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精霊は飼う物じゃないですか、ご主人様

 場所が間違っているんじゃないかと、俺は再度地図を見る。

 けれど目印となる店を全て考えるとここしかない。

 だがこんな立派な建物なんてと俺が思っているとそこで、


「いらっしゃい。貴方が、この家を借りるタイキさん?」


 現れたのは一人の年齢不詳の女性だった。

 紫色の髪に赤い瞳をした女性で、髪を三つ編みにして前に垂らしている。

 胸も大きく、全体的にボンキュ、ボンな素敵なスタイルなのだが……。

 年齢不詳の危険な美女だなと俺が思っていると、


「タイキさん?」

「え? は、はい」

「やっぱりそうだと思ったの。息子と同じくらいの子が借りたいって言ってきていると聞いていたから。私は大家のリズと申します。もし何かありましたら、北外れの家に一人で住んでいますので、訪ねていただければ、多少は融通できますのでお気軽に訪ねてくださいね」


 優しい慈愛に満ちたほほ笑み。

 年上のおっとりした女性だなと俺が思っていると大家さんが、


「でも「錬金術士」と「魔法使い」の両方の職業を兼業している方がいてよかったわ。息子と娘の使っていた装置や部屋の管理がありますから。私はそちらの方面は詳しくなくて、よく、触るな! って怒られてしまいましたし」

「そ、そうなのですか」


 全く怒らなくてもいいのにと小さくぼやいて、リズさんはその場を去る。

 そしてミルルが、


「では、さっそく中を見ましょう。タイキさん」


 ミルルに腕を引かれて部屋の中へと入っていったのだった。







 中の設備を見て俺は驚く。


「必要な物が全部揃ってる。なんだこれ……あのリズさん、一体何者だ?」

 

 中に揃っている機材はどれも魔法使いに必要な道具ばかりだ。

 そこそこ誇りをかぶっていて掃除をしないといけないが、その程度は些細な事にすぎない。

 そういえば便利なお掃除マシーンのようなものが錬金術で作れたので試しに作ったんだよなと思いだして、後でそこら辺に放し飼いにしておくかと思う。

 そこでシルフが歩いて行き、うむと頷いて、


「この設備は素晴らしい。なのでタイキ、私にもこの設備を使わせるのです!」

「シルフは魔法使いでもあるのか?」

「そうです! ミルルお姉様の栄養剤や傷薬は全部私のお手製なんですよ!」


 ふんと腰に手を当てて偉そうなシルフだが、今の話を聞いて俺は、


「何だかんだいってシルフも頑張っていて、ミルルの役に立っているんじゃないか」

「う、うう……そ、そうなの! 私だってお姉様に必要な人材なの! だからついていく、実家には帰らないの!」


 怒り出すシルフにミルルは困ったように嘆息して、頬を膨らますシルフ。

 この姉妹の会話を見ているのも微笑ましいのだが、俺は、


「そういえば三階の部屋、結構大きいかもしれないから、もし鍵がかかるならミルル達とシェアハウスにしようか? そのほうが家賃が安くて済むだろうし。それにパーティだからわざわざ呼びに行かなくても済むし」


 そう俺は提案したのだった。






 三階にはいくつも部屋があり、寝室に鍵がついている。

 ちなみに部屋の鍵はそれぞれの部屋の机の上に置かれていた。


「どうするミルル」

「そうですね、ではタイキのお言葉に甘えて。幾らお支払いすればいいでしょうか」


 とりあえず、今回かかった費用を三階なので3で割、更に三人で割り、ミルルとシルフの二人分として、幾らか告げるとミルルは驚く。


「計算上はそうなるんだ。でもそうだな、部屋の掃除を手伝ってもらえると嬉しいかな」

「はい、もちろんです!ほら、シルフもやるのよ!」

「はーい、面倒くさい……」


 ミルルが張り切ってシルフはやる気が無い。

 そして俺達は掃除道具を取り出して掃除に取り掛かったのだが、そこで俺は自分の部屋に決めた場所を掃除し始めたのだが……。


「ひもじいよ~、ひもじいよ~」

「……誰も居ないはずの俺の部屋から女の泣き声がする。まさか、ここって幽霊屋敷だから安かったのか?」


 そう思いつつもどこかに何か道具があるのだろうかと思って探すと、ベッドの隙間に赤い石が見える。

 魔力の結晶のような石だが、随分と色がくすんで灰色に近くなっている。

 魔力が切れかかっているのかもしれないが……今の声と何か関係があるのだろうかと思って俺は手を伸ばす。

 その手が石に触れると同時に何かが吸われる感覚を覚えて、目の前に魔力のゲージが現れ少し減った。

 俺、こんなに魔力があったんだと確認しながらそこで、

  

「よっしゃああああ、完全、復活!」


 半透明の女の子が、その石から飛び出してきたのだった。









 半透明でふよふよしている幽霊のような女の子。

 俺はどうするべきかを考える。

 祟られたりとりつかれたりする前に、何とかしなければ。

 やっぱりあのスマホの女神様に全てをお任せしよう。そうしよう。

 がたがたと震えながら俺はそう決めて、ポケットのスマホに手を伸ばすが、そこで、


「いやー、助かりました。危なく死ぬ所でした」


 その幽霊が、突然俺の手を握ってくる。

 温かくも冷たくもない不思議な温度だが、触れられている感触はある。

 これもあの女神様と同じようなものなのだろうかと俺は気づく。


 そういえば、死ぬ所だったというので、死んではいない。

 なので幽霊では……え? 生き霊とか?

 どちらにせよあまり関わらない方が良いだろうなと思いながら俺は、彼女を観察する。


 髪の色はピンク色、瞳は澄んだ緑色をしている。

 三つ網をぐるりとわっかにしたような髪形をしている、可愛らしい少女だ。

 そんな彼女がキラキラした瞳で俺を見て、


「お兄さん、凄い魔力を持っていますね」

「そうらしいな」

「いえいえ御謙遜を。これだけの人間なんてそうそういませんよ。素晴らしいです!」


 俺を褒め称える幽霊に俺は嫌な予感を覚えた。

 初対面の女の子が凡人の俺をいきなり何もしていないのに褒め称えるわけがないと!

 きっと何かに勧誘されてしまうんだと俺は都会で培った警戒心を全力で活用していると、


「単刀直入に言わせていただきます! 寄生させて下さい! 私に“餌”をください!」

「……なんでペットみたいな話になっているんだ」

「えー、魔力という“餌”で私を飼って欲しいんですぅ。ほら、そろそろ私も日々魔力という“餌”を探したりこっそり奪い取る生活からこう抜け出したいというか。丁度隠れていたのに、空腹に耐えかねて泣いていたら、“餌”をくれたわけですし」

「……いや、俺、“餌”なんて与えてないぞ?」

「本体に触れた時に、勝手に貰いました」


 どうやら触れた人間の魔力を勝手に吸い取るお化けらしい。

 これが力を付けて行くと触れた人間を殺すぐらいまで魔力を吸ったりするのだろうか。

 それを考えるなら、


「この本体を壊せばお前は消えるんだな?」

「やめてぇええ、本当に死んじゃいます。ペットとしてとりつかせて下さいよぅ!」

「というかそんなペットもいらんし、ペットとか自分で言うな!」

「えー、私自身切実なのにぃ」


 ぷうっとほほを膨らました幽霊の女の子だがそこで、


「タイキ、今何か知らない女の声がしたのですが」


 にっこりとほほ笑みながらミルルが俺の部屋に訪ねてきた。

 そしてその女の子の幽霊を見てミルルは目を瞬かせて、


「“精霊”ですか?」


 そう俺に言ったのだった。







 そういえば、“精霊”なんてものもいたなと今更ながら俺は思い出す。

 石など自然界に宿る精霊は、時に人に害をなし、時に人の手助けをする。

 魔力そのものなので魔力のある石などに宿る事が多く、それは貴重なものらしい。

 ちなみに俺がゲーム内で遭遇した精霊は、敵役としてだったが。

 そこでその精霊が、


「いえ、私は精霊じゃないです、幽霊です」


 そう自分で言った。

 それを聞いた俺は、


「やっぱりとりつかれる前に滅ぼしておこう。この宝石を壊せばいいのか……」

「いやぁあああっ、待って下さい! 私だって好きで幽霊やっているわけじゃないんですぅ!」


 慌てたその幽霊は自身の本体である宝石を隠しながら、


「私の名前はサーシャって言います。理由はよく分からないのですが、体を封印されて、意識みたいなものがこういう魔力のある石にとりついちゃったみたいで。記憶が全くないので、私多分、聞かれても答えられませんよ?」


 気楽そうに言う幽霊サーシャ。

 そして更に話し出す。


「それで何だか暗い場所に他の魔力石に紛れて私は存在していたのですが、ある日その宝物庫から他の魔力石ごと連れだされてしまいまして。それを買ったのがこの家の方だったのです」

「ちょっと待て。他の魔力のある石と一緒って事は、お前が必要な魔力を置いておいてくれたってことじゃないか? それって封印した奴が、死んでもいいとかそういうのではなくて、意図的にサーシャの意識を石に移したんじゃ……」

「さあ、その宝物庫に私の体はありませんでしたから。偶然他の魔力の石を傍に置いておいてくれていたのかも」

「……何でそんなに気楽なんだ?」

「さあ、切実に魔力を手に入れる事の方が今の私には大切ですしね。今までは、材料の魔力石を置くのを見て、いなくなったらこっそり失敬していたのですが、空き家になっちゃって動けなくなっちゃうし。なのでぜひ、飼って下さい!」


 そう言って幽霊のサーシャは俺の手を握る。

 事情がありそうだが、体を封印とか不安を誘う単語が付きまとうこの幽霊を飼う。

 どうしようかと思ってから俺は、


「そもそもなんで“飼う”なんだ?」

「だって精霊は飼う物じゃないですか、ご主人様」

「……元人間だよな? そしてご主人様は止めろ」

「はーい、えっと」

「タイキだ」

「タイキ、よろしく」

 

 仕方がない、ここで見捨てるのも可哀想だし、いざとなったら女神様に何とかしてもらおうと俺は思っていた所で、そこでミルルが、


「精霊を“飼う”と表現するのは、魔法使いの中でも特に、“精霊使い”と呼ばれる精霊を使役する特殊な言い回しだったように思います。そんな精霊を使える魔法使いは歴史上でも多くないので、その名前を調べれば誰なのかが分かるかもしれません」

「そうなのか? じゃあ本人確認を済ませれば、もしかしたなら本体を持っている人間に会えるかもしれない、つまり」

「サーシャさんは、もし犯罪等の理由がない限り、元に戻れるというわけです」

「犯罪?」

「ええ、危険な魔法使いなどを倒せない場合封印するという手法が、昔は行われていましたから」


 そこでサーシャを俺は見る。

 サーシャは焦っているが、そこでミルルが、


「何者かに騙されて封じられてしまった可能性もあります。ですので、まずは精霊使いとして登録されている全員を、ギルドの登録分だけでも調べさせていただくのはいかがでしょうか?」


 そう、ミルルが俺に提案してきたのだった。



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