22.その名は…
22.その名は…
出産後も母子ともに健康で、美紀は入院している間中、母親としての教育を受けていた。抱き方、母乳のやり方、おむつの変え方、お風呂の入れ方等々。入院中に見舞いに来た内田一家、特に萌果は赤ん坊を不思議そうに飽きることなく何時間も眺めていた。
「ところで、名前はもう決めたの?」
「うん」
「どんな名前にしたの?」
萌果の問いに美紀は笑顔で答えた。
「ステキ!」
生まれたその日、俊樹は父親から「名前はもう決めたのか?」と尋ねられた。その時初めて子供の名前のことを意識した。それまでは全く考えていなかった。美紀からも男なのか女なのかも知らされていなかったし、美紀が考えているのだとも思っていたから。そして、美紀に尋ねてみたところ、「あなたが考えて」と言われた。悩みに悩んで考えた名前を俊樹は美紀に告げた。それを聞いた美紀は微笑んだ。
「いい名前ね」
美紀と俊樹は両親に付き添われて役所へ行った。出生届を提出するためだ。提出に当たり、美紀は伊藤の両親の戸籍から抜けて新しい戸籍を取得する。そして、改めてそこに生まれた子供の籍を入れる。形上は未婚の母となるが、父親の名前には渡辺俊樹の名前が記されている。そして、16歳になれば俊樹の籍に入ることになる。
子供の名前は真冬。伊藤真冬。2016年1月30日生まれ。
俊樹はただ単に真冬に生まれたからそう名付けたのではなかった。美紀に似て色白で雪のようにきれいで優しくて温かな子に育ってほしいと願ってのものだった。
体調が落ち着くと、美紀は学校に通い始めた。そして、そのころから美紀は学校でも“奥さん”と呼ばれるようになった。美紀はそれがとても嬉しくて気に入ってもいた。
「奥さん、おはよう。今日も宜しくね」
そう言ってほほ笑みかける男子生徒。
「ねえ、奥さん。真冬ちゃんは元気?今度、遊びに行ってもいい?」
そう言って語りかけてくる女子生徒。
学校長が保護者会を開いてから、学校全体で美紀を応援する体制が確立されていた。生徒たちも保護者達も地域ぐるみで美紀と真冬を見守ってくれている。そんな人たちに囲まれて美紀は中学生として、妻として、母としてたくましく成長していた。




