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借りは返す。
それは俺にとって何があっても守って行きたい座右の銘みたいなものである。
俺は妹に借りがたくさんあった。
俺は普通だった。
何をしても普通だった。
妹は天才だった。
何をしても俺よりずっと上にいた。
才能という壁を俺は恨んだ。
妹を恨んだ。
でも、今ではもう恨みはない。
良くも悪くも俺が普通だったのだ。
恨み続けることができなかったのだ。
すぐにあきらめたのだ。
あのようには成れないと。
それからは妹と割と仲が良かったように思う。
持ちつ持たれつ・・・・とは言えなかったが、妹は頼られることを嫌ってはいなかった。
そんなこんなで借りはたくさんできていた。
別に妹は気にしなくていいよと言ってはくれたが、俺は納得できなかった。
唯一今まで守ってこれたアイデンティティみたいなものであったから。
捨て去るなんてことはできなかった。
それがなくなってしまえば俺は俺でなく、もはや人でもなくなってしまうと思えた。
だが、妹は多才である。
俺が借りを返すことができるような出来事は起きなかった。
気が付いたときにはひとりで解決していた。
そんなときにだ。
妹が何かに悩んでいるような顔をしていた。
俺は問いただし原因を知った。
それはストーカーであった。
才色兼備な妹にいないはずはないと俺は思った。
思えばそこで俺は間違っていたのかもしれない。
今までもストーカーぐらいはいたはずなのに、顔に出ていなかった。
なのに今回に限ってはっきりとわかるほど顔に出ていたのである。
そのことに気づくべきであった。
たとえ気がついても同じことをしていたかもしれないが、少なくとも何らかの備えはしていただろう。
俺はストーカーを取り敢えず殴り飛ばすことにした。
俺は少し腕に覚えがあった。
家が道場を開いてるからというわけではない。
俺は父から武術を教えてもらえなかった。
理由はよくわからない。
だけど何かはしておかなければと思った。
少なくとも自分の身を守れるくらいには。
だから日々筋トレは欠かさなかった。
さらに、何かよくわからない武術らしきももの通信講座もとってみた。
そのおかげで少なくとも素人よりはましだと思っていた。
たぶん・・・・・
だから、ストーカーを見つけたときすぐに突っ込んでいった。
その結果が今の状況である。
ストーカーを殴り飛ばすことには成功した。
いや、やりすぎたのだ。
俺はストーカーを殺してしまった。
まず間違いなく。
でも仕方がなかった。
奴は化け物だった。
少なくとも人間には見えなかった。
見た目から言って怪しかった。
黒のぼろマントに肩に何か担いでいた。
遠目で見たときは分からなかったが、殴った後に襲い掛かられたときにそれが何かわかった。
それは大鎌であった。
なんでそんなものを持っているか考える暇もなかった。
とにかく避けた。
そしてやり返した。
逃げるという選択肢はなかった。
こいつを妹のところに行かせるわけにはいかないと思った。
どれだけやりあっていたかわからない。
でも、気が付いたら奴は俺の前で倒れていた。
息を吸っている気配もない。
完全に死んでいると思われた。
妹に事情を聴かなくてはならない。
なんでこんな化け物に追われていたのか。
そしてこいつをどうするか考えなければならない。
だが、まずはこいつの死体を隠すことから始めよう。
そう思ってストーカーに近づいた時だ。
サクッ
そんな音がして俺の胸に奴の持っていた大鎌が刺さった。
何があったのだろう。
分からない。
でも体が動かない。
なんで上を見ているんだ。
そっか・・・・・やられたのか・・・
最後に詰め切れていなかったのか。
俺は死ぬのだろう。
奴も死ぬだろう。
さっきのは最後の一撃みたいなものだったはずだ。
これで借りを返せたかな・・・・なぁ妹よ。
沈みゆく意識の中で俺はそう思った。
にしてもしょうもない人生だった。
そして俺の意識は途絶えた。