ではこれで契約は成立です
ようやく俺達にもうどんが運ばれてくる。
今回は餅入りきつねうどんを頼んだ俺だ。
まずはこの黄金色に光り輝くスープに口を付ける。
熱々なのか白い湯気を立てるその汁を、どんぶりに口をつけてゆっくりと傾けて……。
「……旨い。なんだか元気になる味だ」
「そう? 良かったわ。変な効果があったらどうしようかと思って」
「俺を実験台にしたのは許さない」
「まあまあ、変な効果は半分くらいしか本気じゃないし、元気になって欲しいと思ったのは本当だよ? タイキにここに来たばかりで疲れているだろうし」
「俺はそんで騙されないぞ!」
「しょうがないな、ほい、チャーシュー二枚追加」
「ありがとうございます」
こうして俺は簡単に誤魔化された。
だって肉は食いたいし、それにこのチャーシューはしょうゆベースの味付けがされてとても美味しいので仕方がないのである。
そう思いながら出汁をもう少し飲みたいかなと思って飲んでいる内に、気付けばうどんの汁が無くなっていた。
おかわりしようかと俺が悩んでいると、
「お主、このスープをそんな水でも飲むかのように気楽にのんでいいと思っているのか!」
「いや、だって……美味しいし」
隣に座っていたフードをかぶった少女が俺に言ってくるが俺としては、まだあの“キラキラキノコ”300本以上あるんだよな、しかもあの袋の中だと新鮮なまま保存されるし、というか本当に時間の概念が存在しない異空間に繋がっているんだろうかとちょっとした不安を覚えていると、
「いや、美味しいからといって、もっと味わうように大切にこれは頂くべきなのではないのか?」
「そんな事をしていると、他の奴らに食べられちゃうんじゃないのか?」
「なん……だと……」
「今でだって、鈴が“伝説の“キラキラキノコ”の出汁を使っている限定商品販売中”って紙に書いて、外に貼りだそうとしているじゃないか」
フードをかぶった幼女が鈴を見ると、丁度書きあがったばかりの宣伝の紙を張り出しに行こうとしている所だった。
それを見たそのフード幼女は、
「鈴、おかわりだ! 素うどん汁ましましで五杯!」
「はーい、まいどー。どうする? 今すぐ? うどんがのびちゃうかもだけれど?」
「……構わない。その程度些細な事だ!」
言い切った彼女に鈴はうどんを作り始める。
俺はと言えば、この小さな体に五杯ものこのうどんが入るのだろうかと興味シンシンで見つつうどんを食べていたわけだが……結果としてこの少女は、その全てを食べ、銀貨を鈴に支払って去って行った。
鈴との様子から顔馴染みらしいなと思いながら俺がそのうどんを食べ終わる頃には、鈴の店は大行列が出来ていたのだった。
食事が終わった後、ミルルとシルフと共に宿に向かう。
何事もなく宿に戻ってきて入ると、三人の男女が喧嘩――正確には一組の男女が喧嘩してもう一人の女の冒険者がオロオロしているようだった。と、
「この、もうあんたなんかとは金輪際付き合わないわ!」
「それはこっちのセリフだ、ワガママ女が! この前だってあれがほしいって言うから……」
「なによ、あんただってこっそり役に立たない防具を買っていたでしょう!」
「役に立たないって、あれはあの形肩の部分といい精密なカーブといいい素晴らしい品じゃないか!」
「そう言って一体どれだけ防具を買ったのよ! 無駄遣いでしょう!」
「だったらあの宝石は何なんだ、防御にもなんにもならないただの飾りじゃないか!」
「女は男と違って色いろあるのよ!こう見えても大変なのにあんたは全然分かってくれないし!」
といったような喧嘩を大きな声でしている彼らだが、道を塞がれて俺たちは部屋に向かえない。
どうしたものかと俺が思っているとそこで宿の店主が出てきて、
「すみません、もしよろしければ彼らと部屋を変わって頂けますでしょうか」
「それは……構いませんが」
「良かった、恋人同士のようでしたので頼んで正解でした。ではこちらが部屋の鍵です」
何故か俺は恋人同士にされていた。
誰とだと思うが、シルフは少し年齢が低いのでミルルだろうけれど、そこでミルルが、
「恋人同士に間違われてしまいましたね」
「そ、そうだな。でもまあ、そうじゃないのにな」
「ええ、そうですね」
その後俺たちは無言で部屋にやって来るが、部屋を開けるとそこにはダブルベッドと、普通のベッドが一つ。
それを見て俺は、よし、普通のベッドに俺は寝るかと思うが、
「よーし、このベッドはシルフのものです!」
「おい、ミルルと俺をダブルベッドに寝かせる気か!」
「床で寝ればいいと思いますよ」
相変わらずのシルフのクソガキっぷりに俺は、とりあえず大人げなくあちらのベッドからシルフを追い出そうと画策するが、
「えっと、タイキ」
「? なんですか?」
「ふつつかものですが、よろしくお願いします」
顔を赤くしてもじもじしながらミルルが俺の服の袖を引っ張っていた。
まさかと思っていると、そのまま俺をダブルベッドにミルルは押し倒して、
「誰かと一緒に寝るのって久しぶりです。それでは、まず魔法でパジャマに着替えてっと」
俺のすぐとなりに寝転がり、ミルルは魔法を使ってピンク色のパジャマに着替える。
パジャマ姿も可愛いのだが、その頬を染めた笑顔が俺の顔のすぐ近くにあって、しかも女の子のいい匂いがするような……。
「やっぱり気が変わりました。私もこのダブルベッドで寝ます。こちら側なら、お姉さまにふらちなことをしようとしたら背後から叩き伏せられますから」
そこでシルフがミルルと反対側からベッドに上がって俺に言う。
だがこの状況は、俺の両側に可愛い姉妹がいる状態で眠ることになるわけで、けれど今更言ってもここから逃げられそうにないと俺は気づいて、
「せめて靴だけ脱がせてください」
そう二人の姉妹に俺はお願いしたのだった。
その日の朝は非常に寝覚めが良かった。
おそらくはダブルベッドに一人で寝ていたからだろう。
だって朝起きると、俺の両隣にいたはずのミルルとシルフはいなかった。
「夢、だったのだろうか。……そうだよな夢だよな」
俺の隣に女の子が二人眠っているなんて俺には都合の良すぎる。
だが夢ならば納得がいく。
あんなご都合主義だがいい夢を見せてもらいましたと思った所で、部屋の扉が開かれた。
「タイキ、起きたんですか? おはようございます」
「お、おはよう」
あらたまって言われてしまうと何だか気恥ずかしい気持ちになってしまう俺だが、そこでシルフが、
「一応おはようございますと挨拶だけはしてやる!」
俺に指を指しながら、言ってきた。
なのでとりあえずおはようと返してやると、
「タイキは寝坊助ね。鼻を摘んでも起きなかったし」
「……人が寝ている時になんてことしやがるんだ」
「でもその前からウンウン唸っていたし、今更だったと思う。お姉様も、頬をつんつんとやっていたし」
「ええ!」
俺がミルルを見ると、照れくさそうにミルルが笑った。
俺は何でその時起きていなかったんだ、俺のバカと思っていたわけだがそこでシルフが、
「本当は顔に落書きしてやろうかと思ったのですが、中々男前だったので止めました」
「……シルフにしては珍しいな」
「……ふん」
シルフはそっぽを向いてしまった。
何だかんだで少しずつは気に入られるのかなと俺が思った所で、
「今日はどうしましょうか? タイキは何か……ああ、部屋を借りるのでしたっけ」
「そうだが……そうだ。そういえば二人はここを拠点にした冒険者なのか?」
宿をとっているとなると拠点を定めていないのかもしれない。
そしてこの宿を拠点にするのかもしれないので、近くに俺の家を定めたほうがこれからも一緒に冒険するにはいいかもしれないと思う。
そこでその問いかけにミルルは、
「そういえばこれからそうなりますね。それなら私達もここ周辺に家を借りたほうがいいかも。タイキの家の近くもいいかもしれませんね」
「そ、そうか、そうだな」
俺は頷くけれど、まだこの時間では、“ギルド”も開いていないので、
「仕方がないな。開く時間まで、朝食でも食べに行くか。ミルルは良さそうなお店を知っているか?」
この世界の事情がよくわからないし、女性が喜びそうな場所も俺にはよくわからないのでミルルの手助けが必要だったのだが。
そこでミルルは少し考えてから、
「では、あそこの喫茶店はいかがでしょう」
そう俺に言ったのだった。
朝食をとった俺達は、丁度ギルドも開いていたので俺達はそちらに向かう。
「できれば錬金術士と魔法使い、その両方の部屋が近くにある場所がいいが……」
あの2つの職種の中の悪さを思い出すと難しいよなと思う。
思いながらもあたって砕けろという気持ちから、俺は部屋を探す窓口に向かうが、
「1階が魔法使い、2階が錬金術士、三階が住居の住宅がありますがいかがでしようか」
あまりにも好条件の家があり驚いたが、そこの大家は元々は息子と娘がそれぞれの職業についていたのだが、今は二人共都市に行っており、なので貸し出すことにしたらしい。
ただ今はどちらの職業も相手をけなしたり、ヘタをすると器物が壊されるとのことで、その療法の職種の人に借りて欲しかったらしい。
あまりにも俺にとって都合の良い展開だが、その幸運に俺は感謝しながら、その書類にサインをする。
「ではこれで契約は成立です。紹介などの手数料を追加しまして……」
現金で支払う俺。
ゲームをしていた時に丁度お金を大量に貯めていたのが良かった……というよりは、女神様が色々してくださったようだ。
そして鍵と地図が手渡され、俺達はそこに向かうが……。
「本当に、ここか?」
俺は目の前の大きな建物を見て、そう呟いたのだった。
見直したはずなのに文章がおかしいところが出てくる……そんなわけで色々削っているのですが、どうでしょうか。