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眼の異世界転生  作者: ビッグツリー
第一章 目玉転生~封印の祠編~
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十一話 制圧完了

 次の日、まだ雀もぐっすりと夢を見ているであろう時刻から、最初の部屋の中では様々な音色が飛び交っていた。

 トンテンカンテン――と、甲高く響くハンマーによる打撃音。ギュイーンと耳障りなドリル音。そして時たま訪れる、スリスリと鳴る摩擦音。


 そんな様々な音を生み出す正体は言わずもがな、休日でありながらも朝から日曜大工に精を出すお父さん――もとい、俺だ。



 詳しい話をする為には、時間は少し遡る。

 昨日の十層目制圧後に拠点へと帰還した俺は、クリスマス前日からプレゼントに胸を躍らせる子供よろしく内心ソワソワさせていた。それは言うなれば、リーナサンタがやって来るのを待っていたからである。


 「まだかなぁ。靴下ないけど平気かなぁ。煙突もないけど大丈夫かなぁ」――と、一人呟きながら落ち着きも無く台座の周りを終始徘徊していた。


 時間にして夜中の零時。日付も変わり、そろそろやって来ても良さそうな頃合い。

 すると、シャンシャンシャン――と微かに響く鈴の音の幻聴と共に、ソリを華麗に乗りこなす真っ赤な洋服仕立ての衣服を纏うヒゲおじさん――もとい、真っ赤な十字ネックレスのあわてんぼうリーナサンタがやって来た。



《待たせたな野郎共――っ、です!》


 開口一番にして、いきなり飛び出したワイルドな口調。どうやら今年のサンタさんは茶目っ気たっぷりか、はたまたハードボイルド仕様のようだ。



(待ってたよサンタさん! プレゼントは!?)


 この時をどれ程待ちわびた事か。リアルな時間に換算すれば十二時間は軽く超える。

 待望のプレゼントはきっと素晴らしい物だろう。様々な思考の夢をつぼみの様に膨らませるだけだった時間も、これでようやく花が開く。


 だからこそ――、ドキドキワクワクが止まらないんだ!



《は? いい大人が何言ってるです?》


 前言撤回、夢を思い描いていた妄想脳だったが――、まさかのリアル(現実)という辛辣な贈り物プレゼントによって冷静さを取り戻した。


 

(う、うるさい。それよりも上手くいったのか?)

《フフフ……。聞いて驚くです! 取得した『質量操作』に、『性質変化』と『形態変化』を統合・適正化して、特性に新たに『素粒子支配』を追加したです!》


 え? 物質を構成する最小の粒子、あの素粒子をか? だとしたら、とんでもない事だぞ……。


 若干の恐怖と不安を抱く中、突如して頭の中に凄まじい量の情報が流れ込んで来る。

 地球では未だに発見されていなかった素粒子の種類、性質や相互作用、はたまた生み出される過程や保存方法など――。解析の難しいものから観測不可能な情報までもが、完全に把握する事を可能としたのである。



《フッフーン! どうです? ジークならこれが、どれ程までに夢が広がる特性か理解出来るはずですが?》

(正直、驚愕過ぎて返す言葉が見当たらない。これはもはや素粒子物理学……いや、宇宙論の真髄にまで到達し得るものだ。これを生かせば、なんだって作り出せるかもしれないぞ。それこそ……、宇宙でさえも!)

《”理論上”は、ですけどね! 基本的にはジークと私の知識を元に情報化しているので、素粒子の情報は基礎的な部分しか解析出来ていないです。元から得ている情報と『千里眼』を通して得た情報で大概の物なら作り出せますが、生物などの複雑な生態をした物は直接的に構成情報を取り込まないと複製は難しいです》


 やはり生物を生み出すのは厳しいか。生体構造の完璧な解析は不可能に近いんだ、特に脳がな。もし再現が可能であるならば、とっくに地球では新種の生物が誕生し、完全なクローン技術も確立している事だろう。


 そしてこれで一つ、俺の希望も失われた。

 そう――、人間の体を手にする事だ。


 この『素粒子支配』を用いれば人間の体を作れると考えたのだが、俺の知識にある人体構造学だけでは事足りない上、リーナの言う事にのっとれば直接的に取り込む必要性も出て来る。

 性質を見通す『千里眼』を通しただけでは情報が足りないのは明らかである以上、俺の人間化計画は思いついた瞬間に白紙に戻されたという訳だ。


 だってそうだろう。自分の為に他人を犠牲にするなんて事、出来る訳がないのだから――。



(ところでリーナ、統合した『性質変化』と『形態変化』の特性もちゃんと使えるんだろ?)

《もちろん使えるです! 『素粒子支配』という枠組みの中にあると思えば簡単です! あ、でも物を生み出すにしても魔力を必要とするので一度に巨大な物を大量に――、というのは現実的じゃないですよ。”ご利用は計画的に”、です》


 なるほどな、あくまで保有する魔力の範囲内でって事か。よし、ここまで分かれば色々と試行錯誤する事が出来る。


 『素粒子支配』を活用する上で一番大きな強みとなるのはズバリ、物を生み出せるという事だろう。作り変えると言ってもいいな。

 例えばその辺にある石や俺自身の体も然り、まったく別の物質に作り変える事が出来る。それは今後の戦闘に大きく貢献し得るだろう。

 

 これは――、素晴らしい能力を手に入れたぞ。


 ならば、先ずやるべきは検証だ。『素粒子支配』を使いこなす為にも、俺のイメージ通りにしっかりと機能するか確認せねばならない。


 何か手頃な物は――と、物色の目を配らせているとある物が目に付いた。部屋の中央にある、台座だ。



(被検体には丁度いいか。このままの姿では、拠点であるこの場所であまりにも利便性に乏しい。それらしく加工してみよう)


 そして俺は無数の神経を取り出しては、それをドリルやハンマー、杭やヤスリなどに変化させて加工作業へと移行したのだった――と、経緯はこんな所だ。



《ジーク、そろそろ次のフロアに行ってみるです。チビチビ加工してるだけじゃ魔力もさほど減らないですよ。自然回復があるのに、ほぼ全快状態を維持しては勿体無いです! ”ご利用は計画的に”、です!》


 それもそうだ。加工はいつでも出来るし、時間もかかるだろうから後回しにするか。自動回復を無駄にしないように効率的に動くとしよう。

 それよりも――、だ。どこぞの金融機関の謳い文句が、今日の”お決まり”なのだろうか。リーナのツボがイマイチ分からない。



(よし、次は九層目だ。まだレベルAが存在するフロアだから、気を抜かずに行くぞ!)

《アイアイサー!》


 そして扉を抜けては、翼を顕現させて意気揚々と飛翔したのだった――。



 辿り着いた先は初の九層目、そして最初の相手として抜粋した『スリープタートル』が生息する部屋の前だ。

 奴は一日のほとんどを睡眠に費やし、空腹時にしか起きる事のない寝坊助タイプらしい。だがそれを可能とするのは、異常なまでの強固な甲羅を持つからだ。睡眠時は手足と頭を甲羅の中に収納し、外敵からの攻撃を防ぐ性質を持っている。生半可なダメージは一切通用せず、食事も鉱草食性といって鉱石や草などを主食としている為、図太く何万年も生き永らえるようだ。


 俺が奴を抜粋したのは強固な甲羅を持つという点――、言い換えれば鉄壁の守りに着目したからだ。

 前回、爆弾ゴムシに通用しなかった魔力ビーム代用型に『素粒子支配』を使って改良の手を加える事を考案したので、それが通用するかの検証を行う為である。


 失敗は成功の基という言葉があるように、前回の反省点を踏まえて俺なりに色々と検討していたのだ。

 今回はそれなりに自信がある。早速実行に移るとしよう。



 奴との距離は直線にしておよそ百メートル程、その間の障害物は無し。

 俺はその距離を維持したまま堂々と対峙すると、瞳の前に”ある物”を出現させた。それは一言で表すと、”小型のドリル”。

 前回はただの石だった為に粉砕してしまった点を考慮し、今回は発射物も自分で用意したのだ。


 ドリルはこの迷宮内を構成しているチタン鉱石を元に構築し、耐久性を持たせた。もし耐久度が足りないようであれば、台座を構成しているミスリル鉱石製へと変える事も出来る。そして先端を尖らせた螺旋状の形態にする事によって、貫通性を高める算段だ。


 だがこれだけじゃない。ドリルの貫通性を生かす為にも、空気噴射の発射方式にも一手講じた。

 以前は圧縮した空気をただ噴射するだけだったのに対し、今回は回転を加えながらの噴射――、サイクロン方式で噴射する形を取ったのだ。これにより空気抵抗を減らして威力を上げると共に、ドリルに回転を与えられる事から貫通性への相乗効果をもたらす事が出来るはずだ。


 

 さぁ、ここからが本番。空気の圧縮も済んだ事だし、改良型のお手並み拝見といこうか。

 

 俺はキッ――と目力を込めては、数時間にも及ぶ試行錯誤の末に辿り着いた必殺名を掲げる。


(貫け! ジェットショット!)


 ズバンッ――と、響く鈍い爆発音と共に、脅威的な推進力を得て一気に打ち出されるドリル。それは、「あ、今回のネーミングはまともです」――と言い放つリーナの言葉を置き去りして、スリープタートルの元へ駆け抜ける。


 刹那、スリープタートルの背後に位置する壁の一部が、拡散する様に砕け散った。

 そう――、打ち出されたドリルが見事、スリープタートルの体を一直線に貫通したのだ。



(よし! 成功だ!)

《お見事です!》


 検証の結果は大丸だ。そしてついに、リーナにネーミングセンスを認めさせる事も出来た。

 ぶっちゃけこっちの方が思考していた時間が長かったのは、心の内に秘めておくとしよう。何気に気にしていたのは内緒にしておきたい。


 それはさておき、今回考案した改良型のジェットショットはかなり使えるな。

 敵に感知されない遠距離からの一撃確殺は理想的だ。面と向かって対峙する熱血バトルは現実的じゃない。如何にこちらを悟られる事なく、相手に情報を与える事もなく、常に有利な立場で戦況を運ぶ事こそがもっとも合理的な戦術であると俺は考える。


 異世界へやって来て、最初から強力な力を手に入れてしまったのは、大きなハンデを背負ってしまったと言ってもいい。

 何故メリットではないのか、それはこれがアニメや漫画ではなく”現実”の世界だからだ。


 確かに強力な力は生き延びる為には有効だろう。しかしそれと同時に、意図せず敵対心を与えてしまう可能性が高いのだ。

 恐怖や不安、逆に力を欲する欲望も然り。多種多様な種族がそれぞれ敵対するように生活し、魔物などというバケモノすら存在する不安定で不条理な世界だからこそ、力に恐れ力に渇望するのは目に見えてる。

 平和とも言える地球ですら金や権力、はたまた武力を得る為に手段を択ばない汚い人間がごまんと存在するのだ。


 故に、俺は核という強力な力を得ているからこそ、存在自体を極力隠しておくのが得策だと考える。

 仮に俺がこの世界の住人で、核の力を喉から手が出る程に欲する立場か、核の力を脅威と判断し排除する立場だったとしたならば、核の所持者が更に知恵や力を身に着ける前に、全勢力を上げて攻めるだろう。


 そう――、それこそ第一話でいきなりエンディングを迎えるかのように。


 しかし――、陰に徹して情報を集め、戦略を練る参謀として動くにも、俺の手足となって動いてもらう人材が必要となってくる。

 人間の大陸に救援を求めても、転生の既成事実が過去に無いのと、こんな目玉の姿である以上は受け入れてもらえないばかりか混乱を招く事だろう。かと言って護衛を付けてもらう事も不可能だろうし、いかんせん問題は山詰みだ。



(なぁリーナ、人間の大陸に共存を求めに行ったらどうなると思う?)


 結果は予想出来るが、一応はこの世界を知る先駆者の意見を仰いでみよう。


《魔物と判断され、間違いなく捕獲されるです。言葉を解せる知恵ある魔物は珍しい為に、人間の持つ強い探求心を逆撫でするですね。そして核を所持していると知られ、大陸戦争に使えると判断が下り、ジークはめでたくジ・エンドです》

(ですよねー)


 やはりそうなるだろうな。外の世界で現状における情報を収集したい所だが――、その為にもこの迷宮内で準備はしておくべきか。



(よし、とりあえずはこの迷宮の鎮圧化を優先とする。それと同時進行で特性の詳細な把握と、”声を出す”練習をする)

《色々と試行錯誤するですね! 面白そうです!》


 新しく取得した『素粒子支配』により、出来る事の幅は広がったんだ。最初の目的――、四階層までの制圧だって効率はぐっと上がるだろう。

 

(一気に行くぞー!)

《ご利用は計画的にー!》


 



 それから一ヶ月の間、大量の魔物との戦闘が行われた。

 巨大なトカゲの魔物、隻眼のイノシシの魔物、四本の巨大な鎌を持ったカマキリの魔物、無数の針を飛ばすハリネズミの魔物、毒を拡散させる岩の様なキノコの魔物、手だけと足だけが無駄に発達した猿の魔物の群れや、超音波を放つコウモリの魔物の群れなど――、それ以外にも多くの魔物を討伐したのだった。


 そして今、俺は最終戦闘を控えた部屋の前にて、壁を背にしては中にいる魔物達の様子を伺っていた。



(こちらアルファ・ワン。目標を補足した)

《こちらアルファ・ツー。連続空気圧縮、及び空中からの弾道計算を完了》

(よし、インビジブルコートを展開)


 まるで手慣れた部隊のやり取りをリーナと交わした後、俺の体がメタリック調に一瞬変化しては、完全に透明化した。


 それは名付けてインビジブルコート。『素粒子支配』により体の性質を変化させる事で可能とした、視覚における透明化だ。体が反射する光の全てを完全に透過させる事によって、ガラスを超える透過率を実現させたのだ。


 

(これより制圧を開始する)

《突撃です!》


 対するは、レベルCの『ギガントオーク』の集団。二メートル程の巨躯を誇り、下顎から上へと伸びる二本の巨大な牙を持つ、獰猛な人型の魔物だ。


 俺は顕現させた翼に風の刃を纏わせ、低空飛行で一直線に駆け抜けた。その間の軌道上に存在するギガントオーク数体を両断した後、振り返り様に宙へと飛翔する。


 残ったギガントオーク達は姿の見えない突然の奇襲に動揺しているが、俺はその間に全てのターゲットを視界にロックオンした。

 残りは七体。俺は瞳の前に七つのドリルを顕現させ、リーナが個々の軌道修正を行う。


(貫け! ガトリング・ジェットショット!)


 連続的に解き放たれる七つのドリル。それは的確にギガントオークの魔石を貫き、七体のギガントオークは一同に膝から崩れ落ちた。一瞬で、残りの全てを一掃したのだ。



(作戦終了。現時刻を持って、四層目の制圧を完了とする)

《ミッションコンプリートです!》


 ようやく目的へと到達した。これでこの迷宮内での大きな脅威は取り除けた訳だ。

 三層目から上にはまだ魔物がウジャウジャ残ってはいるが、それはレベルが低いからこその群れに他ならない。放っておいても問題はないだろう、余計な殺生と必要のない戦闘は避けるに越した事はないしな。



(さて、拠点に戻るとするか。台座の加工の続きだ)

《ホント熱心にやるですねー。私にはどこが面白いのか分からないです》

(凝り性だからな。一度やり始めると止まらないんだ)

《カッパなのかエビなのか分からないお菓子か、部屋の掃除みたいなものです?》

(間違いなく後者だな)


 そして俺達は下らない雑談を交わしながら、目的達成の清々しい気持ちのままに帰路へと着いたのだった――。


 




 天へと大きく掲げた無数の加工道具。それと同時に、歓喜の声も高々と掲げた。


(ついに完成したぞ! 台座、椅子バージョンだ!)


 丁寧に加工と研磨がされた、生まれ変わった台座。両方に肘置きが完備され、長めの背もたれもあり、全体的に四角をイメージして作った我ながらカッコイイ出来栄えの物だ。



《凝り性にも程があるです。迷宮制圧後からどれだけの製作時間が掛かったと思ってるですか》

(ん~、三日くらい?)

《一ヶ月です! 一ヶ月! 『素粒子支配』を使えば一発なのに、わざわざ手作業で一ヶ月も掛けてチマチマとやってたですよ!? そんな大層な椅子に仕立てちゃって、魔王でも降臨するですか!? ヒマだからジークの記憶情報に残る映画でも見ようものなら、たまに聞こえてくる下手くそな発声練習に邪魔されたり加工中に響く不協和音が耳障りだったりと、やかましいんですよ! 近所迷惑で訴えようかと思った所です! まったく……。と・に・か・く! ”時間のご利用は計画的に”、です! 一ヶ月も放置されてた私の身にもなれです》

(ア、ハイ)


 どうやら台座の加工作業に没頭し過ぎて、あれから一ヶ月も経っていたようだ。加工している間に段々と愛着も沸いてきて、ああでもないこうでもないと思考していたら時間の流れさえも気にしなくなっていたんだった。そして、リーナの事さえも。



(ごめんな、リーナ。お詫びに何かしてやりたい所だけど、これくらいしか俺にはしてやれない)


 俺は謝罪の念を込め、柔らかな布を一枚顕現させては、首に掛けられたリーナを丁寧に拭いてあげた。

 およそ二ヶ月の間、迷宮の中で戦闘を繰り広げていた事もあり、すっかり埃まみれになっていたからだ。


 だからこそ、謝罪と今までの感謝も込めて、それはそれは優しく丁寧に拭いてあげた。



《キャハハハ――ッ! くすぐった、くすぐったいですぅぅぅ! やーだぁー!》


 おや? ただ拭いてるだけなのだが、どうやらリーナにとってはくすぐったいようだ。さっきまで少し怒っていたし、これで笑わせられるなら良い事を知ったぞ。


 スリスリ、スリスリと――、俺は半分面白がりながら丹念にリーナを磨き続ける。



《ちょっ、ちょっと待――っ! 死ぬ、笑い死ぬですぅぅぅ!》

(さぁリーナちゃん、もっと綺麗になりましょうねー。どんどんピカピカになっていきますよー)


 もはやリーナを磨く事よりもリーナを笑わせる事に夢中になっていた為――、どうやらやり過ぎたようだ。



《や、やめ――っ、やめろぉぉぉ!》


 リーナのお叱りの一言により、俺はピタリと手を止めた。いつもの語尾に「です」が無い辺り、余計に怖さを感じる。



(お、お美しくなられましたよ。お嬢様)

《むぅぅ。……ありがとう、です。でもやり過ぎはダメです》


 どうやら綺麗になった事で喜んではいるようだ。危ない危ない、女性の扱いは難しいな。


(分かっていますよお嬢様。”ご利用は計画的に”、ですね?)

《うぅぅ……。た、たまになら》


 リーナの機嫌もそこそこに戻った所で、俺は加工が済んだ台座へと飛び乗り、座り心地を確かめてみることにした。

 巨大な石造りの椅子に座る、奇妙な目玉。なんともシュールな絵に言葉が見つからないが、言葉はもはや不要だろう。


 素晴らしい充実感が溢れるのだ。手塩にかけて作り上げた逸品、それはオンリーワンの存在であり唯一無二の価値がある。

 だからこそ俺の心は、優越感と幸福感で満たされるのだ。

 


 

 次の日――。俺は例の如く台座に座りながら、『千里眼』を通して『不可侵の大陸』を見渡す様に警護を行っていた。

 それ程の強さはないが地上にも魔物が存在し、それが迷宮内へと侵入して突然変異体へと進化するのを防ぐ為だ。今の所は突然変異体へと進化しそうな魔物は見当たらないし、迷宮内の近くにも生息していないのでとりあえずは安心だろう。


 まぁ、近辺警護という名目でヒマつぶしも兼ねているのだけれど。


 朝から三階層の魔物を少し討伐してはみたものの、一言で言えば雑魚にしか過ぎず、得られる魔力も雀の涙程だったので早々に切り上げた。

 さすがにレベルAへと突然変異するのは防ぎたいが、放っておけば中にはレベルBくらいまでになら育つ奴もいるかもしれない。それまで待ってから討伐するのも有りだと考えたのだ。


 

「あー、あー。発生テスト中。どうだリーナ、違和感はないか?」

《大丈夫ですね! ジークが人間だった頃の声と類似しているです! 後は私の方で細かい調整をするので問題ないです!》

「よし、これで外に出ても会話する手段を得られた!」


 声を出す練習もほぼ完成形と言っていいだろう。『素粒子支配』により体内に発声器官を作り出し、『空気操作』で体外に空気振動を排出する仕組みを調整していたのだ。

 これでとりあえずはどの種族に対面した場合でも、一方的なやり取りにはならずに済むだろう。まずは話し合い、それが大事だ。



 すると、『千里眼』の視覚範囲に一人の人物が侵入したのを捉えた。

 頭に一本の角が生えた青いユニコーンのような生き物にまたがり、黒いローブに黒い帽子、木をねじった持ち手に青い水晶が先端に付いた杖を構える、白いヒゲを生やしたTHE・魔法使いと言わんばかりの老人だ。


「リーナ、ここの大陸って不可侵なんだろ? 謎のおじいさんが視えるんだけど」

《え!? うそ! なんで!? 正気の沙汰とは思えないです!》


 リーナの態度はどちらかと言えば、驚いているよりも慌てている方が強く感じ取れた。

 いくら不可侵の制約が定められているとはいえ、中には破る者だっているだろうに。むしろこの不条理な世界で、全ての人が律儀にルールを守るとは思えない。



「そんなに慌ててどうした? ここに来たとしても、俺としては歓迎したい所なんだけど」

《なに悠長な事言ってるです! 不可侵の制約を破ったら、全種族から問答無用で殺されても何も文句言えないんですよ!》


 その言葉を聞くや否や、俺は扉を抜けて部屋を飛び出し、全速力で迷宮内を駆け抜ける様に飛翔した。

 相手の事なんて何も知らないけど、それでも同じ人間として、目の前で人が殺されるなんて絶対に見過ごす訳にはいかない。


「だから、そういう大切な事はもっと早く言えってぇ――っ!」


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