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眼の異世界転生  作者: ビッグツリー
第二章 目的~ビビレッジ編~
20/70

番外編 ミラ、ダークサイドの片鱗(挿絵あり)

ジークがドラゴンマウンテンで一日採掘作業をしていた際の、ミラ視点の番外編となります。

※読み飛ばしても本編に支障はありません。変貌するミラの描写と挿絵があります。

 今日は朝からムタさんがやってきて、どうやらジークさんと一緒にハピへと向かった様子。マインさんは戦闘訓練でいないし、一人になった私はとりあえずいつも通り家事をこなすことにした。


 朝食に使った食器を洗い終わった私は、リビングのガラス張りの窓を開け放って部屋の換気をした。

 今日の太陽はご機嫌なのか、笑ってるような明るい光がリビングへと差し込んでくる。ぐぅーっと背伸びをしてみると、ちょうど緩やかな風も舞い込んできて気持ちがいい。昨日は行水をしたから体もサッパリしてるし、髪も昔と違ってサラサラになってきた。裸を覗かれたのはビックリしたけど、その後のそっけない反応の方がビックリした。というかちょっとイラっときた。もうちょっと気にかけてくれてもいいのになープンプン。まぁでも、行水所を作ってくれたジークさんに感謝ですな。舞い込む風で優しくなびく髪がサラサラなんだと実感させてくれるし、髪は女の命。最初は廃れていた心のジークさんも、村に来てから少し変わったというか優しくなったように感じるし、私ももっと綺麗になってくれれば振り向いてもらえるかも? 


「きゃぁぁ」


 頬に手を当ててクネクネと妄想に浸っていると、ハッと思い出した。


「そうだ、お洗濯!」



 昨日はあいにくの雨模様で洗濯物が干せなかったので、天気のいい今日は干すことに決めていたのです。洗濯物が入ったカゴを持つと少しだけ重い。マインさんのもあるから小さなカゴじゃギリギリみたい。だけど、増えた洗濯物の数だけ一緒にいる家族が増えたのと同じ。今まで一人分しか入っていなかったカゴが、洗濯物と一緒に大切な人の想いで満たされているように感じる。それは自然と私の気持ちを現しているかのようで、とても温かい気持ちになれる。ジークさんは服も体の一部のようなものだからと言って、洗濯には出せないみたいだけど、”そこにいる”だけで私の心は満たされていくんです。


 そんなことを想いながら暖かい日差しの当たる広い庭で、一人微笑みを零しながら洗濯物を干していました。



 洗濯物も干し終わって、お掃除しようかなと思ったけど、ジークさんが家を新品……じゃなくて新築みたいにしてから埃とかも一緒に無くなっちゃったようで、マインさんが来てからの改築でまた綺麗になったから当分は大丈夫だろうとサボることを決めていた。


「よし、少しお昼寝タイム!」


 二階にある自室へと足を進め、ふかふかのベッドにダイブした。


 これが気持ちよくてやめられないの。ふっかふかのもっふもふで、自然と顔もとろけちゃう。

 ちなみにベッドはジークさんが作ってくれた(頼んだ)可愛いシーツが敷いてある。座る子犬の大きなプリントがしてあるシーツに、掛布団は肉球のイラストがいっぱい描いてあるやつ。枕カバーは二匹の子犬がじゃれ合ってるようなイラストの見てるだけでも癒されるお気に入り。


 部屋はどんな感じかって言うと、カーテンは水色の無地で、部屋の内装は全部白。フローリングの床には肌触りのいい茶色の布が敷いてあってその上に白い丸テーブルがある。クローゼットがあるからそこに服とかを収納してあって、小さな三段の棚を新しく作ってもらったからそこには普段使うクシとかの小物品を置いてる。ベッドは可愛い感じだけど、部屋全体としては白を基調としてシンプルにちょっと大人な感じかな? だって大人だもん! ジークさんは子供扱いするけど大人ですから!


 マインさんの部屋と比べると大人っぽいのは間違いない……はず。普段は凛々しくてカッコイイ大人なマインさんだけど、実は可愛い物好きな一面もある。特に部屋は謙虚でピンク系が多いし、ハピ印のぬいぐるみがいっぱい置いてある。そんな一面を知ってるから、マインさんも女の子なんだなぁって少し親近感が沸いてつい顔がニヤけちゃうんだよね。



「あ~ダメ。気持ちよすぎて私は猫になっちゃいます」


 テラス側のガラス張りの窓から差し込む暖かい光を浴びながら、無造作にベッドで横になる私は意識を夢の中へと落としていったのでした。






――コンコン。


 ふと部屋のドアを叩く音が微かに聞こえた気がした。


「ミラ殿、いるか? もう夕方だぞ」



 ん~あと五時間……なんてむにゃむにゃしてる場合じゃない! 


 私はガバッと起き上がり、急いで部屋のドアを開けた。


「すみません! 寝てました!」

「ワハハ! だろうと思ったぞ! だから起こしにきた」


 夕方になっていつもなら夕飯の準備をしているはずの時間なのに、それがされてなかったから案の定マインさんは察したらしく起こしに来てくれたようだった。


 


 犬のプリントがされたエプロンを付けて、私とマインさんはキッチンに立っている。ジークさんがいつ帰ってくるかも分からないし、完全に寝坊してやっちゃった感が凄い。

 ちなみにマインさんはうさぎのプリントがされたピンクのエプロン。これも可愛い一面の現れで、微笑ましく感じる。


 ジークさんと言えばリーナお姉さまと話せるようになったし、いつ帰ってくるのか聞けばいいんだという名案が浮かんだ。


「リーナお姉さまいますかー?」

《はいはいこちらリーナ、なんです?》


 ちょっと忙しそうな感じのリーナお姉さま。タイミング悪かったかな?


「何時頃戻ってくるのか知りたいんですけどぉ……」

《明日の夕方ごろには帰れると思うです。鉱石を採掘しに来てるですが、大量のおもちゃを目にしたうちの大きな子供が全力で掘り尽くすようなので、サポートに完全移行するです。作業中は回路も閉じちゃうので、また明日です~》



 ありがとうリーナお姉さま、そして忙しいところごめんなさい。でも、話せるうちに時間を聞けて良かったかな? ちょっとタイミング的に微妙な感じだったけどギリギリセーフってことにしておこう。



 すると、マインさんが急に声を上げた。


「む、材料が足りなそうだな」


 あ、私が寝てたから夕飯の食材調達してなかったんだった。これは私の責任だから、もう暗くなってきたけどしょうがないよね。


「私採りに行ってきます!」

「もう暗いぞ?」

「大丈夫です! 村の外は私には庭のようなものですから」

「ふむ、なら悪いが頼まれてくれるか」

「はい! 行ってきます!」

「気を付けてな」


 エプロンを外して駆け足で玄関へと向かった。目的地は村の外にある森林地帯。あそこなら足りない食材の山菜系がいっぱいあるんだよね。






 森の中で採取を始めてみたけど、思ったよりも手ごたえが少ない。村の近場は他の住人達も採りにくるからだと思った私は、足を進めて逆の荒野側付近で採取をすることにした。



 移動してから採取を始めているとすぐ、夜の荒野から近づいてくる何者かの気配を感じ取った。

 月夜に照らされて荒野に伸び行く影は三本。両端は細い陰で、中央の影は明らかに人とは思えないほど巨大だった。


 方角的に村へ向かってるような気がするし、なにより不穏な気配が漂ってる怪しいそいつらをそのまま進めさせるわけにはいかなかった。この先には村がある、危険を及ぼすようなら今ここにいる私が一番早く対処が出来る。


 

 私は隠れもせずに堂々と荒野へ身を乗り出すと、向こうも気が付いたのか、一瞬足を止めてから私の姿を確認するなりニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべながら近寄って来た。


 両端がニヤニヤしているタヌキをベースとした獣人、中央にいるのは……魔物? 体長が三倍ほどある巨大なコアラのような生き物だった。完全にコアラ主体だから獣人ではないのは明らかだと思う。


「こりゃぁ可愛い臆病犬ビビリ・ドッグの少女じゃねーか」

「くへへ、こんな夜に危ないぜ?」


 ニヤニヤと笑っては下から上へと体を舐めまわすように見てくる二人。気持ち悪くて鳥肌が立ったが、ここは我慢しないと。


「なんでここに来たんですか。その後ろのはなんですか」


 二人は顔を合わせると、わざとらしく口笛を上げては喜ぶような表情をしていた。


臆病犬ビビリ・ドッグにしてはなかなか度胸のある女だな! こいつは”ブラックコアラエンペラー”、突然変異体のレベルBの魔物だ」

「俺達は人間の大陸で偶然おもしろいおもちゃを手に入れてな。この指輪は魔物を操ることが出来るって代物だ、これで後ろのデカブツを下僕にしてるってわけ。お分かり?」

「なにするつもりなの」


 自慢げに変な指輪を見せびらかしてきるけど、そんなことどうでもいい。問題はそんな危険な魔物を付き従えて”何を”するのかってこと。


 すると二人は急に笑い声を上げた。月夜で照らされるだけの静寂な闇夜にその笑い声は不気味に響く。


「この辺りに臆病犬ビビリ・ドッグの村があるんだろ? そこで遊ぶんだよ」

「昔に一度この辺りに来た事あるしな、だから場所は覚えてた。その時二人の臆病犬ビビリ・ドッグを殺したなぁ、確か六年前くらいだったか?」

「あぁ、確かそのくらいだ。男と女の二人だったな」


 六年前? この辺りで男女の二人? 臆病犬ビビリ・ドッグを殺した? それって――。


「あの、もしかして掌に傷があったりしますか?」

「は? あぁ、六年前に暴れる男のナイフでやられた傷が残ってる。なんで知ってんだ?」

「そっか……」






 六年前――当時九歳だった私は、お父さんとお母さんの三人で村の外にある森へと山菜を摘みに来ていた。優しい二人はいつも私を気遣ってくれて、今日もトゲのある葉っぱや触れるだけで痺れてしまうキノコなどから私を守ってくれていた。優しくていつも笑顔を向けてくれるそんな両親が私は大好きだった。

 

 すると、少し離れた場所の草木が激しくガサゴソと動く音が響き渡った。魔物かもしれないと、お父さんは私を木の陰に隠れるように促した。だけどその音の正体は魔物ではなかった。


 背の高い雑草を手に持つナイフで乱暴に切り開きながら進む二人の男の姿が飛び込んできたからだ。タヌキをベースとした獣人で、なにやら機嫌が悪そうだった。


「クッソ、近道しようと思って入ったら結構広いじゃねーかよ」

「だいたいの方角は合ってるんだ。森を抜け切るまで進むしかないだろー」


 大きな木の背に隠れる私。お父さんとお母さんは私を気付かせない為か、その二人の元へと歩み寄った。


「こんにちわ。迷ってしまわれたのですか?」

「良ければ私達が案内しますよ」


 にこやかに微笑んで優しく声をかける両親、普通ならその行為はイイ人だと印象付ける思う。けど、その二人のよそ者は普通じゃなかった。


「は? 臆病犬ビビリ・ドッグが調子に乗るなよ」

「案内なんていらねーんだよ! バカにしてんのか?」


 明らかに殺気立つ二人に、両親は困惑の顔を浮かべて静かに一歩後ずさった。

 よそ者の二人は顔を見合わせると不気味にニヤリと口角を上げた。


 その瞬間だった――、一人がお父さんに、もう一人がお母さんに襲い掛かったのは。

 ナイフで細かく傷を付けられるお父さんは、採取用の小さなナイフを取り出すと取り乱したように振り回していた。それは男の掌を切り裂き、真っ赤な自分の血が流れるのを見た男は逆上していた。


 お母さんは必死に抵抗していたけど、力が弱いからあっという間に地面に倒されて、血走る目と荒い息を漏らしている男にビリビリと乱暴に衣服を剥ぎ取られていた。


「逃げろぉぉぉぉ! ミラー!」


 お父さんが大きな声を上げると同時に、体を一瞬ビクッと震わせてから動きと声が止まった。そしてそのまま倒れ込むと、お父さんの陰になっていた場所にはベッタリと血の付いたナイフを握っている男の姿があった。


 私は口元を抑えて必死に声を我慢し、そこから全速力で逃げ出した。


 ――誰か助けて!


 そう何度も心の中で叫んだけど、”怖い”って感情に押しつぶされて、ただ涙を流しながら村へと逃げることしか出来なかった。



 何日か経って村の大人達が探しに行ったようだけど、そこには血の跡以外何もなくて、私には両親と暮らしていた家だけが残された。






「あなた達が……私の両親を殺した」


 目の前の二人が親の仇だと理解したとき、私の理性は一気に吹き飛んだ。心の奥底から溢れ出してくる禍々しい感情が私を押し潰す。そして、目を瞑るとなぜだか意識が薄っすらとしていく――。


 おもむろに取り出す小太刀・黒影。目を開けるとまるで捕食者にでもなったかのような目の違和感を感じる。自分の体が自分じゃないような変な感覚。だけど不思議と――心地よかった。


「コロシテヤル」


 ペロリと唇を舐めると私は男達の元へ駆け出した。



「な、なんだ!? やるってのか!」

「おいデカブツ! あのチビを殺せ!」


 そう叫ぶなり二人はその場から離れて行った。どうやら後ろにいる魔物が私を殺そうとしているらしい。


 殺される? 死ぬ? だったら――コロシテヤル。


 

 真っ黒の毛皮で覆われた巨体から、大きく振りかぶった腕を私目掛けて地面へと振り下ろす魔物。巨体ゆえに動きは単調で、すんなりと躱すことが出来た。地面へとめり込む拳はその破壊力を物語っていたけど、当たらなければ意味がない。


 躱した瞬間に五連撃ほどその腕に刻み込み、魔物は苦痛で雄たけびを上げながら太い両腕をブンブンと振り回して私を殴りつけようとするが掠りもしなかった。逆に一度躱す度にこちらは黒影で数回斬り付け、真っ赤な血飛沫を闇夜に解き放っている。


「あははははは!」


 自然と笑いが零れ出る。

 皮を斬り、肉を割き、飛び散る真っ赤な血。それがあまりに綺麗で私は艶悦に浸っていた。


「うふふ……ふふふふ」


 しばらく遊んでいると目の前の魔物は力尽きたのか、地面へと倒れては大きな音を響き渡らせた。

 私はその魔物の体の一部を斬り取ると、それを引きずっては傍観していた二人の男の元へと近寄った。



「ふふふ……次はあなた達の番」


挿絵(By みてみん)





 月夜が照らす普段は静寂な荒野、だがその場では二人の断末魔とも言える悲痛な叫びが響き渡ったのだった――。




 


 意識がハッキリとして気が付くと、私はポツンと立っていた。手には黒影を持ち、ワンピースが真っ赤に染まっている。足元には二つの死体と、謎の肉塊。

 それは私がやった物、なんとなくだけど覚えていた。薄っすらとある意識の中で、まるで自分の体が勝手に動いてるような感覚があったのだ。


 なんだろう……すごく怖い。自分が、自分じゃなくなりそうで――。


 心の違和感を抑えたくて胸をぎゅっと押さえていると、ハッと思い出した。


「急いで帰らないと!」


 

 村に戻り、行水所で返り血がべっとりと付いたワンピースを洗って、火遁で急いで乾かした。


 そして、何食わぬ顔で家へと戻ったのだった。



「ただいま!」

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