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夕暮れが迫る  作者: 井藤 莉子
1、別れの繰り返しの生活
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夢の世界と現実

お父様と面会のあとは私が10日間の眠りにつく前と同じように、それよりももっと厳しく家庭教師の先生たちから授業を受けいている。

伯爵家の次期当主ということは次の春から通うことになる魔法学園で貴族Sクラスに入るだけではいけないということ。たしか同じ年の貴族子息、子女たちの中で次期後継者になることに決まっているのは私ともう一人。あとは国王弟の第一子と第二子の双子が一緒になるはず。

つまりは彼らとともに全学年5位以内に入らなければならないということだ。

家庭教師たちの熱も入ることもわかる。

私が無事に学年5位まで入れば彼らの株も上がる。今後の就職にも有利になるということ。逆に私が5位以内に入れなければ彼らは今後の職を失うことになる。ぎりぎりの瀬戸際ということだ。


「カルミュスお嬢様は以前より筋がよろしくなりました。今後もこのように続けていけば大丈夫ですわ。」

「ありがとうございます。」


今、受けていたのは音楽の授業。

この世界の音楽はチェロほど大きくはないヴィオラよりおおきい楽器を足の間にはさみ弾く。アルノーという楽器が主流だ。発明した演奏者の名前が付けられているこの楽器は私にとってなかなかなじみ深い。

できたら、今あるヴィオラと同じサイズのものをさらに小さくして私の好きなヴァイオリンを作り出したいという夢はあるが今そんなことをする余裕はない。しばらく我慢して自由な時間ができるようになったら楽器職人に協力を要請して作り上げたいとは考えている。


私はなぜこんなにも夢の中のことを覚えているのだろう。ただの夢ならすぐに忘れてしまうのに今の私は夢の中の世界で好きだったものを何とかこちらの世界でもできないのかと試行錯誤してしまう。

もしかしたら、単なる夢ではなかったのかもしれない。

そう思えるくらいにもう2か月もたっているのに夢の世界は色濃く私の中に残っている。


「カルミュス様明日の音楽の時間はいかがいたしましょう。」

「申し訳ないのですが、明日は母と弟の転居がありますので屋敷が忙しくなります。きっと授業をしても気になって集中できなくなるでしょうからお休みということにいたしませんか?」

「そうですわね。では明後日までの宿題をちょっと増やしましょう。毎日アルノーを続けることによって上達していくのですわ。本日行ったこの楽譜を完璧に演奏できるようになることといたします。」

「わかりました。ありがとうございました。リッテル先生がお帰りです。」

「わかりました。こちらです。」


リッテルに先生を連れて行ってもらい今日の授業は終了だ。

後は夕飯と今日の復習。湯あみを残すだけ。

毎日こうやってやらなければならないことをこなしていくことで精いっぱいでお母様に会うこともクライヴに会うことも出なかった。

もしかしたらお父様はそれを狙っていたのかもしれないが、とうとう明日別れの時がやってくる。

私は遅かった。

お父様と話すことも、家族を求めることも。

その代償が、明日の別れになってしまった。


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