19.保護者会
19.保護者会
保護者会の席には美紀の両親と俊樹も立ち会った。全校生徒630名。うち保護者会へ参加したのはPTA役員を含めた50名ほどだった。
「お久しぶりね。いつも萌果がお世話になってます」
俊哉の隣に腰かけた内田の妻、真由子が言った。
「その節は色々とお世話になりました」
その節とは入学式でのことだ。俊樹は嫌味ったらしく言ったつもりだったのに真由子は意にも介さずにっこりと笑った。
「渡辺君は役員のお母さんたちに人気があるものね」
逆に切り返されて俊樹は焦った。美紀が中学に入学して以来、俊樹はPTAの会合にはすべて出席している。そういう時は内田が早く仕事を切り上げるように言って来るのだ。間違いなく、真由子の差し金に違いなかった。
保護者会は学校長のあいさつから始まった。そして、すぐに本題に入った。列席した保護者たちは最初、それが自分たちの学校の話だとは思っていないようだった。けれど、やがて、校長が「温かく見守って行こうと思いますが皆さんも協力して頂けますか?」そう問うたのでようやくこの学校のことなのだと理解したようだった。
校長の話し方は上手かった。事例として話しているのだと思わせておきながら、保護者たちの同情心や善人意識を煽り、もう後には引けないよと言うところまで気持ちを引き寄せたうえでさらっと事実を覆いかぶせる。そして彼が言うならそうしようと誰もが納得する。中には風紀が乱れるとか、マスコミに騒がれるとか否定的な発言をする者も居たけれど、学校長の断固たる態度にその場の全員が感服したのだった。
美紀は予定通り2学期から学校を休み、在宅しながら勉強することになった。
「ずいぶん大きくなったわね」
買い物に出かけると、周りの人たちが温かく声を掛けてくれた。
「おかげさまで順調に育ってますよ」
「そこの若い奥さん、今日は秋刀魚が安いよ!三匹買ったら一匹サービスするよ」
魚屋の大将が手招きをしている。
「あら!それじゃあ、ウチも三匹買うわ」
「冗談じゃねえよ。あんた歳はいくつだ?俺は若い奥さんって言ったんだ」
「まあ、失礼ね。私だってまだ若いんだから」
そんなやり取りを聞きながら美紀はクスクス笑った。
そして、年が明けて1月の末。ついにその時が来た。




