23.美紀の進路
23.美紀の進路
真冬が生まれて2年が経った。美紀が学校に行っている間は美紀の母親が真冬の面倒を見ていた。真冬もすっかり祖母になついていた。その間に真冬も成長していた。初めての寝返り、初めてのお座り、初めてのつかまり立ち、そして、初めて歩いた時には家族で大騒ぎになった。
俊樹が仕事を終えて帰宅すると、既に父親が赤い顔をしていた。食卓には寿司や豪華なオードブルが並べられていた。
「今日は何があったんですか?」
ことあるごとに、こんな宴会が行われていたので俊樹も別段驚くこともなく尋ねた。すると、父親は俊樹を手招きし、スマホで撮影した動画を見せた。
「私が最初に発見したんだぞ」
そう言って、自慢げに笑った。
「歩いたんですか?」
「そうとも。私の方に向かって歩いてきたんだ。私が受け止めてやると嬉しそうにケラケラ笑うんだ」
そう言う父親は、初めて俊樹と美紀が住んでいた社宅を訪ねた時の威厳などどこへ置いてきたのかと思うほどだった。きっと、彼にとっては“目の中に入れても痛くない”と言う言葉がそのまま当てはまるのに違いないと俊樹は思った。
「そう言えば、美紀はもう進路を決めたのか」
ある日、唐突に美紀の父親が口にした。
「うん。もちろん、中学を卒業したら専業主婦になるわよ」
そう答えた美紀の顔を見て父親は表情を変えた。
「せめて高校くらいは出たほうがいいんじゃないか?」
「ダメダメ、真冬だっているんだから。それに、俊樹さんも主任になってお給料もずいぶんよくなったし」
「だったら、余計に進学を考えてみたらどうだ?真冬は私たちに任せておけばいいんだから」
「あーっ!お父さんったら、私のことより真冬と一緒に居たいだけなんでしょう!」
「いや、別にそう言うわけじゃあ…」
どうやら図星だったようだ。
「ちょっとタバコを吸って来る」
そう言って、父親はベランダの方へ向かって行った。




