21.誰に似てる?
21.誰に似てる?
病院に来たときには10分間隔くらいで陣痛が来ていた。それが5分間隔になり2分間隔になった。既に日付が変わろうとしていた。そして、ようやく美紀は分娩室へ運ばれた。それを見届けるようにして美紀の両親は一旦病院を後にした。
「初産なんだし時間がかかるから」
母親はそう言って気楽に笑っていた。出産後の着替えやらなんやらを準備して翌日の朝にまた戻って来るからと、俊樹の背中をポンと叩いた。
「明け方頃になると思いますから、ご主人もゆっくりお休みになっていて大丈夫ですよ」
ベテランの看護師もそう言っていた。けれど、俊樹は病室のソファに腰かけて待った。1時間が一晩のようにも感じられた。気が付くと窓の外が明るくなっていた。どうやら眠ってしまったらしい。慌ててナースセンターの前までやって来た。
「まだですかね?」
「あら、渡辺さん。もうそろそろじゃないかな。生まれたら呼びに行きますから、まだ休んでいていいですよ。どうせ、まともにお休みになっていないんでしょう?」
俊樹は居てもたっても居られずに喫煙室に行き、タバコに火をつけた。その時、先ほどの看護師さんが喫煙室のドアを開けた。
「タバコはお止めになった方がいいですよ」
看護師はそう言った後、にっこり笑った。
女の子だった。新生児室で保育器に入れられて眠っている。真っ赤な顔をして、くしゃくしゃで、大きくなったらどんな顔になるのかまるで想像もつかなかったけれど、美紀に似てくれたらいいと俊樹は思った。
「どの子なの?」
不意に母親が俊樹の背中越しに声をかけた。
「あ、お母さん。今、来られたんですか?」
「そうよ。この人が夕べ落ち着かないと言ってお酒を飲んで酔っ払っちゃって、案の定、今朝は寝坊しちゃって…。ねえ、そんなことよりどの子がそうなの?」
母親の後ろで父親が重たそうな瞼をこすりながら、ばつの悪そうに俯いている。
「その真ん中の子です」
母親はその子を見るなり声を上げた。
「まあ!俊樹さんにそっくりじゃない」
「いや、俺に似てる」
いつの間にか俊樹を押しのけて父親が母親の横で呟いた。どこをどう見たら誰に似ているなんてことが判るのだろうかと俊樹は不思議に思った。
 




