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第三話 退魔師

また、一夜が明ける。

人知れず、当たり前のように。

人達は動き出す。

俺もまた、例外なく動く。

ただ、その行動は予想外だろうけど。

「ふぁぁぁ」

起きたての俺はリビングに出て大きなあくびをする。

そんな俺を見かねてか、背中にポンっと叩かれた。

「ほら、お兄ちゃん。何朝からあくびなんてしてるの?」

妹の鬼怒瞬だ。

瞬は短めの茶髪を振りながら俺の前を歩く。

身を包むのは中学生服。

瞬はまだ中学生なのだ。そして、ただの人間でもある。

俺には忌まわしい力があるのに、瞬にはない。

別に、不公平だとか感じたことはない。

逆に、妹は俺の自慢だ。

「ふぁぁぁ」

「ほらまた! なんで朝からあくびするの!」

「いや、寝てないからだろ。単純に」

瞬は頬を膨らまして怒りを露わにする。

俺は、瞬の頭を数回叩いて自分の席に座る。

目の前には親父が座っていた。

「狼太。昨日、転校生が来たようだな」

「ん? ああ」

当然、奏芽のことだろう。

俺が朝食の目玉焼きの黄身の部分を食べると、

「そ、それで、どうだ? 可愛いのか?」

親父が下心丸出しで聞いてくる。

おいおい。ロリコンは黙ってろよ。

「母さん! 親父が女子高生にちょっかい出してる」

「おま! そんなことないぞ! 俺は佳代子ちゃんだけが好きだぞ!!」

親父が急いで弁解に入った。

俺は二ヤッと笑ってもう片方の目玉を食べる。

親父は未だに流れ出す冷や汗を手で拭きながら、訪ねてくる。

「そんなことより、小耳に挟んだがその子唄歌いなんだろう?」

親父の目がさっきとは比べ物にならないくらいの眼光を放っていた。

俺は止まっていた箸を置き、

「……ああ。まあ、何とかなるさ」

重苦しい言葉とともに立ち上がる。

そして、無くなっていた飯のおかわりを盛りに行く。

「お前にどうにかできるのか?」

「ああ、残念なことに俺には唄は聞かないんでね」

顔を合わせずに言う。

別に後ろめたいからじゃない。

親父には聞くのだ。唄というものが。

「ふぅん。まあ、お前には聞かないだろう。だが、俺には聞く。ヴァンパイアにニンニクが有効であるように、妖怪である俺には聞くんだよ」

厳密には妖怪の目を持った俺には、だがな。

俺は返事をしなかった。

ただ、

「分かってる。俺と親父は違う。俺は怪物だが、親父は人間だ」

「……」

親父は最後の言葉に何も言えていなかった。

俺は振り返らずに歩く。

カバンを持ち、いつものように出席だけを取りに学校へと向かった。



「おはようございます」

笑顔で俺に話しかけてくるのは当然奏芽だ。

俺はいつものようにため息を着く。

なんでこいつは理解しない。

「俺には近づくな。そう言ったろ?」

「はい。ですが、それが私の仕事ですから」

「嫌がらせが、か?」

「はい」

屈託のない笑顔。

思いもよらない返事。

ああ、こいつ。

――アホだな。

早速、アホのレッテルを貼られた奏芽を見て、俺は呆れたようにケータイに目を落とす。

「あー! 無視しましたね!?」

「うるせーんだよ。少し黙ってろ」

クラスのやつらがヒソヒソと話し込んでいた。

「もしかして、あいつ、優しいのか?」「ねえねえ、あの子早々にハイブリットと打ち解けてるよ」「クソ野郎! なんであんな奴がモテるんだ!」

おい。おかしいだろ、最後の一言。

これのどこがモテてるんだ。

一方的にいじられてるだけだろう?

クラスの噂に耐えかね、席を立つと、

「ん? なんだ?」

遠くではない、だが、近くでもないところから集団のバイクの音がする。

しかも、なんだか近づいてきているような……。

そこで俺は気がつき、窓に向かって走る。

そこから見えた景色は、バイクたちがこっちに向かってきている風景だった。

「チッ……」

なんでバレた?

昨日、俺に襲ってきた奴は悪魔一派。

たぶんだが、その三人はこのバイクたちを走らせている奴らの下っ端だったのだろう。

そして、その片を付けに来た。

だが、なんでバレたんだ?

あいつらの体は俺の横にいる奏芽が文字通り消したはずなのに。

そこで思いつく。

あの時、空には何がいた?

そう、いつものように種族同士で争っていた。

その中で監視する奴がいなかったとどうして言える?

「そういう、ことか」

俺の背後には実に三千人の高校生。

皆が皆強いわけではない。

対して敵は百人ちょっとのやつらだが、強さは言うまでもない。

誰も被害者を出さずにここを切り抜ける手立ては――

俺が考えていると、奏芽がそれよりも早く窓を開け、飛び降りた。

おいおい。ここは二階だぞ?

だが、奏芽はくるりと一回転して見事に着地してみせた。

そして、一気に走り出す。

標的はあの悪魔たちだ。

あいつ、まさか一人でやるつもりか!

「クソッタレ!」

俺は勢いに任せて窓から飛び降りる。

クラスが響めく、教師陣は口を開けて俺をみる。

こりゃあ、本気を出さないと死にそうだな。

そう思いながら、ゆっくりと足を進める俺であった。

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