13.お土産
13.お土産
美紀の両親が居る間、東京見物や少し遠出して横浜の中華街などへ出かけて行った。俊樹はもちろん、美紀も物心がついてからは東京へ出て来て間が無かったので、気の利いた案内などできるはずもなく、九州へ転勤になる前までは東京で暮らしていた美紀の両親が二人を案内する形になった。
美紀の母親は東京土産を山ほど買い込んで、東京駅の新幹線のホームで俊樹の肩をパーンと叩いた。
「俊樹君、これからも美紀を頼んだわよ。生まれるころにはまた来るからね」
「は、はい!」
直立不動で俊樹は美紀の両親を見送った。美紀の父親とはついに一言もまともに口を利かなかった。
帰りの車の中で俊樹は美紀に尋ねた。
「なあ、お父さんは許してくれたのかなあ?」
「まだ、そんなことを心配していたの?」
「だって、一言も口を利いてくれなかったし」
「お父さんはいつもあんな感じよ」
そう言われても俊樹にはまるで実感がなかった。母親の態度からすると何も心配はないようにも思えたのだけれど、今後の付き合いを考えると気が重かった。
新幹線の中で美紀の母親は東京駅で俊樹に買ってもらった弁当を広げた。
「うわあ!あなた、見て!とっても美味しそうよ」
父親はそんな母親には見向きもせずに黙って窓の外を眺めていた。母親はかまわずに弁当に箸を付けた。
「あのな…」
唐突に父親が口を開いた。母親は「なあに?」と弁当に目を向けたまま上の空で答えた。
「今度、本社に戻って監査役になる」
「ふーん…。えっ!今、なんて言ったの?」
「7月1日付けで本社に戻ることになった」
それを聞いた母親は弁当を座席のわきに置いて父親の両肩を掴んだ。
「お父さん、でかした!これで、美紀のそばで暮らせるわね。最高のお土産じゃない!」
そんな母親に父親は苦笑しながらも満更ではなさそうに弁当に手を伸ばした。
俊樹がそのことを知らされたのは既に両親が東京へ引っ越してきた後だった。




