支えてくれていたビースト部隊の、それも司令官であるステールの陰謀だったとは微塵も思っていなかったのだ。
そしてジークは淡々と語り続ける。
「今回の戦争にかこつけて、奴は王の座を狙っていた。生半可にずる賢い知識があるせいで、かなり用意周到な奴だったな。あれほどの配下もそうだが、ロックドラゴンまで用意してるとはさすがに俺も読み切れなかった」
「伝説の幻獣ロックドラゴンをか!? なんてことだ……そんな報告は……」
ドドマエルの表情は青ざめ、大きく俯いてしまった。そして頭を押さえながら静かに口を開いた。
「ちょ、ちょっと待つのだ。順番に説明を……なぜステールは王の座を?」
「正確には本人以外知らんだろうが、おそらくは陰で仕えるのがイヤだったんだろうな。あれだけのビースト部隊の頂点に立っていることで、自分のほうが指導力が高いとか管理能力があるとか思い始めたのだろう。ああ、お前のお守りをするのも終わりとか言っていたな。奴の中では自分よりお前の方が下になっていたんだ。だから自分より下の者に従う屈辱と、ビースト部隊の司令官であるがゆえにどう頑張っても王にはなれない苛立ちからくるものだと考えるのが妥当な線だろう」
「なるほどな……。一番近くにいた余が気づかなかったのに、なぜお前は気づいたのだ?」
「考えてもみろ。お前は大陸最強と言われる戦える王だが、普通は戦争で王が死んだら終わりだぞ? 夢物語の世界じゃないんだ。それなのに頭の切れるステールが、前線にお前を組み込むのはおかしいと思わないか? どうせ先に敵を翻弄させて、その間に王の強力な力で一網打尽に! とか、そそのかされたんだろ?」
「うぐぐ……」
その言葉はまさに図星だった。反論できないドドマエルは、恥ずかしそうに下唇を噛むしかなかった。
「それが一つだ。もう一つ、あの陣形だ。形だけ見れば攻守一体とも思える陣形だが、その中身は違った。個々の戦力が明らかに攻性に偏っていたんだ。人数的には攻守半々に別けられてはいるが、本国を守備するはずの五十万の部隊が、途中で動き出したことで俺は確信した」
「なに! ステールは、後方の部隊で本国を守護するから動かさないと言っていたのだが……」
「そうか」
ジークはニヤリと口元を緩めると、ドドマエルに向き直ってはあぐらから片膝を立て、その上に腕を乗せた。
「その部隊はな、本国を守備する為じゃなく、お前を背後から打つ為の部隊だったんだ」
「なっ……」
「奴の思惑はこうだ。奴の勝利条件はこちらを壊滅させすることと、王を打つことの二つ。先行部隊で翻弄し、離軍した部隊で強襲をかける。そしてお前が率いる二十万の部隊で確実にこちらを仕留める。先の三百人のビースト部隊の襲撃でこちらの実力が相当なものだと知ってる奴は、お前が戦いで死ぬか、少なくともそれなりに負傷させることができるはずだと考えた。前方の部隊に組み込んで仮にこちらを壊滅させてしまってはそこで戦争は終わってしまう。そうなるとお前を打つことができなくなる為に、大きな乱戦時にあえて突撃することになる中間の部隊にお前を組み込んだのだろう。そして背後から五十万の後方部隊を送り込んで、乱戦に紛れてお前を打つ。臆病犬の村など、どのタイミングでもなし崩しで壊滅するはず。奴は、そう計画していたはずだ」
「あの戦争には、そんな陰謀が隠されていたのか……」
「ああ。だから、おかげで大変だった。なにせこちらの勝利条件が増えてしまったんだからな。ただ防衛するだけならお前らを一匹残らず一掃するだけで済んだ。だが王もいる、ステールの陰謀もあるとなると、こちらの勝利条件は四つに増えた」
ジークはそこまで説明すると、グーにした右手を前へ出し、一つ一つ説明するごとに指を上げていった。
「一つは、この村の絶対防衛だ。誰一人死者を出すつもりはなかったからな。二つ目、ビースト部隊のみを選別して倒すこと。戦闘本能が異常に高いやつらを放っておけば、いずれ第二、第三のステールが現れるかもしれないからな。三つ目、国王ドドマエルを殺さずに無力化すること。俺達はこの大陸にケンカを売りたいわけじゃないから、お前を殺すなど問題外だった。そこに陰謀が絡んでるとすればなおさらだな。そして最後の四つ目は言わずもがな、黒幕であるステールの始末だ。まあ、ハイエナをベースにしていたから、らしいと言えばらしい姑息な奴だったな」
「ふーむ、なるほどな。余は戦場で戦っておる者が全て、力があればどうにかなると思っておったが、この戦争はお主とステールとの戦いだったのだな」
ドドマエルは全てを理解し、深く頷いていた。
すると突然ムタがひょっこりやってきては、ミラになにやら耳打ちをしていた。ミラは、ほんとにやるのかと小さく呟いては暗い表情を浮かべ、マインとルルに目で合図を送った。それを受けた二人は小さく頷いて立ち上がると、ミラとムタも一緒に大広間から静かに退出していった。
ジークはそれに気づいていたが、おそらくはムタが仕掛けた催し物の手伝いでもするのだろうと、特に気にせずビールを飲んでいた。酔うことはないのだが、料理も含めて地球で味わえるものを表現できている品は、気分的にもとても美味しいと感じていたのだった。
程なくするとムタがやってきては、会場の一番前へと立ち、腕を広げて大げさにアピールをしだした。
「さあみなさん! 程よくお腹も膨れて、お酒も回ってきたところで今回のメインイベントっす! 我らが旦那の功績と、国王様への敬意を込めて、晴れやかな舞台を用意致しましたっす! それでは登場してもらいましょう! 名付けて、『ご奉仕姉妹』のみなさんです!」
ムタの紹介を合図に、大広間に入った来たのは、普段の恰好とはまるで違うマイン、ルル、ミラ、そして数名の住人達からなる女性陣だった。
するとムタは、次元収納からマイク型拡声器を取りだすと、登場する女性陣の説明をノリノリで始めた。
「さあトップバッターは、珍しい魚人族の亜種! 賢く気高い彼女は、我等の戦闘指南役としてその腕はまさに一騎当千! その反面、誰よりも思いやりが強く、料理の腕もピカイチ! お嫁にしたいランキング堂々一位を飾るマイン様の登場だぁ~! 今回彼女が身に纏うは、大きく肩まで開いたピンク色のドレス。大きな胸は上半分まで露出されてその破壊力を増しているっす! ウエスト部分を細く設計し、そのくびれの細さも一目瞭然に仕立てました! 足元まであるロングドレスのすそを斜めにカットし、縦に段を入れることでより大人の魅力を引き立てます! そのスタイルの良さが全面的に出されたセクシーな彼女は、今回の一番の目玉っすよ! さて続きまして二番手は、この村での最年少。いつも元気で明るい姿に、村のみんなの心は癒されます! 幼さと可愛さを兼ね備えた彼女は、妹にしたいランキング一位! ルルの登場~! 白いミニスカートはヒラヒラを着けることで可愛らしさを表現し、上には袖のない赤い服、羽織るように白いレースを纏うことで、普段とは違うちょっぴり大人の雰囲気を演出しているっす! こんな彼女を見れるのは今日だけ! たっぷりご覧ください! さぁ~続いて三番手。村では子供のように可愛がられた彼女は、今では立派なお姉さん! 戦えないという臆病犬の概念を真っ先にぶち壊したのは彼女です! 健気な彼女はどこへやら。怒らせたら最後、天変地異が巻き起こる! 逆らっちゃヤヴァイ奴ランキング、ジークの旦那を抜いて堂々の一位! ミラの登場だ~! 俺っちが人間から極秘に入手した情報によれば、それはかつて男のロマンと言われた伝説の衣装だとか。見る者の心を手中に収め、街を歩けば全ての男が卒倒するとかしないとか。機能性や防水にも優れた万能服! 情報からのみ製作した為、今回一番手間とお金のかかった最高級品です! 一着しか製作できなかったので彼女専用となるそれには、お腹の部分に大きく名前を施し象徴としました! さぁ~ご覧ください! 彼女が纏う、人間が着飾る伝説の衣装『スクール水着』でございます! 続いては――」
ジークは俯いて掌で顔を覆い、ジルはマインの姿に失神、シチセイは鼻血を出しながら興奮し、ドドマエルは目を輝かせてウンウン頷いていた。
入場した女性陣は各々席を回ってはお酒を注いだり話をしたりしている。ミラとマインとルルはジーク達の傍へと座った。
ルル、ジーク、ミラ、ドドマエル、マイン、ジルと横に並び、シチセイに限ってはマインの向かい側に”あえて”陣取っていた。その豊満な胸を視界に納め続ける為だとは、本人以外知る由もない。
「お兄ちゃん、どーお?」
ジークの隣に座るルルが、つぶらな瞳で少し首を傾げながら口を開いた。
ジークはルルのその言葉に、少し上から下へと視線を動かすと、ルルの頭を撫でながら優しく答えた。
「ああ、似合ってる。すこし大人っぽく感じるな」
「やったあ! わーい! お兄ちゃん大好きぃ!」
ルルは満面の笑みでジークに抱き着くと、腹部にスリスリと顔をこすり付けていた。その姿にジークも自然と微笑み、優しく頭を撫で続けた。
マインはドドマエルにお酒を注いだりと、しっかり接待をこなしてドドマエルも満足げな顔をしていた。隣に座るジルは、顔を真っ赤にしながらビールを飲んでいるが、その手は緊張からかプルプル震えていた。
シチセイは、動くたびに揺れるマインの胸に同調するかのように顔ごと動かしては常に鼻血を出していた。
そして、終始無言を貫くミラに、さすがに異変を感じたジークは声をかけることにした。
「ミラ、どうした」
「……別に」
ミラは、どこかふてくされたように不機嫌そうな顔をしながらそう言い捨てると、永遠と料理を食べ続けていた。
ジークは軽く頭をかくと、一つ咳払いをして静かな声で口を開いた。
「まあ、あれだ。お前は騙されたと思ってるのかもしれないが……ムタの言っていたことはあながち間違いではないんだ」
「――!」
ミラは料理を頬張っていた口をそのまま止めると、勢いよく飲み込んでは、目を輝かせてジークの顔に接近した。
「ほんとですか!?」
「あ、ああ……」
「心惹かれますか!?」
「断じて変な意味ではないが、確かに似合ってはいる」
「似合っては?」
ミラが一瞬目を鋭くさせると、ジークは慌てて訂正し直した。
「に、似合ってる似合ってる。しかし、本来その恰好は水の中で着るものなんだ。だから次は相応の場で着てくれ」
「それはまた着て欲しいってことですか?」
「……あ、まあ、うん。それでいい」
さっきとは一転して喜びの表情で満ち溢れるミラを尻目に、ジークは大きく頭を抱えていた。
そうして会場が大盛り上がりしている最中、ドドマエルはふと小さく呟いた。
「そういえば、何かを忘れているような……。まあ、そのうち思い出すだろう」
ドドマエルはその場の雰囲気に飲まれ、まだまだ残るたくさんの料理や飲み物と、今まで目にしたことのない華やかな女性達に囲まれての宴に、身を任せていった。
そしてこの催し物が、今後展開するキッカケを思いつくジークの悪だくみになるとは、その時まだ誰も知らなかったのだった――。




