表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

『ハイパーガール』『序』と『結』

作者: JFZ

序:物事の始まりを表し、ハイパーガールが地球に来た経緯を指す。


結:物事の終わりを表し、ハイパーガールの最後の戦いを示す。


卑劣な極悪宇宙人に対してハイパーガールの正義の鉄拳が炸裂するが、今度は一筋縄では行かない、過去に侵略してきた宇宙人を裏で操って来たボスに対抗出来るのか?


そして、ハイパーガイは地球の、ハイパーガールのピンチを救えるのか?

怪獣や侵略宇宙人から地球を守るATTACKの隊員である東郷裕は、先日の真地球人との戦いで負傷した傷を癒すため、ATTACKのメディカルセンターに療養中だった。

そんな裕を甲斐甲斐しく看病してるのは、同じATTACKの隊員でもあり、地球から遠く離れたX55星雲から来た正義のヒロインである


『ハイパーガール』


が同調した神村春美であった。

2人は告白こそはしていないものの、恋人同士の仲であった。

今日も春美は裕の世話を焼いている。


「裕、何ぼーっとしてるのよ?」


裕は窓の外の景色を見ながら、何か考え事をしていたようだ。


「…、いや、考え事をしていただけだよ。」

「何考えてたの?教えて?」

「教えない!」

「もーっ、教えてくれたって良いじゃない!ケチ!」


軽くすねる春美の可愛らしい仕草を見て、裕は1人でにやっと笑った。


裕が考えてた事、正しくは思い出していた事…それは、裕と春美が始めて出会った頃の話だった。



今から約1年前、長い訓練期間を経て、裕や春美、そして春美の同期隊員である長原ひとみが地球防衛の精鋭であるATTACKの日本支部に配属された。



「こらーっ!東郷!」


裕は相も変わらずの大ざっぱでやんちゃな性格が災いしてか、何時も先輩達から怒られていた。

最も、同期隊員の春美やひとみも同じようなミスをする事もあるが、何分、裕が目立ちすぎるから、自然と裕はミスばかりすると誰からも思われていた。

そんな時、たまたま女子隊員の待機室で春美とひとみが2人きりで談笑していた。


「ねえねえ春美、好きな人出来た?」

「えーっ?ひとみはどうなの?」


女の子が2人集まって恋話に夢中になってた。


「それじゃあせーので言おうよ!」

「いいわよ!」


ひとみの提案で2人は一斉に好きな人の名前を言うことにした。


「せーの…。」

「東郷さん!」

「とう…。」


ひとみが掛け声をかけた分、ほんの一瞬だけ春美より遅れた。

春美が先に裕の名を挙げた。


「春、春美?東郷君がいいの?何か頼りないし?」

「確かに、東郷さんはおっちょこちょいで、馬鹿で、いい加減で女の子イジメとかしてるけど、優しいとこがあるし、何かそう言うのが良いじゃない!それに、この間の怪獣退治の時も勇敢に戦ってたし…。」

「ふーん、お熱い事で!」

「ひとみは誰が好きなの?」

「え、えーっとぉ…。」

「さっき、とう、って言ってたじゃない!ねえ、誰?」


瞳をキラキラと輝かせながら春美は答えに窮するひとみに尋ねた。


「とう…、統括!統括本部の山田さん!あの人、背が高くてかっこいいじゃない!」

「でもひとみ、山田さん結婚してるわよ。」

「あ!そうだった、残念ね…、アハハハハハハ!」


何故かひとみは乾いた笑いをして、話をはぐらかそうとした。


「春美、東郷君に春美が君のこと好きだって言ってあげようか?」

「止めてよ!恥ずかしいじゃない。」

「照れちゃって、カワイイ!嘘よ!」

「もーっ、からかわないでよ!」


春美のカミングアウトを話題にして、2人は女子隊員の待機室を出た。

作戦室に戻る時も2人はおしゃべりを止めなかったが、その時、明らかにひとみの感情には笑顔とは程遠い、否、憎悪と呼べる悪しき感情が芽生えていた。


(私だって東郷君の事が好きなのに、それなのに…、私から東郷君を奪った春美が憎い…、許せない!)


ほんの一瞬遅かったために好きな人を諦めようとしたひとみは、この気持ちを抑えた。


しかし!


『お前の怨み!叶えよう!』


何者かがひとみに囁いた。


(…、誰?)


ひとみは辺りを見回したが、作戦室に通じる廊下にはひとみ以外には春美しか居なかった。


「どうしたの?急にキョロキョロして。」

「ううん、何でもない、何でもない!」


ひとみは単なる気のせいだと思い、この場を後にした。

だがそれはひとみの空耳ではなかった。

この後、春美に襲いかかる惨劇を誰も予想だにしていなかった。


ある日の夜、基地近くにある住宅街のコンビニエンスストアに宇宙人が現れたとの通報があり、ATTACKから春美や裕、ひとみを含む5名が派遣された。

隊員たちは被害にあったコンビニエンスストアの店員から詳しい話を聞いたが、何故か宇宙人は姿を現しただけで何も取らずに店を出たとの事であった。


隊員達は二手に別れて付近に潜伏している恐れのある宇宙人を捜索することにした。


先輩隊員2人と裕とひとみの二組で付近を捜索し、春美は1人、パトロール車で待機して基地との連絡を取る事となった。


「東郷さん達、大丈夫かしら?」


春美がパトロール車内で裕達の身を案じていたその時だった!


『ガシャーン!』

「キャアーッ!」


突然、パトロール車がひっくり返って、パトロール車の天井と床が逆転した!


「な、何?何なの?」


シートベルトをしっかり着けていたおかげで逆さまになった車の天井に頭を叩きつけることはなかったものの、春美は座席に逆さまになりながら宙ぶらりんになってしまった。


「そうだ!連絡しなきゃあ…。」


春美がパトロール車の無線機に手を伸ばした時だった!


『バキイィーン!』

「キャアァーッ!」


何者かが運転席側のドアを引きちぎった。

そこには真っ黒の身体に鎧のような服を着たような怪物が居た!


「いやああぁーっ!」


謎の怪物の出現に怖くなった春美が悲鳴を上げた。

それは付近を捜索していた裕の耳にも聞こえた。


「神村?まさか!」


裕は単身、春美のいるコンビニエンスストアの方向に駆け出した!


「ちょっと東郷君、どうしたの?」

「今、神村の悲鳴が聞こえた!」

「嘘?何も聞こえなかったわよ!」

「間違いない、あれは春美…、いや、神村の悲鳴だ!長原も来てくれ!」

「ちょっ、ちょっと待ってよ!」


春美の危険を察知した裕は一目散にコンビニエンスストアの方向に駆けて行き、それを後からひとみが追い掛けて行った。


その頃、


『バギィン!』

「キャアーッ!」


怪物は春美を座席ごと車から引きちぎり出し、シートベルトや座席を破壊して、春美の首を片手で持ち上げた。


「や、止めて…、離し…て。」


喉を握り潰されそうになった春美は、自分の首を強く掴んで離さない怪物の手を払いのけようとするが、か弱い地球人の女性の力ではびくともしない。

すると、怪物は春美を地面に叩きつけた。


「ゲホッ、ゴホッ!」


春美は苦しみから解放されたよりも遥かに、この間近にいる怪物の接近に恐怖した。


「…イヤッ!こ、来ないで。」


春美は腰にあるレーザーガンの事など忘れて、尻餅をついた状態で恐る恐る後ずさりしたが、当然、怪物の方がすぐに春美に追い付き、鎧の具足のような足で春美の胸を踏みつけた。


「ギャアーッ!痛い!」


春美を踏みつぶそうとする力は半端ではなく、肋骨がギリギリと軋んでいった。


『ククク、苦しめ!苦しめ!』


怪物は笑うと、右手の部分から刃物を出し、春美の頭目掛けて振り下ろした。


「きゃあああ!」


運が良かったのか?春美の頭部を保護するヘルメットをかすっただけで春美には何の影響もなかった。

しかし、

怪物は再び右手の刃を春美に振りかざした!


その時!


「春美ーっ!」


春美の危機を察知した裕が現場にやって来て、レーザーガンを怪物に撃ち込んだ!


「グオオオオ!」


怪物は少し怯んだものの、レーザーガン程度なら鎧のような服を貫通し、致命傷を与えることが出来なさそうであった。


「化け物め!」


全弾撃ち尽くして空になったレーザーガンをホルスターにしまうと、裕は怪物目掛けて突進した。


「うおおおお!」

「うがーっ!」

「裕ーっ!」

「裕ーっ!」


裕は突進して春美の上に跨がる怪物をどかそうとしたが、怪物はあっさりと裕を片手で投げ飛ばした。

その光景を見た春美と、裕の後を追いかけたひとみが同時に裕の名前を叫びながら悲鳴を上げた。


「どきなさい!」


ひとみが怪物目掛けてレーザーガンを撃ち込んだが、やはり、怪物には効かなかったようだ。

そればかりか!


『依頼人、何故邪魔をする?』


依頼人!明らかに怪物はひとみの事を依頼人と呼んだ。


「え、何の事?」


怪物の言葉にひとみは困惑したが、それでもひとみは怪物から春美を助けようとレーザーガンを撃ち込んだ。

それでも、怪物は何らびくともせず、遂にはひとみのレーザーガンも弾切れとなり、万事休すとなった。


『死ね!』


怪物が再び右手の刃を振り上げた。


「止めろーっ!」

「キャアーッ!」

「春美ぃーっ!」


春美達3人の悲鳴がこだまするその時だった!

にわかに辺りが太陽の光を浴びたかのように明るくなり、上空から一つの等身大の光の玉が降り注ぐと、それは春美を包み込んだ。

するとどうだろうか!

光の玉が更に大きくなって弾け飛んだ。

そこには、春美ではなく、全身を銀色と赤色の2色で染め上げた何者かが仁王立ちしていた。


「お、お前は…!」


怪物はそう言うと、両腕の刃物を謎の女性に振りかざした。


「はぁぁーっ!」


謎の女性は素早い動きでひらりと交わすと、怪物の背後に立ち、鮮やかなかかと落としを決めた。


「うがあああ!」

「はぁぁーっ!」


怒り狂った怪物が謎の女性目掛けて突進してきた。

が、謎の女性は両腕に光を集めると、そこから星形のビームを放った。


「スパークスター」

「ウギャアアアアーッ!」


謎の女性の必殺技のような光線を受けて、怪物は全身を爆発させた。


「これは、一体…?」


目の前で起きた信じらんない光景に裕は唖然とした。


「春美は?春美はどこなの!」


謎の女性が現れた代わりに消えた春美を心配したひとみがうろたえた。

すると、ひとみを心配したかのように、謎の女性が優しく話しかけた。


「心配させてごめんなさい、私はX55星雲から来たハイパーガールと言います。」


ハイパーガールと名乗った謎の女性は話を続けた。


「私は、とみに侵略する宇宙人や怪獣から地球を守るために派遣されました。さっきの宇宙人もゾル星人と言って、人の恨みにつけ込んで、地球人を殺そうとした極悪宇宙人でした。」

「ま、まさか、私が…?私が春美を憎いと思ったから!」


ひとみはこの前の、自分が好きな裕を取られた錯覚から春美を憎いと思った時に聞こえたあの声を思い出した。


「いいえ、憎しみは誰もが持っていますから、ゾル星人が悪用しただけです。心配する事はありませんから。」


ハイパーガールはひとみを優しく諭した。


「春美さんは大丈夫です。ゾル星人に殺される前に春美さんに同調しましたから。春美さんの姿に戻ります。」


再び、ハイパーガールの全身を光が包み込むと、その光が周囲に砕け散り、ハイパーガールの代わりに春美が立っていた。


「春美!ごめんなさい。」


春美の姿を見たひとみが泣きながら駆け寄り、春美に抱きついた。


「気にしてないわ!もしかしたら、私が逆にひとみの事を恨んでたかも知れないし。だから泣かないで!」


春美もひとみを優しく抱き締めた。


「ひとみ、この事は2人だけの秘密にしようね。」


春美はまだ泣きやまないひとみを諭すように話した。


「神村、秘密って何だよ?」


傍に居た裕が春美に問いかけたが、


「だめよ!女の子同士の秘密だから。」

「チッ、面白くねえ!」


仲間外れにされて面白くない裕はふてくされたが、ひとみにはこの時の優しさに惹かれ、春美に対しても恋愛感情に似た特別な想いを持つようになった。


こうして、ハイパーガールの活躍話が生まれたのだ。

裕は何となくだが、その時の事を思い出した。


その時!


「ウゥーン!ウゥーン!」


メディカルセンター内に警報音が鳴り響いた。


「何!」


裕が飛び起きようとしたが…、

同時に、何名もの男性看護師が裕の病室に雪崩込んできて、裕の全身を取り押さえた!


「ち、ちょっ?何だ?」


四肢を取り押さえられた裕は突然の出来事にうろたえた。


「ごめんなさい。宇宙人とかの襲来を察知したら、また裕が病室を抜け出しかねないから、隊長や院長の許可を取って裕を麻酔で寝かせる事にしたの。」


春美が舌を小さく出しながら、さぞかし悪びれたように裕に謝った。


「お前、俺を信用してないのか?」

「うん。」

「そんなぁ…。」


その一言を最後に、裕は麻酔によって眠りについた。


「ごめんね、裕。後でまた帰るから!」


春美は舌を出しながら両手を合わせて、裕に謝ったかのように見せかけると、病室を急いで出た。


その時、怪獣はATTACKの基地近くに出現した。

ティラノザウルスを彷彿させる容貌は、凶悪な怪獣のイメージにぴったりだった。


「怪獣は基地10Km近くからこちらに接近している。直ちに上空と地上から迎え撃て!」


隊長である赤井 秀夫が命じ、直ちにATTACKの迎撃が開始された。

上空からは戦闘機で秀夫達男子隊員が、地上からは副隊長であり、秀夫の妻でもある赤井 碧が女子隊員の指揮を執った。


「撃てーっ!」

「撃てーっ!」


2人の息のあった連携の元で、怪獣の進撃を食い止めたが、怪獣に致命傷を与える程ではなかった。

すると、怪獣は進路を基地から、その近くのメディカルセンターに変えて進み出した。


「裕が!」


応戦していた春美は、麻酔にかけた裕の身を案じ、1人、怪獣目掛けて駆け出した!


「春美!待ちなさい!」

「春美!戻って!」


碧やひとみ達女子隊員の制止を聞かずに春美は一目散に怪獣目掛けて駆け出し、レーザーガンを撃ち続けた。


「隊長、上空からの攻撃を一旦中止して下さい!春美がメディカルセンターに向かう怪獣から裕達を守る為に怪獣に近づいています!」

「何だと?春美も裕と一緒だな!」

「あなた!感心してないで攻撃を中止して下さい!女子隊員で春美の援護と救出に向かいますから。」

「わかった!」


しかし、その前に怪獣が投げ飛ばした大岩が春美の近くまで飛んで来た!


「きゃーっ!」

「春美ーっ!」


大岩が春美の近くまで来た瞬間!

大岩を引き裂くようにハイパーガールが現れた。


「良かった。間に合ったのね。」


さっきは春美の危機に悲鳴を上げたひとみが、ハイパーガールが登場したことに安堵の表情を浮かべた。


「はぁぁーっ!」


ハイパーガールが怪獣の尻尾を掴み、ジャイアントスイングでメディカルセンターの反対側に投げ飛ばすと、ハイパーガールは全身を眩い光でくるみ、その光を右腕に集めると、必殺技である

「ブリリアントアロー!」

を放った。


ブリリアントアローを喰らった怪獣は呆気なく爆発したが、その際に誰も気がつかなかった!ハイパーガールの頭上、正確には宇宙空間から一筋の髪の毛のような細く黒い光がハイパーガールの脳天に命中した事に?

この事はひとみ達ATTACKの隊員やハイパーガール本人でさえも気付かなかった。


「フフフ…、弱い怪獣ティラノンを囮に使って、見事にハイパーガールの脳天に催眠光線を命中させた。」


地球から遠く離れた宇宙空間にある謎の宇宙船から放たれた黒い光線の命中率の高さに不敵な笑みを浮かべた謎の宇宙人は、その場から転送装置を使って地球上にテレポートした。


怪獣ティラノンを倒し、安堵したATTACKの隊員達だが、ハイパーガールの変身を解いた春美の身体に異変が起きていた。

変身を解いた直後から、春美は全身から止め処なく起こる悪寒に身をよじらせていた。

更には、全身の力が抜け落ちるような倦怠感にも襲われていた。


「春美、大丈夫?」

「…、何だか寒気がする?」

「メディカルセンターで休みなさい。」


心配するひとみ達に付き添われ、春美は裕がいるメディカルセンターに搬送され、未だ麻酔効果が切れずに眠っている裕の隣の病室で大事を取って寝かされた。


(…寒い、…だるい!何で?)


不意の体調不良に戸惑う春美だったが、その時、他に誰もいないはずの病室から声がかすかに聞こえた!


「フフフ…、神村 春美、いや、ハイパーガール!速やかに地球を我々に明け渡せ!」

「誰?誰なの!」


春美は病室全体を見回したが、全室個室のメディカルセンターの病室内に春美以外の誰も存在していなかった。

しかし、得体の知れない誰かが居ることは春美にはわかっていた。


「出て来なさい!」


春美は凄みを効かせながら病室内を見渡したが、やはり気配はすれども姿は見えなかった。


「姿を見せないなんて卑怯よ!」


春美の怒りの問い掛けにも無回答だったが、


「フフフ…、わかった。」


春美のベッドのすぐ傍に突然、全身を黒マントで覆った2m近い大男が現れた。


「…ッ!…か、身体が…、動かない?」


春美は息を呑んだが、動こうにも謎のだるさで身動きが自由に出来なかった。


「フフフ…、無駄だ!私がさっき仕掛けたからな。動けぬハイパーガールや地球人のお前などは恐れるに足らん!後はお前を母船に連れ帰って、操り人形として洗脳して、我々の地球支配のための手下にするまで。」

「イヤッ、止めて!」


春美はこの場から逃れようとしたが、身体の自由が効かないため、どうする事も出来なかった。

春美の表情が怯えきっている。


「観念しろ。ハイパーガール!」


謎の大男は左手で春美の全身を掠めるようにマントを振りかざした。


(や…、裕、助けて。)


マントで顔が覆われる寸前、春美は心の中で裕に助けを求めたが、それを最後に催眠術にかかり意識を失った。


「他愛ない。連れ去るとするか。」


謎の大男は気を失った春美を肩に担いだ。がっくりとした春美は謎の大男の肩にぶら下げられ、ぴくりとも動けなかった。


その時!


「待て!」


病室の入り口に裕がやって来て、攫われそうになっている春美を取り戻そうとして、大男に掴みかかった。


「ガキが!離せ!」

「お前が春美を離せ!」


裕と春美を肩に担いだ大男との間で取っ組み合いが始まった。


「この、時間がない!転送開始だ!」


大男がそう叫ぶと、裕と春美、そして大男が病室からスッと消えた。


そして一瞬のうちに、見知らぬ空間に裕達はやって来た。


「ここはどこだ?」


裕が戸惑った隙を見て大男は裕を蹴り飛ばし、肩に担いでいた春美を手術台のようなところに寝かしつけた。

刹那、春美の両足首、両膝、両手首と胴体、両肩に金属製の枷がはまり、春美の頭の近くに巨大なスタンガンの形をした長い棒が天井から突き出して来た。


「貴様、春美に何する気だ?」

「フフフ…、準備は整った。お前の大事な女はこれから我々ガイザー流星人の地球侵略の尖兵に改造する。」


ガイザー流星人と名乗った大男は裕に地球侵略の意志を告げた。


「ふざけるな!」

「たわけ、ほざくが良いわ!資源の豊富な地球を我が物にしてやる。そして、全宇宙に名高いハイパーガールを我が物にすれば、多くの星々が私に平伏すだろう。」


ガイザー流星人はマントを取ると、白銀色した燃え盛るような頭と、対象的に流線型のようになめらかな肢体を現した。


「古くはバルグーレ星人、ゾル星人、シュランゲ星人に地球侵略の手先となるように唆したが、全てハイパーガールに邪魔された。あと、薄汚いザッカー星人や真地球人が横から手を出してきたが、奴らでも手こずった。役立たずはもう要らん。私自身がハイパーガールを使って地球を支配するのだ。」


これまでに地球を侵略しようとして来た宇宙人のほぼ全てがガイザー流星人に騙されてたのだ。


「汚いぞ!お前汚いぞ!」

「ハッハハハ!欲しい物を手に入れるのに汚いも何もない!勝つことが全てだ!」


宇宙船の中でガイザー流星人が高笑いする中、手術台に拘束されて身動きが取れなくなっていた春美が目を覚ました。


「…ん、…う、ここは…、どこ?」

「春美!」

「ひ、裕?…何これ?ここはどこなの?」


目覚めた瞬間、見たことの無い部屋で体中を拘束された春美はうろたえ、身体を拘束している金属製の枷から逃れようとしたが、いくらもがいても枷から身体が離れることはなかった。


「無駄だ!その枷からは逃れられん!」

「私をどうする気?」

「春美に変な事するな!」

「フフフ…、とくと見よ!ハイパーガールが我がシモベとなる瞬間を!」


ガイザー流星人が右腕を高らかに挙げると、春美の頭上にあったスタンガンの形をした棒から夥しい程の電流が春美の頭部目掛けて放出された。


「ギャャアァァァ!イヤァァァァァ!」

「春美ーっ!」


夥しい程の電流を受け、金属製の枷の中で悶え苦しむ春美を助けるために、裕は春美を縛り付けている手術台に駆け寄ろうとしたが、途中、目に見えない壁に行く手を阻まれ、春美に近付けなかった。


「無駄だ!無駄だ!無駄だ!お前はそこから動けぬ!ハイパーガールが我が手に落ちる瞬間を見るが良いわ!」

「アアアアアアア!裕ーっ、助けてーっ!」

「止めろーっ!」


電流責めに悶え苦しむ春美を助けたい一心で、裕は無我夢中で見えない壁を叩き続けたが、裕の力ではびくともしなかった。


「ギャャアァァァ!アアアアアアア!」

「春美ーっ!」


電流を頭上から流され続ける春美がずっと手術台の上で悶え苦しむ。


「イヤァァァァァ…ひ、ひ、裕…、もうダメ、私…私…。」


遂に春美が電流責めに打ちのめされて意識を失って行った。

春美がとうとう金属製の枷で縛り付けられていた手術台の上からぴくりとも動かなくなった。


「春美ーっ!」


残酷に責められた春美の姿を見た裕は力無く膝を着き、目から大粒の涙をこぼした。


「ハッハハハ、泣け喚け!無力な地球人よ!」


宇宙船の中には裕のむせび泣く声と高笑いするガイザー流星人の笑い声だけが鳴り響いた。


「よくも、よくも春美を!」


怒りが全身を支配した裕が近くにいるガイザー流星人に襲いかかろうとしたが、裕の周りを取り囲む見えない壁に阻まれ、そこから移動する事が出来なかった。


「よくも春美をーっ!」


裕は必死になって見えない壁を叩き続けたが、壁を打ち破る事は出来なかった。


「目障りな奴め、手始めに始末してやる。」


ガイザー流星が再び右腕を高らかに振り上げると、気を失っていた春美がゆっくりと両目を開けた。


「春美、春美!目が覚めたか?」


しかし、春美は裕の呼びかけには反応せず、ぼんやりと首を回すだけだった。

すると、春美を手術台に縛り付けていた金属製の枷が一気に外れた。

それから春美はゆっくりと起き上がった。


「春美!無事なのか?」


しかし、春美は裕の呼びかけには反応せず、代わりにガイザー流星人の前に歩み寄った。


「春美?」


ガイザー流星人の前に進み出た春美は頭を下げ、ガイザー流星人にお辞儀すると、ゆっくりと裕の方に進み出た。

春美の顔に精気はなく、虚ろな目をしていた。

視線は裕に合わせることはなく、半開きな唇が普段とは別人の春美だと思わせるのに十分だった。


すると、そんな虚ろな春美から言葉が発せられた。


「私は、ガイザー流星人様の言い付けで地球を侵略する。先ずはお前を殺す。」

「お、おい、落ち着けよ春美?」


春美から発せられた意外な言葉に裕は戸惑った。


裕の前に来ると春美は右手でグーを作り、裕の顔面を思い切り殴った。

いつの間にか裕を覆っていた見えない壁は消えていたようだ。


「痛てーっ!」


女の力とは思えない程の強いパンチに裕は身体を仰け反らせた。


「ハハハハハ!恋人に殴られる気分は最高か?」


春美に殴られる裕の姿を見たガイザー流星人は裕をなじった。


「なあ春美、俺だよ!裕だよ!目を覚ましてくれよ!」


裕の必死の呼びかけに応じず、春美は裕の胸倉を掴むと再び右手を強く握り締め、容赦なく裕の顔面を殴った。


「止めろよ!春美!」

「こいつはお前の好きな神村 春美ではない!我がしもべだ!お前は好きな女に反抗できずに殴り殺されるんだ!」


ガイザー流星人の叫び声と重なるように、春美の堅く握られた右拳が今度は裕の鳩尾を痛打した。


「ゲホッ、グホッ。」


まだ完治していない裕の身体が悲鳴を上げる。


「冗談じゃない!俺は春美を愛してる!春美だって同じだ!こんな攻撃が何時までも続かんよ!」


殴られっぱなしの裕がガイザー流星人に向かって叫んだ。


「面白い!ならば、この女が本当にお前を愛して殺さないか、見てやろうじゃないか!」


ガイザー流星人が声高に叫ぶと、春美は隊員スーツの胸ポケットからハイパーガールに変身するための変身カプセルを取り出した。


「駄目だ、春美!変身してこいつらの手先になって地球を侵略したら。ハイパーガールは地球や宇宙を極悪宇宙人から守る正義のスーパーヒロインじゃないか!」


裕の必死の叫びも虚しく、春美は変身カプセルを持った右手を高らかに掲げ、今まさにハイパーガールに変身しようとした。


「さあ変身しろ!我がしもべ、ハイパーガール!」

「はい。」

「止めろーっ!」


春美は、ハイパーガールはガイザー流星人の手先となって地球を滅ぼすのだろうか?

春美は変身カプセルのスイッチを押した。


その時!


その時…、


何も起こらなかった?

何も起こらなかったのだ!

何故か春美はハイパーガールに変身出来なかった。


「何で…?」

「どういう事だ?」


予想だにしなかった事態に裕もガイザー流星人も戸惑った。

すると、春美の右腕が、全身がブルブルと震えだした。


「これは、修道院の時と同じ?」


裕が、山奥の修道院でザッカー星人に捕らえられ、操られた春美を助けた事を思い出した。


すると、何やら女性らしき声が裕に語りかけて来た。


『裕さん、あの時より事態は深刻です!』

「そ、その声は…。」


裕は聞き覚えのある声に驚いた。


『私はハイパーガール、今の春美さんの意識は完全にガイザー流星人に乗っ取られています。今は何とか春美さんの深層意識の中で私が変身しないように抵抗していますが、何時まで持ちこたえられるかわかりません。』

「どうすれば?どうすれば春美は元に戻れるのですか?」

『裕さん、春美さんを助けるには、春美さんが大好きな人である裕さん、あなたの助けが必要です。あなたの愛の力で春美さんを助けて下さい。』

「具体的にはどうすれば…?」


しかし、それ以上のハイパーガールの言葉は出てこなかった。

ハイパーガールの意識は春美の深層意識の中に取り込まれた。


「何を1人でぶつぶつほざいてる?」


どうやら、ハイパーガールの声はガイザー流星人には聞こえてなかったようだ。

春美の身体はまだ震えたままだった。


「愛の力って言われても…?」


裕は独りで必死になって考えた。

しかし、名案なんかは生まれて来なかった。

次第に、春美の身体の震えの幅が大きくなって来た。


「苦しいのか?春美!」


やはり裕の呼びかけには反応しない春美だったが、その春美の瞳からうっすらと涙が零れだし、精気の無かった表情が苦悶の表情に変わって行った。


「春美!もういい!苦しまないでくれ!」


春美の苦悶の表情を見て堪えきれなくなった裕は春美の身体を抱き締めた。


「春美!好きだ!愛してる!だから苦しまないでくれ!」


裕が震えの止まらない春美を強く抱きしめて、春美の唇に強くキスをした。


「下等な生物め!」


2人の姿を見ていたガイザー流星人が罵った時、春美の全身を揺さぶっていた震えが止まり、全身の力が抜けたのか、春美が右腕をゆっくりと下ろした。


「裕…?私、どうなったの?」


自分に口付けをしていた裕の顔を見ながら、春美は裕に語り掛けた。


「春美?元に戻ったのか?」


裕が嬉しくなり春美を一層強く抱きしめた。


「い、痛い、離してよ!」

「あ、ゴメン、大丈夫?」


裕が全身の力を緩めた時だった。


「おのれぇえ!よくも私の野望を打ち砕いたな!裕!お前を八つ裂きにしてくれるわ!その後から春美を再び催眠術にかける!」


怒り狂ったガイザー流星人がけたたましく叫んだ。

同時に裕は春美から離れ、腰に手を当てたが、


「あっ、しまった!」


さっきまでメディカルセンターに入院していた身であり、なおかつ、隊員スーツではなく入院患者の着る衣装のままの裕に武器はなかった。


「止めてーっ!」


春美が右腕を再び高らかに挙げて、ハイパーガールに変身しようとした。


「させるか!」


ガイザー流星が左手の指先からレーザーを照射し、春美が手に持つ変身カプセルを弾き飛ばした。


「キヤッ!」

「春美!」

「ハッハハハ!これで何も出来まい!」


ガイザー流星人が勝利を確信したかのように、これまでにない高笑いをした。


「死ね、裕!」


再びガイザー流星人が左手を掲げて、指先からレーザーを照射しようとした。


瞬間!


他の誰かがガイザー流星人の宇宙船にテレポートして来た。


「誰だ!」


ガイザー流星人がレーザー照射を止め、船室内を見渡した。

そこには、裕達が見慣れたあの人物が立ち上がっていた。


「た、隊長?」


裕や春美は目を丸くした。

確かにそこには隊長である秀夫が居たからだ!


「あ、人間態のままで来てしまったか。」


秀夫はわちゃーっと言いながら、自分の両手を何度も見比べた。


「邪魔するな!お前は誰だ?」

「俺はATTACKの隊長だよ。うちの若い子達をガイザー流星人、お前から連れ戻しに来ただけだ。まさか、火星軌道上まで来るとは思って無かったがな。」

「か、火星?」


裕と春美はまた目を丸くした。

まさか自分達が地球から遠く離れた火星の軌道上に連れてこられたなんて思っても居なかった。


「ふざけるな!地球人にそんな能力は無いぞ!」

「ふざけてなんかないよ。なら、何故俺がここまでこれたか分かるか?」


秀夫はガイザー流星人に何ら臆する事無く対峙している。


「お前は地球人じゃないな!」

「だったら何だ?」

「こうするまでだ!」


ガイザー流星人は左手に光を集め、秀夫目掛けてレーザー光線を照射した。

すると、秀夫は両手で拳を握り締めて胸の前で交差させ、ガイザー流星人のレーザー光線が両手のクロスした部分に当たった瞬間に両腕を力一杯振り下ろし、ガイザー流星人のレーザー光線を弾き返した。


「グアッ!」


自分が放ったレーザー光線を受け、ガイザー流星人が怯んだ瞬間、秀夫の身体が金色の光に包まれ、中から銀色と青色の光輝く身体を持った正義のスーパーヒーロー


ハイパーガイ


が現れた。


「まさか隊長が…?」


裕や春美が驚くのも無理はない。秀夫は誰に悟られる事無く隠し通して来た秘密であるからだ。


「行くぞ!」


ハイパーガイはガイザー流星人と対決しようとしたが、


「こんな奴を2人も相手に出来るか!」


ガイザー流星人が右腕をスッと挙げると、瞬く間に姿を消した。


「助かった?」


様々な信じられない事を目の当たりにして混乱した裕が床に尻餅を着いた。


「この場は助かったかも知れないが、奴は地球に転送して、地球を滅ぼそうとしている。急いで帰るぞ!」


ハイパーガイは裕に言ったが、


「帰るって、俺人間だし、火星から帰れないけど…。」

「私の傍に来なさい。」


ハイパーガイは裕を呼ぶと直ぐに裕と同調した。


「裕!隊長?」


今度は春美が混乱した。


「春美、カプセルを取って早く変身するんだ!」

「は、はい!」


春美は慌てて変身カプセルを取って早くハイパーガールに変身した。


「行くぞ!」

「はい!」


ハイパーガイとハイパーガールは互いの手を取ると、一筋の光となってガイザー流星人の宇宙船から飛び出して地球に向かった。


2人が地球に着いた時、一足先に地球に着いていたガイザー流星人が巨大化して地球の都市を攻撃し始めていた。


「降伏しろ!地球人よ!」


ガイザー流星人が左手からレーザー光線で攻撃していた時、遥か上空から光速で何かが飛び込んで来た。


「止めろ!ガイザー流星人!」


それは、ハイパーガイとハイパーガールだった。


「邪魔するな!」


正義のヒーローを2人も相手する恐怖を知らないのだろうか?

ガイザー流星人は2人に啖呵を切った。


「スパークスター!」

「ウギャアアア!」


ハイパーガールが右腕から必殺技の一つのスパークスターを放った。

流石のガイザー流星人もハイパーガールの必殺技には効き目があったようだ。


「まだだ!」


ガイザー流星人は左手からレーザー光線をハイパーガール達目掛けて照射したが、


「シールド!」


ハイパーガイの作る空気の壁がレーザー光線を吸収して無力化した。


「ま、待ってくれ!地球には手を出さない。だから見逃してくれ!」


適わないと悟ったのか、ガイザー流星人はハイパーガイ達に命乞いを始めた。


その時!


火星軌道上に残されたガイザー流星人の円盤から非常に強力なレーザー光線が発射されて、ハイパーガイやその周辺を一瞬にして焼き尽くした。


「ハハハハハ!様がないわ!ハイパーガイもお終いだ!」


しかし、ハイパーガイは全く何事も無かったかのように立っていた。


「ば…、化け物め!」


ガイザー流星人が渾身の力でハイパーガイに突進した。


「とりゃああああ!」


ハイパーガイは鮮やかな右回し蹴りでガイザー流星人のこめかみを打ち砕いた。


「アガアアアア!」


ガイザー流星人は顔に手をあてがってのた打ち回った。

それでもなおガイザー流星人は立ち上がって右腕を高らかに挙げた。

すると、ガイザー流星人は瞬時に姿を消し、転送装置を使って、火星軌道上に残した宇宙船に戻った。


「おのれぇええ!ハイパーガイめ、よくも私の邪魔をしたな!ハイパーガイ!ハイパーガール!お前達毎、地球を消し去ってくれるわ!」


ガイザー流星人が宇宙船の全てのエネルギーを使って地球を破壊しようとした!

が、


「な、何?」


突如として宇宙船の前に光の矢と化したハイパーガイとハイパーガールが現れた。


「ブリリアントアロー!」

「フラッシュレーザー!」


ハイパーガイ達はそれぞれの必殺技をガイザー流星人の宇宙船目掛けて放った。


「ウギャアアア!」


ハイパーガイ達の必殺技を受けたガイザー流星人の宇宙船は木っ端微塵に吹き飛び、ガイザー流星人の野望共々、宇宙の塵となって砕け散った。



ハイパーガイ達の活躍で地球に平和が戻った。

地球に戻ったハイパーガイ達は変身を解き、更に裕と秀夫が互いに離れ、裕と春美と秀夫が元の姿に戻った。


「俺がハイパーガイだって事はみんなには黙っててくれよ。特に碧には、あいつああ見えて結構心配症だから。」



秀夫は自分の最大の秘密である事を裕達に内緒にしてもらうように頼んだ。


「は、はい!」


裕も春美も返事はしたものの、まさかの事実に頭の中は混乱していた。

特に、またハイパーガイに変身した裕には訳が分からなかった。


「あの…見てしまったのですけど…。」


何故か瓦礫の中からひとみが出て来た。


「ひとみ!居たのか。君は春美がハイパーガールだと言うことを知ってるから、この意味が分かるよな。」

「…はい。」


裕と同様、否、裕以上に状況を飲み込めないひとみだったが、とにかく秀夫の言うことに同意した。


「そう言えば、何でひとみはこんなとこに居るんだ?」


秀夫がひとみに尋ねた。


「宇宙人が去った後、行方不明者がいないか捜索するようにと副隊長の指示で来ました。」

「碧…いや、副隊長の指示ならいい。」


とりあえずほっとした秀夫だった。


「でも、ひとみ、1人で来た訳?」


春美が尋ねると…


「私1人じゃなくて…、その。」


いつものひとみらしくなく、もじもじした、たどたどしい言い方の後で、瓦礫の中からもう1人出て来た。


「…あなた?」

「あ、あ…。」


秀夫がアゴを外さんばかりに驚いた。

そこには、自分の正体が絶対にバレて欲しくない相手、妻の碧が立っていた。


「副隊長!」


裕や春美も驚いた。

特に春美は自分の正体もバレてしまったからだ。


「碧…さん?見てないよね!」

「見てないわけ無いでしょ!まさかあなたがハイパーガイだったなんて、それに春美もハイパーガールだし!驚かない訳無いじゃない!」

「副隊長、落ち着きましょう。」


裕が碧を宥めようとしたが、


「これが落ち着けと言われて落ち着けますか?訳分かんないわよ!」


信じられない出来事、特に、最愛の夫がハイパーガイだなんて20年も知らなかった事、それも自分に黙ってた、隠し事をされていた事に驚きと怒りが複雑に入り混じった気持ちを碧は抑えられなかった。


「あなた!」

「は、はい!」


家庭では恐妻家の秀夫は、恐れている碧の怒りが込められた言葉に固まった。


「こんな大事な事は隠さないでよ!あなたは私の命の恩人なのよ!」


碧は秀夫に抱きつきながら人目をはばからずに大泣きした。

碧からしたら、20年前にバルグーレ星人に捕まった自分を助けてくれて、なおかつ、幾度とあった自分のピンチを救ってくれたヒーローが自分の夫なのだから、自分だけには教えて欲しかった。


「もう、隠し事はしないでね!約束してよ。」

「約束するよ。」


秀夫は碧の頭をそっと撫でてあげ、碧の額に優しくキスした。


「さあ、基地に帰ろうか。」


秀夫が碧の手を引いて、そこから帰ろうとした。


「それと、あなた達。」

「は、はいっ。」

「私が大泣きしてた事は誰にも言わないでよね!」


碧は裕達にこの事を秘密にするように促した。


「わかりました!」


春美とひとみはすぐに返事したが、


「さっき自分は隊長に『隠し事するな!』と言っといて、自分の都合の悪い事は隠すなんて。」


裕だけはぶつくさと呟いた。


「何?」


裕の呟きに碧の鋭すぎる眼光が裕に突き刺さり、


「わ、わっ、馬鹿!」


ひとみが裕の頭をはたき、


「あなた一言多すぎるのよ!」


春美が慌てて裕の口を塞ぎ、


「あちゃー、裕ぃ~。」


秀夫は頭を抱えた。

普段の勤務にありがちな光景が、平和を取り戻した今を表してるのかな!と、裕は思った。



基地に戻る車中、秀夫の運転で助手席の碧がニコニコしていた。


「隊長達2人は本当に仲がいいね!」


春美とひとみが小声で楽しそうに話していた。


「暑っついね!」


裕が襟元をパタパタ仰いだ。


「また余計な事を言う!」


春美とひとみが小声で裕を睨みつけた。


「お、怒るなよ。」


裕が2人の凄みに圧倒された。


「ねぇ、裕。」

「何?」


春美が裕に尋ねた。


「私がガイザー流星人の宇宙船内で気を失ってから、私の身体を抱き締めた時、何か言った?」


春美が円らな瞳をキラキラと輝かせながら裕の目をジッと見つめた。


「い、いやあ…覚えてないな。」

「私に隠し事する気?」

「べ…別に隠し事なんて…。」

「白状しなさいよ!」

「隠してなんか。」

「私に逆らう気?」

「痛て、痛ててて!止めろよ。」


春美が裕の手の甲をつねった。


「私ね、聞こえてた。あの時、裕が必死になって叫んでくれたから、目を覚ましたの。」

「じゃあ、いいだろ!」

「嫌!もう一度言って!」

「言うのか?」


裕が戸惑った時だった。


「聞いてますよ~。聞こえてますよ~。」


車中の全員が一斉に輪唱した。


「な、何でもないです。」


慌てて裕と春美が否定した。


「裕、帰ったらもう一度、ネ!」

「わかったよ!」


裕は照れくさそうに窓の外を見つめ、


(今度こそちゃんと告白しよう!)


と、愛する春美への告白を決意した。


全編終了

宇宙人が出てくるヒーロー物は大抵が悪役であり、時折、善玉の宇宙人も出て来る。


このハイパーガールシリーズでは、地球を侵略する極悪宇宙人を懲罰するのが主眼ではなく、裕と春美の関係を軸に物語を展開させました。


もし、正義の宇宙人が主役なら、人間的な葛藤は少ないだろうし、ならば、人間が好きな人を通じて極限状態の中で互いを思いやる…愛情を育む事になるのかと考えながら書き上げました。


ハイパーガールシリーズ、全作品を御拝読していただければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ