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眼の異世界転生  作者: ビッグツリー
第一章 目玉転生~封印の祠編~
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十話 ことわざは世界を越える

 明朝八時。拠点である最初の部屋へと帰還した俺は、既に魔力は全快しつつも台座の上で瞑想へと浸っていた。昨日の経験を振り返り、問題点やそれにおける改善策、今後の方針などを練るべく思考を巡らせていたのだ。


 その間のリーナはと言えば、「ジークのスタイルに合わせて解析項目を少し変更するです。『空気操作』も調整を加えるので、作業が終わるまで話しかけるなですよ」――と言い残しては、はたを織る鶴よろしく引き籠っている。

 どうやらリーナもリーナで、昨日の経験が色々と良いスパイスになったという事だろう。



 とりあえず今後の動きとしてだが、まずはこの迷宮内の攻略を目指す。とは言っても、『千里眼』により全容は把握している訳なので、正確には制圧ポイントに存在する魔物の殲滅だ。


 スライムとの戦闘後、拠点へと戻っている際にこの件に関してリーナと議論を交わしていたのだが、その時のリーナの話によると、「レベルの上昇に伴い、魔力タンクが要求する魔力にも質が求められて来るです。レベルの高さと魔力の質は比例する関係にあるので、魔物はレベルC以上を討伐するのが効率的です」――と言っていた。

 一番ランクの低いレベルFの魔物を討伐しても魔力自体は手に入るらしいが、魔力タンクが必要とする質まで圧縮されるそうだ。そうなると取得魔力の量が激減してしまう為に、それらを踏まえた上で俺の適正討伐レベルはランクC以上との事だそうだ。


 この点を加味した上で決定した迷宮攻略は、今いる”十層目から四層目までの完全制圧”。

 一層目から三層目にはレベルDまでの魔物しか存在していない為、ここは無視するスタンスで行く。

 通常の攻略であれば徐々に敵のレベルが上がっていくのが定石だが、いかんせん俺はスタート時から逆走している。一番レベルの高い魔物達が序盤の相手となっているが、今の所は機転を利かせて臨機応変に対処出来ている事だし、ここで踏ん張れば後が楽になっていくだろう。



 それとスライム戦で考案した魔力ビームだが、結論から言うとあれは一時封印しようと思う。

 というのも、純粋に魔力を消費するが故に、連続使用を考慮するとコストパフォーマンスが悪い。それに、魔力はエネルギー体であるから物質を透過するのかと思っていたのだが、それは全くの逆だったからだ。

 物質の構成には魔力が関わっているらしく、魔力ビームはそれを消滅させてしまうとリーナが言っていた。スライム戦で壁に開けた大穴も、魔力ビームによる壁の物理崩壊によるものだったらしい。


 となれば、多用は禁物だ。ここは入り組んだ構造の最下層、下手にそこら中に穴を開けてしまってはこの迷宮自体が崩落する危険性がある。そうなってしまっては、死なないながらも身動き取れない生き埋め状態になり、晴れてのバットエンドってオチになる。


 

 そこで新たに考案したのが――、


《石の上にも三年》


 そう、石の上にも三年という新たな戦法――。

 な訳がない! リーナが突然に変な登場の仕方をするもんだから、つい釣られてしまったじゃないか。



(どんな登場の仕方だよ。これほど反応に困る挨拶は生まれて初めてだ)

《いやぁ~、ジークの知識を覗いていたら”ことわざ”なんていう面白い物を見付けたので、つい読みふけっていたです!》 

(ちゃんと仕事して!?)


 道理でやたらと時間かかってるなと思ったら、案の定これだ。俺の知識を得るのはいいが、待ちぼうけのくたびれもうけじゃないか。下手したら本当に、台座の上に三年いたかもしれないぞ。


 

《調整は終わってるですよ! リーナちゃんは”縁の下の力持ち”なのです! 『空気操作』をユニークスキルから特性へと組み込み、より柔軟にジークの創意工夫のイメージへと順応出来る様にしたです! まさに”鬼に金棒”です!》


 隙あらばことわざをねじ込んでくる辺りから、相当お気に召したようだ。

 古来より伝わる日本の風刺は、世界や人種を超えてその素晴らしさを伝える魅力を宿しているのだろう。日本人の俺としても、嬉しく感じる所はあるな。



(よし、この十層目に生息する魔物も残り一体。最初の制圧へ向けて出撃を開始する!)

《”善は急げ”!》






 把握していた順路を飛翔すること数分。俺はとある部屋の入り口にて、壁を背にして身を隠しながら奴の様子を伺っていた。

 その部屋は広いドーム型。奥に一体、巨大なダンゴムシにも似た魔物がいる。


(爆弾ゴムシ、レベルAか。体を球体状に変化させての突進が得意な様だが……、”爆発性”の性質が気になるな)


 『千里眼』によるスキャニングを実行した際、”爆発性あり”の記述がステータス解説文に表記されていたのだ。



(リーナ、奴の爆発性に関する情報はあるか)

《”鬼が出るか蛇が出るか”の状況に、”鶴の一声”が欲しい訳ですね?》

(違う! ”転ばぬ先の杖”だ!)


 昨日の今日ということもあり、リーナの事後報告を避ける為に前もって情報を得て起きたかった訳だが――、さすがに少しイライラしてきたぞ。



《爆弾ゴムシは敵対時に力量の差を感じ取ると、赤玉と呼ばれる高い爆発性を誇る状態へと移行するです。その状態へ移行すると何かに接触するまでひたすらに回転突進を続け、衝突による衝撃が走った際に大爆発を起こすです。簡単に言うと自爆モード、”青天の霹靂”ですね!》

(ちなみに爆発した際の威力はどれ程だ?)

《”雀の涙”くらいですかねー。この迷宮が崩落する程度です》


 なるほど、それだったら一安心……な訳がないだろう! 何が雀の涙だ、クジラの涙くらいの規模だぞ。

 ここへ来る間にも「”猿も木から落ちる”と”河童の川流れ”って、何が違うです?」――とかどうでもいい事を質問してきたり、今は今で爆笑しながら「”馬の耳に念仏”って! 生臭坊主にも程があるですぅ!」――とか言って緊張感の欠片も無い。


 こうなれば仕方がない。奴が自爆モードに移行する前に、迅速に始末した方が無難だろう。



 俺は目を閉じると、イメージを練る為に意識を集中させる。構想するは――、”空気の圧縮”。

 身体機能とも言える特性に『空気操作』が組み込まれた事により、手を開いたり指を一本二本と折ったり、握る拳の力加減を変えたりといったように、自由に体を動かすと同じく柔軟に使う事が出来るようになったのだ。

 

 この空気の圧縮こそが、魔力ビームに代わる新たな戦法となる。

 強力なコンプレッサーの要領で体内にて圧縮した空気をレンズから射出し、小石か何かを弾丸を模して打ち放つ。空気があれば事足りる事からも、魔力ビームよりは圧倒的にコストパフォーマンスと実用性が高いのだ。


 

 空気の圧縮が済んだ所で、俺は近くにあった小石を拾い上げると、角から身を出しては奴と対峙する形を取った。

 そして手に持つ小石を瞳の前へと構えては、思考の末に辿り着いた必殺名を口にする。


(超絶アトミックビューティフル・ハイパーリベンジ・エアショット!)


 バシュン――と乾いた空気の破裂音にも似た音と共に、《これはヒドイ!》――と言い捨てるリーナの一言も置き去りにして、解き放たれた小石が凄まじいスピードで一直線に飛んでいく。

 さすがに小石を持っていた手の先も吹き飛んでしまったが、特性の『超自己再生』による効果で一瞬にして元通りになった。


 しかし、放った小石が爆弾ゴムシに接触すると、無残にも粉々に砕け散ってしまう。爆弾ゴムシの角質が硬かったか、小石の耐久度が低かったのが原因だろう。


 俺の存在に気付いた爆弾ゴムシ。ジッと俺を見つめているかと思うと、背中を丸め出し、ウネウネと動く無数の脚を収納するかの様に丸みを帯びていく。そして――、球体状に体を変化させると共に、微かな蒸気を漂わせて真っ赤に染め上がる。



(ヤバイ! 失敗だ! 赤玉になってしまった!)

《”後悔先に立たず”。とりあえず風圧で時間を稼ぐです》


 まさに爆発寸前の爆弾の様に姿を変えたそれが、ゴロゴロと転がっては勢いよく迫り来る。

 衝撃が走らない様に、絶妙な調整による『空気操作』の風圧でなんとか凌いではいるものの、このままでは現状の解決には繋がらない。どうにか今の内に打開策を考案しなければ――。



(リーナ! 自爆モードから通常モードへは戻らないのか!?)


 そう――、まず考えたのが自爆の解除だ。爆発した際の対処ではなく、元より爆発させなければいいのだから。



《むむ。これは”風前の灯”ですね。向こうの爆発が先か、消滅が先か賭けですが、スライム戦で使ったアレ……ぷぷ――っ。アレ使ったらどうです?》


 アレとは魔力ビームの事だろう。だがな、アレは封印すると決めたのだ。

 一番は、こうやってバカにされるからな!


 それはさておき、奴の爆発が先か、魔力ビームによる奴の消滅が先かなんてギャンブル要素は俺の望む所ではない。着実なる手段による、確実な勝利を講じるのが俺の理想だ。



(アレは封印した。それよりもあるのか? ないのか?)

《そうですねー。赤玉状態は、およそ10キロメートルも進行すると目を回して止まると言われているです。まぁ、広い荒野などの地形でもない限りは難しい条件ですけどね》


 一応あるにはあるのか。しかし解除条件が厳し過ぎる。この入り組んだ構造の中では、どこにも衝突せずに10キロメートルもの距離を誘導するのは現実的じゃない。


 これは困ったぞ……。反撃しては衝撃を与えてしまい爆発。多重結界を展開しても、障壁に衝突した瞬間に爆発。なんとか『言想ノ神眼』を使ったとしても、魂が消滅する際の苦痛を与えてしまい爆発。この場を逃げたとしても、壁に衝突し爆発。――と、進撃も退却も許されない状況に陥ってしまった訳だ。

 

 唯一の打開条件は、奴に”衝撃を与えずに10キロメートルを完走させる事”――。これに尽きるだろう。


 さて、どうしたものか――。



《ジーク! ”背水の陣”とは思うですが、一つ質問があるです!》

(どうした。解決策を練るのに今忙しいんだが)


 この切羽詰まった状況で、一体何があるっていうんだ。これ以上の状況悪化はごめん被りたい所だぞ。


《”猫に小判”と”豚に真珠”って、何が違うです?》


 そのとてつもなく下らない問いに、ついに俺は我慢の限界を超えた。


(同じだ同じ! 言葉は違えど、意味する所は同じ! そういうものなの! 分かったら二度と下らない質問をしてくるな! この状況でよく平然としてられるものだ!)


 状況をわきまえないリーナの自由奔放さに、怒りに任せるがままに口にしたのだが、それに対するリーナは思いもよらない言葉を返して来た。



《人間だった頃の、ジークの記憶を見て分かったですよ。辛い経験を得て、それを糧に勤勉に勤しみ、それは類まれな知恵と知識をもたらし、最終的には地位と名誉――、そして周囲の笑顔を手にした人生。誰にでも真似出来るものではないです。そんな経験を知ったからこそ思うですよ、ジークはきっと――”どんな壁が立ちふさがったとしても、絶対に乗り越えるはず”――、と。私は、ジークを信じているですから》


 正直、リーナからそんな言葉をかけてもらえるとは思ってもいなかった。だからこそ、俺の心には響き渡った。

 勉強勉強でまともな人間関係が築けたかと言えば、それは素直にイエスとは答えられないだろう。

 初めてだ。能力だけではなく、俺の全てを見てくれて、理解してもらえたのは――。


 共感してもらえる、信じてもらえるって――、こんなに嬉しいものなんだな。



(ありがとう、リーナ)

《うぅ……、照れるから褒めるなです》

(なに、感謝の気持ちを言葉にしただけだ。素直に嬉しかったのもあるが――、お前のおかげで糸口が見つかった!)


 現状打破の解決策、その方法を閃いたのだ。

 それは先程リーナと交わした問答の内容により、一つ頭に浮かびあがった。


 ――(同じだ同じ! 言葉は違えど、意味する所は同じ! そういうものなの!)――と、返した俺の言葉がキッカケだ。

 意味する所は同じだが、言い回しが違うだけの事。それは言い換えれば、”過程が違うだけで結果は同じ”――ということになる。

 

 なんだろう、凄く頭がスッキリした気持ちだ。勉強のし過ぎで、逆に硬くなったかな。



 俺は目を閉じると、ある事を思い浮かべイメージを練り上げた。

 それは――、”宇宙における惑星”。


 地球もそうだが、惑星は超質量を誇る。その質量がもたらす重すぎる重量は、ある物に影響を及ぼすのだ。それが何か知っているだろうか。


 超質量は――、”空間を歪める”のだよ。


 空間とは目に見えぬ事から虚無であり、実体の無い”無”だと思われがちだが、そうではない。無にも思えるそこに、”空間”というものが確かに存在するのだ。

 空間は伸びるし、縮むし、歪曲もする。実体を持たずとも、確かな干渉を受けるのだ。


 故に、超質量を誇る惑星の周辺では空間が歪曲しているのだ。それは例えるならば、柔らかいマットの上にボウリングの球を置いたら、マットがくぼむ様に歪曲するように――。


 その空間歪曲がもたらすものこそ、”衛星軌道”である。

 

 地球の衛星と知られる月だが、地球の重力に引き付けられながらも衝突しないのは、地球の周りに発生している空間歪曲に沿って移動しているからだ。さながら、ルーレット盤を転がる球の様に。

 だからこそ地球も、水星や火星などの近隣の惑星さえも、中央に位置する巨大な太陽の重力を受けながらも衝突しないのは、太陽が生み出す空間歪曲に沿って移動しているが故の公転なのだ。



(俺には質量を操作する事は出来ない。だが、『空間支配』により空間そのものを意のままに操る事が出来る!)


 絶妙な調整を加えながら『空気操作』の風圧で爆弾ゴムシの軌道を逸らした後、風圧を解除すると狙い通りの結果になった。


 俺を軸とし、その周囲を爆弾ゴムシが周回する形となったのだ。

 そう――、さながら惑星の周囲を回る衛星のように。


 これこそが意図。直進だろうと周回だろうと、”過程が違うだけで結果は同じ”という事だ。



 そして俺は、更なるもう一手をここに加える。

 これで走行距離には制限が無くなった訳だが、10キロメートルを走り切るのをただ茫然と見届けるのは時間の無駄だからな。


 だから――、”時間を短縮”する。


 特性の『空間支配』により作り出した疑似衛星軌道に空間固定を施し、『時間操作』で空間ごと時間を早める。そうする事で効率的に自爆形態の解除条件を満たせるという算段だ。



 まるでビデオの早送りの様に、おもしろい速度で爆弾ゴムシがグルグルと回っている。回転速度が上がった訳ではないから、俺と奴の視界速度に違いはあるだろう。ブラックホールに飲み込まれる人を外から見る視点と、飲み込まれる本人との視点のように。


 と、そんな事を考えている内にもう完走したようだ。目を回し通常形態へと戻った爆弾ゴムシは、くすんだ黒色になってはひっくり返っている。


 マラソンランナーこと爆弾ゴムシも疲れたろうに、ゴールの賞品として永遠の安らぎを与えてあげようじゃないか。



 瞳の奥から溢れ出す、絶対勝利の輝き。黄金の閃光が、彗星の如くきらめく。


(消滅しろ)


 ジタバタしながら消えゆく爆弾ゴムシを見届けると、つい安堵の息が零れ出た。

 今回もなんとか乗り切れた戦闘。そしてこれで――、晴れて十層目を制圧する事が出来たのだ。



《お疲れ様です! レベルがBへと上がったですよ!》

(お、それは吉報だな。このフロアも制圧出来た事だし、一度拠点に戻るとするか!)

《賛成です! 解放された『質量操作』をいじくり倒したいですぅ!》


 どうやらレベルアップに伴い『質量操作』なるものを会得したようだ。質量の変化を何度か求めていた事から来たのかもしれない。

 それにしても、俺と同じくリーナも食事を必要としないと思っていたのだが、どうやらリーナにとっては情報が何よりの食事のようだ。



(リーナは、”花より団子”だな)

《む。団子は団子でも、爆弾ゴは嫌ですからね!》

(はは、違いない)


 

 迷宮攻略二日目にして、初めてのフロア制圧。

 

 こうして、互いにことわざと笑顔を交わしながら帰路に着き、また一つ絆を深めていったのだった――。

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