二十話 雲泥万里戦争、中編。ミラと村長の戦い
ミラは姿勢を低く保ちながら、颯爽と大地を駆け抜けると、大きく跳躍をした。それは五十万人いる大軍隊の中間ほどまで辿り着くと、右手に持つ黒影を大きく右から左へ薙ぎ払った。
「火遁・斬炎刃!」
黒影の斬った軌道には炎の刃が横一閃に走り、一番先頭の部隊を切り払うと同時に真っ赤な炎が燃え盛った。それはまるで灼熱の壁。斬られた者はもちろん、後続より押されて炎の壁に侵入した者には容赦のない地獄の業火が待ち受けていた。燃え上がる炎の出現により、進軍の足は止まって大きな混乱の声が鳴り響いていた。
ミラは、くるくると回りながら軍勢の中へと降り立つと、すぐに屈んでは地面に左手を着いた。
「土遁・金剛壁!」
辺り一帯に地響きが鳴ると、突如地面から十メートルもの岩の壁が出現した。それは中心から左右に広がっていき、大軍隊を大きく分断したのであった。
前に分断された軍勢はおよそ二十万人ほど。しかしその更に前には、未だ炎の壁が燃え盛っているので完全に炎と巨大な壁により挟まれた状態になっていた。横から抜けようにも、見渡す限りに炎と岩の壁が続いているので、抜け出すのは現実的ではなかった。
「リーナお姉さま、どうですか?」
巨大な壁の上に立つミラは、前方の軍勢を見渡しながらリーナに声をかけた。
《数名が前方に取り残されたです。私が影分身で後方へと飛ばすです。ミラはその瞬間の壁の解除をお願いするです》
「了解! 影分身!」
ミラの陰から分身体が現れると、サッと巨大な壁から飛び降り、分断された前方の地面に降り立った。するとすぐさま高速で移動をし、一人また一人と襟首を掴んでは後方の壁へと投げ飛ばしていった。投げ飛ばされた戦士達が壁へと激突する瞬間、その部分だけ穴が開くように壁が消え、通り過ぎるとまた穴が一瞬で塞がれたのだった。
それは、ジークがミラへと出していた指示。
”ビースト部隊だけを選別し始末せよ”というものだったからだ。
いくらすぐれた動体視力を持つミラといえ、五十万人もの大軍隊から戦いながら選別するというのは至難の業である。そこでジークは、リーナにミラのサポートをさせていたのだった。
五十万人からなる大軍隊は、前方をビースト部隊が占めていた為、リーナの指示の元にまず分断したのであった。ビースト部隊の特徴として、黒いバッチを付けているので、それをリーナは全て位置解析していたのだ。
《ミラ! 準備OKです!》
「ありがとうございますお姉さま!」
ミラはそう返事をすると、分身体を解除した。そして、黒影を握る右手を前に突き出し、刀身に左手を添えた。
「水遁・水爆陣!」
その瞬間、滝のような大量の水が出現し、前方へと分断された全部隊に勢いよく襲い掛かった。
すぐさまミラは、黒影を持つ右手を空へと掲げると一つ呟く。
「雷遁・來龍!」
ミラの言葉に呼応するように、空から激しい雷が一筋降り立つと、その衝撃で前方部隊の中央付近が激しく吹き飛んだ。大地に大穴を開けた雷は、しばし滞在すると徐々に球体になっていき、そこから2匹の龍の姿をした雷が、一瞬で左右へと流れて行った。
事前に濡れていたこともあり、來龍の凄まじい衝撃と雷に、全員が感電と大やけどを負い、壊滅状態へと成り果てたのだった。
それを確認すると、ミラは壁の上で片膝を着き、大きく肩で息をした。さすがに大技を連発して魔力を使い過ぎたのだ。
「はぁはぁ……これでミッション達成……」
ミラのその言葉の直後、異変は起きた。
倒れる戦士達の中、その死体の一部が上空へと吹き飛んだのだ。
「くそ! 危ないところだった。地中に逃げなかったら死んでたかもな」
危険を感知し、咄嗟に地中へと身を隠すことで生き延びたその男は、ビースト部隊幹部の一人だった。
「ん? あのガキの仕業だな」
男はミラの姿を確認すると、大きく脚に力を込めて勢いよく空へと飛んだ。そして、ミラの立つ巨大な壁の上へと、同じ土俵に降り立ったのだ。
ミラは、男が飛んでくると大きく構えを取った。そして炎の壁を解除し、岩の壁だけを残した。
男はミラをマジマジと見ると、腰に手を当てた。
「よぉ、俺は『豪脚のウェルト』だ。お前が三百人のビースト部隊を一人で壊滅させたっていう、黒い閃光だな?」
ウェルトと名乗るのは、チーターをベースとした獣人だった。
ミラはその言葉に少し沈黙した後、小さく答えた。
「……知らない。でも壊滅させたのは私」
「そうかそうか! それで充分だ! じゃあ、いくぞ?」
ウェルトは大きく笑ったあと、小さく口元を上げ呟いた。
その瞬間、一瞬にてミラの間合いへと詰め寄ったウェルトは、身体を捻って素早い回し蹴りを放った。
ミラは咄嗟に、間に黒影を入れてガードするが、あまりの脚力ゆえに後方へと吹き飛んでしまった。
(速い……そして重い)
ミラは痺れる右手をぎゅっと左手で掴むと、口元を覆うスカーフの中で唇を小さく噛み締めた。
そして姿勢を低くし、ウェルトへ高速で突っ込むと、タイミングを合わせるかのようにウェルトの右足が下段蹴りを放ってきた。その瞬間、ミラは更に加速して一瞬で背後へと回り込み、黒影を振りかぶった。
「遅ぇ!!」
ウェルトはそう叫ぶと、背後にいるミラの右手を尻尾で掴み取り、放っていた途中の下段蹴りをそのまま後方へと薙ぎ払うようにしゃがみ込みながら脚を引いた。両足を払われたミラは一瞬宙に浮くと、ウェルトは振り返る遠心力を乗せたまま左脚にて強力な膝蹴りをミラの腹部に叩き込んだ。
ミラは大きく吹き飛ぶと、その場に倒れてむせ込んだ。
「げほっげほっ……。い、痛い……」
激しい痛みに涙を浮かべ、大きく肩で呼吸をするが、それ自体もミラに苦痛を与えていた。もうほとんど無くなってきた魔力は、壁を維持するのも限界が近く、まともな動きを出来そうにないのはミラ自身が一番理解していた。
「なんだ? もう終わりか? とんだ拍子抜けだな。ならさっさとお前を殺して、あの腑抜けの王と臆病犬の雑魚共、それと黒いローブの人間も殺しに行くとするか」
呆れた表情でそう呟くウェルトは、ミラへと向かって足を進めた。
だが、ミラはそのウェルトの言葉に体をビクッと反応させると、目に鋭い眼光が宿った。
そしてゆっくりと立ち上がった。
「お? 最後の悪あがきってか?」
「……はぁはぁ。引けない。あなたは……あなたのような人は、ここで私が倒さないといけないんだ」
大きく肩で呼吸をしながら、ミラは下を向きながら声を出す。
「倒すって、どう見ても限界だろお前」
「あなたを倒すには……。あなたを超えるスピードで立ち向かう!」
ミラはその鋭い眼光でウェルトを睨み付けると、黒影を持ったまま大きく右腕を横に構えた。
そして叫ぶ――。
「魔弾装填!」
それは、黒影を改良してミラに新たに渡していた武器。
――ミラ専用魔弾装填式小太刀『黒影・真打』。
超圧縮された魔力が込められている小さな弾丸を計六発分収納したマガジンが、柄の内部に収納されている。又、柄の一部がスライドすることによってオートマチック方式で弾丸の再装填と使用済み弾丸の排出が同時に行われるようになっている。弾丸に超圧縮されている魔力は、黒影・真打を通してミラへと流れ込むのだ。
――ガシュン!
ミラの言葉をトリガーに、柄の後部がスライドすると空の魔弾の一つが外へと排出された。
そしてミラの体からは、溢れんばかりの魔力のオーラが漂い出した。
「な、なんだその魔力は! い、一体どうやって!」
ミラの体から溢れる魔力のオーラを目にすると、ウェルトは慌てふためき、少しずつ後ずさった。
ミラは、黒影・真打を逆手に持つと、一言呟いた。
「雷遁・電光石火」
そう呟いた直後、ミラは瞬間移動でもしたかのようにウェルトの遠い背後に位置していた。そしてウェルトは体から血飛沫を上げ、ゆっくりと崩れ落ちていった。
――チン。と、腰に携えた鞘に黒影・真打を納める音が響くと、ミラは空を見上げた。
「あとはお願いします。ジークさん」
マインとドドマエル、村長とレオニルの二組は距離を保ったまま向かい合っていた。そして二組は睨みをきかせたまま左右へと広がっていく。
しばらく歩いていくと二組は立ち止まり、両者が口を開いた。
「余は『破壊王ドドマエル』、この大陸の王である。お主の名は?」
ドドマエルは堂々と腕を組み、マインを見つめた。
「私はマインだ。ここから先へは通すわけにはいかぬ」
マインも腕を組みながらドドマエルを真剣な目で見つめ返す。
強力な力を持つ者同士、すぐには動けずその場で均衡を保っていた。
レオニルは軽く頭をかくと、バカにするような態度で口を開いた。
「けっ! じじいが俺の相手かよ! 老い先短いんだから、おとなしく茶でもすすってたらどうだ?」
村長は曲がる腰に両手を当てながら立っていたが、徐々にその足を進めていった。
「年を取っておるからこそ、お主より多くを学んでおるのじゃぞ」
「ほう。なら、ちっとは体で俺に説教でもしてみな!」
レオニルはそう叫ぶと、全身の筋肉が大きく膨れ上がり、二メートルもの巨躯へと姿を変えた。金色のたてがみが伸び、口からは立派な牙が生えている。
「『金色の獅子レオニル』。俺の一撃で沈むがいい!」
レオニルが大地を蹴って前へと飛ぶように進むと、足元の地面が抉られ、筋肉の塊で出来た太い右腕が村長へと襲い掛かった。
村長は、その小柄な体を覆い尽くすような強大な拳を、後方へと宙返りで躱し、その後幾度も繰り返される怒涛の攻撃を紙一重で躱し続けた。
当たれば即死級のパワー。体格差を生かした軽やかな動きで躱しつつ、隠し持っていた小型のナイフで少しずつではあるが反撃をしていた。しかし、レオニルの分厚い筋肉の鎧にはかすり傷程度しか付けることは出来ず、お世辞にもダメージらしい攻撃は出来ていなかった。
「ちっ。ちょこまかと動きやがって! おい、じじい! 他に隠し持ってるもんがないなら、とっとと終わらせてドドマエル様の元へ行きたいんだが」
レオニルは攻撃の手を止めると、腰に手を当てて叫んだ。
村長はその言葉に、少し俯いて思考する。
(ふむ……このままではジリ貧じゃな。仕方がない、出し惜しみしてる場合ではないの。……ジーク殿から授かった力、そしてかつての師匠から免許皆伝を授かった暗殺拳の封印を解くしかあるまい)
そして村長の脳裏に、過去の思い出が流れ出した。
「ジーク殿! 手合わせ願いたい!」
「なんだいきなり」
ビースト部隊三百人の襲撃から二週間とちょっとした頃、村長がミラの家を訪ねて来てはいきなりそんなことを申し出てきたのだった。
深々と頭を下げる村長は、すぐさま頭を上げると真剣な眼差しでジークを見つめた。
「これから大きな戦争が始まるじゃろう。わしはもう二度と戦争には参加しないと心に決めておった。しかし、この村に住む全員が大切な者となった今、わしは戦わねばならん。村の者に、わしと”同じ哀しみ”を背負わせない為にの。その決意の為に、一度手合わせを願いたいのじゃ」
今まで見たことのないくらい村長は真剣だった。その気迫を感じ取り、ジークは一つ頷いた。
「いいだろう」
村から離れた広い荒野にて、向かい合うように立つジークと村長の姿があった。
「いつでもいいぞ」
「いくぞおおおお」
村長は小さな体を更に低く保ち、地面すれすれにかがんでは走り出した。
正面から殴り、蹴り、死角に回り込んでは殴り、蹴り、地上や空中からの様々な攻撃を一方的に叩き込み続けた。幾度も幾度も、何十分も繰り返したのち、ジークの裏拳により一撃で吹き飛ばされ決着は着いた。
吹き飛んだ村長にジークは近寄ると、しゃがみ込んで口を開いた。
「じいさんの気持ちは伝わってきた。村を、みんなを、俺達で必ず守るんだ」
「感謝する……ジーク殿。今ではこんな老いぼれになってしもうたが、わしにもかつて愛する者がおっての……。だが、過去の戦争で失ってしもうた。戦争は哀しみしか残さん。じゃからわしは戦争から逃げ、臆病犬の村を築いたのだが……逃げているだけでは、何も変わらなかった。わしは今一度戦うぞ。愛した者との約束の為、今いる大切な者に戦争のない未来を築く為、わしは戦う!」
「ああ。そうだな」
ジークは優しく微笑むと、倒れ込んでいる村長に肩を貸した。
すると突然――村長の体が激しく輝いた。
村長は目を閉じ顔を空へと向けると、突然の体の輝きを全身で受け止めた。
(わしの体を、優しく包み込むかのような暖かい光じゃな……。まるで、ユリアのようじゃわい。ユリア……)
真っ赤に燃え上がる数々の家。逃げ惑う人々の声が辺りに響き渡り、血と煙の匂いが充満しているその場に一組の男女の姿があった。
男は、地面に倒れ込んでいる女性を優しく抱きかかえて上半身を起こしてあげていた。
「ユリア! しっかりしろ!」
「シチセイ、この戦争には未来はないわ。戦争に勝つのではなく、あなたが守ってあげて」
それは、若かりし頃の村長と、村長が愛した女性の姿だった。
「だけど、俺ならこの戦争を止められる!」
その言葉に、ユリアは小さく首を振った。
「確かにそうなのかもしれない。だけどシチセイ、あなたは戦争に参加する為に力を得たの? いいえ違うわ。みんなを守る為。そうでしょ?」
「……あぁ。そうだ」
「シチセイお願い……」
ユリアは、震える手でシチセイの頬に触れる。そしてシチセイはぎゅっとその手を握りしめた。
「どうか、みんなを守ってあげて……」
「……ユリア。分かった、約束するよ」
ユリアは優しく微笑むと、右手がシチセイが握っている手からすり抜け、だらりと地面に落とした。
シチセイは小刻みにユリアの体を揺らすと、大粒の涙を流しながら大きく天に叫んだ。
「うわああああああああああ! 何が獣人の為の戦争だ! 何が最強の暗殺拳だ! 俺は、たった一人の愛する人さえ守れなかったじゃないか! こんなの、こんなのは……俺が望んでいた未来じゃない!!」
その叫びは、炎で淡く彩られる暗闇の大空へと、空しく消えていった。
シチセイはゆっくりと目を開くと、目の前のレオニルを視界に映した。その瞳には強い意志が宿っており、今までの雰囲気とは明らかに違っていた。
それを察したのか、レオニルの表情にも少し緊張が走った。
「過去に過ちを犯したからこそ、今度は取り戻してみせるぞ」
「ブツブツ何言ってやがるじじい。さっさとかかってこいよ死にぞこないが!」
「口の利き方も知らぬ若造が! その身を持って説教してやるわ!!」
シチセイは腰に当てていた両手を解くと、拳を握って全身に力を込め出した。
「はああああああああああああああ!!」
雄たけびと共に発する強烈な光。そしてその光が収縮していくように治まると、その姿は現れた。
オールバックに固められた白い髪、ピンと立った耳と、だらりとぶら下がる尻尾、鼻の下のひげと、あごに生えた長いひげ、全身に纏う盛り上がる筋肉、二メートルの巨躯へと変貌し上半身の服が吹き飛んでいる。顔つきは勇ましく、険しくなるも、どこか哀しみに満ちた瞳を持った――進化したシチセイであった。
ステータス
『拳士老』:シチセイ (獣人)
特性(潜在能力全解放、物理攻撃耐性大、魔法攻撃耐性大、気配感知、経絡秘孔支配)
[レベル]:A
[称号]:愛の奪還者
[天狼神拳]:『天狼百裂拳』、『天狼百裂脚』
「けっ! おもしれーじゃねーか!」
レオニルは、変貌と化したシチセイを見るなり、あざ笑うかのような表情をし大きく構えた。
そしてシチセイも構えを取り、二人の気迫がぶつかり合った。内に秘めたる魔力を解放し、両者がオーラを纏う。
シチセイの青いオーラ、レオニルの赤いオーラ。二つのオーラが天へと伸びた時、両者が同時に動き出した。
シチセイの右の拳が相手の腹部へ、レオニルの右の拳が相手の頬へと同時に当たると、両者は共に小さく笑みをこぼした。そしてその場を動かずに、高速の攻防が繰り広げられる。お互い一歩も引かない激しい攻防に、その衝撃波は空気を震わせ、両者が立つ大地に亀裂を走らせた。
そして同時に後方へと飛び距離を取ると、レオニルが大地を蹴り宙へと飛んだ。それを見るなりシチセイも大地を蹴り宙へと飛ぶ。そしてお互いが対する瞬間に、飛び蹴りを放ったまま交差する。
地面へと同時に着地する両者。しかしその後、脇腹から血を噴き出しレオニルが膝を着いた。
「やるじゃねーか、じじい。血を流したのは久しぶりだぜ」
レオニルは脇腹に手を当てながら立ち上がり振り返った。
「お前では、わしには勝てぬ」
シチセイは、レオニルを見つめそう呟いた。そしてレオニルはその言葉に小さく笑みをこぼした。
「確かに今のあんたは最初と比べ物にならないくらい強ぇ。だからこそ……潰し甲斐があるってもんよ!」
「愚かな……。ならば全てを持って相手しよう」
シチセイはそう言うと、右腕を上へ、左腕を下へと天地の構えを取った。そしてゆっくりと両腕を動かし、その動きには残像が生じる。やがて両腕は胸の中心にて一つに重なり合った。
レオニルはその光景を見て驚愕の表情を浮かべた。
「そ、その動きは! 天狼神拳! かつて地上最強と言われた暗殺拳の使い手だったのか!」
「そうだ。わしは唯一の伝承者シチセイ。この拳を持って、戦いを終わらせる」
「なんで最弱の臆病犬が教えを乞えたんだ! 俺の親父は、当時の使い手に相手もされなかったと言っていたぞ!」
「この拳は本来、強力な負の力を強く正しき心にて完全に制御し、哀しみと愛を背負うことで、狼の血を受け継ぐ極一部の者が進化するといわれる伝説の存在”天狼”が生み出した、守る為の拳法だ。狼の血を受け継いでいないのはもちろん、戦闘本能に飲み込まれているお前らに伝授されるわけがないじゃろう」
レオニルはそれを聞くなり肩を落とすと、大きく背伸びをして口を開いた。
「なるほどな! ただ戦うだけじゃ強さには限界があるんだろう。あんたとの戦いに勝ったら、俺もなにか守りたいものってやつを探してみるとするか!」
そしてレオニルは両手を地面に着き、大きく叫んだ。
「戦闘獣化!」
レオニルの体が金色の体毛に覆われ、より鋭い牙を、四足歩行に変化した脚には大きな爪が生えていた。
そして猛スピードで突進し、鋭い牙と爪でシチセイに飛びかかった。
シチセイは、今まさに飛びかかってくるレオニルを目の前にすると、両腕に力を込めた。
そして放たれるは天狼神拳の奥義――。
「天狼百裂拳! アータタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタ」
目にも止まらぬスピードで無数に繰り広げられる拳の超連打。一撃一撃の力は絶大で、その全てがレオニルの体へと直撃する。
「ホワッチャーーーーーー!」
無数の超連打の最後、下から振り上げる拳にて宙へと舞うレオニル。その体には無数の拳の跡が残り、全身がズタボロになっていた。
シチセイは、ちらりとマインを見ると、体を振り返ってはレオニルを背にして歩きだした。
「こ、殺さない……のか」
体を動かすことは出来ず、かろうじて意識があるレオニルは口だけを動かした。
その言葉を耳にするシチセイは、足を止めずに一言だけ返し、歩み続ける。
「お前はもう……負けている」




