7.入学式
7.入学式
新学期が始まった。俊樹は会社を休んで美紀の入学式に出席した。当たり前なのだけれど、他の保護者たちの仲で俊樹は一人だけ浮いていた。俊樹が会場になる体育館の保護者席に着くと、事情を知っている同じ会社の先輩、内田の奥さんが隣に座った。
「いいと思うよ」
彼女はにっこり笑って耳元で囁いた。
「あの…。一応、学校では身元引受人の親戚ということになっていますから」
「解かってるわよ。でも、いいなあ。なんかテレビドラマみたいで。こういう事、現実でもあるんだね。ウチはありきたりの社内恋愛だったから」
理解してくれているのはありがたいのだけれど、この内田先輩の奥さん、どうにも口が軽そうで俊樹は心配だった。
彼女は内田真由子。高校を卒業して事務職としてこの会社に入ると、6歳年上の内田と付き合うようになり、1年後には出来ちゃった婚で会社を寿退社したのだという、現在33歳。心強い相談相手だとは言えるのだけれど、俊樹にしてみれば真由子が美紀と同じクラスの子供の保護者だということが一番の不安要素でもあった。
入学式が合わった後、保護者たちは教室に集められた。いわゆるPTAの役員決めである。俊樹は実際には保護者ではないのだから、そのまま美紀と帰ろうとしたのだけれど、真由子に呼び止められて役員決めの場に連れて行かれた。
既に、本部役員の大半は2年以上の保護者で決まっていた。1年の保護者からは学年代表と転校して欠員が出た副会長を一人決めるだけだった。
「そんなに時間はかからないから」
真由子にはそう言われたのだけれど、誰も手を挙げる者が居なくて役員決めは難航した。そんな時、真由子が爆弾発言を行った。
「若い方が一人いらっしゃるので彼にお願いしたらどうかしら?」
俊樹は目の玉が飛び出るほど驚いた。
「ちょ、ちょっと待ってください。僕は本当の保護者じゃなくてただの身元引受人ですから」
「あら、身元引受人なら保護者も同様なのではないかしら?実際に美紀ちゃんの養育費はあなたが面倒を見ているのでしょう?」
「それはそうですけど…」
「じゃあ、異議なし!彼に副会長をやってもらいましょう。そしたら、私が学年代表を引き受けるわ」
ハメられた!俊樹はそう思った。