3.意外な提案
3.意外な提案
美紀が妊娠に気が付いたのは6月の終わり。生理が始まってまだ日が浅かったため、生理が来なくても疑問にさえ思っていなかった。つわりもそれほどひどくなかったため、たまにそれがあってもつわりだとは思わなかった。しかし、さすがに3か月も生理が来ないとなると話は別だ。たまにくる吐き気がなんなのかピンとこないはずはない。そこで、親には内緒で市販の妊娠検査薬で調べてみたところ陽性の反応が出た。そのころにはさすがに母親も異変に気付きはじめていた。
「あなた、妊娠しているんじゃないの?」
そう聞かれた美紀は陽性の反応が出た妊娠検査薬を母親に示した。
「相手は渡辺のお兄ちゃんね?」
「うん…」
「すぐに病院へ行きましょう」
美紀は母親に連れられて他県の産婦人科医院を訪ねた。医師は驚いた表情で、どう反応すればいいのか迷っているようだった。普通なら「おめでとうございます」と言うべきところなのだろうが、妊婦はどう見てもまだ子供だ。
「すぐに中絶の手続きをしてください」
母親は有無も言わさず医師に向かってそう告げた。
「お母さん、お願い!産ませて」
美紀は必死に懇願した。
「あなたにはまだ無理よ。まだまだ体が出来ていないのよ。出産にはとても耐えられないわ。それに、その子がちゃんと育つかどうかも分からないのよ。第一、学校はどうするのよ?」
「お兄ちゃんの子供を殺したくない!」
「殺すって…。先生何とか言ってくださいよ」
医師はしばらく考えてから意外な言葉を口にした。
「幸い、お嬢さんは普通の子より発育が早いようです。東京に私の恩師に当たる優れた産科医が居ます。もし、その気があるのなら紹介状をかいて差し上げますよ」
「東京!本当ですか?」
母親が口をはさむ前に美紀は叫んだ。東京と聞いて迷いはなくなった。お兄ちゃんのそばなら、どんなことでも頑張れる。そう思うと、体の中から力が湧いてくる。美紀はそう感じた。
さて、後は両親をどうやって説得しようか…。医師の言葉に呆気にとられている母親の顔を見ながら美紀は思案にふけった。