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さくっとしっとりママレードスコーン【竜】

「あなたはわたくしの旅の邪魔になりますので、来なくて結構です」

 大きな屋敷の玄関にて、何かを否定する大きな声が聞こえた。その声の主は「せっかくの旅が台無しですわ」と言い残し、自宅の扉を閉めた。

 玄関で呆然と立ち尽くしているのは、先ほど出て行ったこの屋敷の令嬢─リーララナのSPに選ばれた竜人リッカナファー。リーララナはこの国では知らない人がいないというくらいに有名な財閥のお嬢様で、その性格はとにかく明るくはきはきとした物言いはもちろん、家でじっとしているよりもガイドブックを眺めながらあちこちを旅することが何より大好きという行動派のお嬢様。一方リッカナファーはそんなお嬢様を守る役割を担ったわけなのだが、その選出理由が「お嬢様と年齢が同じ」というものだった。その理由に少しだけ親近感の湧いたリッカナファーは、早速翌日から彼女が旅行に行くとのスケジュールを確認し、張り切って前に出たのだが……結果は先述の通り、きっぱりと断られてしまった。

「あぁ……」

 開口一番がまさかあんなことを言われるとは思っていなかったリッカナファーは、控室でずっと頭を抱えていた。何かもっといい方法があったのではないかと考えるも、どれもぱっとせずに結局同じことになってしまうのかもしれないという結論に至ると、リッカナファーはさらに重たい息を吐いた。

「そんなに落ち込む暇があるなら、気が付かれずについていけばいいだろう」

 陰鬱な雰囲気を出しているリッカナファーの隣で雑務をこなしていた先輩がそう言うと、リッカナファーはがばりと顔を上げ、手早く身支度を済ませると屋敷を飛び出していった。


 元々体を動かすことに苦を感じないリッカナファーは、障害物をなんとも思わない軽快なステップで屋根から屋根へと移動しリーララナの後を追いかける。幸い、リーララナの歩く速度がそこまで速くなかったため、すぐに追いつくことができたリッカナファーはほんの少しだけ胸を撫でおろした。

 ここまで気が付かれずになんとか尾行を続けてきているが、ここで一つ問題が発生した。それは、着いた先が空港ということだ。どうやらリーララナは飛行機を使って旅行をするつもりらしく、手には航空券が握られていた。さすがに空港内でチケットを出しながら歩くのは危ないのではないかと思っていると、突然「きゃあ!」という悲鳴が聞こえリッカナファーは意識を戻し、前を見るとリーララナの手にあった航空券が何者かに奪われてしまった。

「誰かー! 航空券を取り返してくださいませ!」

 リーララナの声は空港のロビーに響き渡るより早く、リッカナファーは地を蹴っていた。人込みを縫うように走るリッカナファーの目には、すでにリーララナの手から奪った航空券が映っていた。そしてそれは同時に、犯人も映っているということになる。許せないという気持ちが膨れていったリッカナファーは、自分の腕が射程距離の内に入ったことを確認すると音もなく犯人の後頭部目掛け腕を突き出した。犯人からしたらいきなり強い衝撃が脳天を直撃したという感覚に陥るのだがろうが、意識がはっきりしたときには既に別室で話を聞かれているとは思うが……。

「返してもらいます。お嬢様の航空券」

 リッカナファーが静かに犯人の手から航空券を奪うと、近くにいた警備員に事情を説明。し終えるとまたすぐ地を蹴り、リーララナの元へと向かった。

「お嬢様。お待たせして申し訳ございません。航空券、取り戻しに成功しました」

「あ……あなた……今朝、玄関にいた……うぅ……うぅううわぁあん」

「お……お嬢……様?」

「ごめんなさい。ごめんなさい。わたくし……あなたにひどいことを……っく……ひっく……」

 リーララナはリッカナファーに抱き着き、何度も何度も謝った。自分はなんて無礼なのだろうと呟きながら謝るリーララナの背を、リッカナファーは優しく撫でながら首を横に振った。

「もう泣かないでください。ほら、搭乗手続きに遅れてしまいますよ」

「あ……そ……そうでしたわ。それと……もし、あなたがよければ……ですが……」

「はい。如何されましたか」

「……わたくしの護衛、お願いしてもいいですか? もちろん、旅費は全額わたくしが……」

「いい……のですか?」

「ええ……その。わたくし、旅行に行くことに頭がいっぱいで……自身のことに重きをおいていなかったのです。それもつい最近、お父様から注意されたばかりだというのに……あんな事態がまさかわたくしに起こるだなんて……」

 リーララナは財閥のお嬢様ということは、ほかの国でも有名なこと。そしてそれはもちろん、あまりよい意味でなくとも……だ。そのことを心配したリーララナの父親は、こうしてSPを頼んで派遣しているということらしい。

「今回のことで、自身の置かれている立場はわかりましたわ。けれど、それを怖がってわたくしの楽しみをなくすということは決してありませんわ。そのために……あなたの力を貸していただけないかしら?」

 目に涙を浮かべながらリーララナは、リッカナファーの手をそっと握った。その手は今まで握られた手の中で、一番温もりを感じたリッカナファーはその手を握り返し薄く笑いながら頷いた。

「もちろんです。わたしはリッカナファーといいます。今後ともよろしくお願いします」

「リッカナファーさん。よろしくお願いしますわ。あ、リッカナファーさんの分の搭乗券買いに行かないといけませんわね」

 そういうと、リーララナは搭乗券売り場へと走って行ってしまった。これも旅行ができる楽しみからきているものなのだろうと思いながら、リッカナファーは守るべき存在の元へと走っていった。

「お嬢様。お待ちください」

 呼び止めようとするリッカナファーの顔は、どこか嬉しそうだった。

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