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14.二世帯同居の始まり

14.二世帯同居の始まり


 美紀の両親が東京に戻ってきたのは6月末のことだった。九州へ転勤が決まった時に、それまで住んでいた家は借家として不動産業者に管理を任せていた。本社への移動を期にその家を売却し、娘夫婦が暮らす郊外に建売の二世帯住宅を購入してのことだった。

 俊樹と美紀は一足先に社宅からこちらへ移ってきていた。


 引っ越しのトラックが新居に着いた。家の外で待っていた美紀が俊樹に声をかける。

「あなた、荷物が来たわよ」

「今、行くよ」

 俊樹が出て行くと、トラックから荷物が降ろされているところだった。父親から、荷物の配置図を事前に受け取っていた美紀が引っ越し業者に指示をしながら次々と荷物を家の中に運ばせる。小物が入った段ボールには運び込む部屋名が記入されていた。

「美紀!お前はいいよ」

 美紀が軽そうな荷物を持ち上げようとしたときに俊樹が叫んだ。妊婦の美紀への気遣いだった。

「これくらい大丈夫だよ」

「ダメダメ!お前は大事な体なんだから」

すべての荷物を運び終えると引っ越し業者は帰って行った。

「結構あったな」

 額の汗を拭きながら俊樹が言う。

「九州の家はけっこう広かったからね。住んでいるうちにいろんなものが増えちゃったし」

「お父さんたちは何時頃に着くんだろう?」

「社長さんのお宅に挨拶をしてくると言っていたから夜になるんじゃない」


 社長宅を訪ねていた美紀の両親は夕食までご馳走になり、帰りはタクシーを呼んでもらった。

「社長、ありがとうございます。これからは会社のために誠心誠意…」

 美紀の父親が礼を言うと社長は父親の肩に手を置いて、首を振った。

「今まで苦労を掛けたな。君が九州で頑張ってくれたおかげで会社は大躍進だ。これからは役員待遇になる。本社で定年までのんびりすればいい」

 二人は再度、社長に頭を下げてタクシーに乗った。新居に着いたのは夜の9時を回ったころだった。ドアを開けると娘夫婦が出迎えてくれた。父親は俊樹に向かって礼を言った。

「引っ越しの方を任せてしまってすまなかったな」

 その表情は5月に来た時の険しさはなく、別の人かと思うほど穏やかなものだった。



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