リーナの思惑
次の日、朝食を食べ終えた俺達は家の外に立っていた。それは、マインが住むようになったので今のままでは手狭なこの家を拡張する為である。
俺は二人を後ろへ離れさせ、家へと近づくと両手を壁に触れ意識を集中した。家が光り輝くと、以前とはまるっきり違う姿を現した。
なんということでしょう!
以前は木造の小屋のようだったその姿は、屋根は片流れタイプのスッキリとした二階建ての家へと様変わり! リーナとの協同による最新鋭の住宅設計により、地震や突風などが来ても、耐久度の高いミスリル鉱石製の鉄骨を使用している為、安心・安全の住まいです。一階には広い庭があり、二階には日当たりの良いテラスが設けられています。中に入ってみましょう。今まで玄関の位置は中央だったのに対し、家の左角に設計することによりスペースを確保。又、玄関には今まで靴を履いたままの入室だったのが、収納率の高い下駄箱を設置したことにより、家の中を汚すこともなくなりました。角を曲がり右へ進むと、空間全体を使ったリビングが広がっています。ここにはキッチンとダイニングもあり、リビングと一繋がりすることによって、開放感を演出しています。又、余計な壁がないことにより、料理しながらでも気軽に話すことが出来るようになっています。そして玄関側の壁は全て、透明度の高い水晶によってガラス張りのようになっており、より開放感を楽しむことが出来ます。快適さと開放感を充実させることによって、家族全員が顔を合わせて落ち着くことの出来る、充実とした空間になるでしょう。そして家の左奥には二階へと続く階段があります。バリアフリーを意識し、緩やかな階段に、握りやすく低めの手すりを設置。お年寄りにも安全な設計です。そして二階は、上がった先の階段から家の奥まで繋がる一本の廊下。部屋は二部屋あり、テラス側の壁は一階と同じく全て水晶を使ったガラス張りになっており、日当たりのいい広い空間は、元気のあるお子様のお部屋にも最適です。又、どちらの部屋にも大きなクローゼットを設け、場所を取らない収納率を演出します。二階部分は、ミラとマインの個室となりました。そして新たに、家には地下を設けました。一階の階段の裏に、地下へと繋がる階段があります。階段を下りるとオリハルコン鉱石製の頑丈な扉があり、暗証番号と個別魔力登録による施錠機能による防犯対策にも充実しております。その扉を抜けると、50畳ある広い空間が広がり、壁はオリハルコン鉱石製と耐熱・耐湿・耐水性のある各種鉱石を組み合わせた安心設計になっています。又、天井には発光石を利用した照明装置があり、内部で発光石の光を反射させてから放出する直接照明により、地下内でも明るい光をもたらします。それとは別に、全自動空調システムが取り付けられており、空間収納に収められた空気を排出・吸引することにより換気をし、また冷却・加熱することにより、設定温度・湿度に応じた温度と湿度が常に保たれます。壁際には収納率の高い棚が設けられ、大量の荷物を置けるようになっています。そして、その部屋で一際目立つのは、オリハルコン鉱石製へと生まれ変わった台座です。強度を上げ、数年座っても壊れることのないように安全性を向上しました。又、軟性のある植物性樹脂を使用することによって、長時間座ってもデリケートなお尻にダメージを与えない優しい設計になっています。この地下空間は、研究・開発室として、ジーク専用の個室となりました。
拡張が終わると、俺は目玉の姿になり地面に落ちた。
やばい、やりすぎた。物作り世界代表の匠の血が騒いで、ついやってしまった。人間の姿を維持できないくらい魔力を使い過ぎた。初めてこの状態にまで持ってかれたな……休息モードを超える、強制活動制限モードってとこか。ほとんど何もできなくなった。
ミラとマインを見ると、あまりの家の変わりように口をあんぐり開けて突っ立っている。
「おい! ミラ!」
「へ? あ、はい! あれ? なんでその姿なんですか?」
「調子に乗ってやりすぎた。魔力がもうほとんどない。動けなくなったから俺を拾え!」
「は、はい!」
地面に落ちてる俺はミラに拾ってもらい、三人で家の中を見ながら色々と細かな説明をした。二人とも自分の部屋があることに大変ご満悦のようだ。説明してる最中は、ミラは耳と尻尾を激しく動かし、マインはずっと、なんと! としか言ってなかった。
一通り説明が終わるとリビングで興奮の余韻を楽しみつつお茶にしていた。俺は椅子に乗ったままだ。台座は部屋にあるので、リビング用の俺の椅子はとりあえずカエルをモチーフにした。意味はない。
「はぁーなんだか、今でも信じられません!」
「あまりの変わりようであるからな! 快適でいいではないか! ワハハ!」
「でも、ジークさんの部屋だけなんかずるくないですか? 明らかにあそこだけ違います。私の家なのに!」
「じゃあ、文句を言うお前の部屋は取り壊しておくとしよう」
「やだやだやだー! ごめんなさい! ごめんなさい!」
「そしたら二階は全部私の部屋になるな! ワハハ!」
「ぶー! ところで、この後どうするんですか?」
「俺は今日は動けん。魔力が全快するのは明日になるな。今日は、マインに村を案内してやれ。俺は部屋で明日まで休む」
「はーい!」
「あい分かった!」
俺はミラに、台座の上に乗せてもらい休むことにした。台座は、不思議と落ち着くのだ。
本当ならやることは色々あるのだが、こうなっては仕方がない。とりあえず今日は家の拡張を済ませたし、満足のいく出来に仕上げることが出来たから良しとする。
リーナに頼んで魔力が全快するまでの間、意識をシャットダウンしてもらい俺は眠った――。
ミラとマインは、村の中を見て回っていた。なぜか男の住人達が、積極的にマインへ挨拶に近づいてくる。
「ど、どうも、初めましてぇ。おふふ」
「マインだ! よろしく頼む!」
「お、おふぅ、おふふ。はじめましてマインさん。握手してください!」
「お、おう。よろしく頼む!」
「ちょ、ちょりーすマインさん。おっふおっふ。たまんねぇぇぇ!」
「な、なんかよくわからないが、よろしく頼む」
男達は、マインの胸をチラチラと見ながら変に興奮しながら挨拶をしていた。ミラはそんな男達のことを、まるで虫けらでも見るかのような眼差しで遠目に見つめている。
一通り村の案内が終わったところで、ミラとマインは集会所へとやってきた。ミラが村の案内をしつつ、住人達に集まるように声をかけていたのだ。
集会所の中では、一つに集まる住人達の前にミラとマインが立っている。
「私は、この村で戦闘指南役としてジーク殿に頼まれたマインと申す! 私は、教えるからには厳しくいくぞ! 覚悟しておけ! 訓練はさっそく明日から行う! すでに挨拶を交わした者もいるが、これからよろしく頼む!」
「「「「「はーーーい!」」」」」
男達がまるで子供のように元気よく手を上げて返事をしている。そこには村長の姿もあるが、むしろ一番返事が良かった。女性陣はミラと共に、そんな男達を軽蔑するかの眼差しで見るが男達にはマインの胸しか映っていないようだった。
《ジーク!》
眠っていた俺は、リーナの声と共にゆっくり覚醒した。どうやら魔力が全快したようだ。時間を確認すると、あれから三時間ほどしか経っていなかった。
(リーナ、魔力の回復速度が異常に早いんだが何かしたのか?)
《いいえ。台座による補助の影響です》
(台座? これにはそんな機能はないはずだが)
《この台座は、創造主『エルバッシュ』が神之欠片、核と共に作りだした物です。台座を構成する原子に、星からの魔力吸収率効果の高い非物質性の魔力制御が組み込まれてるです。全ての原子にこの力は組み込まれていますが、台座は創造主『エルバッシュ』により特別に組み込まれた制御により、唯一無二の魔力吸収率効果を得ているです。又、それは神之欠片、核にのみ反応するよう制御されており、一体化しているジークが台座に触れることによって、強力な魔力回復効果を発揮しますです》
(なるほどな。非物質性で、システムの一つだとすれば観測する方法はないな。『素粒子支配』を通しても発見できなかったわけだ。台座に乗っている今は、驚異の魔力回復を得ていたのか)
《ですです》
(理解した)
俺は人間の姿を解放し、台座に座って脚を組んだ。
さて、魔力も全快したしこの台座様があれば前よりも効率よく色々な物を作り出せそうだな。ミラとマインは村を見て回ってるだろうからいつ戻ってくるかも分からない。それに今日は一日休むと伝えてあるから、今日は部屋にこもって研究開発に勤しむとしよう。
一方、ミラとマインの二人は村から離れた場所で魔物を狩っていた。夕飯用に魔物の肉を得るのと、鍛錬の為だ。
ミラは、マインの戦闘スキルの高さに目を丸くして驚いていた。マインは武器を持たず魔物を素手で狩っているのだが、洗練された動きからくるその手刀は、魔物の首を一瞬で跳ね飛ばしているのだ。
(昨日も少し見たけど、マインさんやっぱりすごい……手刀なのに私の使う黒影と同じくらいの切れ味を出してる)
マインは倒した魔物を四体ほどミラの前まで引きずってくると、その表情には汗一つも感じられなかった。
「ミラ殿。これを頼む!」
「あ、はい!」
ミラは右手で首輪に触れ、目の前に横たわる魔物を『空間収納』に収めた。本来なら首輪に触れずとも身体を巡る魔力に反応させて使用することが出来るのだが、クセで触れてしまうようだった。
「本当に便利な物だなそれは! 私も欲しいぞ!」
マインがひざに手を当て、腰を曲げながらマジマジと首輪を見つめながら言うと、ミラはマインの着るTシャツからこぼれ落ちそうになる胸の谷間を目の前に映し、顔を赤面させていた。
「ジ、ジークさんに……頼んでおきます。そ、それよりも!」
「ん?」
ミラはその光景を変える為にわざとらしく声を荒げると、一つ真剣な面持ちでマインと向き合った。
「私にも訓練してもらえないでしょうか」
「なぜだ? ミラ殿は十分戦えるではないか」
「私は、ジークさんに訓練されたとは言え、ほとんど独学です。ジークさんに教わったのは、戦いにおける意識や状況判断などです。ですから、マインさんには戦闘技術を教えてもらいたいんです。今よりも強くなることで、ジークさんをもっと守れるようになりたいんです!」
ミラの真剣な眼差しにマインは少し思考し、一つ頷いた。
「ふむ、よかろう。ジーク殿を想うミラ殿の気持ちに答えようではないか! よほど好いておられるのだな! ワハハ!」
「す、すす……」
からかうように笑うマインの言葉に、ミラは耳まで真っ赤になっていた。
「よ、よろしくお願いします」
「あい! 任された!」
――パシャーン、パシャーン。
村の一角にある行水所で、水が打ちめき合う音が響いていた。
住人達は普段、家で体を拭いて清めているのだが、何日かに一回か利用したり、体を拭くだけでは落ちないほど汚れてしまった時などは、この行水所を利用しているのだった。
プレハブのような造りの行水所は、通気性を意識した木造設計になっており、近くにはお湯を沸かせるように釜土が設置してある。行水所の中には、お湯を溜めれる大きめの桶と、手桶用の小さいのが設置されている。床にはスノコが引かれ、その下には斜面があり、使用した水は地面を掘って作られた排水溝へと流れ込む。排水溝はもちろん、行水所に使われている木材には防腐効果のある植物性樹脂を使用してある。
この行水所もまた、ジーク製の一つであった。
「やはり、行水はいいものだな! ミラ殿!」
「そうですね! 気持ちいい!」
お湯を張った大きな桶に、ミラとマインは一緒に入り下半身を浸わせている。手桶で肩からお湯をかけながら、二人は体を清めていた。
「あのぉ……マインさん」
「ん?」
「私も、マインさんくらい……大きくなりますかね?」
「ん? 胸の話か? ジーク殿に揉まれてはどうだ? ほら、こんな風にのぉ」
「え!? っちょ、と、あぁ~んっっ……!」
マインがミラの胸を触りながらからかっていると、事件は起きた。
――ドガドガドガーン!
突如、鍵を閉めていたはずの扉が倒れるかのように外れたのだ。そしてその扉には、覆い被さるように出来た小さな山がある。そう、恒例の住人達だ。しっかり村長までいる。
目の前に積み重なる住人達の山をを目にした二人はきょとんと目を丸くし、その後すぐにミラは顔を真っ赤にさせていった。
「「「「「こ、こんばんはぁ……」」」」」
苦笑いを含み、そのままの状態でミラとマインに挨拶をする住人達。
ミラはわなわなと体を震わせ、キッと住人達を睨みつけると大声で叫んだ。
「死ねぇぇぇぇーーーーーーーーーーーー!」
俺は台座に座りながら、人口魔石や鉱石を黙々と作りだしていた。するとそんな時、リーナが慌てた様子で声をかけてきた。
《ジーク! 場所は行水所、ミラが大変です!!》
(なに!?)
リーナの緊急警報により俺は急いで『千里眼』を発動し、状況判断を行った。――のだが、俺は視たその光景に、しばらく思考を停止した。
全裸のマインが桶に浸かり、同じく全裸のミラが男共を殴り飛ばしていた光景だった。大の大人が、おもしろいように吹き飛んでいる。
《……視ました?》
(……)
《視ましたですよね!》
(なにがしたいんだ)
リーナがあの光景を視せてきた意味が分からなかった。
《ジークはミラの裸を視ましたです。これにより、今後"何かあった"場合はジークは責任を取らなくてはならなくなりましたです》
(は? なにをバカなことを言っている?)
《では、ミラに個別思考会話回路にて、ジークが『千里眼』を用いてよだれを垂らしながらミラの裸を舐めまわすように視ていたと伝えるです》
(バカな! こいつ悪魔か!? よせ! わかった!)
《この会話は記録されたです。では、引き続き作業に入りましょう》
(く、狂ってやがる……)
俺は大きく頭を抱えながら、肩を落とした。
「まったく! なんなのあの変態共は!」
家へと戻ってきたミラは、怒りが治まらないのか力強く玄関の扉を開け放っていた。
「まあまあ、別に減る物でもなかろう」
「本当に減ったら困ります!」
やれやれと苦笑いで返すマイン。ミラは頬を膨らませて胸に手を当ている。
それから二人はリビングでミルクを飲みながら湯上り気分を堪能していた。ほどよく熱も冷めたミラは、テーブルの上に上半身を乗せると、だらしなく垂れている。
「リーナお姉さまいますかぁ……」
《はい、なんです?》
ミラはその恰好のまま、垂れた可愛らしいキャラの某パンダのようにリーナに話しかけていた。
「聞いてくださいよぉ……村の変態達に、裸を見られたんですよぉ」
《知ってるです。魔力回路を通して、ミラのことも把握してるので》
「そうだったんですかぁ。ジークさんにも見られたことないのに、……はぁ。私、お嫁に行けない」
《ジークは『千里眼』で視てたですよ》
その瞬間、ミラは勢いよく立ち上がっては眉をひそめ、困惑の表情を浮かべている。
「ジ、ジークさんに裸を見られて……いた?」
「なんと!」
目を丸くするマインを尻目に、ミラは勢いよくその場から走り去ると地下へと足を進め、暗証番号と魔力測定装置に魔力を反応させて素早く扉を開け放った。
俺は急に開け放たれた扉の音に反応すると、その場に立ったまま動かないミラを目にしていた。
ミラは下を向いたまま口を開く。
「……見たんですか?」
「なにをだ」
「私の……裸」
俺はすぐに状況を察知した。
(おいリーナ! 言わない約束だっただろ!)
《……》
リーナはわざとらしくだんまりを決め込んでいる。
クソ! はめられた!
「……ああ、視た」
「……全部、ですか」
「そうだ。ばっちりとな」
するとミラは耳まで顔を真っ赤にし、下を向いたままツカツカと近寄って来た。俺のすぐ横まで来ると立ち止まり、そのまま小さく呟いた。
「……どう、でした」
「は?」
「……私の身体、どうでしたか!」
一体なにを言っているんだこいつは? おいしそうですねとでも言えばいいのか?
「別に、どうもこうもないだろう」
そう答えた瞬間、ミラの目つきは鋭くなり、俺を睨みつけては右腕を振りかぶって本気で殴ってきた。
俺はミラに殴られて台座から吹き飛び、部屋の壁に激突した。
「知らない!!」
ミラは振り返ってはそう言い放ち、扉を力強く閉めては出て行った。
俺は扉を見つめ、殴られた頬を優しく撫でた。痛みはないのだが、ミラに本気で殴られたことに驚いていたのだ。親父にもぶたれたことないのに……。
そしてリーナがそんな俺に一言だけ言い捨てた。
《あなたにはガッカリです》




