5.小さい頃の大きな約束
5.小さい頃の大きな約束
俊樹は美紀を連れて駅前のファミリーレストランに来ていた。向かいの席でメニューを広げて楽しそうにしている美紀をよそに俊樹は美紀のお腹の辺りを気にして、心ここにあらずと言った心境だった。そんな俊樹の気持ちなどお構いなしに、メニューを置くと美紀は俊樹の顔を見てにっこり笑った。
「やっぱり、ハンバーグとエビフライのセットかな。ドリンクバーも付けていい?」
「うん、いいよ…」
俊樹は美紀からメニューを受け取ると、呼び出しボタンを押した。ウエイトレスがやってくると、自分はサーロインステーキの200グラムをミディアムレアで注文した。ウエイトレスが注文の確認を終えて下がると同時に美紀は席を立った。
「ドリンクバーを取ってくる。お兄ちゃんは何がいい?」
「コーヒーで」
「分かった!」
ドリンクバーへ向かう美紀の姿を追いながら俊樹はため息をついた。
俊樹は久しぶりに美紀に会えたのだから、本来なら嬉しいはずなのに、どうも落ち着かない。美紀が小さい頃からずっと一緒に過ごしてきたのだけれど、それでも美紀はまだ中学生だ。美紀のことが好きなのは間違いないけれど、それが“恋愛感情”なのかどうかは俊樹自身にもまだ判らない。
メロンソーダとコーヒーを持ってきた美紀が席に着いた。
「私、これからずっとお兄ちゃんと一緒に居るから…。あっ!もう、お兄ちゃんじゃおかしいよね。“あなた”って呼ばなきゃ」
「ちょ、ちょっと待って。ご両親には話してあるの?」
「うん。いいとは言われてないけどね」
「じゃあ、一度帰ってちゃんと…」
「そしたら、もう会えなくなるよ。お兄…。“あなた”はそれでもいいの?美紀のことが嫌いなの?美紀をお嫁さんにしてくれるって約束したよね?」
『私、お兄ちゃんのお嫁さんになるね』
まだ小学生だった美紀が俊樹に言った言葉を俊樹は思い出していた。当然、子供の頃によくあるやり取りだと思っていた。ところが美紀の方は真剣に考えていたらしい。
早かれ遅かれそういう事になるのなら、もう、腹をくくるしかない。俊樹は覚悟を決めた。美紀のお腹には俊樹の子供がいるのだから。美紀の両親には時間をかけて解かってもらうしかない。
「とりあえず、一緒に住むところを探そう…」
「やった!」