その名はマイン
ジークとミラは、ジルの古い友人『マイン』という人物の元へ足を進めていた。
ジルの話によれば、街から北東へと進んだ先にある湿地帯の洞窟に隠れ住んでいるという。
ジークとミラは、その湿地帯へ辿り着くとマインの隠れ住む洞窟を探していた。
「うぇぇぇぇ、気持ち悪いよぉ」
半べそをかくミラは、ぬかる地面を歩きながら大きく肩を下げていた。
そこは一歩でも踏み込むと足元は泥だらけになり、埋まった足を引き抜くだけでもそれなりに力を込めないといけなかった。広い湿地帯を一時間も探索すると、さすがのミラにも疲れが見え始めていた。
「お、見つけたぞ」
「ほんとですか!」
俺は『千里眼』を全方位にて発動しながら探索していた為、その視覚範囲に洞窟が入り込んだのだ。
「あとは飛ばすだけだ。一時間もせずに辿り着ける、行くぞ!」
「きゃっ!」
無造作にミラを抱きかかえると、俺は空を全力で飛翔した。
実は、俺は空からの探索を行い、ミラには適当に地上を探索させていた。なので俺は全然汚れていなかった。
お目当ての洞窟へ辿り着くと、俺とミラは洞窟内を見渡しながら探索していた。本人の居場所はすでに特定しているのだが、洞窟内には見たことない素材があったので、ちょいちょい回収しながら進んでいた。光り輝く鉱石や水晶などがあり、何かに使えるかもと『空間収納』に収めていた。
そうして少し寄り道をしながら三十分ほどでマインのいる場所へと辿り着いた。
楕円形の少し大きめの石の上で、その人物は座禅を組み、瞑想しているかのようだった。
外見はスラリとした体形で、青く長い髪、頭にはピンクの三角巾のような物をかぶり、整った顔立ち、そして何より、たいそう立派な”胸”を持っていた。イカをベースとした魚人の亜種で、いわゆる美人で巨乳な”女性”だった。
ミラはマインの胸を見るなり、少女漫画風の驚いた顔をしている。
「お前がマインか?」
知ってはいるのだが、一応挨拶がてらに聞いた。
するとマインはゆっくりと目を開き、俺とミラを視界に映すなり口を開いた。
「イカにも」
「……」
これは突っ込んだほうがいいのだろうか? いかの部分をかけたシャレだとは思うんだが、初対面でいきなりそんなぶっ込みをしてくるだろうか? それにいかにもって、どこの時代だ。
「む? やはり通用しなかったか……これは私が考えた一種のお遊びみたいなものだしな」
「いや、気づきはしたが反応に困っただけだ」
「そうなのか? なかなかに聡明のようだな。して、ここに来るとは何者であるか」
「ああ、これを」
俺はジルから受け取っていた紹介状をマインに手渡した。
マインはそれを読むと、一つ頷いていた。
「ジルの友人達であったか、それならここへ来れたのも頷ける。して、何用か?」
なんとも堅苦しい話し方だが、俺はそれを突っ込むことはせず、単刀直入に要件を話すことにした。
「あんたの腕前のことはジルから聞いた。俺達は、戦い方を教えることができる指南役を探しているんだ。それをあんたに頼みたい、力を貸してもらえないか?」
「……ジルの友人とはいえ、悪いが断らせてもらう」
少しの沈黙のあと、マインは静かにそう答えた。
「理由を聞いてもいいか?」
「戦い、争い、その先に一体なんの意味があるのか私には分からないのだ。人は必ず争う……。事の大小関係なく、それは起こるのだ。なにかを守る為、なにかを得る為、戦う理由は色々ある。しかし、それがもたらすその先は、本当に重要なことなのか……私には、戦う理由が見えない。そしてその先の未来も見えない。だからここで、ただ静かに時を過ごしておるのだ」
マインは静かにそう語ると、再び目を閉じて瞑想の世界へと入っていった。
俺は思考し、ミラは隣で心配そうな面持ちで俺の顔を見上げている。
だがな、安心しろミラ。奴が相手をしているのは……”この俺”なのだから。
俺は右手の掌で顔を覆い、静かに笑いを零れさせた。
そして俺が零した不敵な笑いを耳にしたマインは、何があったのかと目を開いた。
「戦う理由がない? 未来が見えない? とんだ茶番だな。お前はただ、広くなりすぎた視野の中で、彷徨っているだけだ。要するに、"考えすぎ"ということだな」
「なにを言いたい?」
マインは目を細め、説明を求めるかのように見つめてきた。
「未来が見えないのは当たり前のことだ。だがお前は、数々の理由がもたらすその先の未来を”想像”する。頭のいいお前なら、数多の可能性があるその未来の多くは、ハッピーエンドではなく、悲劇が占めるだろう。だからお前は恐怖し、そうならない為の理由からの未来、そして悲劇をまた思考する。その無限とも言える思考のループの中に、お前は囚われているのだ。ならば救い出してみせよう。先に考えるべきは未来ではない。戦う理由もまた、決められた未来へとつながったものではなく、思考だけじゃない"お前自身の全て"で感じ取るのだ」
マインは目を見開き、上半身が前へとのめり出す。
「ど、どうすればいい!?」
マインのその言葉に、俺はニヤリと口角を上げた。
「俺に付いてこい! 俺の傍でお前が目にする光景と経験が、お前に戦う理由をもたらす箱舟となろう!」
マインは勢いよく立ち上がると、わなわなと震えあがっている。
それは武者震い。長年、思考の牢獄に囚われた心が今、目の前にいる男によって牢獄の扉が解き放たれたのだ。
「こんな感覚、久しぶりだ! 私は今、興奮している。頭の中がとてもクリアな感じだ! よかろう! その依頼、引き受けたもうた!」
――ククク。
うまく思考を誘導することができたな。力を使えば簡単だが、こいつはジルの友人で敵じゃない。最初のギャグ、話の内容、奴のベース、それらから得た情報で分析した結果は、目の前のこいつはとても知能が高い奴だと解った。ジルが持っていたあの水晶も洞窟内に存在する素材を使ってこいつが作ったのだとすれば合点はいく。イカは人間と近い構造の脳を持つ知的生物だ。そしてずば抜けて目もいい。全生物の中で自分を認識することができるのはたったの八種。イカはその中の一種だ。こいつは高い知能を持つがゆえに、思考の中で行動する自分を視ることによって無限の思考の牢獄に囚われていた。そう解るまでは、時間はさほどかからなかった。
最初は、俺がこいつを必要としていた。だがそれでは通用しない。だから、こいつが"俺を必要"とするように、関係を逆転させたのだ。
マインと共に洞窟を出ると、一緒に村へと帰ることにした。
「マイン、これから俺がいる村へと行く。足には自信があるか?」
「無論だ」
「よし、では付いてきてくれ」
俺は低空飛行で飛翔し、ミラとマインは地上を走り抜けたのだが、正直驚いた。
マインの奴、顔色一つ変えず俺の横に付いている。俺はおもしろくなって、ミラのことは忘れて全力で飛ばした。しかし、それでも俺の横にマインは付いているのだ。ミラでさえ全力の俺には付いてこれない。音速を超えるスピードの俺に付いてこれるこいつは、もしかしたら俺より早いかもしれない。そう思うと俺は、楽しくて仕方がなかった。
村に着くと、まずミラの家へとマインを招待した。椅子が足りないので、適当に小石を拾ってマインの分の椅子を作ってあげた。
「ほう! そんなことができるのか!」
マインは、マジマジと俺が作ってあげた椅子を見つめている。
「ああ、なんでも作れるわけじゃないが大抵の物なら出来る」
「なんと! では、この椅子を加工することは可能か!?」
マインは目をキラキラと輝かせ、何かに期待でもしているのか無邪気にはしゃいでいた。
「あ、ああ。なにか希望があるのか?」
「もっと可愛くしてくれ!」
「は?」
俺は一瞬、呆気にとられたが、まあ難しくもないことなので作った椅子に手を触れ、形を変化させた。
背もたれは丸型にし、そこから上へと伸びる二本の耳、四本ある椅子の脚はある生き物の脚のようにした。それは、うざぎをモチーフとした椅子だった。
「なんと! なんとぉ! これは素晴らしい!」
マインは大変ご満悦のようだ。うさぎの椅子を色々な角度から眺めて、まるで女の子のようにキャピキャピしてる。あ、女か一応。
そうこうしてるうちにミラが帰ってきた。玄関の扉を開け放ってそこで立ち止まり、泥だらけの恰好でなにやら頬を膨らませている。
あれだな、また空気を食ってるパターンのやつだ。
「……また置いて行った」
「マ、マインが俺に付いてこれるから、つい……な」
「……凄かったけど、二人とも完全に私のこと忘れてた」
俺はわざとらしくミラの視線を躱すと、タオルを絞って手渡した。泥だらけの恰好なので、中に入りたくないのだろう。
「お! 来たか! これを見てくれ! 私の為に作ってくれたのだ!」
うさぎの椅子を眺めていたマインは、帰ってきたミラに気が付くと、自分の椅子を見せびらかした。
するとミラもその椅子に早足で近づき、目を輝かせてマインと一緒にキャピキャピしてた。まるで女の子のように。あ、ミラも女だった。
そして一通り堪能したのか、ミラは一息つくと、キッと俺を睨んできた。
「……"私の為"、ですか。ふーん。私のなんて、なんの変哲もないお粗末で! しょぼくて! ゴミみたいで! クソみたいな椅子なのに! マインさんには、こんな可愛い椅子を……ねぇ」
「つ、作ってやろうか」
「当たり前です」
俺は睨みつけるミラから逃げるようにその場から離れ、ミラの椅子に手をやり変化させた。ちなみにミラのは犬をモチーフにした椅子だ。
その椅子を見るなりミラは目を輝かせると、マインと混ざって一緒にキャピキャピしてた。さっきまでの姿はどこへやらだ。
「ありがとうございますジークさん! ジークさんの椅子は変えないんですか?」
興奮が落ち着いたのか、ミラが俺に話しかけてきた。
俺は別に椅子なんてなんでも……と思った時、あれを思い出した。マイホームにある俺専用の椅子、THE・台座だ。まだ地上へ出る前、四角形だった台座を椅子型に加工したんだった。懐かしいから、時間がある時に取りに行こう。
「俺のは、後ででいい」
とりあえず、俺ら三人は椅子に座ってテーブルを囲んだ。ミラがお茶と茶菓子を出してくれたのでそれを口にしながら軽く談笑することにした。なんやかんやで、まともに自己紹介もしてなかったからだ。
「自己紹介がまだだったな。俺はジークだ」
「ミラです!」
「マインだ。ここはミラ殿の村か? この家に来るまでに臆病犬を何人か見かけたのだが」
「そうですよ! 私の種族が興した村で、ここが私の家です。ジークさんもここに住んでいます」
「なんと! お二人はそういう関係だったか!」
その瞬間、ミラの顔からボッと煙が出た。
「ちち、違っ……わなくもなくもないですけど……違います」
「そうなのか? 私はどこに住めばいいのだ?」
「とりあえずこの家に住んでもらう」
「そうか! 一緒に暮らすのか! それは楽しそうだ! 三人で寝るのだな!」
「ささ、三人で一緒にいぃぃぃ!?」
――ドガドガドガーン。
いきなり玄関の扉が開いたかと思うと、そこには積み重なって小さな山のようになった住人達がいた。
「「「「「こ、こんばんは」」」」」」
苦笑いを浮かべる住人達の姿を見て顔を引きつらせる俺。きょとんと目を丸くするマイン。そしてミラは、わなわなと震えあがっては大きく叫びだした。
「出てけーーーーーーーーーーーー!」
尻尾を巻くようにその場から逃げ出す住人達。それを見るなりミラはツカツカと玄関へ歩き出し、力強く扉を閉めては鍵をかけた。そしてまた自分の席へ戻ってきて、頬を膨らませながら座った。
おいおい、せっかく機嫌を取り戻したのにまた空気を食わせるなよ。
俺は空気を変える為にと一つ咳ばらいをして話を戻した。
「家は明日拡張しておく。だから今日はミラと寝てくれ」
「あい分かった!」
「そういえば、マインさんはジルさんの友達なんですよね? ジルさんがあの洞窟に遊びに行ってたんですか?」
そういえばそうだ。マインはあの洞窟から出そうな感じではなかったし、会うとすればジルが出向くはずだ。しかし、あの湿地帯をわざわざ?
その疑問の答えは、驚くほど単純なものだった。
「ああ、たまに来てくれるぞ! 食べ物とか持ってきてくれるのだ! 一人でいる私のことが心配らしくてな、もう子供じゃないのにな! 昔、プロポーズもされたものだ!」
「「《なにぃ!?》」」
俺達は、いきなりぶっ込んできたマインの発言に同時にハモッてしまった。ちゃっかり、リーナもいる。
「あそこから出るつもりもなかったし、断ったがな! あいつは子供の頃に私を守ると言ってくれてな、それは今でも変わらないようだ! 私の方が強いのにな! ワハハ!」
マインは立ち上がると、両腕を左右に広げた。
「こんな感じでな! 僕は君を守る! って、子供の頃から強かった私をいじめようとしたガキ大将共の前で、そう言ってたのだ! いやぁ懐かしいな!」
マインは笑いながら昔話を続け、ミラは目を輝かせながらそれを聞いていた。
だが俺は内心ニヤついていた。これはいいネタを拾った、そう思っていたのだ。
そろそろ日も暮れてきそうになったので、俺はミラとマインを連れて村長の家へと向かった。
村長の家で俺、マイン、ミラの前に村長が向かい合うように座った。
「じいさん、村の連中を鍛える為に連れてきた指南役だ。これからは、こいつの指示の元に戦闘訓練をしてもらう」
「マインと申す! よろしく頼むご老人!」
「おほぉ! これはこれは、村の為にわざわざありがとうございますじゃ。ごちそうさまですじゃ」
「……」
村長は、あからさまにマインの揺れる胸を見ながら話をしていた。その様子を見ているミラは、軽蔑するかの眼差しで無言を貫き通していた。
村長への挨拶も済んだので、俺達は再びミラの家へ戻ってきた。ミラは夕飯にと、暗くなる前に魔物を狩ってくるらしく、マインも一緒に行って夕飯の手伝いをするみたいだ。
「そうか。まだ時間はあるからちょっと俺は出かけてくる。もし夕飯に間に合わなかったら二人で先に食べていてくれ」
「はい! お気を付けて!」
「あい分かった!」
俺は翼を出すと、空に浮かんでトップスピードで飛翔した。
目的地はあそこ、マイホームだ。
高速に流れる景色を堪能し、洞窟の前まで辿り着いた。
久しぶりに帰ってきたマイホーム。洞窟の入り口を見つめ、感無量だった。俺は洞窟に足を一歩踏み入れ、思わず慣れ親しんだ言葉が零れてしまった。
「ただいま」
《ただいまです》
空気を読んだのか、リーナも言ってくれた。こいつにとっても、ここはマイホームなのだ。
俺は懐かしい景色を感じる為にゆるやかに飛びながら進んでいた。
しかし、進むにつれて徐々に違和感を覚え始めた。なにせ魔物が少ないのだ。
一層から三層まで区間には、無視していた雑魚が大量にいたはずだ。あいつらは雑魚だから庭で飼ってるペット感覚で放置していたのに、今では数が少ない。死んだのか?
だが、リーナの言葉で現状を知った。
《洞窟内に何者かが侵入した形跡があるです》
なんだと? 誰だ勝手に人の家に不法侵入した奴は! 死刑にしてやる! ウソだが。いや、場合によってはウソじゃないな。
俺はすぐさま『千里眼』で確認したのだが、どうやらすでに立ち去った後のようで洞窟内には誰もいなかった。俺は台座が気になり、全速力で自分の部屋へと向かった。
部屋へと辿り着いた俺は、台座の前に佇み、わなわなと体を震わせていた。
台座に異変がないか注意して観察してみたら、埃の状況から何者かが座ったことが分かったからだ。
ふざけるなよクソが! 俺の神聖なるTHE・台座様に、汚いケツで座りやがって! 屈辱だ……まるで彼女の待つ家へと仕事から帰ってきたら、自分の部屋で知らない男とあんなことやこんなことをしていて、ピュアなハートを汚された気分だ! 彼女を家へ連れ込んだことなんてないけどな! むしろ勉強に明け暮れて彼女なんて作ったこともないけどな!
(リーナ! 汚いケツの正体を確かめろ!)
《え、ちょっと意味が分からないですけど、どの種族が座ったか調べればいいです?》
(そうだ)
《……分析の結果だと、人間の可能性が99パーセントです》
(クソ! 人間のケツは99パーセント汚いのか!)
《……ジーク?》
(ケツを綺麗にするスキルを今すぐ作れ!)
《は?》
(人間の大陸に行って、全員のケツを洗浄してくれる!!)
――五分後。
リーナが魂の回路を通して強制的に意識をシャットダウンしたようで、俺は正気に戻っていた。
そして全身全霊を込めた能力のフル活用を行い、台座様を綺麗にして新しく甦らせた。顔の前で両手を合わせて台座様を拝むと、『空間収納』に仕舞って俺は村へと帰ったのだった。
ミラの家へと戻ると、どうやらちょうど夕飯が出来た所らしくタイミングが良かったようだ。
今日の夕飯は麦飯と、魔物の肉のから揚げ、卵と薬草の和え物、サラダ、ミルクとなかなかの夕飯だ。デザートもあるらしい。お世話になるからと今日の夕飯はマインがメインで作り、ミラは補助をしたようだ。
「「「いただきます」」」
「ん、なかなかうまいからあげだな。ミラの味付けとはまた違う」
俺は魔物のから揚げを口にすると、ほんのりピリ辛な味を感じた。ミラが作るから揚げは、少し甘みを感じるやつだ。これは普通にうまい。年上だからか、マインの腕はミラよりもいいのかもしれない。
「そうか! それは良かった! 辛味成分のある薬草を細かく刻んで、衣に練りこませてあるのだ。そのピリ辛が食欲をそそるだろう?」
「私、辛いのは苦手なんですけど、これはあんまり辛くなくて食べれます! おいしいです!」
「そうかそうか!」
ミラも笑顔を浮かべては大変ご満悦のようだ。
そして食事も終わり、デザートも食べ終え、口直しにお茶を飲みながらしばしの休息を堪能していた。
そういえば、ミラにもマインにも俺のことを詳しく話してなかったな。
この際だ、マインに話しても問題ないだろう。
「言ってなかったが、実は俺は人間じゃないんだ」
「え?」
「なんと! そうであったか!」
俺は人間の身体を解除して、本来の目玉の姿に戻り、テーブルの上に乗った。
「えぇぇぇぇ!!」
「なんと! なんと!」
二人は身を乗り出し、目玉の俺をマジマジと観察している。
俺は、別の世界で人間だったことや神之欠片、核と融合したこと、リーナのこと、じいさんやミラと出会ったことや、今までの経緯とか、瞳術以外のことを全て話しておいた。
さすがに瞳術は、いつ言おうかタイミングに困る。これは強力すぎるのだ。もしかしたら自分に使われていて、洗脳されているかもと思わせてしまう可能性がある。いつか言える時がくるまで、俺はこれだけは隠しておくことにした。
「そ、そうだったんですか……」
ミラが耳をペタンとさせ、少し俯きながら口を開いた。
「言ってなかったのは悪かったが、いまさらお前を手放す気はないからな」
「いえ! そうじゃないです! ジークさんが何者でも、私はずっと傍にいるって決めてるので関係ないです! ただ、村の人達は知ってるのに……私が知らなかったのが、少しショックだっただけです」
そう答えるミラに、さすがに俺も悪いと感じ、頭を撫でてやった。
顔を少し赤くさせて喜んでいる様子のミラを見ると、少しは機嫌が戻ったようだ。
「私は別に気にしないぞ! 人間でも魔物でもなく、どの種族にも属さない稀有な存在であるお主に興味が沸いた! その傍で見れる光景は、さぞかしおもしろかろう! それに、目玉というのはちとアレだが、なかなかに愛くるしいではないか!」
マインは逆に興奮してるようだ。ますます俺に興味が沸いたのだろう。両手で俺を持ち上げては、目を輝かせて見つめている。イカには強い興味を持つ特性があるからかもしれない。
しばらくマインのおもちゃにされると、満足したのか俺の椅子の上に戻してくれたので、人間の姿を解放した。
「そういえば、ジークさんはリーナさん? と話せるんですよね? 私も話してみたいです!」
「おお! 私も話したいぞ!」
どうやら、俺の首にいるリーナとも話をしてみたいようだ。
《ミラとジークが魂の回路との繋がりを持つ為、ジークと繋がる私はミラと話すことはできるです。マインとは繋がりがないので話すことはできませんです》
(俺とリーナは一体化してるんだよな? だから魂の回路が繋がってるのは分かるんだが、俺とミラの魂の回路が繋がってるなんて初耳だぞ? 千里眼でもそんなものは見たことがない)
《強く想う意識は、稀に魂レベルへと昇華し、その準ずる相手の魂と回路が繋がることがあるです。人はこれを"絆"とも言いますです。ミラの場合、それによってジークと魂同士の回路が繋がり進化したです。物質の性質を視ぬく千里眼では、物質ではない魂の回路を視覚することはできないです。言想ノ神眼なら魂の回路は見れるはずですよ》
(あの時か。どうりで変に魔力を消費したわけだ。繋がった魂の回路を通して、俺の魔力がミラに流れ込み進化したのか。言想ノ神眼でミラを見たことはなかったから、今まで気づかないわけだ)
俺は一人納得すると、二人に事情を説明した。
「そうか……。私には無理なのか。いつか話せることができるのを楽しみにしておこう!」
マインはさすがに頭がいいので、すんなり理解してくれたようだ。
「えっと、じゃあ、話してみたいです!」
「だそうだ。リーナ」
《では、ミラとの思考会話回路を解放しますです。……。完了したです》
「準備できたそうだぞ」
ミラに準備できたことを伝えると、少し慌てていた。緊張しているのかもしれない。話したことも、リーナのことも知らなかったとはいえ、今までずっと"いた"のだ。
「え、えっと、ミラです! はじめまして!」
《泥棒犬!》
「え!? え? え?」
《冗談です。ジークを守護する存在、リーナです。ちなみにこの会話は、ミラとの個別思考会話回路ですので、ジークには聞こえないです》
「あ、そ、そうなんですね! なんか、ずっと一緒にいてくれて、助けてくれたこともあったみたいで、ありがとうございます!」
俺とマインは二人でミラのことを見ているが、その光景は何もない虚空に話しかけてるようにしか見えなかった。別に声を出して話す必要はないのだが、おもしろいから黙っておいた。
《気にしないでいいです。これからは回路を解放しておくので、ミラのほうから私に話しかけることも可能にしておくです》
「あ、ありがとうございます!」
《ただし一つ条件があるです》
「条件ですか?」
《私のことは、リーナお姉さまと呼ぶです》
「は、はい! リーナお姉さま!」
ん? なんかリーナのことを、お姉さまとか言ってるが、こいつ大丈夫か?
《それと発情してジークを襲っちゃダメですよ》
「な、ななな! は、はい……」
今度は急にゆでだこみたいになっているな。見てる分にはおもしろい。マインはさっきから指をくわえて、うらやましそうに見ているが。
《じゃあ、これからもジークをよろしくお願いするです!》
「はい! ありがとうございました!」
どうやら終わったようだな。まあ、リーナのことだ、これからはミラとも話せるようにするだろう。そのほうが俺としてもなにかと都合がいい。
だいぶ時間も時間なので、俺達は寝る準備をした。
ミラとマインは一緒に、俺は自分の部屋のベッドに横になって窓から外を見上げた。
透き通るような夜空には、綺麗なまん丸の月のようなものが浮かんでいた。
俺はそれを見ながら一言呟いた。
「明日からは、忙しくなりそうだな」




