10.上京準備
10.上京準備
ゴールデンウィーク。俊樹が勤める会社は連休中も仕事が入っていた。俊樹も現場を割り当てられている。美紀の両親が出て来たとしても昼間は仕事で会うことが出来ない。それで、俊樹は内心安心していた。やはり、少しでも顔を合わせる時間は少ない方がいい。俊樹にしてみれば美紀のことで後ろめたい気持ちがあるのだから。
俊樹はいつものように現場の仕事を終えて会社に戻って来た。戻るなり内田に手招きをされた。
「渡辺、今度の連休なんだけどな、おまえ、休んでいいから」
「えーっ!なんでですか?」
「なんでって、美紀ちゃんのご両親が上京して来るんだろう?」
「それなら大丈夫ですよ。美紀に会いに来るわけですし、僕が居なくても…」
「そうはいかんだろう。何より、ウチの奴が美紀ちゃんから相談されたみたいでさ」
「はあ…」
「なんだよ、嬉しくないのかよ」
「あ、いや、嬉しいです。ありがとうございます」
俊樹は業務報告書を提出すると、一足先に社宅へ戻った。
美紀の母親は上京するのに合わせて、美紀に渡すために用意したものを荷造りしている。
「おい、そんなもの送ってしまえばいいじゃないか。何もわざわざ持っていかなくても…」
父親がスーツケースいっぱいに詰め込まれた妊婦服や腹帯から挙句の果てには粉ミルクの缶などを見て口をはさんだ。
「大体そのミルクなんか賞味期限があるんじゃないのか?生まれるのは何か月も先なんだぞ」
「いいのよ!こういう物はあると安心するんだから」
「そんなもんなのか?」
「そんなもんなの。それに大事なものを人様に預けるのは信用できないからね」
俊樹が社宅に帰ると、美紀が食事の用意をして待って居てくれた。玄関の扉を開けたとたんに美味そうなにおいが漂ってくる。
「あなた!お帰りなさい」
デニム生地のエプロンがよく似合っている。子供を宿しているからなのか、美紀はこのところ、急激に大人っぽく見えるようになった。そんな美紀の顔を見たら俊樹は何も言えなくなってしまった。
 




