6.美紀の作戦
6.美紀の作戦
覚悟を決めたはいいのだけれど、問題は山積みだ。
俊樹は会社に事情を話した。上司は理解を示してくれたが会社としては中学生との内縁関係など認めるわけにはいかないと言われた。
俊樹は最初の選択を迫られた。
会社に残るためには美紀を一旦親もとへ返して、美紀が結婚できる年齢に達するまで待つか、会社を辞めて新しい仕事を探すかだ。新しい仕事と言ってもそう簡単に見つかるとは思えない。俊樹はアルバイトも視野に入れて仕事を探すことにした。幸い、取引先の関連会社で建築関係の仕事をしている会社が現場作業員としてなら雇ってくれるという情報を得てすぐに面接に行った。諸事情含めて雇ってもらえることになった俊樹は会社を辞めた。
俊哉は美紀と共に新しい会社の社宅に入った。相変わらず、荷物はほとんどなかったのだけれど、備品の多くは会社がレンタルで貸してくれた。これで当面の生活は可能になった。
次の問題は美紀の学校のことだ。せめて高校生なら退学して主婦に専念することもできるのだけれど、まだ中学生の美紀は義務教育を全うしなければならない。
実は美紀は東京へ出てくる前に地元の市役所に行ってきたのだった。住民票を俊樹の寮の住所に移すためだ。とは言え、まだ中学生の美紀が親の許可もなく住民票を移すことなどできるはずもない。そこで、こっそり、母親の保険証を持ち出し、馴染の古本屋で店番をしているパートのおばさんに、母親が買い込んでいる化粧品をいくつかくすねて来たものを渡して、母親役を頼んで見事に作戦を成功させていた。名目は芸能活動のためにプロダクションの寮に入るということで。おあつらえ向きに俊樹の会社は広告代理店で社名が“ジャパン企画”と言った。いかにもそれらしい。そこの独身寮に住所を移すのだから田舎の役所の窓口は何の疑いもなく手続きをしてくれたのだった。
そして、今度は俊樹と一緒に役所へ行き、俊樹が保護者役で一緒に住みながら学校へ通わせるという旨の両親からの委任状を携え、引っ越しと同時に住民票を移動した。それから、その地域の中学校への入学手続きまで一気に片付けた。もちろん、両親からの委任状は俊樹が偽造したものだったのだけれど。
こうして、美紀は新学期から晴れて東京の中学校に通うことになった。
「私たち、新婚さんみたいだね」
美紀は部屋の前で“渡辺俊樹・美紀”と書かれた表札を眺めながらにっこり笑った。そして、他の部屋の奥さんが通りかかると誇らしげに言うのだった。
「いつも主人がお世話になっております」