よし、遊んじゃえ!
目の前というか顔に当たる柔らかくて温かなそれを感じながら、俺は冷静に考えていた。
俺はこの異世界に飛ばされて、たまたま助けたミルルという淫魔の貴族に案内されて冒険者登録を行い、同じ異世界から来たらしい人物のいる“うどん”のお店で幼馴染に再開しスマホのそ存在を知って女神様とお話して、今女神様に助けてと呼んだらスマホから女神様が現れました。
そしてその女神様は幽霊とは違い触れられたり体温があるようです。
そこまでが俺の理性の限界だった。
「は、放して下さい、お願いします!」
顔にむにっと当たるふくよかな女神様の胸に、俺は必死で抵抗した。
そんな俺に女神様は、
「呼ばれたので勢いよく出てきてしまってついこんな風になってしまったわぁ~」
「分かりました、分かりましたから離れて下さい」
俺は涙目になりながらお願いした。
そもそもスマホで見る限り女神様は女神様なだけに凄い美女で、そんな美女が俺の顔に胸をつけているのである。と、
「あら、タイキは純情なのね。よし、遊んじゃえ!」
「やめてぇええええ」
そこで更に俺を抱きしめてきた女神様に俺は悲鳴を上げた。
離れた場所で幼馴染の鈴がそんな俺の様子を見て笑っている声が聞こえる。
良いから助けてくれよと思ったが、誰も俺に手を貸してくれる人はいない。
そこで女神様が慌てふためく俺の様子を見て、
「純情そうな男の子を弄ぶのって、か・い・か・ん(はーと)」
「もう勘弁して下さい」
「年頃の男子がおっぱいに興味がないのは問題よ?」
「こんな事をして、セクハラになりますよ!」
「あら、女神である私を誰が裁くというの?」
悪びれもなく告げる女神様に俺は、無駄に権力持った人がこれだとどうにもならないという、社会の厳しさを俺は思い知った。
もう絶望しかないと俺は、人形のようにだらんとしていると、
「何だか飽きちゃったわ、もういいや」
女神様がようやく俺を放して下さいました。
それに俺が解放された幸せを感じていると、そこでミルルが何やら自分の胸を揉んでいた。
「? ミルル、何をやっているんだ?」
「自分の胸を揉む事で大きくならないかと」
十分大きいのだが、先ほどから女神様の胸をちらちら見ているのであれが理想なのだろう。
そこで女神様が、
「それでどうして今更私が出てきたかというと……タイキが私と連絡するスマホを取り出してくれなかったの。まさかアイテムや装備だけ取り出して終わりにされるなんて思わなかったわ」
「……いえ、異世界でスマホが使えるとは思いませんでしたので」
「使えるわよ。だってここ、貴方達の国、日本とちょっとそうがずれているだけの異界だから、電波が届くのよ」
「……それを伝って何とか日本に帰る方法を俺は探します。では」
「いやーん、ちょっとは手伝ってよー、タイキちゃん。わざわざ女の子を助けて話して私を無視したんだし―」
「……語尾を伸ばすのはうざいので止めて下さい。そもそも俺は危険な事はしたくないんです。どうせ異世界召喚なんて、魔王を倒せとかそんなものでしょう?」
異世界から人を呼ぶというのであれば、そんなところだと俺は見当を付けたのだがそこで答えたのは以外な人物だった。
「タイキ、魔王は倒さなくていいと思う。というか倒さないで。魔王のロリィちゃんはいい子だし、部下を連れてお店に来てくれるしで大切なお客様なの」
「……魔王」
そんな平和的な魔王様は珍しいと俺は思いながらも、
「じゃあ魔王様じゃなくて、邪神か何かが敵なのか?」
その問いかけに女神は首を傾げる。
俺にとっては好みかけのいい女神様が邪神のような気が段々としてきていたのだが、
そこで女神様が更にクスクスと笑い、
「まあ、初めの内はこの世界がどんなものかを見てみるといいわよ。……いきなり危険なクエストを渡されても困るでしょう?」
「それはこれから危険の依頼を俺が受けなければならないということでしょうか」
「そうね、あなた次第。装備によっても戦闘の難易度は変わってくるし、そのためのチートだけれど、まだどんな物がほしいか決めていないんでしょう?」
「ええ」
「切羽詰まっていない時によく考えておきなさい。後で後悔しないようにね」
珍しく女神様らしい忠告をしてそれからスマホを指さす。
「鈴には教えてあるけれど、あのスマホにはあなた達の異世界のものを、この世界でどうすれば作れるのか検索できるシステムがあるの」
「本当ですか!」
「ええ、ただ大きくて複雑なものは難しいけれど、使い方によってはこの世界を支配できるでしょうね」
「……そうですね」
武器から何から、なんでも作れる。
それは魔法と違った新しい変化をこの世界にもたらすだろうけれど、
「……あまり荒らさない程度の変化にとどめます」
「何故?」
「俺達はいずれこの世界からいなくなるからです。……後のことまで責任が持てませんから」
「あらそう、残念だわ。女神様は面白いことが好きなのに。でもこれ以上話しているとタイキに嫌われてしまいそうだから帰るわ。じゃあね~」
そう告げてスマホに女神は引っ込む。
上手くはぐらかされて逃げられたと俺が気づいたのは、そのすぐ後の事だった。
魅力的な女性に弄ばれた俺は精根尽き果てて、傍の椅子に座る。
そこでカウンター越しに鈴が、
「それで、タイキはこれからどうするの?」
「そうだな……まずは錬金術師用の部屋、機材もセットになった所を借りて、後は薬草を育てるための畑も借りないといけないな」
「あれ? まず冒険に出かけるんじゃないの?」
「……寝泊まりする所は欲しいからその手続きだけはしておこうと思って」
「あー、この町を拠点にするつもりなんだ」
鈴に言われて今更ながら、俺は他の都市に居を構えても良いんだよなと気付いた。
一応そこそこ大きいこの町だが、それでも都市と比較すれば小さく、設備や手に入る情報も少ないだろう。
けれど、この状態ならその部分目立たないはず。
それに普通な行動だけなら女神様が飽きて元の世界に俺を戻してくれるかもしれないし。
そんな計算をしている俺に鈴が、
「それよりもさ、お店に来たんだから料理を注文してよ」
「……それもそうだな、何だかお腹も減ったし。所でミルルはなににするんだ?」
先ほどから無言で自分の胸を揉み続けていたミルルに俺が問いかけると、彼女ははっとしたようにそれを止め、次に顔を赤くして、
「は、はい、そうですね……タイキと同じもので良いです。私にはよく分からない料理ですので」
なので俺が注文して出来るまでの時間を待っている間に、
「それでさ、ミルル、俺達のパーティって、ミルルともう一人なのか?」
「はい、そうですが……何か?」
「もう少し人数がいた方が良いと思わないか?」
「それはまあ……でも変な方と組むくらいなら少ないパーティでやっていく方が良いですし」
そのミルルの答えを聞きながら、そこで俺は鈴に目を移した。
この世界に連れてこられた時に、女神様にチートを貰ったりしているし、多分力も強いだろうなと思うので、
「鈴、俺達とパーティを組まないか? 一緒に冒険をしよう!」
「少しならね。はい、かき揚げうどん、チャーシューはおまけしておくね、これからも御贔屓に」
そう言って出されたかき揚げうどんの端に一枚チャーシューが載っている。
チャーシューって……これってラーメンじゃないんだろうかという野暮な突っ込みはしない。
十代の男子にとっては肉は貴重なものなのだ。
そう思って試しにチャーシューに箸を付けて、俺は一口。
口の中に肉の旨みが広がり、脂身の部分がとろりとしたの上で溶ける。
「美味しい……」
「ふふ、自信作なんだよ? 秘蔵の調合したスパイスで味付けした、私のオリジナルなの」
「これは美味しい、また食べにくるよ」
「ぜひぜひそうして下さいませ」
「それで一緒に来てもらえないか?」
「うーん、お店が休みの日なら良いよ。普段は仕込みとか忙しくてね」
「休み……何時だ? 」
「二日後に二日間あるよ。その時なら少しは冒険のお手伝いしてあげても良いよ……タイキなら、ね」
最後に俺ならと笑う鈴だが、幼馴染のよしみで手伝ってくれるという意味なのだろう。
男勝りな鈴だが、情が深い所もあるのだと、幼馴染な俺は知っている。
そこで俺は天麩羅に口を付ける。
つゆが少し染みていたが、揚げたての部分が残っていて、とても美味しい。
出されたうどんは確かに馴染みのある物で、俺はすこしほっとした。
そしてミルルが全てを食べた後に俺は、
「ごちそうさまでした。美味しかったよ鈴。それでお代は……」
「そうだね、おまけしちゃうよ。同郷のよしみでね」
「悪いな、ありがとう」
「その代りまた別のお客さん連れて来てね~」
ミルルを連れて店を出る。
そこで何だか考え込んでいるミルルに、
「どうしたんだミルル」
「いえ、まさかタイキが異世界から来てしかも女神様の加護があるとは思わず……」
「あー、俺も信じられなかった。気がついたらここの世界にいたし」
「そうなのですか。でも、私、私達のパーティからは絶対にタイキは逃がしませんからね!」
「わ、分かっています。良い恋人が見つかるといいですね」
そう俺は答えたのだが、何故かミルルの機嫌が悪くなってしまった。
これはまさか……ミルルが俺を彼氏候補に!
そこまで考えて俺はむなしくなって溜息をつく。
はあ、ハーレム作りたい。
女の子にきゃあ、素敵、流石ですって言われてみたい。
そんな異世界に行きたかったな……切なく心の中で啼いた俺はそこで、
「そこの黒髪の平凡そうな怪しい男! お姉様から離れなさい!」
ミルルに良く似た少女の声で、俺は変質者扱いされたのだった。
現れた少女はミルルよりも若い少女で、髪も短く、ミルルよりも背も胸も小さい。
そこまで考えた俺はまず彼女に問いかける。
「えっと、君は……」
「だから言っているでしょう! お姉様から離れなさいと! それとも痛い目に遭わないと分からないの!」
「……まずは平和的に話し合おう」
「問答無用! 死ね!」
え、何だこの好戦的な少女はと思った所で、少女は大きな鎌を取り出した。
死神の持っていそうな黒い柄に銀色に輝く鎌。
俺も装備出来ないアイテムとして持っているので、そこそこレベルの高い武器だと分かる。
更に付け加えるなら、この装備の人間とゲーム内で戦った事がある。
物理的な攻撃は当たればもちろん切れ味が抜群にいいが、基本的には打撃のダメージが大きい。
俺は即座に、物理攻撃、防御用の杖を取り出した。
全体が銀色で、所々に埋め込まれた石が、魔法による武器に付加された威力を弱め、体制を強くする。
この杖ならば、切らたり壊されたりはしない。
もちろん持っている武器の主人が強ければ強いほどのそ威力が上がる。
とはいえこう見えても俺はゲーム内では中堅所だ。
よほど強いならともかく、そこまで圧倒的な差があるとは思えない。
なのでそこそこ対応できるだろうと俺は踏んでいたのだが、
「ふん、杖。ただの魔法使いか。お前のような防御に徹するしかない、接近戦の弱い職業の者が剣士である私に勝てると思っているの?」
どうやらツンデレ妹らしい。
色々と美味しいキャラだが、何分敵として見られているので可愛さを味わう余裕がない。
そしてそこで、その少女が大鎌を振るう。
そんな彼女に俺は、ミルルに助けを求める。
「シルフちゃん、その方は私達のパーティに入るのをお願いした方で……」
「! お姉様の名前を呼び捨てにするようなこんな平凡そうな男をパーティに!? 絶対おかしい、そんなの。お姉様は騙されているんだわ!」
「でもシルフちゃん話を聞いて。タイキは……」
そこで更にミルルの妹、シルフは怒りだす。
「お姉様が男の名前を呼び捨てにするなんて!」
「えっと、ではこれからミルルさんと呼びますので許して下さい」
「ふん、今更謝ったって遅いわ。お姉様に手を出したのが運の尽きよ! ここで引導を渡してやるわ!」
楽しそうに笑う、話を聞かないシルフに俺は真剣に考える。
やはり戦闘に従事しない方向でこの異世界ライフを楽しむべきだろうか。
そうだ、そうしよう。
俺がそう確信した所で、俺は気づいた。
「な!」
「ふふ、右から攻撃が来ると思わせといて、この短剣を仕込んでおいたの。これに懲りて二度と私達に手を出さないで頂戴! ……え?」
「え?」
そこでシルフの短剣が俺のわき腹に差し込まれそうになる。
多分致命傷にならない程度の攻撃だが、それに気づかず防御の遅れた俺はその痛みに恐怖する。
けれどその短剣が俺に差し込まれそうになった所で、高い音を立てて弾き飛ばされる。
シルフが疑問符を浮かべると同時に俺も疑問符を浮かべる。
何が起こったのか。
傷一つ無い自信の体を見て俺は、もしやこのシルフと俺との間には圧倒的なレベル差があるのではないかと気付く。
そこで俺は杖をしまい、代わりにある別の武器を取り出した。
それを見てシルフが、
「それは、“ピコハン”!」
取り出した道具はピコピコハンマー……と同じ形状をしたピコハンと呼ばれる道具。
空気の入った強化型紙袋がはしについてハンマーーのようになっている、攻撃力ほぼ〇の武器だ。
それを持ち俺は、にやりと笑った。
「……話しを聞かない悪い子にはお仕置きが必要だな」
「な、何よ、何する気なの、この変質者! ふぎゅ!」
そこで俺は力一杯、“ピコハン”をシルフに振りおろした。
大きな音がするが、攻撃力はほとんどない。
それに恨めしそうにシルフが見上げて、
「このロリコン! 大体こんな女にモテなさそうな男なんか、お姉様にふさわしくないんだからね! ふぎゅ!」
俺は“ピコハン”をおもっきり振りおろした。
そこでシルフは涙目になり、自身の持っている武器を消して、
「お兄ちゃんが、いじめる~」
そう言ってミルルに抱きつく。
そんなシルフにミルルが頭をなぜながら、
「でもこれで、タイキさんの実力は分かったでしょう?」
「うう、でも……こんな普通っぽい男よりももっとイケメンで強い男をお姉様は選ぶべきです」
「タイキは十分強いですよ。私はまだその片鱗しか見ていませんが」
「……お姉様、あの男が好きなんですか?」
シルフが怒ったように見上げてミルルに言うと、
「べ、別に私はそんなわけでは、そ、そうです、タイキに助けてもらったお礼も兼ねて、強そうなこともあってお誘いしただけです!」
そこで半眼になってムスッとした表情のシルフが俺を見た。
そして彼女は俺を更にじっと見てから、
「……そんなに強いんだったら、これから私達と近くの遺跡に行きましょう。私達にふさわしいか、そこで実力を見ます。……人が少ないからって、お姉様に変な事をしたら許しませんからね」
「……ふ、それを俺よりも弱いシルフが止められるのかな?」
先ほど散々ロリコンだのモテなさそうだの言われて頭に来た俺は、一言付け加えた。
そこでシルフは俺の傍に近寄ってきて、
「お兄ちゃん、いじめないで?」
「ぐふっ!」
微笑む美少女ならではの妹属性、その破壊力に俺は呻いた。
それにシルフはすぐさま半眼になり、
「やっぱり駄目ね」
俺はそんなシルフに何も言い返せませんでした。