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眼の異世界転生  作者: ビッグツリー
第二章 目的~ビビレッジ編~
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十八話 差があり過ぎる戦争

「バカな! 全滅しただと!?」


 東の大陸『ストロマエル』にある大国『シアズム』。そこの王宮内の地下では、裏守護組織『ビースト』の総司令ステールの怒声が鳴り響いていた。


「はい。ステール様に言われておりました通り、上空部隊の一人である私が非常事態と察知し、戦線離脱して参りました」

「ほ、本当に生きておるのはお前一人か!? 幹部もいたのだぞ!」

「はい……。戦線離脱後、情報収集の為に隠れて戦場の確認を行いましたが……誰一人生き残りはおりません。しかも相手は臆病犬ビビリ・ドッグの幼い娘一人にです。この目にしても信じられない光景でしたが、まさに一騎当千の実力の持ち主でした。かすり傷一つ与えられなかったでしょう」

「なんてことだ……あの、最弱の種族が……」


 ステールは、右手で頭を押さえながらフラフラとよろめき、大きな机に左手で着いて寄りかかった。


(これでは、わしの計画が……いや、待て)


 ステールは、何かを思いついたかのように小さく目を見開いた。


(相手がそれほどまでの力を持っているのならば、それを利用すればいいのではないか? くふふふ……)


「あの村へ殲滅作戦に出るぞ! わしは王と話して作戦会議をしてくる。ビースト部隊と、表部隊の全てを収集しておけ!」

「はっ!」





 大国『シアズム』の王宮にある、王の間にて、国王ドドマエルとステールの姿があった。


「ふむ……優秀なビースト部隊が、たったの小娘一人に……」


 ドドマエルは、ステールからの報告を聞くと腕を組みながら遠い目をして静かに答えた。


「わざわざ国王様のお手を煩わせないように、この国の為を想って動いたのですが……まさか臆病犬ビビリ・ドッグ共が想像も絶する力を得ていたとは……。これはあの黒いローブの人間がなにかしたに違いありませんぞ。このまま放っておくのは危険かと存じまする」

「ふーむ、人間がなにかしでかしているのならば、向こうの王のクラマに報告したほうがいいのではないか?」

「それだけはダメですぞ! 絶対になりませぬ! もしあの黒いローブの人間が、向こうの策略だったとしたならば、この大陸を攻める絶好のチャンスと報告するも同じですぞ!」

「ふーむ、そうなるか」

「あの黒いローブの人間がいる村を、早急に殲滅するべきかと。臆病犬ビビリ・ドッグですら驚愕な力を手にしております。それに加えて、ハピの街から拉致している住民達も同じようにされているかもしれませぬ。きっと、この大国を滅ぼし、しいては大陸を制圧するでしょう。時間を与えない為にも、早急に排除すべきかと! すでに表と裏の全部隊を収集するよう命じておりますゆえ、集まり次第、殲滅作戦に出るべきです!」

「亜族同士で……血が流れてしまうのか……」

「国王様、この大陸を守る為ですぞ」

「そうだな……ステール、お前に任せる。作戦を考えよ」

「はっ!!」


 かしずくステールの口元には、不気味な笑みを含ませていた。




 ドドマエルはステールの姿が見えなくなると、遠くを見つめて小さく呟いた。


「黒いローブの人間……か。魔導士ナオヒロと関わりのある人物なのだとしたら……きっと、この大陸は怒りを買ってしまったのだろうな……」


 そう言うと、ドドマエルは静かに目を閉じたのだった。






 ビビレッジへの襲撃事件から二週間後、俺はジルの元へと来ていた。

 ソファーに座って向かい合い、静かにコーヒーを飲んでいた。最初に口を開いたのはジルだった。


「これは……ジークさんの予測通りなのですか?」

「いや、俺の存在も、ビビレッジの存在も、国王に知られるのはもっと先の予定だった。それにこんな形にするつもりもなかったのだがな……。間違いなく、攻めてくるだろうな」

「はぁ……」


 ジルは、大きく頭を抱え、肩を落とした。同じ大陸に住む同種同士が争うことになるのだ。そう考えると、ジルは大きく溜息を漏らすことしか出来なかった。


「向こうはきっと、最高戦力でやってくるだろう。最強と言われるビースト部隊だったか? それがたった一人に壊滅させられたのだからな。一人隠れている奴がいたから、間違いなく状況報告を行っただろう。この街も、どう報告されているかは分からないが、戦場になるかもしれない」

「ジークさん……それでは、街の住民達は――」

「安心しろ」


 ジルの言葉を遮ると、俺は一つの装置を空間収納から出してジルに手渡した。


「これは?」

「この街全体を覆うように展開される強力な障壁を設置しておいた。今は地中に隠れているが、非常時にそれを作動させる為のスイッチだ」

「そ、そんなものが……いつの間に」

「さっきだ」

「……ぷ。あははは。まったく、あなたにはホント驚かされますよ」

「お前を驚かすのが趣味なんでな」

「とんだ悪趣味ですね! しかし、少し安心しました。あなたのことだ、ものすごく頑丈なのでしょう?」

「当たり前だ。この街は俺のも同然だからな」

「違いますけどね! まあいいでしょう。あなたに全てを委ねます。出来ることがあればおっしゃってください、力になりたいですから」

「ああ、分かった」



 



 村へと戻ると、もうすっかり遅くなっていた。ミラの家へ帰ると、ミラとマインが夕飯の準備をし、ルルはテーブルを拭いていた。最近、ルルも自分からお手伝いをするようになっていたのだ。


「あ! お兄ちゃーん! おかえりなさい!」

「ああ、ただいま。よっと」


 トコトコと走って近寄ってくるルルを抱きかかえると、そのままキッチンへと向かった。


「ジークさんおかえりなさい!」

「ジーク殿! おかえり!」

「ああ、今日も村の方は変わりなかったか?」

「はい! 大丈夫です!」

「うむ! いつも通りだ!」


 俺は報告を聞くと、カエルの椅子に座って、ルルを膝に乗せた。

 食事もすぐに運ばれてきて、四人で囲って夕飯をいただいた。食後にデザートとしてプリンを食べていると、ふいにルルが言った言葉に俺は耳を傾けた。


「どうして王様はルル達をいじめるんだろーね! 獣人のみんなが大切だから人間とも仲良くするようにしたって、ママ言ってたのにー!」


 ルルは、何気なしにそんなことを言っては、プリンをパクパクと食べていた。


「ルルそれはな、戦争の準備をする為の、大人の言い訳ってやつだ」

「ふーん、ルルわかんない」


 俺は大人の厳しさを教えてやったつもりだったが、まだルルには早いようだ。


 いや、待てよ。


(リーナ、ビーストについて知っているか?)

《裏守護組織ビーストは、亜族の大陸ストロマエルを代々により受け継ぎ守護する役目の戦闘集団です》

(王との繋がりは?)

《ビーストは大陸を守るために、そこに君臨する王も必然的に守る立場となるです》

(ミラから報告のあった総司令のステールという男と、王とではどちらがビーストを動かす最高権限を持つ?)

《最高権限は王です。亜族の大陸の王は、絶対的な力の象徴として、個での戦力を持ちます。なのでビーストの総司令は、ビーストの集団を統括するのが基本です。些細な紛争なら総司令のみの権力で動かすことが可能でしょうが、大きく動かすとなると王の許可を仰がねばならなくなるです。でないと、危険分子として王が排除を行うからです》

(なるほどな。ステールという男の情報はあるか?)

《残念ながらないです。私の記憶は千年前までのものしかないので、ビーストの総司令は当然代変わりをしており、現在の総司令ステールの情報はありませんです》


 可能性はあるか……一応裏付けを取っておきたい所だな。


「ミラ!」

「は、はい!」

「影分身を本国へ送れるか?」

「出来なくはないですけど……まだ慣れてなくて」

「分身体はリーナに制御させる。ステールという男を探ってほしい。戦闘は行わず、あくまで情報収集だ」

「分かりました! 秘伝忍術・影分身!」


 ミラの影から、もう一人のミラが現れると、サッと消えていった。


 実はあの襲撃後、ミラは残党の悲劇の影響あってか、秘伝忍術に新たに『影分身』を習得していたのだった。



「ねー、お兄ちゃん」

「ん? どうしたルル」


 プリンを食べ終え、遊んで欲しいのかルルが俺の膝に乗って来た。いつもは背中を向けて座るのだが、今回は向かい合うように前向きで座ってきた。


「敵がいっぱーいくるんでしょ? それはけんかしてるからなの?」

「まあ、そうだな。簡単に言えばケンカかもしれないな」

「みんな仲良くすれば、ケンカしなくてすむのにね! ここのみんなは、いろいろな人いるけど、みんな仲良しだもん!」

「そうだな……」

「ルル、みんなに仲良くしてほしいなー!」


 俺は、静かにルルの頭を撫でてやった。


 ルルの言っていることは綺麗事、現実逃避、妄想……色々当てはまる言葉があるが、それは俺達大人が作りあげたものだ。それを何も知らない、未来ある子供に強要するのは違うんじゃないかと思った。俺には子供はいない、子供と接したこともない、だけど……ルルと関わって解った。子供はあんまりにも素直で、自分に真っ直ぐに生きている。俺は今ではこの子の親代わりだ。何も知らない子供だからこそ、親が良い事と悪い事を教え、未来ある子供だからこそ、親がいくつもの分岐点がある内で悪い道を排除し、夢と希望に溢れるいくつもの未来の道を作るべきなんじゃないかと。子供はいずれ自分で道を歩き出す。その道はたった一本用意するのではなく、子供にとってより良い未来が待ち受ける多くの道を用意してあげるのが親の役目ではないのだろうか。


 俺は……静かに心の中でそう思ったのだ。






 それから一週間後、ビビレッジの防衛対策は完成した。住人達も非常時の動きにはムダがなくなり、訓練とはいえ、確実に起こる未来の戦闘に向けて緊張を持って取り組んでいたからだろう。

 俺は住人達全員を住宅区の空きスペースに収集し、作戦の最終確認を行った。


「――これで作戦は以上だ! いいか、全員の動きによってこの戦いが大きく左右される。俺の指示の元、訓練通りに行えば大丈夫だ! 初めての戦争で恐怖する者もいるだろう、逃げ出したいと思う者もいるだろう、だがここがお前たちの居場所だ! 俺がお前達を必ず守ってやる! お前達は、自分の居場所を守るのだ! その力がお前達には、ある!!」

「うおおおおお! やってやるー!」

「必ずこの村を守ってみせるぜ!」

「絶対に守り抜く!」

「この村は、私達の村だもの!」

「好き勝手になんかさせないわ!」



 魔通機のデータから応用して作った拡声器を使って演説も行い、全員の士気も上げることが出来たようだ。




――ビー! ビー! ビー!


 突如、けたたましい警告音が村全体に鳴り響いた。

 それは、敵の動きを観測する為に事前に打ち上げていた自動観測制御滞空機『とびますとびます』が敵の動きを察知し、警告を鳴らしたのだった。


 自動観測制御滞空機『とびますとびます』は、一基で全方位四千キロメートル以内の視覚情報を把握することが出来き、得た情報は大元の総合情報処理制御装置『村の心臓』へとリアルタイムで送られるのだ。この『とびますとびます』は、本国の『シアズム』と繋ぐ直線状の上空二千キロメートルにて滞空している。また、数基を同期範囲である四千キロメートルの間隔を空けて設置し、それぞれがデータの送受信を行うことで本国『シアズム』周辺まで見通せるようになっている。



 住人全員が速やかに持ち場へと着いていった。住宅区では役所の隠し扉、観光区では旅館の隠し扉、工業区では精米工場の隠し扉、農業区では地面に扮してある隠し扉からと、各自担当する持ち場へいち早く辿り着ける隠し扉から向かって行ったのだ。

 そして俺は自分の部屋に行き、台座へ座ると設置してある一つのボタンを押した。

 その瞬間、床がスライドして開き、台座に座ったまま更に地下の空間へと高速エレベーターのように移動した。


 台座が止まると、通って来た天井がスライドして閉じる。



 その空間は――対村敵作戦司令室。

 部屋の一番前方には、各種鉱石と水晶で作られた巨大スクリーンがあり、その中で各地の状況別に細かな枠として表示がされている。作戦司令室の別室には、総合情報処理制御装置『村の心臓』が設置してあり、そこからさまざまな情報を得たり、作戦司令室からの主制御が可能となっている。中央部には長机が四つあり、その上には小さなモニターと数種のボタンやキーボードのような機械が設置されている。一つの机に二人が座り、総勢八名のオペレーターが存在している。そして部屋の後部には床が一段高くなり、そこに設置された台座に座って全体を見渡すことが出来る存在――総司令長官ジークが位置する。



「ふむ。総勢百万人ってところか。陣形を取っているようだな。数に任せてただ攻めてくるバカ共ではないということか。この戦い……負けるわけにはいかない」


 ジークは脚を組み、本国外にて動く敵群衆をモニターで観察しながら呟いた。

 そしてしばらく経つと、陣形が完成したのか、群衆は静かになった。






 『シアズム』の外にて、群衆を見渡せるように立つ男――ステールがいた。


「ステール様、いつでも行けます」

「くふふふ」


(この戦い……負けるわけにはいかんのじゃ)




 ビビレッジ軍約二百人vsストロマエル軍百万人の雲泥万里戦争。


 そして、ジークとステールの両者がぶつかり合う――。






「よし、作戦開始だ!」

「作戦開始じゃ!」

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