十九話 雲泥万里戦争、前編
ビビレッジ地下深くに存在する対村敵作戦司令室。
そこには総司令長官のジーク、八名のオペレーターの他に、ミラ、マイン、ルルの姿もあった。
進軍を開始したストロマエル軍の様子を、モニター越しにて観察を行っていたのだ。
「ついに……始まってしまったのですね」
そう口を開いたのはミラだった。
どこか悲しいような、これから起こることに恐怖しているような、険しい面持ちをしている。
モニター越しでも分かる圧倒的人数の差。これらすべてが攻めてくるのではないかと思うと、その場にいる誰しもが息を飲むしかなかった。
司令室の一角で絵本を読んでいるルルは、そんな雰囲気を察したのか、大きな声をその場に響き渡らせた。
「大丈夫だよ! だってみんながいるし、ジークお兄ちゃんがいるからきっと大丈夫だもん!」
その言葉が緊張をほぐしたのか、全員の顔に少し安堵の色が現れ、そしてジークに全ての視線が合わさった。
ここには今まで訓練を行ってきたみんながいる、自分がいる、そして何よりジークがいる。今まで多くのことを与えられ、教えられ、守られた。”ジークがいるからきっと大丈夫”――それは、口に出さずとも全員が思っていることなのだ。
信頼の眼差しを向けられるジークもそれはもちろん感じていた。
「大丈夫だ。俺が必ず守る。俺の大切なものを”これ以上”奪うというのなら、その全てを葬り去ってやる! お前達は自分の役目に集中しろ」
ジークのその言葉に、一同はモニターへと意識を戻したのだった。
ストロマエル軍の進軍から数時間が経ち、それには大きな変化が現れ始めてきた。
ストロマエル軍は当初、上空から見ると横一列に並ぶ軍勢が、縦に三つあった。前方に位置する軍勢から1軍、2軍、3軍とし各軍の間隔を保ったまま直進していた。
しかし今、3軍の進軍は止まり、その場で待機するような状況を作り出していた。そして一番先頭を行く1軍にも変化が現れ、1軍の中から徐々に進軍スピードを上げている部隊が出始めた。
ジークはその状況の変化に思考をする。
3軍が止まったか……『シアズム』を守備する為と見ていいだろうな。本国が巻き込まれないよう距離を取ったのだろう。そして1軍の中からの先行部隊……脚の早い獣人や空を飛ぶ奴から編成されているのを見ると、先行強襲部隊か。こちらを翻弄させるつもりだろう。攻撃と守備の二段構え……一応考えてはいるみたいだな。しかし……どうも引っかかる。守備部隊の3軍の数が多すぎる気がする。
(リーナ! 中間ポイントまでの到着にはどのくらいかかりそうだ)
ジークは少し思考した後、リーナに問いただした。
《中間ポイントへは、身体能力の高い獣人であっても、早くても七日はかかると思うです》
(そうか)
ジークはリーナに一言返すと、小型の無線機を持ち、口元に当てた。
それは、ビビレッジ内の各持ち場へとも繋がっている。
「こちらはジーク。全班に告げる! これより七日間を警戒態勢レベル2へ落とす。俺の指示があるまでは各自、マニュアル通りに行動しろ」
「「「「「了解!」」」」」
各持ち場からの返答が作戦司令室に設置してあるスピーカーから響くと、七名のオペレーター達は頭からヘッドフォンを外して一時の安堵の息を吐いた。
「コーヒー持ってきてあげるね!」
「ありがとう! お願いするね」
声をかけたのはヘッドフォンを外した七名のオペレーターの一人だった。一人は状況確認を維持するように、その場に待機するようだ。それをジークの指示があるまでローテーションで繰り返されるのだ。
ミラとマインは家へと戻り、俺はルルを連れてジルの元へ行こうとしていた。本当はマインにも声をかけたのだが、無事に戦争に勝って落ち着いてから顔を出したいと断ってきた。
俺はルルのことをお姫様抱っこにして、ハピに向かって空を飛翔していた。
「きゃははは! はやーい! きもちーい!」
空の旅は、小さなお姫様にとって快適なようだった。
領主館の庭へと降り立ち、ジルの部屋の前へと着くと俺はルルに耳打ちをした。
コクコク頷くルルを目にすると、理解してくれたようだった。そして扉をノックするとジルの返事が返ってきた。
ゆっくりと開かれる扉。ジルが扉の先に目にしたものは――両手を上へとあげて、ドアノブを握っている小さな少女の姿だった。
少女は扉を開けると、一歩前に出て腕を組んでは大きな声で叫んだ。
「ごきぎゃ……ごきげん、うるわしゅー!」
ジルはすぐには反応できす、きょとんと目を丸くしては慌てて口を開いた。
「え? え? ジークさん? なんでそんなに小さく? というか、なぜあの時の女の子に? 可愛いですけど、これはどういう――」
「おいロリコン、ずいぶん元気そうだな」
ジークはそう言いながら、開け放たれている扉から隠れていたように姿を現した。
「はうわああああああ」
そしてお決まりの床掃除ジル。いつもより多く転げまわっております。
「きゃはははは! おじさんおもしろーい!」
両手を開いて口に当てながら無邪気に笑うルルに、ジルは正気を取り戻すと、少し照れくさそうにしながらソファーへと座った。
俺も向かい合うようにソファーに座ると、ルルは膝の上に座って来た。
ジルはそんな光景を目の当たりにすると、目を見開いてはウンウン頷いていた。
「本当に親代わりになったのですね」
「ああ」
俺は一言だけ返すと、ルルの頭を優しく撫でた。
「ジークさんの意外な一面を見れた気がします! これは永久保存物ですねぇ」
「ならその記憶を頭ごと吹き飛ばしてやろうか?」
ブンブンと頭を高速で横に振るジルの姿に、ルルはきょとんとして俺を見上げていた。
するとジルがおもむろに立ち上がり、水晶を持ってなにか伝えている。聞こえてくる言葉からすると、メイドにジュースやらを持ってこさせるようだ。ルルもいることだし、なかなかに気の利く男だ。
そしてソファーへと戻ってくると、俺の方から口を開いた。
「ついに始まった」
その言葉を聞いたジルは驚愕の表情をした後、大きく肩を落とした。
「そう……ですか。ついに来てしまいましたか。どういった状況なのですか?」
「やつらの先行部隊が中間地点に着くのはおよそ七日後だと踏んでいる。実際に交戦するのは、さらにその数日後だな」
「なるほど、それもそうですね。広大な大陸ゆえ、始まったからと言ってすぐ交戦するわけではないですからね。だからジークさんがここにいるわけですし。……軍勢の差は、どのくらいなんですか?」
「こちらが約二百人」
「……む、向こうは?」
「百万人だ」
ジルは背筋をピーンとすると、顔面蒼白になりそのままの姿勢で横に倒れた。
「おい! ジル!」
「おじさん!?」
呼びかけられてなんとか正気を取り戻したジルは、ゆっくりと起き上がった。そして頭を抱えると大きな溜め息を尽いている。
「差が……ありすぎる……。しょ、勝算はあるのですか?」
俺はその言葉を聞くと、膝に乗っているルルを左へと座らせ、脚を組んでは両腕を大きく背もたれに乗せてふんぞり返った。
「無かったら、とっくに逃亡している。違うか?」
俺のその態度にジルはみるみる内に涙を溢れさせ、深々と頭を下げてきた。
「ジークさん……どうかこの街を、ビビレッジにいる元ハピの住民達を……よろしくお願いします」
「ああ、任せておけ」
その後運ばれてきたプリンを俺は速攻で食べ終わり、一時の休息をしていた。コーヒーを全て飲み干すと、おもむろにジルへと声をかけた。
「なあ、ジル」
「なんでしょう?」
「この戦争に無事勝利したら、俺はある目的の為に動こうと思っている」
「ある目的とは?」
「この子のことだ」
そう言って、俺はプリンをまだ食べているルルに目をやった。
「この子だけじゃない。これからの子供達の未来の為に動く」
「子供達の未来……」
「そうだ。この子が前に言っていたんだ。みんなが仲良くすれば、ケンカをしなくて済むのにと……」
俺は優しくルルの頭を撫でてやった。ルルはきょとんとして俺を見てきたが、またプリンへと意識を戻していった。
「だから俺は、この世界の種族間にある垣根を壊す。みんなが仲良く暮らせる世界を作る」
「それは、もはや革命と言えますね……本気ですか?」
「無論だ。だからお前も手を貸せ」
ジルは一瞬遠い目をすると、その目に力強い光を宿すようにジークを見つめ、立ち上がって手を差し出した。
「あなたならきっとやり遂げるでしょう。子供達の未来の為、ぜひ力にならせてください!」
「ああ」
そして俺も立ち上がって、差し出すジルの手を握った。
プリンを食べて満足したのか、ルルが俺を見つめてきたので帰ることにした。俺とルルが立ち上がると、ジルが一言だけ告げてきた。
「ジークさん、あなたを信じています」
「答えよう」
そして俺とルルは領主館を後にしたのだった。
ビビレッジへと着くと、空の旅の途中で寝てしまったルルをミラの部屋へと寝かせた。親代わりになった後、ララのベッドを回収してミラのベッドをダブルベッドへと交換したのだ。そこにはミラとルルが寝るようになっている。
俺とミラとマインがリビングに集まり、俺はジルに話したことを二人にも伝えた。
「私もやります!」
「もちろん私もだ」
ミラとマインは立ち上がり、力強い眼差しで見つめてきた。
そう言ってくるだろうとは思っていた。だから俺はそんな二人の姿に、少しだけ笑ってしまった。
「ジ、ジークさんが笑ってる!」
「ジーク殿? どこか体の調子が――」
「ふふ。すまない。思った通りの反応だったからな。お前達の力も必要なんだ。だから、俺に協力してくれ」
「もちろんです!」
「うむ!」
そして、戦争初日が終わっていった。
――七日後。
ストロマエル軍の先行部隊が、ついに中間ポイントへ目の先まで進軍していた。離軍した1軍とは、すでにかなりの距離が開けられ、その1軍から2軍へは当初の間隔のまま進軍していた。3軍は動きを止めたまま待機している。
先行部隊十万人、1軍二十万人、2軍二十万人、3軍五十万人とハッキリ区別出来るようになっていた。
作戦司令室へと戻ったジークに、オペレーターから報告があがった。
「ジークさ……長官! 敵先行部隊が、もう間もなく中間ポイントへ到達します!」
「そうか」
ジークは、台座に座って脚を組むと、小型無線機を手に取り口元に当てた。
「全班に告げる! もうすぐ敵の先行部隊が中間ポイントに到達する。警戒態勢をレベル3に戻し、各員持ち場に着け」
「「「「「了解!」」」」」
ジークは小型無線機を置くと、腕を組んでモニターを見つめた。
リーナは、まだなのか……
ジークの顔色は、少しだけ曇っていた。
――本国『シアズム』の地下にて、不気味な笑い声が響いていた。
声の主であるステールは椅子に座り、大きな机に飲みかけのグラスを置いた。
「くふふふ。もうそろそろ先行部隊が中間地点に着く頃じゃな。最初に敵を翻弄し、1軍にて打撃を与え、そして王のいる2軍が壊滅に追い込む。精々あがいてくれろよ黒いローブの人間と臆病犬共。そうでなくてはこのわしが王になれぬからのぉ。くふ、くふふふふ……」
不気味な笑い声が響く中、その部屋の柱に背を向けて身を隠す存在――ミラの分身体がいた。
《ジーク。今、裏が取れたです。尚、2軍には王がいる模様です》
(そうか、よくやった。外に出て地中に身を隠しておけ)
《了解です》
リーナからの報告を聞くと、ジークは口元を不気味に緩めた。
やはり2軍にいるあのデカいのが王か。
そして各軍勢の数と、王の位置、そしてリーナからの報告で確信した。これは殲滅と反逆を合わせた二重思惑の戦争だ。ステールという男、やってくれるじゃないか。ならばその思惑の心を、塵のように粉々に砕いてやる。
「作戦変更! 迎撃可能ポイントを数か所見送り、俺の指示があるまで警戒態勢レベル3を維持しろ!」
突然の作戦の変更に、八名のオペレーター達はそれぞれ顔を見合わせていた。
すると、ミラがおもむろに口を開いた。
「ジークさん」
「なんだ。作戦中は長官と呼べ」
「ちょ、長官……。どうして見送るんですか?」
ミラの言葉に、ジークは背もたれに寄りかかるようにドッシリと座ると、左腕の肘を台座に乗せ、その手に頬を当てた。
「数日後、きっと3軍が動き出す。それまで待つんだ」
――次の日。
朝からオペレーターの報告があがった。
「長官! 敵先行部隊の進軍スピードが上がってきています! 迎撃可能第6ポイントへ到着!」
「待機だ」
夜になると、またオペレーターの声が上がる。
「敵先行部隊、迎撃可能第5ポイントへ到着しました!」
「待機だ」
徐々にオペレーターの顔が不安に満ちてくる。立てていた作戦の迎撃ポイントをみすみす見逃し、迎撃可能なポイントが減りつつある現状に冷や汗をかいていた。
それもそのはず。こちらの手は減っていき、目の前のモニターには刻一刻と迫りくる大勢の敵軍がいるのだから。
次の日の午後、オペレーターの声が高々とあげられる。
「敵先行部隊! 迎撃可能第4ポイントに到着!」
「待機」
声をあげたオペレーターは、唇を噛み締める。どんどん悪化していく状況、まだ何も出来ていない苛立ち、まだ指示は出ないのかと全員が困惑の表情を浮かべていた。
そして、次の日の朝。
オペレーターの声が鳴り響いた。
「報告します! 敵先行部隊、あと一時間で迎撃可能第3ポイントに到着します! あと3ポイントしか迎撃ができません! 長官!!」
その声に、必死の形相でジークを見つめる全オペレーター達。その場には村長も存在し、ミラ、マインを含め三人の表情にも焦りが見えていた。ルルはその場の雰囲気に当てられたのか、ミラにしがみついていた。
まだか、まだなのか……。
ジークにも少し、焦りの色が見えていた。
するとその時、モニターに映る光景に変化が現れた。
本国を守備していた敵の3軍が、進軍し始めたのだ。それを見るなりジークは立ち上がって、右腕を前にする。
「3軍が動いた! これより迎撃態勢へと移る!」
「「「「「了解!」」」」」
オペレーター達の目は力強くなり、気合を入れた返事が響いた。
「第四班! 長距離爆撃弾頭砲、発射用意!」
「了解!」
「続いて二班、三班! 地上迎撃自動機関銃、及び対空シールドを展開!」
「「了解!」」
そして、工業区にある巨大メガソーラーが設置してある地面がスライドすると、そのまま地中へと消えていき、代わりに巨大な兵器が下から姿を現した。
巨大な長方形型の兵器は、その中に数千発の弾頭が積み込まれ、総合情報処理制御装置『村の心臓』にて様々な演算処理が行われ、目的の位置へと寸分違わず撃つことが可能になっている。弾頭一つでも、その爆発力は強力なものであった。
「長官! 長距離爆撃弾頭砲、発射用意完了しました! 5分後に敵先行部隊が迎撃可能第3ポイントへ到着します!」
「よし、敵を待ち受ける」
ジークは台座に腰を下ろし、大きく脚を組んだ。
そして――、その時はやってきた。
「敵先行部隊到着しました!」
「よし、放て!」
放たれた数千発の弾頭は、一気に村から飛び出していき無数の流星群のように大空を覆い尽くした。
その様子はモニターにも表示されており、リアルタイムでの位置情報や弾頭軌道などが確認出来るようになっている。
数時間後、無数の弾頭は敵先行部隊へと降り注いだ。
敵の先行部隊は、突然の謎の異音に全員が足をとめた。何重もの風を切るような音、そしてそれは徐々に豪快な音へと変化していく。その音の正体に気づいたのは、上空部隊所属の幹部の一人だった。
「上だ! な、なんだあれは!」
空を見上げると、見たこともない無数の黒い線。物凄い勢いで空を飛び、近づいていた。それがなんなのかは分からないが、本能的に危険だと感じ、全員が全力で走り出した。
だが、その判断は遅すぎた。
数千発が一気に降り注ぎ、けたたましい爆発音と、燃え上がる炎、広範囲で降り注がれたそこはまさに地獄絵図のような惨状に成り代わった。
ほとんどが跡形もなく吹き飛び、わずかな残党数千人が逃げ延びたのみだった。
残党達はひたすら全力で走っていた。爆撃地から遠く離れ、空にはさっき見た物体がないのを確認すると少しスピードを落として歩きだした。
「い、一体なんだったんだ……あんなのがあるなんて聞いていないぞ」
そう呟くのは、先行部隊内の地上部隊に所属する幹部の一人だ。
――ギュイーン。
「なんだこの音? ぐわあああああああ」
――地上迎撃自動機関銃。
地中に隠されたそれは、地面がスライドして地上に姿を現した。小型ではあるが、迎撃可能第二ポイントでの広い範囲内で無数に展開された。
自動で敵に照準を合わせて、毎秒千発の弾丸を打ち抜く高速連射が可能な兵器だった。
その光景をモニターで観察していたジークは次の指示を出した。
「よし、第一班戦闘準備!」
「了解」
「それとルル、行けそうか?」
「うん! 頑張る!」
第一班、それは武装した臆病犬の集団だった。
ナイフ・刀・ロープ・クロスボウ・スナイパーライフルと適した人材が装備し、ビビレッジの周辺の森にて残党の迎撃を行う部隊だ。この森には数々の罠も仕掛けてあり、それを全て把握している。
地上迎撃自動機関銃から逃れられたのは、もはやたったの数百名程度だった。
二日かけて走ってきた彼らはもう疲労困憊で、森を目にすると少し安堵の色が出始めた。あの森で身を隠して少し休もう……そう思っていたのだ。
森へと着くと、異様なほど静かだった。
木に背を付け休む一人は、座り込んで休んでいると、木の上からスルスルとロープを伝って逆さまに降りてくる臆病犬の一人に背後から喉元を斬られた。
またある一人は、森を歩いていると突然足に何かが噛みつき、その奇妙な噛みつく道具を外そうと必死になっているところを、サッと通り過ぎる臆病犬の一人に斬り倒された。
時には首に縄が巻かれて木に釣られ、またある時には無数のトゲがある落とし穴に落ちたり、突然足に縄を巻き付けられては闇へと引きずり込まれたり、突然どこからか狙撃されたり、そうして一人また一人と静かに消えていったのだった。
それは、こと隠れることに適した臆病犬が、最もポテンシャルを引き出せて戦える絶好のフィールドだったのだ。
そして観光区にある旅館の屋上。
ビビレッジ内で一番の高度を誇るその場所には、一人の少女が立っていた。その目には、細長い長方形型のゴーグルがかけられ、先行部隊がいるであろう方向を見ていた。
「えーと、飛んでるのは全部で二十人!」
長距離まで見ることが出来るそのゴーグル越しに上空部隊の残党を確認すると、元気に口を開いたのはルルだった。
「よーし! やっちゃうぞぉー!」
両手を開いて前へと構えるルル。フードを外したその右耳には、小さく光る白いイヤリングが付いている。
それは――ルル専用守護装身具『親の過保護』。
ジークがリーナとの協同開発で作り出したそれは、ララが身に着けていたイヤリングを超改造し、アダマンタイト鉱石製で破壊不能なほどの強度を持つ。又、『回復魔法』・『多重結界』・『高速演算(能力使用時)』の効果を付与してある。ルルの代わりに演算を行うことで、ルルのイメージ通りに能力を使うことが可能となっている。
ルルは両手に空気を圧縮すると、それを刃状にして複数を解き放った。それは猛スピードで飛んでいき、上空にいる残党に当たると、大きく吹き飛ばした。かまいたちが当たった残党は、体中が切り刻まれ、羽はボロボロにちぎれていた。生きていても、地上に落ちれば森の中。そうなれば臆病犬達により逃げ場はなかった。ビビレッジを囲むように展開されている対空シールドに弾き飛ばされた残党達も、結果は同じであった。
「うん! 出来た!」
きっちり仕事をこなして戻ってきたルルの頭を、俺は撫でてやった。
「よくやったぞルル」
「うん!」
「次は残りの1軍がいる。また頼むぞ」
「ルルに任せなさい!」
大きく胸を張って答えるルルに、俺は微笑みながら頭をガシガシと撫でたのだった。
そしてミラ、マイン、村長に向けて指示を出す。
「ミラ、相手の質は低いとはいえ、お前が一番数を相手にする。絶対に無理はせず危なくなったら離脱しろ」
「はい!」
「そしてマイン、村長、お前たちが要になる。頼んだぞ」
「受け賜わった!」
「任せておけい」
「いいか、お前達を死なせるつもりはない。危険と判断したら離脱、これは命令だ。離脱したからといって作戦が失敗するわけじゃない。その時はその時で、別の作戦を俺が考える。いいな!」
「「「了解!」」」
そして、三人は作戦司令室を後にした。
二十万人の1軍も、火力と弾数を上げて発射された長距離爆撃弾頭砲により、前回の流れと同じくして壊滅していった。
残るは国王ドドマエルがいる二十万人の2軍と、後方より進軍する50万人の3軍。
2軍の戦士達と、ドドマエルは目の前に広がる光景に絶句していた。台地には無数に穴が空き、黒々と焦げては辺り一帯に広がる肉塊や肉片。どう見ても1軍の残骸のそれは、なにが起きたのか予想することも出来なかった。
ドドマエルは隣にいる男に静かに声をかける。
「レオニル、これをどう見る?」
声をかけられたレオニルという男は、ライオンをベースとしたビースト部隊幹部長だった。
「先行部隊を含めた1軍かと。おそらく全滅している可能性がある。原因は、なにがなにやら……広範囲の上級魔法ですら、ここまでは……」
「ふーむ……。ん? 何かがくるぞ!」
時は少し前、作戦司令室にてオペレーターの声が鳴り響いていた。
「長官! 敵2軍が目的のポイントへ到達しました!」
「よし、第五班! 超長距離電磁加速砲、発射用意! そして長距離爆撃弾頭砲も弾頭を一発だけ放つ」
「了解!」
ビビレッジで一番の土地面積を誇る農業区。
その空きスペースにて地面がスライドすると、地中からは横に五百メートルもの長さを持つ巨大な兵器が現れた。それは徐々に高度を上げ、村の周辺の森を見渡せるくらいの位置にて静止した。それの出現と共に、ビビレッジ内にてあらかじめ録音されていたアナウンスが流れていた。
《住人のみなさんにお伝えします。これより超長距離電磁加速砲の使用につき、一時停電とさせていただきます。住人のみなさんは、すみやかに地下シェルターへと避難してください。繰り返します――》
地中から現れたのは――超長距離電磁加速砲。
二本のレールが五百メートルの長さを持ち、レールとレールの間には弾頭が搭載され、電力タンク制御装置『しびれるんです』に内蔵された電力を使用することが出来る電磁加速砲である。
「超長距離電磁加速砲、長距離爆撃弾頭砲、発射用意完了しました!」
「放て!」
超長距離電磁加速砲から撃ち放たれた弾頭は、光の帯を引きながら超高速で飛んでいった。
それは2軍の右翼と左翼に直撃し、通り過ぎた道は大地を抉り、その場に何も残すことがなかった。
そして、長距離爆撃弾頭砲からは弾頭の一つが放たれ、2軍中央部へと被弾した。
ドドマエルはその場にふんばり、両腕で顔を覆っていた。
突然の閃光が右翼、左翼と直撃し、その後すぐに奇妙な黒い物体が落下してきたと思ったら、物凄い爆発を巻き起こしたからだ。
「ぐ、ぐうううう」
必死に持ちこたえ、少しばかり衝撃と爆風が治まるとドドマエルはゆっくり目を開いた。そこに広がるのは――あれほどいた自軍はほとんどいなくなっており、左右の大地には大きな抉られた跡、前方の部隊はほぼ壊滅状態。なにが起きたのか、理解が追いついてはいなかった。
「ドドマエル様、無事ですか?」
「ああ、お前も無事だったようだな。万全に動けるのは……世とお前だけか……」
レオニルもさすが幹部長か、傷一つ負ってはいなかった。
すると、ドドマエルは何かに反応し、前方に意識を集中した。程なくすると光り輝く刀が二人の元へ飛んできたのだった。ドドマエルとレオニルは左右に飛ぶようにしてそれを躱すと、前方から何者かが二人近付いて来るのが目に入った。
それは徐々に距離を詰め、完全に目視出来るところまでやってきた。
「お主が国王だな。ここで潰させてもらうぞ」
「側近のほうは、わしが相手するかの」
それは、マインと村長の二人だった。
進軍している3軍の背後に、ミラの分身体が地中から現れた。そして分身体が蜃気楼のように少し揺れると、ミラ本人へと変わった。
ミラは、少し距離のある前方に意識を向ける。敵3軍、それは五十万人もの大軍隊。
黒影を右手に構え、忍装束に付いている黒いスカーフで口を覆い、目に力を込めてミラは走り出した。
「忍者狼がミラ。参ります!」
そして――
大軍隊五十万人vsミラ、ビースト幹部長レオニルvs村長、国王ドドマエルvsマインの激闘の幕が、切って落とされたのだった。




