1.まさかの出来事
1.まさかの出来事
最初に洗面所で娘がおう吐している姿を見たとき、母親はそれがつわりだとは思ってもみなかった。なにしろ、娘はまだ中学に入ったばかりだったのだから。
美紀は伊藤家の長女。一人娘である。美紀が小学校に入る前に伊藤家は九州のこの町に引っ越してきた。その頃から美紀は隣に住むお兄ちゃんと遊ぶのが好きだった。お兄ちゃんもまた美紀を妹のように可愛がっていた。
そんなお兄ちゃんが高校を卒業して就職することになった。就職先は東京なのだという。
「盆暮れには帰ってくるから」
「寂しいなあ…。私、お兄ちゃんのお嫁さんになって、一緒に東京に行きたい」
「美紀は中学生になったばかりじゃないか」
「まだなってないもん。私、東京の中学に行く」
「お父さんやお母さんが許してくれるわけないよ」
「大丈夫だよ。パパもママもお兄ちゃんのことは大好きだもん」
「そうは言ってもなあ…」
俊樹もまた渡辺家の長男だった。渡辺家は元来この土地に住む名家で、俊樹の家はその一族の末端だった。俊樹の父親は何も継ぐものが与えられず、勤め人だった。俊樹は長男であったが、そんな境遇であったため、思い切って東京へ出てみようと考えたのだ。
俊樹が中学に入学する前の春休みに伊藤家が隣に引っ越してきた。伊藤家にはこの春、小学校に入学する女の子がいた。それが美紀だった。
俊樹が東京へ行くと知った美紀は「行かないで」と懇願したのだけれど、俊樹もこのままこの町に居てもうだつが上がらないことは分かっていたから頑として譲らなかった。すると、美紀は「自分も連れて行って」とわがままを言った。俊樹はどうにか美紀を説得したのだけれど、最後のお願いだと乞われて美紀を抱いたのだった。
まだまだ子供だと思っていた美紀の身体はいつの間にか女の身体に変わっていた。俊樹は美紀と一つになった途端に果ててしまった。俊樹も美紀ももちろんこのときが初めてだった。
美紀の父親が渡辺家に怒鳴り込んできたのは言うまでもない。俊樹の家は本家から絶縁を言い渡され、この町を出る羽目になった。そのことを美紀は大いに悲しんだ。俊樹が帰って来る家が無くなったのだから。
そして、美紀は決心した…。