そんなに私が恋しかった?
そんなこんなで俺達は、町の近くにある遺跡に来ていた。
遺跡の中は古代の技術によって明るく照らされているので、灯りは必要はない。
この古代文明の遺跡で、過去の優れた遺物や遺跡では手に入らない植物、鉱物などが取れるのだ。
以前ゲームでも駆け出しの頃に何度ももぐりこんで敵と戦ってレベル上げをしたのは良い思い出だ。
そして初心者のレベル上げには丁度いい遺跡なので、何度も何度も俺はこの遺跡に潜ったのだ。
つまり俺はこの道順も、部屋も、手に入れられるものも全て暗記済みである。
異世界から来たので知っているのだと不思議そうなシルフに説明すると、シルフが変なものを見るかのように俺を見ていた。
「? 何だ?」
「……お前は異世界から来たのか?」
「そうだが、それがどうかしたのか?」
そう答えるとシルフはさらに変なものを見たような顔になり、そこでミルルに抱きついて、
「お姉様、この男は頭がオカシイです。イカれています。多少腕は立つようですがこんな男のそばに居ては、お姉様が汚れます!」
「シルフ、タイキに失礼なことを言っては駄目です。それに彼は女神様の加護を得ているのですよ?」
「! ……信じられません! あの“うどん”屋のお姉さんレベルの実力者ならともかく、この普通っぽい男が女神様に気に入られる要素なんて何処にもないじゃないですか! そもそも女神様は美形が好きですし!」
相変わらずひどい言われ用の俺だが我慢しているとそこでミルルが、
「でも事実が事実なので、これ以上は言ってはいけません。わかりましたねシルフ」
「うぎゅ~」
「タイキもごめんなさい。でもシルフは悪い子ではないんです。私が甘やかしたのがいけないのかな……」
悩みだすミルルに、俺は気にしていませんよと答える。
それにミルルは安堵し、シルフは気に入らないようだった。
そこで俺達は開けた場所にやって来る。
灰色の石造りのドーム状になった場所だ。
そこには雪のようなものが積もっており、その雪の中から生えている緑色の植物の先端になる“実”のようなものが“冷却の実”と呼ばれるものだ。
しかもこの“冷却の実”、とってもとっても瞬く間に現れるという、無限に取れそうな植物なのだ。
すぐ使ってしまう必須材料なのでその点はとてもありがたい。
そう思いながら採取して俺は集めていく。
そこで、大きな音が聞こえた。
どしん、どしんと重いものが歩いて行く感覚。
俺も聞いたことしか無いが、そういえばこのはじめの方の簡単な遺跡だが、希にここには似つかわしくないような魔物が現れるという設定がゲームではあった。
しかもこの音や雰囲気から、俺が知っているものだと、
「……コールドドラゴン。何でこんな場所に……」
現れたそれにミルルが驚いたように呟く。
そしてミルル達は焦ったように攻撃の準備を始め、俺も炎の杖を取り出す。
確か氷系のこの魔物は炎に弱かったはずと思いながら、俺は先手を仕掛けた。
「その炎は闇を照らす光“ 閃光の炎”」
そう杖を向けて俺は魔法を使い……恐ろしいほど大きい炎の塊がコールドドラゴンに向かって行き炎に包まれる。
数秒後、そこにはコールドドラゴンの核となる、“ 竜華石”の、氷属性のものが転がっている。
けれどそんなものよりも、俺はある疑問によって動けなくなっていた。
何であのドラゴンは、こんなに弱くなっているんだ?
倒したドラゴンの“ 竜華石”を回収しながら、俺は考える。
このドラゴンは、ゲーム内でもそこそこ強く、以前俺が戦った時はまだ俺のレベルが200程度だったが、それでもレベルが600程度の人間のパーティにいてそこそこ苦戦したのだ。
なのでレベル625な俺がいる程度であんな簡単にあのドラゴンが倒せるはずはないのだが……。
「敵が弱くなっているのか? ……ミルル、あのドラゴンはこの世界でそんなに強い物なのか?」
「いえ、とても強くて私達だけでは対応が難しいと思って、攻撃を加えて逃げようかと思っていたのですが……まさかタイキが一撃で倒してしまうなんて。凄いです」
ミルルが微笑み尊敬の眼差しで見ている。
可愛い女の子にそんな風にみられた事なんて今までの人生で一度もない。
そしてそうされて、そうだろう、俺は凄いんだと開き直れる度胸もない小心者の俺なので、何だか恥ずかしいような妙にくすぐったい気持にさせられる。
そこでシルフが俺に近づいてきた。
少しくらいは俺を認めてくれただろうか……と不安になるような、怒った表情でいたのだが、
「じ、実力だけは認めてやるんだからね!」
シルフはツンデレ妹にに進化したようです。
何だか嬉しくなってしまった俺は、そのシルフの頭をなでてやる。
そうすると今度は更にシルフの顔が赤くなり、
「こ、子供扱いしないでよね!」
女の子の複雑な感覚は俺にはよく分からないと俺は思う。
さてさて、このドラゴンはこの世界でも凶悪な部類で、そんなに簡単に倒せるものではないらしい。
となると俺が強くなっているわけだが、その原因は分からない。
異世界に来て急に強くなったと考えても良いのだが、そうなってくると……。
「こういう時は、困った時の神頼みだな! スマホを取り出して……“女神様、助けてー”」
「はーい、タイキ、呼んだ?」
スマホを取り出して俺が叫ぶと、中からあの美しい白く長い髪に赤い瞳が悪戯っぽく輝く美女が現れた。
今回は、俺の顔に胸を押しつけるような、一見良い目にあっているように見える状態にはならなかった。
もっとも俺の目の前で女神様の大きな胸がぽよんと揺れており、目のやり場に困るが。
なのでそこはかとなく視線をずらしながら俺は、
「あの、俺、女神様に聞きたい事があって」
「そうなの? でも、こんなにすぐに呼んでもらえるなんて思わなかったわ。そんなに私が恋しかった? タイキ」
「俺の力が強くなっているようなのですが、俺のレベルって625ですよね?」
「あら、違うわよ? 貴方と鈴はサービスして、レベル1000にしておいたから。……言っていなかったかしら?」
「聞いていませんよ! え? レベル1000ってゲームでも999じゃ……」
「そうよ、折角読んだ子がすぐに倒されちゃうのも面白くないから、この世界最強にしてあげたの。ちなみに鈴よりもほんの少し攻撃力とか強めにしてあるから」
「……何故ですか?」
「タイキの方が面白そうだから」
享楽的な女神様のお言葉に、俺は心の中で涙した。
もしかしてこの世界に来ると女難の相が俺に出来たんだろうかかと、今までの人生で経験のないそれに悩む。
そんな俺に女神様は後ろから抱きつくように首の辺りに腕をからめて来て、
「せっかく来てくれた異世界のお客様だがらサービスしちゃったのだけれど気に入らない? それとも別のサービスの方が良かったかしら、タイキは」
「何のサービスですか!」
俺は振り返るように首を回すと、不可抗力で女神様の柔らかい胸に顔を埋めてしまう。
俺は慌ててそれから離れようとすると、
「やーん、タイキのえっち~」
女神様が、面白がるようにそう告げた。
絶望的な気持ちになりながら、俺は瞳を濁らせていると、
「まあそれは冗談として、貴方と鈴が気に入っているのは本当なの。だからそう簡単には死なないようにしているし、守りたい人は守れるようい、ね?」
くすくす笑う女神様の瞳は俺を優しく見つめている。
何だかんだで女神様らしく慈愛に満ちているらしい、エロいが。
そこで女神様が、
「もうそろそろ戻りましょうか。また何かあったら言って頂戴ね」
そう告げてスマホに戻っていく女神様。
それに安堵していると、スマホの画面が急に女神様の胸がアップになり、
「少しくらい触っても良いわよ? タイキには触れるのを許してあげるわよ?」
女神様に誘惑され、俺はスマホの電源を切りました。
そしてミルルとシルフを見ると、何故かシルフがプルプルしていて、
「い、今のは?」
「ああ、だから今のが女神様」
「ま、まさか本当にあの我らが女神様に召喚された異界の人間だと……まさか、いや、まさかまさかまさか」
シルフがまさかを繰り返しているが、俺も信じられない現実だけれど、
「そうみたいなんだ。これで信じてもらえるか?」
「あの神々しさに魔力、そして美しさ……あのお姿はまさに皆が語る女神様そのものです。そんなに気軽に会える方ではなくて、私達だって会えた事がないのに何でこの平凡そうな男に……うぎゅ」
シルフの話を無視して俺は別の気になった事に意識を向ける。
そう今はレベルが1000もある。ならば二日後に控えた……。
「俺のレベルって測定できるのか?」
「……無理かもしれません。機械が壊れてしまうかも」
「でも、高いレベルだとかあまり人には知られたくないな……」
そこで黙る俺にミルルがにっこりとほほ笑み、
「では、ギルドの方々に泣いて頂きましょうか。黙っていれば、タイキは測定しにくい個体差があるで終わるでしょうし」
この世界の女性は、思いのほか逞しいようですと俺は思ったのだった。