二十一話 雲泥万里戦争、後編。マインとジークの戦い~そして決着~
シチセイがレオニルを打ち破ったことを遠目に確認したマインは、静かに口を開いた。両者は腕を組んだまま不動を貫く。
「残るはお前一人だ。今引くなら見逃すが?」
「王として引くわけにはいかぬ。余にも守るべきものがあるのだ。お主に恨みはないが、邪魔をすると言うのなら力尽くでも通らせてもらおうか」
「そうか……。ならば、いざ尋常に勝負!」
先に動いたのはマインだった。
超スピードで一瞬にてドドマエルの懐に潜り込んだマインは、渾身の力を込めた右の拳をドドマエルの腹部へ叩き込む。そしてすぐさまその場で二回転体を捻ると、強烈な後ろ回し蹴りを同じ場所に叩き込んだ。
だが、ドドマエルは腕を組んだまま動かず、まるでダメージを負ってない様子だった。
マインは大きく二歩後ろへ飛ぶと、ドドマエルと距離を取った。
「予想以上だな。まるで大岩を相手しているようだ」
「なかなかに筋がいい。ビースト部隊にもお主ほどの者はおらぬだろう。だからこそ、お主がたった一人で余を相手するのが理解できた。だがそのままでは効かぬぞ。武器があるのならば使うがいい」
王たる風格を崩すことなく、ドドマエルは静かに呟いた。
その言葉にマインは目を閉じると、右足を一歩前へ出し、左の腰に携えた黒い”鞘だけ”のそれを左手で握り、右腕を少し下げ気味に前へ出しては半身の姿勢で構えを取った。
「手加減は出来ぬと思え」
「遊んでやろう」
一つ言葉を交わし、そして呼びかけるかのようにマインは叫ぶ――。
「壱ノ秘剣、刀填!」
マインの言葉に呼応するかのように、鞘には白色の柄が現れた。そしてマインは柄を握り振り抜く。
その剣は少しいびつで、近代的なフォルムをしていた。
「はあぁぁぁー!」
マインは両手で剣を握り、ドドマエルに渾身の袈裟斬りを放った。その瞬間、ドドマエルは全身に力を込め、マインの斬撃を強靭な体で弾き飛ばした。
マインは大きく後ろへ仰け反ると、小さく唇を噛み締める。
「剣すら通じぬというのか」
「余の体は鋼鉄をも超える。傷一つ付けることは出来ぬぞ」
「ならば……」
マインは左手で剣を握ると、右手を鞘へと近づける。
「弐ノ秘剣、刀填!」
青色の柄が出現すると、それを引き抜く。そして二刀を駆使し、高速の連続斬りを繰り広げた。まるで金属同士がぶつかり合うような音が響き渡ると、ドドマエルは丸太のように太い腕を振りかざした。
マインは二刀をクロスさせるようにガードするものの、その絶対的な力はマインを大きく宙へと吹き飛ばした。
マインは、宙から地面へと叩きつけられる際、軽やかな身のこなしでバク宙するように地へと足を着いた。だが、その表情に汗が一筋流れ落ちた。
マインは目を閉じ一呼吸すると、二刀を頭上へと放り投げた。
「参ノ秘剣、肆ノ秘剣、刀填!」
そして右手と左手で、赤色の三本目と緑色の四本目の剣を握ると、宙へと放っていた剣が舞い降りてきた時、髪の一部を触手のように扱いその二本を握った。マインは四本の剣を構えるとドドマエルの懐へ飛び込んだ。
先ほどよりも鋭い剣戟を放ち、四本の斬撃が凄まじい勢いでドドマエルを襲った。さすがに組んでいた腕を解き、胸の前で防御へと構えるドドマエル。その巨躯は地面を抉りながら徐々に後方へと押されていき、先ほどまで傷一つ負っていなかった強靭な肉体には無数の斬り傷が生まれていた。
「伍ノ秘剣、陸ノ秘剣、刀填!」
マインは更に剣数を増やすと触手で握り、攻撃の手をまた一段と上げていく。まさに怒涛の連続攻撃。ドドマエルに反撃の隙も与えず、六本の剣戟により傷の数と深さを増していく。
マインの容赦のない攻撃は止まらず、更に加速する。
「漆ノ秘剣、捌ノ秘剣、刀填!」
八本へと増えた剣を自在に操り、ドドマエルを斬り刻んでいく。ついにドドマエルも余裕がなくなり、顔を両腕で覆っては、全力で攻撃を受け止める。全身から噴き出す血飛沫は、ドドマエルの足元に小さな血の池を作り始める。
そして、必死に攻撃を続けるマインは叫ぶ。
「王よ、これで終わりだあああ! 玖ノ秘剣、拾ノ秘剣、刀填!!」
十本の剣による全身全霊を込めた無数の連続攻撃。全方向から一切の隙もなく超高速の連続斬りを放つそれは、攻防一体のマインの剣術。
「剣技の極み!」
そしてついに、片膝を地面へと着くドドマエル。
それと同時にマインの攻撃の手も止まった。両者が、お互いに力を使い果たしたのだ。
「ぐほぉっ……。屈強なる剣士よ、マインと申したか。余をここまで追い詰めたのはお主が初めてだ。お主ほどの力なら、この大陸を支配するのも可能なのだろう……。だが、なにがお主をそこまで駆り立てるのだ」
ドドマエルは吐血し、肩で大きく呼吸をすると、マインに必死な形相で問いかけた。
マインも肩で大きく呼吸をしながら答える。
「私は……大陸などどうでもいい……。愛する村のみんなの為、そして……自分のこの想いの為に、守り抜く! それだけだ」
「本国を……大陸を支配するのではないのか?」
「言っただろう。そんなことに興味はない。私は愛する者を守りたいだけだ」
「そうであったか……」
ドドマエルは、一つ呟くと膝に手を当て立ち上がった。
「余もお主も、愛する者の為に戦っていたのだな。もはや戦う理由はあるまい。だが一つ我がままを聞いてくれ」
「なんだ」
「お互い一つの信念により戦った。そして、余はそれを最後まで貫き通したい。お主を、友と認めてな」
マインは、その言葉に目を丸くするが、次には少しの笑みをこぼした。
「そうだな。決着を着けようか。友として!」
そしてドドマエルも笑みを浮かべる。
「戦闘獣化!」
ドドマエルはそう叫ぶと地面に両手を着き、巨躯な体は更に巨大化し、10mに達する。地上最強のアフリカゾウすらも凌駕するストロマエルゾウをベースとしていたドドマエルは、その巨大な体と圧倒的なパワーを解放した。驚異的な気迫は、マインに空気を振動して痺れるように伝わった。
そしてマインは、十本の剣をそれぞれ特殊な形へと組み替えた。そしてそれらをパズルのように組み合わせる。
「終ノ秘剣、合刀!」
それは、ジークによりマインに与えられた新たな武器。
――マイン専用呼応連動式大太刀『十握剣』。
『空間収納』の効果が付与されたアダマンタイト鉱石製の鞘に、十本の属性剣が収納されており、火・水・氷・土・風・雷・光・闇・毒・無の効果をそれぞれ持つ。マインの魔力と名称により鞘へと自動装填される。それぞれに変形ギミックが搭載されており、マインの知能の高さにより一瞬で組み替えて一つの大剣へと合わせることが出来る。
マインは組み合わせて出来た大剣を、一度鞘へと納め、半身の構えを取った。
「こい! ドドマエル!」
「うおおおおおおおお!」
ドドマエルは雄たけびを上げながら、大地を踏みしめてマインへと突進した。
圧倒的な体格差、圧倒的なパワー、そしてその巨体とは思えぬほどのスピードにより、一撃必殺の猛突進を行う。
マインは目を閉じ、静かにその時を待った。迫りくる気迫と地響きは次第に近づいてくる。
そして、間合いへとドドマエルが足を踏む込みと、マインはカッと目を見開き、叫んだ。
「絶刀居合!」
それは、武器のハイポテンシャルと、マインの技・スピード・パワー、それら全てを全身全霊を込めて一瞬の刻に集約して放つ最強の抜刀術だった。
マインは大剣を振り抜いたまま残心した。そしてドドマエルはマインの背後で徐々にスピードを落としていき立ち止まると、大きな血飛沫を上げて大地へと倒れ込んだ。
「くっ……」
マインは大剣を地面に突き刺して体を支えた。そして肩で大きく息を吐いては、空を見上げた。
「後は任せたぞ。ジーク殿」
作戦司令室でことの成り行きを見届けたジークは立ち上がった。
「ルル、行ってくる。ここでいい子にしてるんだぞ」
「うん! 行ってらっしゃい!」
ジークはルルの頭を優しく撫でると、台座に座って上へと上昇した。
そして空を音速で飛翔しながらジークは呟く。
「残るは黒幕の始末のみ。さあ、ラストフェーズだ」
更に速度を上げて全力で飛翔したのだった。
ロウソクの明かりが灯る薄暗い部屋。その部屋の奥に位置するようにステールは大きめの椅子に腰かけていた。手に持つリンゴを一口かじると、むしゃむしゃと音を立て飲み込む。そして不気味な笑いをこぼし始めた。
「くふふふ。もうすぐわしの計画が成就する。裏で王のお守りをするのもわしの代で終わりじゃ」
そう呟くと、りんごを勢いよく頬張った。
――カツン、カツン。
ロウソクの火が当たらない暗闇の中、その足音は響きだした。
「それは違うな。お前自身がここで終わるんだ」
「だ、誰じゃ!」
ステールが、椅子から立ち上がり暗闇の中を見つめると、その人物は現れた。
「お前の存在を否定する者だ」
そう呟く男――ジークだ。
「く、黒いローブの男!? ビ、ビースト部隊は! 王はどうした!」
「ビースト部隊は全滅、王は当に無力化している」
「バカな!」
ステールは、慌てふためき、一歩後ずさる。そして下唇を強く噛み締めると、勢いよく振り返り、背後の壁に手を当てた。その壁は回転扉になっており、ステールは姿を眩ませた。
「無駄なことを」
ジークは一言呟くと、『千里眼』を発動させて足を進ませた。
そしてステールの消えた先へと追いつくと、広い空間の奥にステールの姿を捉えた。ステールの立つ横には、黒く巨大な球体があった。
「わしは、わしは負けるわけにはいかぬのだ!」
ステールは叫ぶと、隣にある巨大な球体へと手を触れた。
(まだ孵化には早いが、仕方あるまい!)
すると、巨大な球体に徐々に亀裂が走り、一つ破片が落ちると、一気に球体が砕け散った。その瞬間、溢れだす大量の魔力。ステールは体を床へと落とし、ジークは圧倒的な魔力の圧力に必死に耐えた。
「グオオオオオオオオオオン!」
球体の中から現れたのは、広い空間の天井に頭が着きそうなほどの黒い竜だった。
「やれ! ロックドラゴン!」
ステールは、荒れ狂う魔力の中、目の前の竜に叫んだ。謎の球体、それは伝説と言われる幻獣ロックドラゴンの卵だったのだ。
ステールの声に反応したロックドラゴンは、その巨大な手でステールをわしづかみにした。
「な、なにをする!」
ロックドラゴンの手の中で暴れるステールは、その必死の叫びも空しくロックドラゴンの口の中へと放り込まれてしまった。
《伝説の幻獣ロックドラゴンです! 早すぎる孵化の影響で自我が芽生えず、体内に溢れる魔力を制御できずに暴走してるです!》
「これが伝説の幻獣ってやつなのか……」
リーナの解析を聞き、ジークは顔をしかめた。それは伝説の幻獣ロックドラゴンに臆したのではなく、まったく身動きの出来ない現状に危機を覚えたのだ。
左腕で顔を覆い、必死にその場に立って踏みとどまるので精一杯だった。
だが、それだけではなかった。
「くっ……。魔力が削られる!?」
《ロックドラゴンの保有する高濃度の魔力によって、ジークの魔力がかき消されているです! こ、このままでは危険です!》
「まずいな……。これじゃ魔弾で魔力を補充してもすぐ削られる。『言想ノ神眼』もここからじゃ届かない。くそ……」
魔力の枯渇、それは死。ここで自分が死んでしまったらどうなってしまうのか、ジークは目を閉じて考えた。
暴れ狂うロックドラゴンが地上へ出て本国の壊滅。近くの街はもちろん、大陸内にまで影響するだろう。それは、ビビレッジも例外ではなくなる。村のみんな、ハピの住民やジル、そして必死に戦ってくれた仲間達、まだ幼いルル……それら全ての命が失われるのだ。
「誓ったんだ。俺が必ず守ると……俺は、もう大切な人を失いたくないんだ!」
ジークはそう呟くと、目を見開き、腹の底から願うように叫びをあげる。
「力をよこせぇぇぇ!! 核ーーー!」
その叫びに呼応するように、ジークの右目の内部に存在する神之欠片、核が激しく輝いた。
そしてジークの紅の右目の中央、黄金に輝く瞳が一回り大きくなり眩い光を放った。
魔力暴走に流されるがままに暴れまわるロックドラゴン。しかし、急に動きを止めると、ロックドラゴンの脳裏にある映像が映り込んだ。
それは、死を迎え横たわる自分の姿。その映像を見た直後、激しい痛みが全身を襲い、地響きが起こるほどの断末魔を上げると、大きく倒れ込んだ。そしてそのまま、ゆっくりと姿が消えていった――。
ロックドラゴンが消滅した理由、それは――、核の呼応によりジークが新たに手に入れた[完全支配瞳術]。
その系統が一つ、「剥奪支配系・魔眼」。
――『幻送ノ魔眼』。
対象の深層世界に視覚干渉し、身体機能に関する情報を強制剥奪する。又、剥奪した情報を任意にて改ざんし、意識レベル・魂レベルにて誤認させることが可能。視覚範囲五十メートル。剥奪は一度の発動につき一回のみ。魔力、魔力回路、魂、魂の回路など死に直結するものは剥奪出来ない。
ジークは『幻送ノ魔眼』によりロックドラゴンの視覚情報を剥奪し、それを改ざんして魂に幻覚を視せたのだ。それは、”自分自身の死の姿”。そして魂が死を誤認して、消滅へと向かったのだった。
ジークは床に片膝を着き、大きく肩で息をした。そして呟く。
「リーナ……みんなに知らせてくれ」
《了解です!》
リーナは元気に返事をすると、ミラ、マイン、シチセイ、ルルと全員の会話回路を繋げて報告をした。
《やりましたです! 黒幕を倒しました! 私たちの勝利です!!》
ミラは壁の上に立ったまま大きく飛び跳ねて喜び、マインとシチセイは手当てをしたドドマエルを背に担いでいたが宙へと放り出して喜び、ルルは作戦司令室でオペレーター達に伝えては走り回って喜んだ。
「ジークお兄ちゃんが黒幕を倒したって! 私たちの勝ちだよーーー!」
オペレーター達は顔を見合わせると、急いで村の人達にアナウンスを流した。
そして村中は大歓声に包まれ、涙を流す者、抱き合って喜びを感じ合う者、感無量でウンウンと頷く者、さまざまな勝利の表現で満ち溢れていた。




